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第四章
第140話 謎の白い魔兵機
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「――以上が報告に……なります」
「それでお前は逃げ帰って来た、と? ディッター隊長の仇も取らず、副隊長を置いて」
「……お怒りはごもっともですワイアード様。ですが、私まで果てるわけにはいかなかったのです」
「貴様それでもグライアードの騎士かぁ!」
「……っ」
本国へ戻ったリントは生き残った騎士と共に現状報告に訪れていた。騎士達が集まる会議場だが、そこにはフレッサー将軍とほぼ同じ階級であるワイヤードという男がおり、報告を聞いて激高する。
傍らにはザラーグドが立っており難しい顔で顎に手を当てていた。
「……ワイヤード殿、それくらいで良いではないか。貴重な情報だぞ?」
「しかし、騎士の矜持というものが――」
「私が良いと言っているのだが?」
「むう……フレッサー将軍はなにをしている……!」
怒りの矛先を変えるしかなくなったワイヤードはここに居ないフレッサーに悪態をつく。
ザラーグドはそれを見て小さく頷くと、リントへ質問を投げかけた。
「話は戻るが、エトワール王国の魔兵機《ゾルダート》は我が国から強奪したものではないのだな?」
「ハッ、スピードもパワーも我が国のものとはまるで違うものでした。ディッター殿の魔兵機《ゾルダート》はスピードを強化しているのに、それでもまったく話にならないほどでした。装甲は固く、こちらの武器では何度攻撃すれば……いえ、そもそも当たるかどうかも怪しい……」
「……それほどか。いったいどこでそんなものを制作したのだ……シンジ以外に作れる者がいるとは思えんが……」
「そんなバカなことが……!」
リントは真面目な騎士ということを知っているため、ワイヤードも言葉を続けられなかった。もちろんザラーグドもそれが分かっているので『相当な脅威』という事実だけが残った。
「承知した。ティアーヌ以下、やられた騎士は残念だったな。損傷も激しいと聞いている。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます。……皆の者、行くぞ」
「「ハッ」」
リントは立ち上がると部下を連れて会議場を後にした。廊下に出て少し離れたところで部下の騎士が口を開いた。
「……これからどうなるでしょうか? あれを相手にするには物量しかありませんよ」
「……ああ。ディッターめ、くだらないプライドを見せてくれたものだ……」
「しかし次は勝てますよ!」
「いや、そう上手くもいかない。結局、フレッサー将軍が殆どの部隊を連れて行き、エトワール王国各地に散らばせているから集めるのが大変だ。『次』がいつになるのかがカギになる」
ザラーグドとワイヤードも緊急事態だということは分かったはずなので策は立てるはずだとリントは考える。
こちらにもまだ残っている魔兵機《ゾルダート》はあるが、ヴァイスに対して仕掛けるには心もとない。隊長が率いる部隊が3つか4つあればと思考していた。
「ひとまず長旅だったから休んでくれ。命令があるまで待機」
「承知しました!」
ホールに来たところで解散命令を出し、騎士達は各々別の場所へと移動する。それを見届けてからリントはとある場所へ足を運ぶ。
「全滅どころからこちらの騎士はかなり残った。好戦的、という感じではないがやられたらやり返すタイプの操縦士だったな。……侵略者か、まったくもって否定できんな」
そんなことを呟きながらリントは自身の機体がある場所へやってきた。大きく傷ついてはいないが無理をさせたかと見上げていた。
「お、リントさんじゃないか。どうした?」
「シンジ殿。すみません、仕事中に」
「構わないさ。派手にやられたみたいだな。一体なにでだ?」
「お恥ずかしいことですが、我等の魔兵機が奪われて運用されていました」
「なんだって……? こいつは操作に技術がいる。簡単に乗りこなせるものじゃないぞ」
「見知った顔がいたので、利敵行為かと」
リントはエトワールでの戦闘であえなく敗走したことを伝え、視線を落とすとシンジは顎に手を当ててから小さく『ふむ』と呟いてから言う。
「それは仕方がないことだ。エトワールという国がどういうところか、俺はよく知らない。だけど事情は陛下のためというのは知っている。けど、仕掛けたのはあくまでも君たちだ」
「……」
厳しいことを言うようだけど、とシンジは続ける。
「この戦いに正当性があるかどうか……いや、そうじゃないな。戦争行為そのものを忌避する人間もいるということだね。俺の世界でも戦争はあったが、国のためなんて言っても巻き込まれる方はたまったものではない。そういうことさ」
「……我々が間違っている、と?」
「どうかな。それを戦場に赴く者に納得させるのが陛下や宰相だと、俺は思うがね? 裏切ったのなら相応の理由があるんじゃあないか」
「……」
確かにと、リントは真司の目を見て黙り込んだ。
意味がなければ戦争など始めないし、命をかけるのであれば相応の覚悟と理由が必要だと考えていた。
「とはいえ、脅されて裏切るやつもいるだろうし、そこは本人にしかわからんよ」
「そう、ですね……」
「俺だってこの機体 を作ったことで戦争を起こす切っ掛けになったと思っている。……正直、こんなことなら作らなければ良かったとも」
「シンジ殿……ん? そういえばあの白い魔兵機《ゾルダート》も巨人のことを『機体』と言っていたな……?」
「なに? なんだって? 白い魔兵機《ゾルダート》とはなんだ?」
「あ、いえ……」
そこでリントは状況を詳しく説明する。
するとシンジは冷や汗をどっとかきながら口元に手を当てた。
「(これを『機体』と呼ぶ人間はこの世界では俺だけだ。そりゃそうだ、元々この世界には無かったものだからな。そしてその呼称は根付いていない。そして白い魔兵機……俺が手掛けようとした『ヴァイス』に似ている――)」
「それでお前は逃げ帰って来た、と? ディッター隊長の仇も取らず、副隊長を置いて」
「……お怒りはごもっともですワイアード様。ですが、私まで果てるわけにはいかなかったのです」
「貴様それでもグライアードの騎士かぁ!」
「……っ」
本国へ戻ったリントは生き残った騎士と共に現状報告に訪れていた。騎士達が集まる会議場だが、そこにはフレッサー将軍とほぼ同じ階級であるワイヤードという男がおり、報告を聞いて激高する。
傍らにはザラーグドが立っており難しい顔で顎に手を当てていた。
「……ワイヤード殿、それくらいで良いではないか。貴重な情報だぞ?」
「しかし、騎士の矜持というものが――」
「私が良いと言っているのだが?」
「むう……フレッサー将軍はなにをしている……!」
怒りの矛先を変えるしかなくなったワイヤードはここに居ないフレッサーに悪態をつく。
ザラーグドはそれを見て小さく頷くと、リントへ質問を投げかけた。
「話は戻るが、エトワール王国の魔兵機《ゾルダート》は我が国から強奪したものではないのだな?」
「ハッ、スピードもパワーも我が国のものとはまるで違うものでした。ディッター殿の魔兵機《ゾルダート》はスピードを強化しているのに、それでもまったく話にならないほどでした。装甲は固く、こちらの武器では何度攻撃すれば……いえ、そもそも当たるかどうかも怪しい……」
「……それほどか。いったいどこでそんなものを制作したのだ……シンジ以外に作れる者がいるとは思えんが……」
「そんなバカなことが……!」
リントは真面目な騎士ということを知っているため、ワイヤードも言葉を続けられなかった。もちろんザラーグドもそれが分かっているので『相当な脅威』という事実だけが残った。
「承知した。ティアーヌ以下、やられた騎士は残念だったな。損傷も激しいと聞いている。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます。……皆の者、行くぞ」
「「ハッ」」
リントは立ち上がると部下を連れて会議場を後にした。廊下に出て少し離れたところで部下の騎士が口を開いた。
「……これからどうなるでしょうか? あれを相手にするには物量しかありませんよ」
「……ああ。ディッターめ、くだらないプライドを見せてくれたものだ……」
「しかし次は勝てますよ!」
「いや、そう上手くもいかない。結局、フレッサー将軍が殆どの部隊を連れて行き、エトワール王国各地に散らばせているから集めるのが大変だ。『次』がいつになるのかがカギになる」
ザラーグドとワイヤードも緊急事態だということは分かったはずなので策は立てるはずだとリントは考える。
こちらにもまだ残っている魔兵機《ゾルダート》はあるが、ヴァイスに対して仕掛けるには心もとない。隊長が率いる部隊が3つか4つあればと思考していた。
「ひとまず長旅だったから休んでくれ。命令があるまで待機」
「承知しました!」
ホールに来たところで解散命令を出し、騎士達は各々別の場所へと移動する。それを見届けてからリントはとある場所へ足を運ぶ。
「全滅どころからこちらの騎士はかなり残った。好戦的、という感じではないがやられたらやり返すタイプの操縦士だったな。……侵略者か、まったくもって否定できんな」
そんなことを呟きながらリントは自身の機体がある場所へやってきた。大きく傷ついてはいないが無理をさせたかと見上げていた。
「お、リントさんじゃないか。どうした?」
「シンジ殿。すみません、仕事中に」
「構わないさ。派手にやられたみたいだな。一体なにでだ?」
「お恥ずかしいことですが、我等の魔兵機が奪われて運用されていました」
「なんだって……? こいつは操作に技術がいる。簡単に乗りこなせるものじゃないぞ」
「見知った顔がいたので、利敵行為かと」
リントはエトワールでの戦闘であえなく敗走したことを伝え、視線を落とすとシンジは顎に手を当ててから小さく『ふむ』と呟いてから言う。
「それは仕方がないことだ。エトワールという国がどういうところか、俺はよく知らない。だけど事情は陛下のためというのは知っている。けど、仕掛けたのはあくまでも君たちだ」
「……」
厳しいことを言うようだけど、とシンジは続ける。
「この戦いに正当性があるかどうか……いや、そうじゃないな。戦争行為そのものを忌避する人間もいるということだね。俺の世界でも戦争はあったが、国のためなんて言っても巻き込まれる方はたまったものではない。そういうことさ」
「……我々が間違っている、と?」
「どうかな。それを戦場に赴く者に納得させるのが陛下や宰相だと、俺は思うがね? 裏切ったのなら相応の理由があるんじゃあないか」
「……」
確かにと、リントは真司の目を見て黙り込んだ。
意味がなければ戦争など始めないし、命をかけるのであれば相応の覚悟と理由が必要だと考えていた。
「とはいえ、脅されて裏切るやつもいるだろうし、そこは本人にしかわからんよ」
「そう、ですね……」
「俺だってこの機体 を作ったことで戦争を起こす切っ掛けになったと思っている。……正直、こんなことなら作らなければ良かったとも」
「シンジ殿……ん? そういえばあの白い魔兵機《ゾルダート》も巨人のことを『機体』と言っていたな……?」
「なに? なんだって? 白い魔兵機《ゾルダート》とはなんだ?」
「あ、いえ……」
そこでリントは状況を詳しく説明する。
するとシンジは冷や汗をどっとかきながら口元に手を当てた。
「(これを『機体』と呼ぶ人間はこの世界では俺だけだ。そりゃそうだ、元々この世界には無かったものだからな。そしてその呼称は根付いていない。そして白い魔兵機……俺が手掛けようとした『ヴァイス』に似ている――)」
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