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第一章:覚醒の時

その17 目に見えたものが本物とは限らない

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 「はーい、準備ができましたのでお集まりください~」

 「お、次の試験みたいだぞ」

 相変わらず進行役のミューレさんが手を振って冒険者達を集め始める。さっきまで舞台があった場所はキレイになくなり、奥行きがかなりある衝立がついたテーブルに変わっていた。あの舞台を瞬時に撤去させたスタッフには頭が下がる。……冒険者よりすごくない……?

 「それじゃ次の試験の説明といこうかのう」

 金髪の美人のお姉さんがなぜか年寄臭い喋り方をしながらテーブルの前に立つ。聞きもらしてはなるまいと、(特に)男性冒険者が前へ出て行く。あ、こら、足踏んだ奴だれだよ!

 「冒険者には戦闘力は必要じゃがそれと同じくらい必要なものがある……それは知識じゃ。冒険者への依頼は魔物を倒すだけではない。薬草や鉱石、キノコといった素材を頼まれることも多々ある。それらも出来てこそベテランと言えると思わんか?」

 ん? と、髪をかきあげる仕草をすると豊かな胸が上下に揺れる。みんなそこに釘づけだ。僕は興味が無いけどね? 
 さて、それはともかくこの試験、これで三つ目だけど、初見で受かる人間は結構少ない気がする。戦闘能力は物理と魔法でポイントは半々だからそこまで差はでない。だけど、素材の目利きになるとよほど慣れていないと判定は難しいからだ。恐らく二回目以降で受かるようにしているんだろうね、調子に乗った人間が早死にしないように。

 「ちょっとレオス、鼻血が出てるわよ!?」

 「一体何があったんだレオス!?」

 「え、何が?」

 手で触ると確かにぬるりとした赤いものがついたので、僕はカバンからハンカチを取り出してふき取った。

 「あーびっくりした……ほら、試験始まったみたいよ? これは順番待ちみたいね」

 リラが言うとおり、いくつかある衝立の向こうにはスタッフさんが立って相手をしていた。男性は説明をしていた金髪美女の前に列を作っていた。

 「わかりやすいなあ」

 「ま、男ってそういうもんじゃないかしら?」

 「うむ。だが、オレはそういうものには惑わされない! ……裏がある、そんな気がするんだ」

 「まあリラが怖いだろうしね」

 「そったらことねぇべ! ……さて、オレ達も行くか」

 照れくさそうにさっさと歩いていくエコールに、僕とリラは顔を見合わせて苦笑し、後に付いていく。

 「わざわざ多い方に並ぶことも無いな、オレはこの赤いテーブルにしよう」

 「じゃあアタシはこっちの青いテーブルにするわね」

 「行ってらっしゃい。さて、と僕は……」

 なら黄色のテーブルにするかなと足を動かそうとした瞬間、金髪美女に声をかけられた。

 「そこの小僧、まだ終わっておらんのか? わしのところで試験を受けぬか? 根性が足りんやつらばかりでのう。小僧はどうかな?」

 そう言われて見れば、いつの間にか男性冒険者が死屍累々の状態で転がされており、僕が先頭だった。クククと笑う女性に僕は言う。

 「オッケー、どうせどこで受けても同じだし、いいよ」
 
 「ほう」

 意外と言った感じで呟く。しかし、すぐにテーブルの上に何かを二つ置いたので、僕はテーブルに近づいていく。

 「これは……」

 「見ての通りキノコじゃ。よう似ておるじゃろ?」

 「……そうですね、これを見分けるって感じかな? 他のみんなもこういう試験なのかな?」

 「うむ。キノコや薬草と毒草、果実といったモノが対象じゃな」

 二者択一方式ね。適当に選んでも受かりそうだけど――

 「ちなみにこの試験、選んだ方を食べてもらうからそのつもりで頼むぞ?」

 「……」

 ごくりと僕の喉が鳴る。なるほど、死屍累々なのは間違った方を食べたからだな……

 「さあ、選ぶがいい」

 ニヤリと笑う美女。目の前には本当によく似たキノコが二本……どっちだ、どっちが本物……焦る僕に美女が急かしてくる。

 「どうした、急がぬか。後一分で決めるのじゃ」

 「くっ!」

 落ち着け……よく見ろ、何か手がかりがあるハズだ。形は……しいたけっぽい。しかしつるりとした表面が怪しい。

 「切ってもいいですか?」

 「無論じゃ」

 スッとカバンから出したナイフで半分に割ると根元が黒かった。これは……地球にもあったツキヨタケ、だったかな? 掌で暗くするとわずかに光る。やっぱりだ。ならもう一つはしいたけか……? いや、さっきこの人は言ったはずだ『選んだ方を食べろ』ともしかして――

 「どれどれ……」

 「……」

 美女が黙って僕を見ている。構わず半分に割ると、こちらも根元が黒く光っていた……やはり……!

