4 / 196
第一章:覚醒の時
その3 アレンはアホである
しおりを挟む「えーっと……?」
ざわつく謁見の間に違和感を覚えつつ、僕は頬を掻きながら周囲を見渡す。アレン達も怪訝な顔でことの成り行きを見守る形だ。しばらく黙って見ていると国王がようやく咳払いを一つした後、喋り始める。
「えーっとレオスだったか?」
「は、はい! な、何か粗相がありましたでしょうか……?」
すると国王は困った顔で僕に告げる。
「大魔王討伐、ご苦労であった。だが、勇者や聖職の称号を持つ者ならいざ知らず、商人が大魔王退治とは……ちなみにお主は冒険者なのか?」
「え? ええ、まあみんなに比べたら僕なんてスライムみたいなものですからね。あ、ただの荷物持ちです」
「ぷっ……! あいつ分かってんな……」
「荷物持ち……マジか……登録してねぇの……?」
どこかで笑う声が聞こえてきたが、国王は大きな咳払いをして周りを黙らせ話を続ける。
「まあ、そういうことだ。大魔王退治に商人は似つかわしくない。討伐者に名を連ねるのもそうだが、そもそも商人を大魔王に差し向けたと分かれば我が国はいい笑いものになってしまう。だから、すまないがレオスよ、お前は大魔王退治の時には居なかった、ということにしてもらえないだろうか」
……なるほど、国王の言いたいことは分かる。
勇者は国が光の剣を抜く者を募って選別されるから、アレンが選んだ「僕」という仲間は国が選んだメンバーと同義。
そこに商人という非戦闘員を凶悪な大魔王と戦わせたと民に知られれば非難は避けられないと思う。アレンが馬鹿だからそこまで考えていなかったし、僕を仲間に加えた後はノンストップで大魔王の城まで旅したから国王も知らなかったんだよね。
ちなみに聖騎士とか聖魔導師みたいに他にも聖職っているから、もうちょっと集めても良かったというのは内緒だ。
「お話は分かりました。カバン以外は役に立っていませんでしたし。それは構いません。だけど、危険にさらされた事実はありますから報酬はいただきたいです。拒否されてもいいですけど、僕は他の国の人間ですからそのことをお忘れなく」
「レ、レオス君? 何かいつもと違う……」
ペラペラと、しかも半ば脅迫じみたセリフを吐いた僕に驚愕するエリィ。
まあ記憶を取り戻す前の僕ならここまでは出来なかったと思う。
さて、さっきも言ったけど僕は別の国の人間。そして両親は僕がアレンに連れて行かれたことを知っている。行方不明になれば糾弾されるのは国だ。もっとも、戦闘中に死んだということにもできるけど、今度は僕が商人だということが公になればやはり非戦闘員を連れまわしたと非難されるだろう。
まあ、実は商人でも冒険者登録をしていればこんなことにはならないんだけどね。アレンがアホだから仕方ない。
それはともかく国王の返答を待つ。
そういえば母さん達元気かなぁ……
◆ ◇ ◆
はるか遠いレオスの故郷――
「だ、大魔王討伐成功……倒したのは勇者アレンのパーティ……! アレンってレオスを連れて行ったあの勇者じゃないか! 倒したんだね……これでレオスが帰ってくる……」
「どうしたんだいグロリア? 悲しいことでもあったのかな?」
「違う! 見てくれよ、四年前レオスを連れて行った勇者が大魔王を討伐したんだって! これでレオスも帰ってくるぞ!」
「お、本当だね! 大魔王を倒したパーティならさぞやお金を持って帰ってくるに違いない。うちの店も安泰だね!」
ブチッ!
