25 / 196
第一章:覚醒の時
その24 本気と罠
しおりを挟む「救護班ー! グランさんのところに行って回収! ズタボロになってます! あ、医療班もスタンバッテおいてください」
「ふん、Aランクくらい倒せるだの、その程度でよく言ったものだ。ポイントは期待しておけ」
「≪ウォータバレット≫!」
「ふぉふぉ、中級魔法とは中々やるが……魔力が散漫じゃな、涼しいのう。こういう感じで撃つと良いぞ≪ウォータバレット≫」
ズドドドド!
「きゃあああああ!?」
「おっと、ちと強すぎたか、すまん!」
「じじいが調子に乗っておるわ。わしはちっと撫でてやるくらいにしてやるかの」
「美人だと思ってたのに……ババア、覚悟!! ババアなら余裕で勝てるだろ!」
「ほっほう、その意気やよし。ババアを舐めてると怖い目に合うよ? おいで”シェリル”」
ヒュ……
「うおお!?」
「ぐるるる……」
「わしの人造魔物シェリルじゃ。シルバーフェンリルを模しておるから、戦闘力も折り紙つきじゃぞ」
「ば、ババアのジョブは……」
「言っておらんかったか? わしは錬金術師じゃ。さ、やぁっておしまい!」
「うわああああ!?」
試験会場は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
『容赦なし』その言葉がぴったりだと思うレベルで攻撃してくるのだ、基本的に勝たせる気はないらしい。
「ううう……」
「いやあ、流石試験官ね、強すぎるわ」
「リラは誰と戦うの?」
セラはすでに涙目、リラは冷や汗をかいて様子を見ている。エコールはすでにグランさんのところに並んでいた。
「アタシはマリーヌさんかな。誰と戦っても勝てそうにないけど、あの人は色々楽しそうだし、あの狼もモフりたい……行ってくるわ」
人造というのは確かに興味があるね、立派な狼だし毛並みも相当いい。さて、残るは僕とセラだけど……
「わ、わわわわ、私、どうしましょう……」
「落ち着いてセラ、負けてもいいんだよ。というかそれが当然だしね。できるだけのことをすればいい。回復魔法以外に何か得意技は無いの?」
僕が肩をおさえるとガタガタしていた体が止まり、ポツリと呟く。
「……一応、初級魔法は全部使えます……戦闘試験では魔法が禁止でしたから使いませんでしたけど……」
「へえ、いいじゃない! 全部ってなかなか難しいよ? 全属性ってエリィくらいしか使える人を知らないなあ」
「でも全部より集中して鍛えた方がいいって……今なんていいました?」
「全部ってなかなか難しいよ?」
「いえ、その後です」
「え? えっと、エリィくらいしか使える人を知らない――」
「だ、誰ですかエリィさんって!」
あ! つい口にしたけどエリィって賢聖で有名人だ、バレたら面倒になりそう……!
「あ、えっと、ま、まあいいじゃない! 僕のことより試験だよ。ね? そうだ魔法ならあのお爺さんのところがいいと思うよ!」
僕がそう言うと口を尖らせてから一言、
「うう……行ってきます……」
と、言って歩き出す。ふう、危うく勇者パーティにいたことがバレてしまうところだった……するとピタッと立ちどまってセラが振り向いて口を開く。
「……後でお話を聞かせてくださいね……」
「……」
僕は冷や汗をかきながら精一杯の笑顔で見送った。うーん、エリィの名前を出したのは失敗だったなあ、勇者パーティのエリィは有名人だからもしかしたら気付かれたかもしれない。僕も一緒だったのがバレると国王様との約束を破ってしまいそうだから困る。
え? 旅をしていた時は一緒に居たんだからみんな知ってるだろうって? 意外とそんなことは無いんだよね、町や村に立ち寄った時チヤホヤされるのはアレン達で、僕の顔を覚えている人は多分居ない。
だけど、ふとした切っ掛けで「あ、あいつ」ってなるのが人間なので、ヘタなことは言えない。
「ま、なるようにしかならないか」
国王様、なるべく早く国を出るから許してください!
「それはそれとして僕も早く試験を終わらせないとね、グランさんがいいかなやっぱり。あ、エコールの番みたいだ」
誰と戦ってもいいんだけど、魔法は使わない前提なら剣で戦うのがいいと思う。グランさんならAランクらしいし、サッと負けて評価を低くしてもらうのも悪くない。
「そうしよっと!」
「あ、見つけましたよレオス君。ささ、こちらです」
「え? 何ですか?」
意を決してグランさんのとこへ行こうと足を出すと、ミューレさんに呼び止められた。一体どうしたんだろう?僕の腕を引っ張りてくてくとどこかへ連れて行くミューレさん。そして行き着いた先は――
「よう、やっと来たか待ちくたびれたぜ」
「へ?」
ギルドマスターのヒューリさんが待つ試験場だった。
「ちょ、どういうことですか!? 僕はグランさんの列に――」
「お前は俺と戦うんだ。じゃんけんでそう決まった」
「じゃんけん!? いやいや選択制のはずでしょ! 僕の意思は!」
「残念、ギルドマスターに目をつけられた時点でそんなものはありません♪」
ミューレさんがウインクしながら舌を出してキメポーズをするがまったく容認できるものじゃないよね!
