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第一章:覚醒の時

その25 結果発表ー!

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 「居たぞ、宿でぐっすり眠っていた」

 「いつすり替わったんだ……? 顔も全然ちが……あれ? 偽物ってどんな顔だったっけ……」

 「うん……? そういえば――」

 僕達が試験場で待機していると、バタバタとスタッフさん達のそんな声が聞こえてくる。謎の人物が消えた後も試験は続行し、ミューレさんを筆頭にスタッフ達が街中へと散開していったんだけど、結局犯人は見つからずに、先程の会話通り、すり替わられていたという女の子の受験者が宿でいびきをかいて寝ていたところを発見されたのが収穫らしい収穫だった。

 狙われているのは僕みたいだけど、あの後襲撃は無い。その内また来るかもしれないけど、とりあえずは試験結果を待つばかりだ。

 「うう、緊張します……今度こそ……今度こそ受かりますように!」

 「そういえばセラはどうして冒険者になりたいの? 回復魔法が使えるなら、病院とかでもいいんじゃない?」

 僕がそう尋ねると、セラは俯いてからポツポツと事情を話し始めた。

 「……ウチの村、町から離れているので物を売るにも中々来れないんです。魔物に襲われることもしばしばありますし……最近ようやく大魔王が倒されて魔物が減るかと思ったんですけど、実際はそうでもなくて、やっぱり移動には苦労するんです」

 魔物の数が減ってないのか……まあ、倒されてまだ間もないし、大魔王が倒されたからって魔物がパッと消える訳でも無いから仕方ないかな。

 「それで?」

 「それで冒険者になって両親に仕送りができるようになれば、と思って。それに冒険者として私が強くなれば、護衛もできるかと……」

 「なるほどな。自分のためではなく、両親や村のためか。しかし両親は反対したんじゃないか?」

 「そうなんですけど、私は回復魔法があるからってゴリ押してきました」

 「回復魔法はどうやって覚えたんだい?」

 村出身とは思わなかった。となると、魔法を覚えられる環境は少ないハズだけど……

 「村の教会にシスターがいるんですが、その方が回復魔法を使えるんです。私はその人に教わりました。筋がいいって言われて」

 「いいなあ、アタシは野山を駆け回って鍛えた足と体力くらいしかないからシーフくらいしかなれそうになかったんだよね」

 リラがお金を稼いだらいつか魔法を覚えるんだと笑い、エコールが肩を竦める。するとセラが泣き笑いのような顔で言う。

 「……でも、連れ去れそうになったり、戦闘も大したことできないから、やっぱり難しいかな」

 「……ま、そこは試験官の判断だよね。とか言ってたら来たみたいだよ」

 最終試験後、カードはその場で回収されたので最後のポイントがどれくらい入っているのか分からない。イレギュラーな試験&まず勝てない内容だったから無茶な下がり方はしていないと思うけど。

 「皆、揃っているな? それでは合格者を発表する! 今回はイレギュラーな出来事もあり、大変だったが良く頑張ったな。しかし、それでもポイントは甘くないから覚悟しておけ。まずは――」

 ヒューリさんが一人一人名前を読み上げていく。番号順だと落ちたのがすぐに分かってしまうのでランダムに読み上げているようだ。

 そして――

 「次の合格者、エコール!」

 「!」

 「やったねエコール! めでたく冒険者だよ!」

 「あ、ああ……」

 僕が背中を叩くと、よろよろとヒューリさんのところへ歩いていく。シャキッと直立不動になり、言葉を待つエコール。

 「お前は戦闘試験の時、動きが良かった。それに最終試験でグランと戦った際も腐らず何度もぶつかったそうだな。それが高く評価されたって訳だ。パーティを組んだら仲間を引っ張るくらいの冒険者になれよ?」

