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第一章:覚醒の時

その26 旅立つ準備はOK?

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 僕の許可証授与が終わると本当に試験が終わり、冒険者になった者、なれなかった者、それぞれの想いを抱えて解散していく。

 「くやしいー! セラなんかが受かって私達が受からないなんて!」

 「仕方ないわ……あたしは連れ去られたし、あの男達もゴーレムを見た途端、あんたを置いて逃げたんだし……」

 「あはは……」

 セラを外した二人はめでたく不合格で、去り際に泣きながら突っかかってきた。あのチャラい男達も女の子が連れ去られるのに気づきもしなかったらしく不合格。

 そもそも全部で百人いた受験者のうち、受かったのは三十人。僕は少ないなと思っていたけど、いつもよりは少し多いのだそうだ。だいたい二回目に受けた連中が受かっていた。その中で四人受かっていたのは僥倖だと言えるだろう。

 「それじゃ、僕達も行こう。ゆっくり宿で休みたいよ」

 「そうね! セラも行くんでしょ?」

 「良かったらお供させてください」

 「飯も一緒に食おう。少しセラに頼みがあるんだ」

 「?」

 エコールとリラがセラに話しかけていると、ヒューリさんが僕達に近づいて来て口を開く。僕をジロリと見て不機嫌そうに言う。

 「おう、レオス達よ、明日の昼前にくらいにギルドに来てくれ。例のご褒美とやらをやるよ」

 「ああ、そういうのもあったね。僕はお金になりそうなものだったら欲しいかな。現金でもいいけど」

 「直接的過ぎる!? 分かりました、また来ます」

 さっき許可証を貰う時の口ぶりだと僕を専属でギルドに登録したがってたからなあ。がめつく言っておけば僕を勧誘したいとは思わないかなとか考えての発言である。エコールは呆れているけど。


 「よろしくな。 ……ったく、勿体ねぇなあ……」

 大きなため息を吐いて去っていくヒューリさんに、苦笑しながらその背中を見送った。試験が終われば後は自由なので、まずは腹ごしらえと行く。



 「全員合格を祝って……かんぱーい!」

 「んぐんぐ……ぷはー……! いやあ良かったねえ全員合格して。僕はどっちでも良かったけど、エコール達が受かったのは嬉しいよ」

 「サンキュー。まあ、レオスが受からないわけないけどな」

 「そうね」

 「うんうん」

 「何か仲良くなったね、君達……」

 僕が鶏のもも肉にかぶりつくと、エコールが尋ねてくる。
 
 「なあ、やっぱり行くのか?」

 行くのか、とは実家に帰るのか? ということだろう。聞かれるとは思ったけどね。だけど僕の答えは一つだ。

 「うん。帰らないと両親が……いや、母さんが心配していると思うしね。一度は帰らないと」

 「そっか……レオスがいたら稼げそうだったんだけどなあ」

 「そうですよね。まさかのポイント一位ですもの」

 「ま、まあ、たまたまだよ。それでエコールはセラに何の話があるの? リラに聞かれていいの?」

 「おま、オレがどったら話するとおもってんべ!? ……コホン、すまない。セラ、さっきリラと話合って決めたんだがオレ達と一緒に活動しないか? もし誰か決めているパーティがあれば断ってくれてもいいんだが――」