「可愛らしく言ってもダメですよ!? 僕はあっちに行きますからね」
そう言って立ち去ろうとした僕をヒューリさんが止める。
「まあ失格とかにはしないからいいんだけどな。見てくれ、ここには誰も来なかったんだよ……だから俺を可哀相だと思うなら試験を受けてくれよ」
「……」
大げさな身振り手振りで僕に語りかけるヒューリさんをジト目で見る僕。……はあ、まあどこでやっても一緒だしすぐ受けられるならいいか……
「……分かりましたよ。それじゃ木剣をください」
「おお、やってくれるか! ミューレ、審判を頼む。全力で頼むぞ」
「はいはい、それじゃやりましょうか……」
ミューレさんに木剣をもらい、適当に構える。
「では、始め!」
はあ……適当に振ってさっさと負け――
「おおりゃああああ!」
「い!?」
カァン!
ズザザザザ……!
開始と同時に木斧を全力で振りかぶ……いや、叩きつけてきた! 慌ててそれをガードしたけど、反動でかなり後ろに下がらされた。なんて馬鹿力だよ……!
「……」
「……」
「いてて……痺れたぁ……あれ?」
追撃がくるかと構えなおしたけど、難しい顔をしたヒューリさんと、ポカーンとしたミューレさんが目に入った。
「……手加減しました?」
「いや、倒す気で行った。受けられても吹き飛ばす勢いでな。あいつ、ガードしやがったぞ……へっ面白ぇ、行くぞ!」
あ、そういうことか!? しまった、今のはガードじゃなくて食らって気絶→退場のパターンで良かった!
カン! カカカン!
「(今のも食らえばよかった!)」
体が勝手に反応してしまうのが恨めしい、鍔迫り合い状態になり、ギリギリと押し合っているとヒューリさんが話しかけてくる。
「やるなお前。俺の斬撃をここまで受けるとは。ギルドで揉めてた時、お前魔法を使ったろ? ダメージを相殺したのは気付いていた。それに魔石も造れるな?」
「……なんのことでしょう……か!」
カァーン!
一際大きい音を立てて斧を弾く。色々ばれてる!? 僕は動揺しつつも、さらに追撃をかけてくるヒューリさんの攻撃を凌ぐ。
ガガガガガ!
「うおおおお!」
「たああああ!」
僕とヒューリさんが戦い続けている中、ミューレさんの目は僕達を見ていないことに気付く。すると、ヒューリさんが攻撃の手を少し緩めて小声で僕に話しかける。
「(悪いな、あのウッドゴーレムを作ったヤツを炙り出すのに利用させてもらった。俺と戦うのは最初からお前だけの予定だったんだ)」
「(どういうことです?)」
「(ウッドゴーレムが居ただろう? もしかしたらあれを作ったヤツが受験者の中に紛れているんじゃないかと睨んでいる。何の意図があったのか読めないが、あれを壊されたのは悔しいはずだ。で、それを壊したお前を狙ってくるんじゃないかと思ってな)」
「(……僕じゃありませんよ? あれは自滅しただけです)」
「(はっ! 何を隠したがっているんだかな! まあいい、それで――)」
ヒューリさんがまだ何かを言おうとしたところでミューレさんが動いた!
「……居ました! あの人、受付で見たことありません! ≪フレイム≫!」
「……!? くっ……」
段々僕達の戦いを見ている人が増える中、スッと腕を上げて僕に狙いを定めた女が居た! ミューレさんのフレイムが地面にヒットし爆発を起こす!
「捕まえろ! ウッドゴーレムを作った容疑者だ!」
ヒューリさんが戦いを止めて爆発跡地に走る。動揺している冒険者が取り押さえると、女は呻きながら――
フッ……
姿を消した。
「なに!?」
「転移魔法じゃ! 高度な魔法を操るとは……ウッドゴーレムを作れるのも頷けるわい……」
お爺さんがそう言うと、衣服とカードが残されていた。
「レオスさん!」
「レオス!」
「レオスー何があったの!?」
エコール達が騒ぎに気づき僕のところへ走ってきた。
「何だか分からないけど、森での騒ぎの原因が逃げたみたいだよ」
「レオス?」
まただ。
今度は偶然じゃない……明らかに僕を狙っていた。一体何者なんだ……? 恨まれるようなことはしていないと思うんだけど……
11
お気に入りに追加
1,601
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~
mimiaizu
ファンタジー
迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。
前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。
八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。
彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。
しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。
――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。
その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる