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第一章:覚醒の時

その15 偉い人にしか分からんのですよ

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 「ほれ、早くせい。後がつかえておるのじゃぞ」

 「分かってますよ」

 お爺さんがせっついてくるけど、どうしたものか。僕は魔法が使えるけど、上級魔法なんて使ったら目立ってしまう。あまりやりすぎると冒険者として生きて行かないといけなくなるのは避けたい……
 
 しかし僕はここでポンと手を打つ。

 ……あ、でもエリィ達が居る訳でもないし、僕を知っている人もいないんだった。よく考えたら魔法が使えても別にいいのか。それより魔法が使えるとギルド証に記載されていた方が後々有利になる……?


 「どうした? 魔法は出せないのか? マイナス10ポイントで進んでもいいぞい」

 「あ、すみません。今やります!」

 僕は的の前に立ち魔力を集中する。

 「……!」

 ――ただし、最小限の威力をイメージして解き放つ。

 「<ファイア>」

 ぽひゅ……

 へろへろと火が飛び、的に届く前に落ちそうになる。おっと、それは減点ものだろ! 僕はちょいちょいと魔力操作をして火を浮かび上がらせ、見事的に命中した。

 ボフ……

 「おお!? レオスって魔法使えたんだ! すごーい!」

 「ふう……見よう見まねでやってみたけどできたよ。魔法使いのみなさんは普通に使えて凄いなあ。あ、これで大丈夫ですか?」
 
 僕がそう言うと、魔法使い組は気をよくして、当然とか、お前も中々やるなとか色々ヤジが飛んできた。何故かポカーンとしていたお爺さんがハッと我に返り手を出してくる。

 「う、うむ。問題ないぞい、カードを出すのじゃ」

 お爺さんが何やら魔法を使うとカードが光る。お、まずは10ポイント獲得かな?

 「それじゃあ終わるまで休憩しよう。……なにかコツとかあるのか?」

 「そうだね。いや、本当に見よう見まねだから――」

 エコールに言われて僕とリラは後に付いて行き、ギルドが用意してくれていた魔力回復ポーション(オレンジ味)を飲んで次の試験を待つ。みんな疑いなく僕の魔法を受け入れてくれたのでホッとしていた。



 ◆ ◇ ◆


 レオスが去った後、老魔法使いであるドモアは試験を続けながら冷や汗をかき胸中で呟いていた。

 「(さっきの坊主、レオスとか言ったか? 魔力が膨れ上がったと思ったらしょぼいファイア。その時点ですでにおかしいが、問題はその後。失速したファイアを制御して的に当ておった。見習い共には気付かれんかったようじゃが、儂の目はごまかせんぞい……)」

 次! と、受験者を裁いているとドモアの肩を叩く者が居た。

 「どうだい爺さん、あんたのお目にかかりそうなのは居たかい?」

 「む、ヒューイか。まあ小粒な者はおるな。しかし儂の弟子にするにはちと物足りんのう」

 「レオスってやつはどうだ?」

 そう言われてドキッとするドモア。しかし冷静なふりをして口を開く。

 「まあまあじゃったな。しかし、大したことはなかったぞい」
 
 「お、そうか? まあ爺さんが言うならそうかもしれないなー。ならあいつは誰も欲しがらないかな?」

 「(こやつ、何か知っておるのか?)お主が引っ張って来たのか?」

 「……さあてね? とりあえず優秀者は弟子に勧誘してもいいことになってるから、公平に頼むぜ?」

 「無論じゃ。"深淵の魔導師"と呼ばれた儂がそんなことするか」

 ヒューイは頼むぜと笑いながらその場を去っていく。今回の試験官は聖職とまではいかないまでもそれに迫る、あるいは煩わしさからそれを辞退した者が数人混じっており、ドモアはその一人だった。出来ればドモアも年老いたので自分の技を誰かに継承したいと思っていた。

 「(……一応、他の試験も見ておこうかのう)」




 ◆ ◇ ◆




 「はい、前衛技能試験はこっちですよー」

 エコールたちと話していたらいつの間にか魔法試験が終わり、魔法の的が消え、代わりに闘技場のような舞台が三つもできあがっていた。スタッフの手際の良さに感服するしかない。

 「もしかして対人戦か! こっちならオレの本領が発揮できるっぺ!」

 「もう訛ってるからね? 相手は受験者同士かな?」

 僕が首を捻っていると、先程威圧をかけていた熟練冒険者の男がギザ歯を出して笑いながら舞台に立って僕たちに告げる。

 「ようしお前等、次は武器を使った試験だ。勿論持ってるよな? 魔法使いだから持ってませんってのは論外だ、もしそうなら手を上げろ」

 シーン……

 一応、この場にいる者は武器を持っていない人は居ないようだ。試験官は満足気に頷き、話を続ける。

 「よし、まずは合格だ。魔法使いも魔力が無くなれば魔法は使えなくなる。そうなると、戦うにしても逃げるにしても身を守りたいなら武装しておくのが一番いい。そしてそれを上手く扱えれば尚いいってことだ! そこで、ここに番号を書いた紙を入れている。俺が二枚紙を取り出し、番号を言う。呼ばれた二人は上がってバトルだ」

