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第一章:覚醒の時

その24 本気と罠

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 「救護班ー! グランさんのところに行って回収! ズタボロになってます! あ、医療班もスタンバッテおいてください」

 「ふん、Aランクくらい倒せるだの、その程度でよく言ったものだ。ポイントは期待しておけ」

 
 「≪ウォータバレット≫!」

 「ふぉふぉ、中級魔法とは中々やるが……魔力が散漫じゃな、涼しいのう。こういう感じで撃つと良いぞ≪ウォータバレット≫」

 ズドドドド!

 「きゃあああああ!?」

 「おっと、ちと強すぎたか、すまん!」


 「じじいが調子に乗っておるわ。わしはちっと撫でてやるくらいにしてやるかの」

 「美人だと思ってたのに……ババア、覚悟!! ババアなら余裕で勝てるだろ!」

 「ほっほう、その意気やよし。ババアを舐めてると怖い目に合うよ? おいで”シェリル”」

 ヒュ……

 「うおお!?」

 「ぐるるる……」

 「わしの人造魔物シェリルじゃ。シルバーフェンリルを模しておるから、戦闘力も折り紙つきじゃぞ」

 「ば、ババアのジョブは……」

 「言っておらんかったか? わしは錬金術師じゃ。さ、やぁっておしまい!」

 「うわああああ!?」


 試験会場は阿鼻叫喚の様相を呈していた。

 『容赦なし』その言葉がぴったりだと思うレベルで攻撃してくるのだ、基本的に勝たせる気はないらしい。
 
 「ううう……」

 「いやあ、流石試験官ね、強すぎるわ」

 「リラは誰と戦うの?」

 セラはすでに涙目、リラは冷や汗をかいて様子を見ている。エコールはすでにグランさんのところに並んでいた。

 「アタシはマリーヌさんかな。誰と戦っても勝てそうにないけど、あの人は色々楽しそうだし、あの狼もモフりたい……行ってくるわ」

 人造というのは確かに興味があるね、立派な狼だし毛並みも相当いい。さて、残るは僕とセラだけど……

 「わ、わわわわ、私、どうしましょう……」

 「落ち着いてセラ、負けてもいいんだよ。というかそれが当然だしね。できるだけのことをすればいい。回復魔法以外に何か得意技は無いの?」

 僕が肩をおさえるとガタガタしていた体が止まり、ポツリと呟く。

 「……一応、初級魔法は全部使えます……戦闘試験では魔法が禁止でしたから使いませんでしたけど……」

 「へえ、いいじゃない! 全部ってなかなか難しいよ? 全属性ってエリィくらいしか使える人を知らないなあ」

 「でも全部より集中して鍛えた方がいいって……今なんていいました?」

 「全部ってなかなか難しいよ?」

 「いえ、その後です」

 「え? えっと、エリィくらいしか使える人を知らない――」
 
 「だ、誰ですかエリィさんって!」

 あ! つい口にしたけどエリィって賢聖で有名人だ、バレたら面倒になりそう……!

 「あ、えっと、ま、まあいいじゃない! 僕のことより試験だよ。ね? そうだ魔法ならあのお爺さんのところがいいと思うよ!」

 僕がそう言うと口を尖らせてから一言、

 「うう……行ってきます……」

 と、言って歩き出す。ふう、危うく勇者パーティにいたことがバレてしまうところだった……するとピタッと立ちどまってセラが振り向いて口を開く。

 「……後でお話を聞かせてくださいね……」

 「……」

 僕は冷や汗をかきながら精一杯の笑顔で見送った。うーん、エリィの名前を出したのは失敗だったなあ、勇者パーティのエリィは有名人だからもしかしたら気付かれたかもしれない。僕も一緒だったのがバレると国王様との約束を破ってしまいそうだから困る。

 え? 旅をしていた時は一緒に居たんだからみんな知ってるだろうって? 意外とそんなことは無いんだよね、町や村に立ち寄った時チヤホヤされるのはアレン達で、僕の顔を覚えている人は多分居ない。
 だけど、ふとした切っ掛けで「あ、あいつ」ってなるのが人間なので、ヘタなことは言えない。

 「ま、なるようにしかならないか」

 国王様、なるべく早く国を出るから許してください!

 「それはそれとして僕も早く試験を終わらせないとね、グランさんがいいかなやっぱり。あ、エコールの番みたいだ」
 
 誰と戦ってもいいんだけど、魔法は使わない前提なら剣で戦うのがいいと思う。グランさんならAランクらしいし、サッと負けて評価を低くしてもらうのも悪くない。

 「そうしよっと!」

 「あ、見つけましたよレオス君。ささ、こちらです」

 「え? 何ですか?」

 意を決してグランさんのとこへ行こうと足を出すと、ミューレさんに呼び止められた。一体どうしたんだろう?僕の腕を引っ張りてくてくとどこかへ連れて行くミューレさん。そして行き着いた先は――

 「よう、やっと来たか待ちくたびれたぜ」

 「へ?」

 ギルドマスターのヒューリさんが待つ試験場だった。


 「ちょ、どういうことですか!? 僕はグランさんの列に――」

 「お前は俺と戦うんだ。じゃんけんでそう決まった」

 「じゃんけん!? いやいや選択制のはずでしょ! 僕の意思は!」

 「残念、ギルドマスターに目をつけられた時点でそんなものはありません♪」

 ミューレさんがウインクしながら舌を出してキメポーズをするがまったく容認できるものじゃないよね!

