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第二章:実家はまだ遠い

その29 こういうことはたまによくある

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 「いい天気だなあ」

 結局、僕はのんびりと徒歩で移動することに決めた。馬車だと他に乗員がいた場合、いざという時に大技を出せないからだ。うん、そうだよ……決して乗合馬車がすでに出て行ってしまっていたからじゃないよ?

 それはともかく、整備された街道を進んでいく。すぐ近くには川も流れていて、木々はあれど視界は広い。ここで襲ってくるとなると先に気付きそうなものなのでリスクの方が高そうだけどね。

 でも何か嫌な予感がするなあ……

 「……町から離れたし、そろそろ飛ぼうかな。<レビテーション>」

 重力を無視して僕の体がフワリと浮き、どんどん上昇していく。一番高い木より上に登ったところで僕は前へと進む。体を水平にして飛ぶどこかのマンガ方式だと思ってくれればいいかな。

 「風が気持ちいいや、次の町はっと……ああ、そうそう、フォーアネームって名前だっけ。この辺りを治めている領主さんがいる町みたいだね。この町を抜ければ、国境を越えられるかな」

 ノワール城から北に向かっている僕だけど、このエイゲートの国はどちらかと言えば南側に領地が広がっている。僕の帰るべき故郷ラーヴァはここから北東方面になるんだけど、山はあるし海はあるしで、結構色々な手段を使わないと帰れないのだ。ちなみに大魔王の領地である元アスル公国は北西に向かう方が早い。

 「ま、この調子なら一ヶ月くらいで帰れると思うけど、ギルド試験の時みたいに寄り道してたらもうちょっとかかるかな? この前は話数にして十一話くらいに無駄にしたし……ん?」

 わーわー!

 カン! ガキン! チン!

 前方から焦げた匂いと金属音が聞こえてきた。嫌な予感は当たるもので、どうやら先に出た馬車が襲われているらしい。

 「聞いた通りゴブリンの群れだ! 倒れている人もいる、くそ、急がないと」

 「きゃあああ!?」

 「ゴブゴブ!」

 急降下しながら僕は女性に襲いかかろうとしていたゴブリンに魔法を放つ!

 「着弾が早い方がいいか<ファイヤーボール>!」

 ドゴン!

 「ゴブー!?」

 言うが早いか、発射すると、ゴブリンの左半身に直撃し爆発を起こすと、抉られたような状態になり後ろに倒れる。

 「なんだ!?」

 「いいから早く撃退して! 僕も手伝うから!」

 「い、今どこから……うお!? こいつ!」

 キンキン! ザシュ!

 灰色の髪をした冒険者が、僕の登場に驚きつつも向かってきたゴブリンを切り伏せる。続いて、その横で弓を放っていた男が叫ぶ。

 「ダッツ、話は後だ! すまないが手伝ってくれ!」

 「もちろん! はああ!」

 「ゴブブブブ!」

 ガッ! スパッ!

 ゴブリンの斧を受け止め、そのまま斧ごとセブン・デイズで斬り裂く。うーん、なんか切れ味が増してないかな? 

 「ブッチィィィ!」

 「ゴブッホオオ!」

 カン! キン!

 ザン! ズビシュ!

 「ゴブゴブー」

 「ブッフウウ!」

 僕と先程の男性二人、それと逆サイドに二人いるようだけど、ゴブリンの数は尋常じゃなく、草むらや木の影から次々と向かってくる。

 「げ!? まだあんなにいるの!? ならまとめて吹き飛んじゃえ<インフェルノブラスト>!」

 キュボ!

 ドゴォォン!

 「「「ゴブブブ!?」」」

 「よし!」

 向かってくる十数匹を消し炭に変えて僕はほくそ笑む。

 「なんだあれ……」

 「すげぇな、何だあいつ……」

 キィン……

 冒険者二人が呆然と立ち尽くしていると、急にセブン・デイズの宝石が光り出した。

 「ん? セブン・デイズが……う!?」

 「大丈夫か!?」

 頭を押さえて呻いた僕に駆け寄ろうとするが、ゴブリンの集団はまだ残っているので、僕は手で制して声をかける。

 「僕は大丈夫、それより迎撃を!」

 「わ、わかった!」

 冒険者二人は尚も向かってくるゴブリンに剣を向けて突っ込んでいく。僕はというと一瞬頭痛がした瞬間、頭の中にセブン・デイズの使い方が流れ込んできて、それでめまいがした。

 「……なるほど、使用者の魔力を媒介にして固有技が出る仕組みなんだな……今まではこいつを握って魔法を使わなかったから分からなかったけど、今のインフェルノブラストの魔力に反応したんだな」

 キィン……キィン……

 久々に性能を発揮できるのが嬉しいのか、宝石が輝きを放つ。

 「分かったよ、さっきのが技なんだな? ……ようし! 必殺"アースクラッシャー”!」

 ドン!