 「は、はい! ありがとうございます! リラ! やったっぺや!」

 「も、もう、恥ずかしいから大声出さないでよ!」

 泣きながら許可証を持って戻ってくると、リラが周囲を気にしながらエコールを諫めていた。続いて名前を呼ばれたのはリラだった。

 「次、リラ!」

 「は、はい!」

 ダッシュで駆け寄り、エコールと同じく直立不動で待つリラ。

 「ぷっ、エコールと全く同じ……」

 「だ、ダメですよレオスさん……」

 「笑うこたねぇべや!」

 僕達がそんな話をしていると、ヒューリさんが続ける。

 「パワーは無いが、スピードと判断能力が良いとの評価だ。見極めの試験、お前は最速だったそうだぞ」

 「ありがとうございます!」

 「最後にマリーヌを選んだのは何故だ?」

 「……剣士や魔法使い相手はいつでも戦えそうだけど、錬金術師は滅多にお目にかかれないから面白そうだなと思って。シェリルちゃんも強かったし、可愛かったです!」

 「おん!」

 「ほほ、シェリルも喜んでおるわ」

 「なるほどな、その好奇心はダンジョンを探索することがあった時にきっと役に立つ。頑張れよ」

 ヒューリさんがリラに許可証を渡すと、リラは一礼をして戻ってきた。顔は……ちょっと潤んでいた。さらに名前が呼ばれ――

 「次はセラだ!」

 「え……!? ほ、本当に……?」

 「他にセラって参加者は居ないみたいだよ? ほら、行っておいで」

 セラは放心状態でぼーっとヒューリさんの前まで歩いていく。すると、リラがその後を追いかけてお尻を叩かれていた。

 「ほら、しっかりしなさいよ!」

 「ひゃん!? は、はい!」

 「はは! まあそう緊張するな。とりあえずお前の見るべきところは正直無かった。連れ去られそうになるわ、魔力切れをおこして寝込むわで散々だな。戦闘試験も微妙だ」

 ヒューリさんにボロクソに言われてセラがどんどん沈んでいく。でもそこまで酷かったならどうして合格したんだろう?

 「うう……」

 「とまあ成績は酷かったが、マイナスポイントがつかなかったのが良かったな。あのまま連れ去られていたらポント大幅減でエコールやリラ達も危うかった。だが、連れ去られなかった。それは仲間に感謝だな」

 「そうね」

 「そうだな」

 「どうしてそんな目で僕を見るのさ!?」

 エコールとリラが抑揚のない目でそう呟き、僕は焦る。

 「後、ドモアの爺さんに聞いたけどお前さん初級だけなら攻撃魔法を全部使えるらしいな。それに回復魔法もだ。最終試験で必死に戦ったと爺さんのお墨付きでの合格だ、誇っていいぞ」

 「うう……あ、ありがとうございます……」

 そういえば攻撃魔法も使えるんだっけ。僕は見ていなかったけど、相当頑張ったんだろうなと思う。

 「次で最後だ!」

 ヒューリさんが名簿を見ながらそう叫ぶと、合格していない受験者から諦めと焦り、ため息が聞こえてくる。ちなみにザハック達は、ザハックとモブイチだけ合格していたりする。

 「最後は文句なしの高得点だったレオス!」

 「うえ!? そういう紹介!?」

 僕が叫びながら前へ出ると、あちこちからひそひそ声が聞こえてくる……

 (あいつか……)

 (まあそうだろうな、ギルドマスターの攻撃を受けて立っていただけでおかしいしな)

 (見た目細いのにどういうことなんだろう)

 (割と顔もいいし、アピールしちゃう?)

 やめてくれ……胸中でそう思っていると、ヒューリさんが僕に許可証を手渡す。

 「ほぼ満点、正直言うことがねぇ。お前みたいなのが居てくれたらギルドは安泰だ。正体不明のあいつは俺達が必ず捕まえるから、安心して町で暮らしてくれ」

 「え? 僕、実家に帰る途中なのでこの町では暮らしませんよ?」
 
 「え?」

 「え?」 

 お互い『何いってんのコイツ』という顔で見合わせていた。
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