 「可愛らしく言ってもダメですよ!? 僕はあっちに行きますからね」

 そう言って立ち去ろうとした僕をヒューリさんが止める。

 「まあ失格とかにはしないからいいんだけどな。見てくれ、ここには誰も来なかったんだよ……だから俺を可哀相だと思うなら試験を受けてくれよ」

 「……」

 大げさな身振り手振りで僕に語りかけるヒューリさんをジト目で見る僕。……はあ、まあどこでやっても一緒だしすぐ受けられるならいいか……

 「……分かりましたよ。それじゃ木剣をください」

 「おお、やってくれるか! ミューレ、審判を頼む。全力で頼むぞ」

 「はいはい、それじゃやりましょうか……」

 ミューレさんに木剣をもらい、適当に構える。

 「では、始め!」

 はあ……適当に振ってさっさと負け――


 「おおりゃああああ!」

 「い!?」

 カァン!

 ズザザザザ……!

 開始と同時に木斧を全力で振りかぶ……いや、叩きつけてきた! 慌ててそれをガードしたけど、反動でかなり後ろに下がらされた。なんて馬鹿力だよ……!

 「……」

 「……」

 「いてて……痺れたぁ……あれ?」

 追撃がくるかと構えなおしたけど、難しい顔をしたヒューリさんと、ポカーンとしたミューレさんが目に入った。

 「……手加減しました?」

 「いや、倒す気で行った。受けられても吹き飛ばす勢いでな。あいつ、ガードしやがったぞ……へっ面白ぇ、行くぞ!」

 あ、そういうことか!? しまった、今のはガードじゃなくて食らって気絶→退場のパターンで良かった!

 カン! カカカン!

 「(今のも食らえばよかった!)」

 体が勝手に反応してしまうのが恨めしい、鍔迫り合い状態になり、ギリギリと押し合っているとヒューリさんが話しかけてくる。

 「やるなお前。俺の斬撃をここまで受けるとは。ギルドで揉めてた時、お前魔法を使ったろ? ダメージを相殺したのは気付いていた。それに魔石も造れるな?」

 「……なんのことでしょう……か!」

 カァーン!

 一際大きい音を立てて斧を弾く。色々ばれてる!? 僕は動揺しつつも、さらに追撃をかけてくるヒューリさんの攻撃を凌ぐ。

 ガガガガガ!

 「うおおおお!」

 「たああああ!」

 僕とヒューリさんが戦い続けている中、ミューレさんの目は僕達を見ていないことに気付く。すると、ヒューリさんが攻撃の手を少し緩めて小声で僕に話しかける。

 「(悪いな、あのウッドゴーレムを作ったヤツを炙り出すのに利用させてもらった。俺と戦うのは最初からお前だけの予定だったんだ)」

 「(どういうことです?)」

 「(ウッドゴーレムが居ただろう? もしかしたらあれを作ったヤツが受験者の中に紛れているんじゃないかと睨んでいる。何の意図があったのか読めないが、あれを壊されたのは悔しいはずだ。で、それを壊したお前を狙ってくるんじゃないかと思ってな)」

 「(……僕じゃありませんよ? あれは自滅しただけです)」

 「(はっ! 何を隠したがっているんだかな! まあいい、それで――)」

 ヒューリさんがまだ何かを言おうとしたところでミューレさんが動いた!

 「……居ました! あの人、受付で見たことありません! ≪フレイム≫!」

 「……!? くっ……」

 段々僕達の戦いを見ている人が増える中、スッと腕を上げて僕に狙いを定めた女が居た! ミューレさんのフレイムが地面にヒットし爆発を起こす!

 「捕まえろ! ウッドゴーレムを作った容疑者だ!」

 ヒューリさんが戦いを止めて爆発跡地に走る。動揺している冒険者が取り押さえると、女は呻きながら――

 フッ……

 姿を消した。

 「なに!?」

 「転移魔法じゃ! 高度な魔法を操るとは……ウッドゴーレムを作れるのも頷けるわい……」

 お爺さんがそう言うと、衣服とカードが残されていた。

 「レオスさん!」

 「レオス!」

 「レオスー何があったの!?」

 エコール達が騒ぎに気づき僕のところへ走ってきた。

 「何だか分からないけど、森での騒ぎの原因が逃げたみたいだよ」

 「レオス?」

 まただ。

 今度は偶然じゃない……明らかに僕を狙っていた。一体何者なんだ……? 恨まれるようなことはしていないと思うんだけど……
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