 エコールがぐっと拳を握って言うと、セラは大きく目を見開いたまましばらく固まり、やがて涙を流しながら頷いた。

 「い、いいんですか? 私、お荷物ですよ?」

 「いいのよー! アタシ達だってそんなに変わらないって。一緒の日に合格したんだよ?」

 「わ、私で良ければ是非!」

 「魔法も使えるし、いいバランスのパーティになるんじゃないかな? 頑張ってね!」

 「本当はレオスも誘いたかったんだけどな」

 エコールがにやけながらそんなことを言う。期待させちゃって悪いけど、こればかりはね。急ぐ旅ではないけど、足は前に進めないといけないのだ。

 「それじゃ、今日は謝罪の意味も込めて僕の奢りでいいよ! 食べるぞ飲むぞ!」

 「おおー! 商人は違うわね! おじさーん! 一角トータスのスープ追加で!」

 「使い時を誤らない……それが僕さ!」

 「お、酔ってきたか? それ、飲もう飲もう」

 「だ、大丈夫ですか……?」

 「で、いつ旅立つの?」

 「明日ギルドに立ち寄った後、昼には発とうかなって思ってるよ。見送りとかはいいからね? みんな元気で!」

 こうして気持ちよく試験を終えることができた僕達。

 ……だけど、僕の問題は解決したとは言い難い。このままもし町に残っていても迷惑をかける気がするので、町を出るのは結果オーライと言える。

 もし本当の狙いが僕じゃなかったら? そこがあるので解決しておきたかったんだけどね……


 ◆ ◇ ◆


 「くそ……あの野郎、実家に帰る途中だと? 久々に面白いヤツが来たってのにそりゃないぜえ……」

 「まあまあ、ギルドマスターどうぞ」

 「おお、悪いな……ごく……ぷはー……」

 ドン!

 レオスに『僕は実家に帰るんでこの町には居られませんよ?』と告げられ不機嫌なヒューリが酒を一気にあおり、グラスを乱暴にテーブルに置く。

 「今回はまあまあ頑張っておったが、レオスを見ると霞んでしまったから弟子取りは無しじゃ」

 「俺もだなあ。根性があったエコールに声をかけたんだけど、あいつはこの町で活動するそうなので、来れないと断られちまった」

 「まあ、今日は飲み明かそう。ラーヴァ国じゃと言っておったか?」

 グランも残念そうに肩を竦め、マリーヌがヒューリに尋ねる。足元には大きな人造魔物のシェリルがあくびをしていた。

 「らしいぞ。歩きで一年くらいかかるんじゃねぇか? まあ自称商人らしいし、馬車を使うんだろうがな」

 「ラーヴァか……」

 「すぐ近くが故郷だったら良かったんだがなあ……」

 レオスを後継にと考えていた達人たちはがっくりと肩を落とすのであった。



 ◆ ◇ ◆


 ――翌日

 
 「いらっしゃいませーって、来たわね未来ある若者たちよ!」

 変なテンションで僕達を迎えてくれたミューレさんに適当に手を振っていると、即座にスタッフがヒューリさんを呼びに行く。応接室まで通されると、見知った顔が先に座っているのを発見した。

 「あ、ザハック」

 「"さん"をつけろよ、お前年下だろう!?」

 「よせよせ、お前じゃ天地がひっくり返っても今は勝てんぞ」

 「くっ……」

 前なら僕に突っかかってきそうなものだけど、今はヒューリさんもいるし、試験でトップを取ったことを知っているので悪態くらいしかつかなかった。スタッフの人に促されて座ると、本題に入る。

 「さて、あの時入り口でしていた喧嘩だが、結果は試験会場通り。エコール達は全員合格で、ザハック達は一人落ちた。この勝負、エコール達の勝ちだ。いいな?」

 「結果が全てだ、仕方ねぇ」

 意外にもあっさり認めたザハック。正直なところ、試験中に嫌がらせの一つでもしてくるかと思ったけどそういうのは無かったなあ。

 「ひゃ……すみませんザハックさん……嫌がらせでもすれば良かった……」

 「馬鹿野郎、そういうセコイのはダメだ。実力でねじ伏せないとダメなんだよ! 次はお前も合格できるように特訓だな。エコール、てめぇは気にくわねぇが実力は実力だ。いつか見返してやる」

