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第一章:覚醒の時
その18 謎かけという罠
しおりを挟む「うう、お腹すいてきたね」
「飲み物はあるけど食べ物は無いもんね。でもそろそろ試験も終わりそうじゃない?」
「陽も暮れてきた、続きがあるとしても明日になりそうだな」
リラとエコールがそれぞれそんなことを言う。あの試験は少しずつしか受けられないため、大幅に時間をくっていた。まあ、100人単位の試験で、対戦もあったから時間はお察しだろう。
そしてようやく最後の受験者が終わり、スタッフの皆さんが衝立つきテーブルを片していく。後に残ったのは、時間経過で毒にやられた人達が転がっていた。
「ぐう……は、腹が……」
「いっそ殺してくれ……」
「やれやれ、そんなことで冒険者を目指すのは無謀かもしれんのう」
「お、それでも今回は少ない方だろマリーヌさん。さて、次の試験に関わってくるから治してやってくれ」
「まあ、引っかからなかった奴が多いのは確かにそうかもしれんな。≪キュア≫」
ヒューリさんがマリーヌさんと呼んだあのお婆さんがキュアを唱えると、倒れていた受験者がたちまち元気になる。解毒とか麻痺の魔法で、石化や病気には効き目が無い。上級になると、傷の回復も兼ねた魔法≪キュアヒーリング≫になる。エリィが得意としている魔法だったね。それはいいとして、ヒューリさんが不穏なことを言ったような気がする。
「あの、次の試験って……?」
「いい質問だ。二回目以降の連中は知っていると思うが、この後は森に入り野営訓練だ」
「えーっと……ご飯は?」
「ふっふ、安心しろ、今から説明してやる。さあ、出て来いヒカラルド!」
「野営訓練まで口にしたんだから残りも自分で言えばいいじゃないですか、面倒くさい……。はい、初めましての人もまたお会いしましたねの人もいるかと思いますが、今ご紹介にあずかったヒカラルドです」
と、青い髪をした眼鏡の男性が前へ出てにこりと笑う。冒険者って感じではなく、どちらかと言えば学者とかの方が合っていると思う。
「では、時間もあまりありませんから早速説明です。あれを渡してください」
ササッ……
ヒカラルドさんが合図をすると、スタッフさんが目にもとまらぬ速さで僕たちに"ずた袋"を渡していく。本当に何者なんだろう。
「今渡された袋には野営道具が一式入っています。もちろんご飯や干し肉といった食料から、雨風を凌げるシートなどです。そして今からこの町の外に広がっている森で野営をしてもらいます」
(お、おい、マジか?)
(今からかよ……)
(もうへとへとなんだけど……)
あちこちからため息が漏れてくる。無理もない、朝から夕方まで昼ご飯も無しでずっと試験を受けていたんだから疲れもピークだろう。そこへ野営訓練はきつい……だが、ヒカラルドさんはさらに予想を上回る発言をしてきた。
「では続けてルールを説明します。最低三人以上、五人以下でパーティを組んでください。ソロや二人、または六人以上はポイントが下がりますので、森に入る前に申告をお願いします。森には試験官が潜んでいますので、それ以外で固まった時点で失格とみなします。ポイント減ではありませんよ、失格です。お忘れなく」
「アタシ達はこれでいいわよね」
「そうだな。レオスもいいか?」
「うん。いいよ、どうせ組む人も居ないしね」
さらにヒカラルドさんの話は続く。
「次に訓練内容ですが、明日の正午まで森の中で過ごしてください。過ごしきることができたらポイントがもらえます。ちなみに森には我々が決めたエリアがありますから、そこから出ないようにも注意してくださいね」
すると、剣を背負った真面目そうな男が手を上げて尋ねていた。
「それだけですか? 寝ちゃいけないとか、水を飲んではダメとかそういうのは?」
「ありません。寝てもいいですし、手持ちの食料を追加で食べても構いません。エリア外へ出ず、明日の正午まで耐えてください。ただ、森には魔物も居ますし、試験官も居ます。"油断しないよう"にしてくださいね」
「は、はあ……」
拍子抜けしたような剣士。他の受験者は簡単だ、魔物なんてパーティを組んでいれば余裕だろ、など思い思いの言葉が飛びかう。本当に楽だろうか……? 僕は嫌な予感がしていた。
