上 下
13 / 196
第一章:覚醒の時

その12 商(売)人のレオス

しおりを挟む
 エコールとリラの二人と別れた後、僕は野菜や肉が売っている商店街へと足を伸ばす。どの世界、どの時代でもこういう場所は活気があっていいよね。

 「近くに広場があるんだ。ここで何か売るかなあ」

 次の町へ行ってしまうのもいいんだけど、手持ちは金貨十枚とレオバールが置いていった治療費である金貨三枚の計十三枚。乗合馬車が乗れるようになったら一回あたり約銀貨二枚使うから二万キロも離れた実家に帰るのは不可能だ。ちなみに銀貨十枚で金貨一枚と同じである。

 こうなると手持ちの道具を商人らしく売るのが一番いいんだけど、今はアレンの臭い防具と光の剣くらいしかない。ちょっと商人とは違うけど、食べ物で儲けるのが一番だね。

 「広場には他にも屋台があるから販売は問題なさそうだね。だけど一応確認しておくかな。すみませーん!」

 僕は手近なフルーツを売っている屋台へ近づいて声をかける。すると、のんびりした顔のお爺さんが応対してくれる。

 「なんだい? フルーツが欲しいのかい?」

 「ちょっと聞きたいことがあって。広場に屋台とかお店を開くのは勝手にやっていいのかな? どこかで許可が必要?」

 「ん? お前さん何か出すのかい? ここで物を売るのは誰でも問題ない。ただ、トラブルが起こると衛兵にしょっぴかれるからそこだけ注意するといい」

 なるほど、屋台とかそういう形式もなしなら僕でも売れそうだ。そうと決まれば次は何を売るか決めに商店街へ戻ろう。

 「お爺さんありがとう! リンゴとバナナ買っていくよ、いくら?」

 「おう、ありがとうよ。二つで銅貨三枚だ」

 一つ150円ってところかな? 僕は元々持っていた小銭を手渡してからその場を去り、再び商店街を練り歩く。食べ物を売るのが確実だけど……

 「うーん、牛肉は高いから串焼きは厳しい……野菜は安いからバーベキュー屋さんでもしようかと思ったんだけどなぁ……うん?」

 するととある八百屋で僕は面白いものを発見する。

 「ねえ、おじさん。これっていくら?」

 「おう、いらっしゃい! ……って、コレかあ?」

 「そうそう。これ、麻袋で5kgほど欲しいんだ」

 「何に使うんだ? まあ売れるのはいいけどニワトリの餌くらいにしかならないぞ?」

 おじさんは親切にそう忠告してくれるが、僕は笑顔で返答した。

 「これが僕の商売道具になるんだよ。ニワトリの餌だなんてとんでもない! で、いくら? 雑穀レベルなら5kgでも高くないよねえ?」

 げへへ、と僕が手をこすると、おじさんは笑いながら麻袋を僕に渡してきた。

 「おう、とりあえず銀貨一枚でいいぞ! 実はニワトリを飼っている人の小屋が荒らされて、ほぼ全滅状態になったらしくてな。買い手がいなくなってどう処分するか悩んでたんだ」

 「へえ、そりゃラッキーだったねお互い」

 「言うじゃねぇか。まだあるから欲しけりゃまた買ってくれ!」

 「うん、ありがとう」

 おじさんに礼を言って別れ、その後すぐにバターと厚手の紙を購入し、いそいそと広場へ戻る。カバンから敷物を出して敷き、アレン達と旅をしていた時に使っていた簡易テーブルと竈を取り出す。

 「久しぶりに使うね。さて、火を熾さないと……あれでいいか」

 旅をしている時はエリィが火の魔法を使ってくれたから特に問題ないけど、僕は念のため、なるべく魔法を使わないでおきたい。
 ではどうやって火を熾すか? それは『魔石』が必要になるんだ。『魔石』は文字通り魔力を帯びた石で、魔法使いが石に魔力を込めたもの。
 魔力を込める石は、その辺の石でも宝石でも、なんでもいいんだけど、適当に使った石は効果もそれなりなのがネックである。雑貨屋さんに売られていたりするから買うのが常識なんだけど、そこは元・悪神なので、こういう方法を使う――

 「むん! ……よしよし、まあまあ悪くない火の魔石ができた」

 僕はセルフで魔石を作ることができるので、落ちていた石を片っ端から(隠れて)魔石に変えていく。その数二十個。
 しょぼい石だけど、僕の魔力がいいのか純度はそれなりになったので、雑貨屋なら一個銅貨300はするだろう。
 
 でも作ればタダ。

 え? これを売って稼げばいい? ……そう思うけど、あまりやりすぎると魔石が値崩れして雑貨屋が潰れちゃうからね……それに魔石を卸すであろう魔法使いの収入を減らすのは避けたい。

 「これで準備は完璧に整った……後はこれを……!」

 僕は麻袋からトウモロコシの粒を取り出す! そう、これが僕が買ったものの正体だ。安く手に入って、調理が簡単なもの、ポップコーンを作るために!