 「……わかった」

 ライバルだと言いたいけど、厄介なプライドが邪魔を……って感じなのかね? 友情的なシーンはさておき、ご褒美の時間である。

 「では、お前達にはこれを」

 スッと出されたのはガントレットやダガー、そしてロッドだった。

 「冒険者になったんだ、仕事をすることになるだろう。だが、それには装備のグレードをあげていくのも重要だ。俺からその一部をやろう」

 エコールがガントレット、リラがダガー。そしてロッドがセラというしっくりきて、尚且つ遠慮の要らないくらいのものだった。だけども。

 「僕のは?」

 「チッ、気付いたか。しかたねぇ」

 「いや、気付くでしょ!? っと……これは?」

 ポイッと投げられたものを受け取ってみると、手の中に納まるくらいの革袋だった。重さはそれほど感じない

 「金貨と銀貨……」

 「お前にゃ装備はいらないだろう? 路銀の方が必要だと思ったんだ。まあ大した額じゃないがな。魔物もまだあちこちで徘徊している。気を付けてな」

 「……ありがとうございます」

 僕を引き止めることなくヒューリさんはニカッと笑い親指を立てていた。お礼を言ってギルドを出ると、すっかりお昼を回っていたので僕達は乗合い馬車乗り場へと向かう。



 そして――

 「それじゃみんな元気で!」

 「また気が向いたら遊びに来てくれ」

 「あ、あの、忘れないでくださいね! エリィさんとお幸せに!」

 「エリィは違うからね!?」

 「え!? そうなんですか!?」

 「はいはい、どっちにしてもセラは一緒に行けないんだからそこまでよ。レオス、死ぬんじゃないわよー?」

 「あはは、短い間だったけど、エコール達と一緒で楽しかったよ! 許可証も手に入ったしね。それじゃあ!」

 またね! と、声をかけてくれ、手を振るみんなに別れを告げて僕は受付へと向かう。


 「すみません、一人乗りたいんですけど」

 「え? 乗合馬車の出発は明後日だけど?」

 「え? ……あ!?」

 そういえばあのポップコーンを買ってくれた二人が言ってた気がする、三日後だって! だらだらと冷や汗を流しながらチラリと後ろを目だけで見る。そこには感極まって泣いているセラや笑顔で見送ってくれているエコールとリラ。今更『間違えちゃった♪』とは言いにくい雰囲気……!

 「おじさん、そこの馬車は使えないの?」

 「今帰って来たばかりだからなあ。急ぎかい?」

 「いえ……ちょっと……」

 するとおじさんがははあ、と嫌な笑いを浮かべて僕に顔を近づける。

 「お前さん、あいつらの元に戻るのが恥ずかしいんだな?」

 「ええ、まあ……別れを告げた後で戻るのはちょっと……」

 「はっはっは! ま、そういうこともあるわな! いいぜ、町の外までなら乗っけてやる。その後は徒歩になるけどいいか?」

 「は、はい! お願いします!」

 僕は馬車に乗りこみ、ガラガラと出発をする。窓から顔を出して手を振ると、微妙な顔をした三人が手を振りかえしてくれた。

 「ふう、とりあえず徒歩だけど魔法を使えば速く走れるし、節約になるかな。それにしてもいい人達だった。あの時こういう人達ばかりなら悪神には――」

 ……いいや考えるなレオス。あの時はあの時だ。反省もした。僕は今度こそ人間として真っ当に生きてみせる……! あ、そういえば謎の襲撃者は出てこなかったなあ。一人になったところを狙ってくるかな? どちらにせよ用心に越したことは無いか……


 そんなことを考えながらミドラの町を後にするのだった――




 ◆ ◇ ◆


 「あ、レオス馬車で行ったっちゃよ!?」

 「ええー……馬車の出発は明後日なのに……『残念! 明後日でした!』ってからかうつもりだったのになあ」

 「どう言って乗せてもらったのか気になりますね」

 「締まらないわねえ」

 「まあともあれ……」

 エコールがそう言うと、三人が口を揃えて肩を竦める。


 「「「元気でなレオス(さん)!」」」
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