「では、移動します。ついてきてください」
ヒカラルドさんが歩きはじめ、試験内容を聞いた受験者たちは嬉々としてついて行く。そんな中、ザハックを発見し、エコールが声をかけた。
「寝ていたのか? 随分呑気だな?」
「ふあ……へへ、エコールかよ。見分ける試験をさっさと終えてゆっくり休ませてもらったぜ。俺は二回目だ、この後何があるかも分かっているんだぜ? 見ろよ」
ザハックが親指でとある場所を指すと、ザハック達と同じくゆっくりと休憩や睡眠をしている人達が居た。やっぱり一筋縄ではいかないってことか。
「ま、お前等はここで落ちるだろうな! 俺は冒険にゃ、お前達はまた農民暮らしだ!」
「噛んだね」
「噛んだわね」
「噛んだな」
ドヤ顔で言い間違えたザハックをジト目で見ると、顔を赤くして叫びだす。
「う、うるさい! おいモブイチ、モブゾウ、いくぞ!」
「かわいかったから結果オーライでさあザハックさん!」
「ひゃひゃひゃ、冒険にゃ!」
「やかましいわ!」
ポカリと頭を叩かれながら去っていくザハック一味。あいつらそういう名前だったのか……どうでもいいけど。
それに続くかのようにぞろぞろと恐らく二回目以降の受験者たちが元気そうな顔で歩いていく。まあ、流石にそこは余裕が見えた。
「オレ達も行こう」
「そうだね」
エコールの言葉で僕たちも進み、程なくして森の入り口へ差しかかる。ん? 地面に魔方陣……?
「それではパーティを確認します!」
一応この時点で失格者は居ない。僕が最後の100番みたいなので三人ずつなら一人あぶれる計算だ。だけど、前を見ると最大人数の五人で組む人が多いようだった。
「三人じゃ心もとないかな? 魔物もいるみたいだし……」
「そうだな……でも今から勧誘も難しいだろう」
リラが不安がっていたので僕は思い当たることを口にする。
「何となくだけど、少ないなら少ないでメリットはありそうだよ。パーティの追加合流以外は失格条件が明示されていないんだ。もしかしたら負傷した人数とかもカウントされるのかもしれない」
「……なるほど! 凄いわねレオス。あんた本当に商人? ベテラン冒険者みたいな考察じゃない」
「あ、あはは、商人は頭を使う職業だからね。今のも何となく思っただけで、合っているとは限らないし」
「それでもオレには考え付かなかった。やるな……」
エコールが尊敬のような悔しいような目を僕に向けてそう呟く。さて、何て返事をしようかと思った矢先のことだ。
「そ、そんな! ここまで来てパーティになれないだなんて!」
「うるさいわね! あんたが試験二回目だって言うから使ってやったのよ。でもここまでよ、あんたみたいに辛気臭い女より、こっちの男達の方が頼りになりそうだしね♪」
「そういうこった。悪いが俺達はこれで五人。これが定員だってな!」
「行きましょ」
「あ、ああ……待ってください!」
お約束のように捨てられていたのは受験番号084のセラだった。どうも一緒にいた女性二人が男三人のパーティに勧誘されたかで置いて行かれたようだ。大事なことだから二回言うけどお約束過ぎる。
「あの子、一人みたいねどうするのかしら」
「あ、他の受験者に話しかけた! ……ダメだった……」
見た感じ回復魔法を使えそうだけど、先に仲の良いパーティを組んだり五人になっているところは門前払い。まあ、一人だと失格だから仕方ないよね。
「行こう、僕たちも森に入らないと」
「あ、ああ……」
「うん……」
めそめそと泣き崩れるセラの横を通り過ぎる僕達。もう話しかける気力も無くなったのか、横を通っても話しかけられなかった。
「何だか可哀相ね……」
「むう……」
二人がチラチラと後ろを振り返りながら呟く。
「ふう……」
立ちどまり、僕は頭を掻きながらため息を吐く。ダメだなあ……お約束ってのは嫌いなんだけどね。あの時、悪神の僕が倒されたのもお約束な展開ってやつだったからさ。
でも――
「良かったら一緒に行くかい?」
「え?」
今の僕は悪神じゃないからね。そう胸中で思いながら、僕はセラに声をかけた。
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