 「それじゃ早速♪」

 竈に火の魔石を投げ入れ発火させ、年季の入ったフライパンにバターをおとす。暖まってきたら乾燥コーンをばらまいて蓋をする。

 「……」

 ジジジ……パン! パパン!

 「お、きたきた」

 フライパンが弾ける音がし始めると、道行く人や休憩している人が何事かと振り向く。よしよし、これも作戦通りだ。すると、バターの焦げるにおいがふわりと辺りに漂い始める。

 「んー、いい匂い……ちょっと味見……んまい!」

 てーれっててーみたいな効果音が流れそうなくらい上出来だった。塩を振って完成だ! そこへ――

 「兄ちゃん、そりゃなんだ? 食い物か?」

 「いい匂い~ねえ、買ってよ」

 若いカップルが近づいてきた。

 「ええ、これは『ポップコーン』という食べ物で、コーンを膨らませたものなんです。一口食べてみて美味しかったら買ってください!」

 「へえ、トウモロコシがねえ……お、いけるな」

 「ほんとー! お酒に合うかも!」

 「だな。兄ちゃんこれ売ってくれ、どうやって買えばいいんだ?」

 まあそう来るよね、僕は買っておいた厚紙を筒状にする。地球で言うところのクレープを巻く紙のような形。テープみたいなものはないので、切れ目を作って固定しておく。

 「えっと、この紙をこうしてっと……で、ここに入れる」

 ざらららら……

 フライパンから移し、二人に手渡す。量はそれなりに入っているが、

 「銅貨1枚です!」

 これくらいでいいだろう。十個も売れれば麻袋分は取り返せる。

 「やっす!? もう一つくれ!」

 「おいしー、あっちで食べましょ!」

 「毎度! ……おや?」

 「お、なんだ、美味そうな匂いがするな」

 「おかあさん、あれ買ってー!」


 しばらくするとお客さんがどんどんやってきて、僕はポップコーンを量産する。そして陽も傾きかけてきたころ……

 「これで最後です! また材料が入れば明日もやりますから、お願いしまーす!」

 ホクホク顔の人、しぶしぶ帰っていく人を見送り、僕は片づけに入る。

 「いやあ、やっぱりモノを作って売るのはいいね。エリーとパンを焼いて売っていた頃を思い出すよ」

 麻袋のコーンは全てなくなり、手元には銅貨の山……捨て値のコーンが、お宝になった瞬間だった。一つ30gくらいで売ったから、厚紙とバター分を引いても今日の儲けは金貨一枚と銀貨五枚枚ってところか。ほぼ元値ゼロ! ボロい……!

 ふひひと悪い顔をしていると――

 「こいつは美味いな」

 知っている声が聞こえてきた。

 「……あなたは確かギルドマスター? 買ってくれたんですね、ありがとうございます!」

 「ちょっと話をしようと思ったらこれだ、待ったぜ……」

 「話? 僕にですか?」

 「ああ。やっぱりお前、試験を受けろ!」

 「はあ……嫌ですけど」

 「即答だな!? ……その腰の剣はお飾りってことか?」

 僕の腰に下げてある剣を指差し、もぐもぐしながらそんなことを言う。違うと言えば絡まれそうだし、適当に答えておこうか。

 「これは売り物ですよ。こうやって見せておけば誰かが買ってくれるかもしれませんし」
 
 「ほう、そんなものをぶら下げていたら盗賊なんかに狙われそうだけどなあ?」

 「……」

 ああいえばこういう、ってやつかな。無言で片づけを進めていると、ヒューリさんが僕の肩に腕を回し呟く。この人こうするの好きだな……

 「そんな高価な剣をぶら下げていたら狙われるだろ? でも冒険者証があれば、下手に手出しできない。ランクにもよるがな? 貴族とかに難癖つけられてもギルドなら助けてやれる。野良の商人よりはいいんじゃないか?」

 「むう……」

 そう言われれば確かにその通りなのだ。商人のギルドみたいなのは無いので、街に一つはある組合が助けになるんだけど、貴族相手ともなるとアテにならないことが多い。
 ギルドは治外法権とまでは言わないけれど、冒険者が居なければ魔物という驚異に対しての治安を維持できないので、それなりに権力はあったりする。故に冒険者証は欲しかったりするのだが――

 「本当の狙いは……?」

 僕がスパッと切り出すと、ヒューリさんの眉がピクッと動いた。

 「やっぱお前はただもんじゃなさそうだ。あのゴロツキとやり合っていた時、お前手加減したろ?」

 「僕は商人ですよ、そんなことできません」

 「……まあ、それはいい。とりあえず試験には来い。あって損はしないだろ、冒険者証」

 「考えておきます」

 「試験は三人一組でやるものもある。あのカップルは助かるだろうぜ」

 「……試験内容、話していいんですか?」

 僕がそういうと、口が滑った聞かなかったことにしてくれと立ち去って行った。何が目的か分からないけど、あの二人が不利になるなら考えないとダメかなあ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...