 周りからざわざわとどよめきがあがる。まあ、ランダムで戦うならその気持ちもわかるけどね。それを不平に思ったのか、女の子が一人、手を上げて試験官に質問を投げかけた。

 「あ、あの……番号084のセラと言います。魔法使いなんですけど、剣士の方と戦うことも……?」

 「もちろんある。まあ武器はこの特殊塗料がついた木剣や木杖を使ってもらうけどな? もしお前さんが盗賊に襲われたらどうする? 魔力が尽きたり封じられたりした時、頼れるのは己の体のみなんだ、それを想定してこういった取り組みをしている。まあ、あまり不利な組み合わせなら考慮してやるって、お前さんみたいなカワイイ子は」

 男性陣はそれを聞いて明らかに不満顔になったが、試験官は笑いながらクジを引き出した。

 「冗談だよ! でも、いつ、どこで実戦が起こるか分からねぇんだ、心しておけよ? ……番号072と090、上がってこい。時間は5分。存分にやれ!」

 「よーし!」

 「やるぜえ!」

 今回はどうやら、血気盛んな斧使いと剣士のようで、二人にそれぞれ木製の武器が与えられる。順番待ちが長くなるかなと思ったけど舞台は三つ作られていたので、どんどん消化していく。

 「次、038と012」

 「あ、アタシだ! 行ってくるねー」

 「気を付けてね」

 舞台へ登っていくリラと、それに続くのは丸っとハゲた男で、腕力がありますと言わんばかりの風貌だ。ダガーをリラが。ハゲが柄の長い斧……バトルアクスを受け取ると試験が始まる。

 「悪いが一撃で決める」

 「残念、簡単にはやられないわよ?」

 リラが両手にダガーを持ち――

 「始め!」

 ――合図とともに一足で相手の前に辿り着く! 速いね! しかし、初発の右突きはバックステップで回避される。

 「危なかった……! でぇい!」

 「ふっ!」

 ブオン! バトルアクスの攻撃を難なく見切り、ふところに飛び込むリラ。バトルアクスは威力とリーチは長いけど取り回しが悪いから返す刀ができない。振り上げる前に腕と足に塗料が塗布される。

 「くっ……」

 「山と森を駆けまわっていた脚力を甘く見ないでよね!」

 「何の!」

 「きゃ!?」

 ハゲの蹴りを受けて、いやガードしてリラが吹き飛ばされる。やはり体重差は誤魔化せないか! バランスを崩したところにハゲのバトルアクスが振り下ろされる。

 「腕が痺れたぁ……! こいつ!」

 トス!

 「たあぁあ!」

 ボグン! 嫌な音がリラの肩からし、うずくまって叫ぶ。

 「いたあい!」

 「よ、よし、トドメだ……」

 「そこまで! 二人ともカードを出しなさい」

 もう一度振りかぶったところで試験管がストップをかけた。今ので勝負ありと判断したのかな? すると試験官がリラにポーションを肩にかけながら言う。

 「君はいい動きもあったし、打点も取れていた。けど、ダガーを投げたのはあまり良くないかな? もし一本だったら君は続きを素手で戦わないといけないんだ。良い位置に当てたから減点はしないけどね。そっちの君は油断し過ぎだ。一撃が入ったからいいけど、君の攻撃一回に対し、三回当てられている。続けば勝てただろうけど、実戦なら腕の筋と足の筋を斬られて動けなかっただろうね」

 「うう……」

 「はいカード。すぐ効くと思うけど、次の試験まで安静にね」

 「あ、ありがとうございます……!」

 よろよろと降りてくるリラをエコールが支え、座らせる。うんうん、恋人にはそうでなくっちゃね。

 「次、037と099」

 「オレか、行ってくる」

 「頑張ってね!」

 「いつも通り魔物と戦う時と同じで良いと思うよ」

 「……レオスはどうしてそう冷静なんだ……オレはドキドキしているぞ……まあいい、行ってくる」

 さて、エコールの戦いっぷりも見ておこうかな。

 あれ? あの子はさっき手を上げていた子、セラだったかな? 彼女も隣の舞台で戦うところのようだった。青い顔……明らかに緊張しているなあ。見た感じ魔法使いだし、相手も同じだといいんだけど……


 「俺を相手に逃げなかったのは褒めてやろう!」 

 「ザハックかい!?「始めー!」」

 僕がツッコむ間もなく戦闘が開始された。
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