 「……これ、両方とも毒キノコのツキヨタケですね? 食べられません」

 一瞬真顔になる美女。そしてフッと笑いながら口を開く。

 「……やるのう、お主。正解じゃ、両方とも毒キノコじゃ。カードを出すがいい。斬って確認もしていたようじゃがどうしてわかった?」

 「あなたは『選んだ方を食べろ』と言いましたよね? わざわざあそこで言わなくてもいいはずなんです。選んだあとでそう言えば。だけど、先に言うことで相手に『どっちかが食用である』と思わせる魂胆だったんでしょう? それに『どちらかが食用』だとも言っていない。なら可能性として両方食用、もしくは毒キノコである可能性もある、そう思ったんです」

 「見事じゃ! 褒美にわしのキッスをくれてやろう!」

 「え!? いやあ、そんな、悪いですよ」

 「フフフ、近くに寄るが良いぞ」

 「あ、はい」

 なんかちょっとラッキーだなあ、中々カッコ良く試験は通過したし、これくらいはいいよね? そう思い近づくと――

 ボウン

 「ありゃ、時間切れか」
 
 「老いてるー!?」

 目の前の美女は謎の効果音と共に老婆に変化していた……いや、おばあちゃんにしては美人だけどさ……

 「ほっほっほ、またの機会にのう」

 「いえ、正体が分かったら嫌ですよ……」

 とぼとぼと僕はエコールとリラの所へ歩いていく。

 「レオスー! こっちこっち!」

 「リラ、エコール! どうだった?」

 「フッ、野草の鑑定など、山育ちのオレに見分けられないはずがない」

 「アタシも野草だったわ」

 二人は得意気に胸を反らしてお互いを褒め合っていた。ちょうどそこに、前の試験で協力した女の子、セラがやってきた。

 「あ、あの、さっきはありがとうございました」

 「ん? ああ、いいよ別に個人的な意味もあったからね(というか他の人には内緒ね)」

 「は、はい……」

 「セラー、行くわよ!」

 「パーティメンバー?」

 「そうです……私ちっとも役に立てなくて……それでは」

 困った顔をして去っていくセラ。性格がきつそうな女性と、意地の悪そうな女性と一緒か、なんだかいじめられているようにも見えるけど……?
 試験、受かるといいなと思いながら、僕は陽が暮れだした訓練場でエコールとリラの元に戻って行った。




 ◆ ◇ ◆



 試験が始まる少し前――



 <ノワール城>


 「勇者達よ、騎士達への指南ご苦労であった」

 「は、これしきのこと……」

 「これで少しは彼等も強くなるだろう、私からの依頼はこれで終わりだが、これからどうするのかね? アレンは城に残るが、もしそなたたちが良ければ城で雇うこともできるが……」

 国王がそう言うと、まずルビアが口を開く。

 「あたしはアレンの馬鹿に裏切られましたので、顔を見るのも嫌です。なので早々に出たいと考えています」

 「そ、そうか……」

 「私はレオス君を追いたいので、明日の早朝にはおいとまさせていただきます」

 「うむ……」

 あれ? 意外と国仕えるのって興味ないの? と思いながら国王が言葉を詰まらせていると、レオバールがエリィの方を向いて言う。

 「まだレオスを追うつもりだったのか? 弱いヤツが乗合馬車も使わず町を出たんだ、もう野たれ死んでいるかもしれないのに?」

 「それでもです。むしろ、レオス君にお世話になったのに見送りもしない方がどうかしています。アレンやレオバールさんは薄情ですよ」

 不機嫌を露わにしたエリィに気圧されながらもレオバールは反論する。

 「世話に? 足手まといだったのにか? それをどうして――」

 「雪山でレオス君のカバンが無かったら餓死か凍死だったと思いますけど? 魔力回復ポーションの在庫が無ければ六魔王を倒すのは簡単ではありませんでしたよ? 役立たずだと言うならどうしてすぐにお別れをして家へ帰さなかったんですか……」

 「う……」

 「……」

 エリィの反論に怯むレオバールにそっぽを向いて頬を掻くアレン。そこへルビアが追撃をかける。

 「あんたらの負けだよ。あたしとエリィは明日ここを発つ。それでいいね?」

 「……」
 
 「俺は構わねぇよ」

 レオバールは黙って下を向き、アレンは憮然とした顔でぶっきらぼうに言い放った。見かねた国王がため息交じりに四人へ告げる。

 「もういいだろう。拳聖ルビアに賢聖エリィよ、明日出立、あい分かった。レオバールよ、お主は好きな時に出立すればよかろう」

 「は……ありがとうございます……」

 「これで謁見は終了だ! ゆっくり休んでくれ!」

 国王の一声でアレン達は謁見の間を出ると、レオバールは一度エリィを見た後自室へと戻って行った。アレンはそれを追いかけると、ルビアとエリィだけになる。

 「はあ……レオバールにも困ったもんだね。エリィ、あんたアイツの気持ちは分かってるんだろ?」

 「……ええ、あからさまで露骨ですから流石に……」

 「辛辣!? ……応えようとは思わないのかい?」

 「私は賢聖になったとはいえ、修行中の身。……というのは建前で私レオバールみたいな人大っ嫌いなんです! 人を見下すような言い方とか、弱い者は俺に従えみたいなオーラとか髪型も嫌ですね。だいたい好きならさっさと告白すればいいのに、もじもじとうっとおしい上に気付いて欲しい空気を出すとか、男らしくないんですよ。戦いが強ければいいってもんじゃ――」

 「エリィちゃんストップ! すとーっぷ! ……うん、色々溜まってたのね、お姉さん自分のことばかりでごめんね?」

 「いえ、アレンもくそ野郎なので……」

 「ええー……」

 悲痛な顔をしながら口悪いなと思いながらルビアはエリィと一緒にお風呂へと向かう。

 そして翌日。二人は城を旅立つのだが――
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