 剣を地面に叩きつけて魔力を込めると、

 ゴゴゴゴ……

 と、地面が震えはじめる。

 目標はゴブリンだけでいい。僕がそう考えると、地面の振動が激しくなりゴブリン達の動きを止める。

 「ゴブブブ!?」

 「うわ!? う、動けない!」

 あ、冒険者も動きを止めちゃったか、まあいいや目標は彼等にはいかない!

 ドドドドド!!

 「ぎゃぶ!?」

 「ゴブッシュ!?」

 「ゴブウ!?」

 ゴブリン達の足元から岩でできた牙が現れて体を貫いていく。残り五十は居たゴブリン達を一瞬で絶命させた。えげつないなこれ!?

 「……」
 
 ガサガサガサ

 「……? あれは……」

 ゴブリン達が向かってきていた方向から音がしたので見ると、草むらがガサガサと動いていた。もしやゴブリンと襲って来たって言う野盗? 逃げたのか? でもゴブリンが近くに居てどうして襲われないんだろう……

 色々と憶測はできるけど、今は乗合馬車の方が心配だ。馬車へ戻ると、馬車の周りで矢に刺された人が倒れていて、先程の女の子が放心状態で座り込んでいた。あれ? どこかで見たような……? 

 「君、助かったよ! おかげで無事に撃退することができた」

 「まったくだ、すげえ魔法だったな! おっと、ここはまずいか、すぐ移動しよう」

 「お嬢様、乗ってください」

 「あ、は、はい……」

 「君も乗ってくれ、まだ町まで距離がある。いてくれると心強い」

 僕と戦っていた冒険者が慌ててその場にいた者に声をかけ、馬車を走らせ始めた。僕も便乗して荷台に乗せてもらう。

 「ふう……一命は取り留めたか……急所を外していたのは幸いだったな」

 「しかし二人戦列を離れるとまたあいつらが襲って来た時厳しいですね」

 女の子の肩に手を置いて、深刻そうに言う男性。んん? この人もどっかで見たような……そう思っていると、冒険者の男に声をかけられた。

 「俺の名はダッツ。この乗合馬車の護衛を頼まれた者だ。君も冒険者なのか? 剣以外は防具も無いようだけど……」

 「あ、僕はレオスです。冒険者ですけど、本業は商人です」

 すると、ダッツの横にいた男が驚愕の声をあげる。

 「はああああ!? 商人んんん!? そりゃないぜ、嘘ならもっとマシな嘘を――すみませんでした……ってCランク……!?」

 僕が許可証を見せるとあっさり謝ってきた。中々面白い。

 「はあ……見た目じゃわからねえもんだなあ……俺はハス。こいつと同じくDランクの冒険者だ。倒れている二人もウチのパーティだ」

 「はい、宜しくお願いします。それで話を戻しますけど、護衛ってことはやっぱりゴブリンは想定内だったんです?」

 「ああ、ここ最近この街道は目立ってゴブリンが出没するようになってな。で、そこのお二人を送り届ける依頼と合わせて出発したんだが――」

 正直、あの数は想定外だったらしい。いつもならよくて十数匹だけど、今日は五十以上は居たから、五人パーティで捌ける護衛任務としては厳しいとのこと。ただ倒すだけなら時間をかければ何とかなるけど、護衛対象がいるとそれが難しいのは分かる。Bランクと魔法使いでも居れば話は変わって来るだろうけどね。

 すると、女の子の肩に手を置いた身なりのいい男性が口を開く。

 「申し訳ない、僕達のせいかもしれない……」

 「ま、無事で良かったですよ」

 「レオスだっけ、君の腕を見込んでこのまま一緒に町まで行ってくれないか? 二人負傷はかなり痛い。もちろんお礼はする」

 ダッツが手を合わせて懇願してくる。自分の実力を分かっていて傲慢にならない人はいい人だと思う。すると身なりのいい男性も頭を下げてくる。

 「僕からもお願いしたい……って、ああ!? 君はミドラの町いいたポップコーン屋さん!?」

 「ああ! そうだ! 最後に買ってくれた二人組だ! こんなところで会うなんて世間は狭いなあ」

 「はは、まったくだね。あれは美味しかった、また食べたいな」

 「あ、いいですよ。はい。もう冷えているからあまり美味しくないかもしれませんけど」

 僕はカバンから作り置きを取り出し渡す。すると、女の子が口を開いた。

 「あ……ポップコーン! た、食べていいかしら?」

 「どうぞ」

 さっきまで震えていたけど、食べ始めてから顔色も良くなってきた。少し緊張がほぐれたみたいなので、僕はもう少し空気を変えることにする。

 「それじゃ、乗合馬車に乗せてもらうってことで、運賃を払いましょうか」

 「おほ!? よせやい、命の恩人にそんなことさせてたら母ちゃんに怒られちまうよ!」

 御者さんが肩を竦めながら笑うと、荷台のみんなもつられて笑う。

 ……とりあえず、こっちはこれでいいかな。気になるのはポップコーンを買ってくれた男性の『僕達のせいかもしれない』という言葉だ。

 こそこそと後をつけてくる気配と関係がありそうだけど、ね?
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