レオスの母親であるグロリアが夫、アシミレートの言動に切れた。
「お前がそんなんだからレオスが勇者に連れて行かれたんだろうが! 借金の肩代わりに無限収納カバンを持ったレオスを連れて行くって言われて即答しやがってぇぇ!」
「ぐあああああ!? だ、だって仕方ないじゃないか! ウチの店はあの時火の車だったんだから! 借金が無くなって立て直しができたんだよ? レオスも分かって行ってくれたんじゃないか」
「……あたしが居ない時に差し出したのはどうしてだい……?」
「ひゅ、ひゅーひゅー……」
できもしない口笛を吹いて目を逸らすアシミレート。グロリアは一度目を瞑った後、カッと見開き腕に力を込めた。
「確信犯か! あんたがしっかりしていれば家計が火の車にならずに済んだんだろぅがぁぁぁ!」
「ぎゃああああ!」
ごとり……
「ふう……気は晴れないけど、無事大魔王を倒したのが知れたのは良かったね。早く無事な顔を見せておくれ、レオス……うっうっ……」
グロリアはエプロンで涙を拭きながら呟く。母親の心配していた胸中ははかりしれない……
「すみませーん」
「あ、はーい」
……と、思ったらすぐに接客スタイルになって店へと出て行くグロリアであった――
◆ ◇ ◆
――とかそんな騒ぎをしているような気がする。
それはさておき、シン……と、静まり返る謁見の間。
僕がさっきここで分かりやすく進言したのは証人が多いからだ。
ここにはざっと三十人ほどの人間が居て、王妃に王子、それに姫も居る。後で難癖をつけられないための措置というわけだね。
国王はどういう決断を下すかな? 僕としては報酬が無かったらそれはそれだと思っていて、国に帰ってからこのことを報告するつもりである。
大魔王に冒険者でも無い商人を戦わせて報酬も無し……そんな国が今後栄えないよう釘を刺してもらうためだ。
とか思っていると、国王が静かに口を開いた。
「ではレオスには白金貨百枚。それと、商人ということであるということを考慮し、宝物庫にある宝を持っていくことを許そう」
「マジか……」
「こ、国王、それは流石に多すぎでは……?」
家臣が焦って口を開くが、国王は首を振ってから言い聞かせるように答える。
「ヘタに追い出して大魔王との戦いに狩りだしたと言いふらされてはこの国の名折れだ。信じない者もいるだろうが、いらぬ誤解は避けておいて損はなかろう。レオスよ、そういうわけで報酬に色をつけた内密に頼むぞ」
おお!? この国王話が分かるね! ちなみに白金貨は一枚で金貨百枚相当の価値がある。それを百枚とは大盤振る舞いだ。それと宝物庫は興味深いね。曰くつきやレア物を店に飾っておけばハクがつくから商人の報酬としては破格だと思う。綻びそうになる顔をシャキッとして僕は国王へ聞く。
「……よろしいのですか?」
「うむ。お主の言うことはもっともだからな。ではまず金貨だ。レオスの枚数を提示していて悪いが、アレン達はもう少し多い」
国王がパチンと指を鳴らすと、宰相服に身を包んだ男がお盆に乗せた革袋を持って僕達の前に歩いてくる。僕達は一人ずつ手渡されるとお礼を言う。
「「「「「ありがたくお受けいたします」」」」」」
「うむ。大魔王を倒した報酬としてはいささか少ないと思うがな。宝物庫へは私自ら後で案内するから待っておれ」
「はい!」
「ふふふ、レオス君嬉しそうですね」
「城の宝物庫だよ? 興奮しちゃうよ!」
「おい、国王の御前だぞ」
「あ、うん……」
レオバールに睨まれて口を紡ぐと、国王はさらに話を続ける。心なしかそわそわしているような……?
「ごほん! では、次じゃ。大魔王を倒した勇者達……ぜひその血を我が王家に欲しい。どうじゃなアレン、我が姫と結婚をせぬか? 幸い」
おっと、僕の件が片付いたと思ったらよくあるイベント勃発! さっきから顔を赤らめているお姫様はアレンをちらちら見ていたからそう言うことなんだろうな、と思っていた。
だけど残念。
アレンは拳聖ルビアと恋仲なのだ。この報酬は無かったことに――
「喜んでお受けします!」
ルビアのふふんとしたドヤ顔を横目で見ながら苦笑していると、アレンがとんでもないことを口走り、僕達四人は一斉にアレンを見て叫ばざるを得なかった!
「な……!?」
「「「なにぃぃぃ!?」」」
12
お気に入りに追加
1,601
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~
mimiaizu
ファンタジー
迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる