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第四章
第128話 出撃
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「どうだった?」
「む、ザラーグド殿。ああ、受領は終わった。これから出撃だ」
「よろしく頼むぞ。エトワール王国の雑魚共を蹴散らしてこい。裏切者もな」
リントが部下を引き連れて魔兵機《ゾルダート》の待機場へと向かっていた。
そこへ宰相のザラーグドが現れて労いの言葉をかける。
「……? この戦争、ラグナニウムを手に入れるための戦いではありませんでしたか? 邪魔をする者を排除するというのは理解できますが、積極的に殺戮をすべきではないかと」
「……ふん、同じことだ。ラグナニウムを手に入れれば元気になる。そう陛下はおっしゃっていただろう」
「……そうですね。では私達はこれで」
敬礼をしてから部下と共に歩き出すリント。彼女を見送りながらザラーグドはひとり呟く。
「……真面目だが融通が利かんな。裏の目的を教えずに良かったかもしれん」
「あいつやトルコーイみたいなのは無理ですよ」
「ディッターか」
そこでディッターが現れザラーグドへと声をかける。チラリとディッターを見た後、リントが去っていった方向に再び視線を合わせて口を開く。
「……正直、お前やジョンビエルのような者がもう少し欲しいがな」
「知っているのはフレッサー将軍を含めてそれほど多くありませんからな」
「うむ。ラグナニウムを手に入れるのはもちろんだが、裏の目的は国を獲り私がそこに君臨すること。フレッサーは上手くやっているといいが」
「まあ、イレギュラーがあったとはいえ魔兵機《ゾルダート》を集めれば十分対抗できるでしょう。鉱石さえ集まれば数も増やせる」
ディッターが告げると、ザラーグドは訝しんだ顔で聞き返した。
「イレギュラー?」
「……裏切者などのことですよ」
「ああ……まあ、そのあたりの対処は任せる。というかお前も行くのか?」
「ええ、修理も終わりましたのでリント殿についていく形です」
「裏切者の居る場所にアテはあるのか?」
「まあ、私が撤退した町の位置から移動できる場所は限られています。ですが……」
「ん?」
含む言い方をしたディッターに違和感を感じたザラーグドが首を傾げる。
「姫を含む全員がヘルブスト国へ逃げ込んでいたら難しいでしょうな」
実際、あの後の足跡は掴めていない。仲間たちからもそういう連絡が来ていないため、逃げた可能性も考慮している。
リントにはディッターが見失った渓谷付近を地図で示唆してある。そこへ一緒に行こうという話で進めたのだ。
「そういうことか。確かにな。まあ、エトワール王国に居なければレジスタンスのような部隊も作れまい。その間にエトワール王国を手に入れる……時間か、私は陛下のところへ行く」
「承知しました。陛下によろしく言っておいてください」
「ああ」
そう言いながらお互いが別の歩き出した。ザラーグドはそのまま大きな扉の部屋へとやってきた。
「陛下……ザラーグドです」
「……どうぞ」
声の主は医者か。そう思いながら扉を開けると、ザラーグドは豪華な天幕のついたベッドへと近づいていく。
「どうかな?」
「良くも悪くも、というところでしょうか。日に日に具合が悪くなっている気がします」
「今だになんの病気かわからんのかね?」
「ええ……」
「いや、嫌味な言い方だったな。陛下、お労しい限りです……」
そう言いながら目を伏せてベッドの横にある椅子に座る。すると国王はうっすらと目を開けてザラーグドを見る。
「……」
「なにか?」
口を動かしているが、言葉にならないようでパクパクとするばかりだった。ザラーグドは酷く悲しい顔をして首を振ると手を握って言う。
「……まずはお体を治すことをお考え下さい」
「……!」
瞬間、国王の力が強まるのを感じる。そこで医師が力なく微笑みながら二人へ話しかけた。
「お二人はご友人だったと聞いています。私も尽力したいと思いますので、頑張りましょう」
「ええ」
手をそっとベッドに置き、椅子から立ち上がるとそのまま一礼をして廊下へ出る。
するとザラーグドはすっと真顔になり扉を一瞥した後、歩き出す。
「(まだ死んでもらっては困るからな……少し呪術の勢いを止めるか。フレッサーがラグナニウムを手に入れ、エトワール王国の王になったタイミングで陛下……いや、ドラッゲンを亡き者にすれば王子を戴冠させ、裏で私が操る……それで思う通りになるだろう)」
国王の欲しかったものはラグナニウム。
それは自身の身体を治すためだった。
そのためエトワール王国に依頼をしようとしたのだが、ザラーグドはそれを曲解させて『頼み込んだが出してくれなかった』と吹聴し戦争へ持ち込んだ。
国王ドラッゲンの病の正体。
それはザラーグドの雇った呪術士の呪いのせいだった。指針を決めたザラーグドは自分の屋敷へと戻る。
「サラン」
「ア、宰相サン。ドウ、国王サマは」
「まあ、変わらずだ。お前の呪いは凄いな」
「エヘヘ、拾っテクレタ、オレイだヨ? ワルイ王サマはコラシメチャオ」
「まだいいんだ。少し緩めてくれるか?」
「エー? ……ウン、宰相サンがソウ言うナラ……」
「ありがとうサラン。異国から売られてきたお前を助けたのは良かったよ」
「ウン!」
善人と言って差し支えないザラーグドに笑いかける褐色の少女の頭を撫でる。
「(シンジにサラン……この二人が居れば我が国は安泰だ。そしてこの私が王になる日も――)」
「む、ザラーグド殿。ああ、受領は終わった。これから出撃だ」
「よろしく頼むぞ。エトワール王国の雑魚共を蹴散らしてこい。裏切者もな」
リントが部下を引き連れて魔兵機《ゾルダート》の待機場へと向かっていた。
そこへ宰相のザラーグドが現れて労いの言葉をかける。
「……? この戦争、ラグナニウムを手に入れるための戦いではありませんでしたか? 邪魔をする者を排除するというのは理解できますが、積極的に殺戮をすべきではないかと」
「……ふん、同じことだ。ラグナニウムを手に入れれば元気になる。そう陛下はおっしゃっていただろう」
「……そうですね。では私達はこれで」
敬礼をしてから部下と共に歩き出すリント。彼女を見送りながらザラーグドはひとり呟く。
「……真面目だが融通が利かんな。裏の目的を教えずに良かったかもしれん」
「あいつやトルコーイみたいなのは無理ですよ」
「ディッターか」
そこでディッターが現れザラーグドへと声をかける。チラリとディッターを見た後、リントが去っていった方向に再び視線を合わせて口を開く。
「……正直、お前やジョンビエルのような者がもう少し欲しいがな」
「知っているのはフレッサー将軍を含めてそれほど多くありませんからな」
「うむ。ラグナニウムを手に入れるのはもちろんだが、裏の目的は国を獲り私がそこに君臨すること。フレッサーは上手くやっているといいが」
「まあ、イレギュラーがあったとはいえ魔兵機《ゾルダート》を集めれば十分対抗できるでしょう。鉱石さえ集まれば数も増やせる」
ディッターが告げると、ザラーグドは訝しんだ顔で聞き返した。
「イレギュラー?」
「……裏切者などのことですよ」
「ああ……まあ、そのあたりの対処は任せる。というかお前も行くのか?」
「ええ、修理も終わりましたのでリント殿についていく形です」
「裏切者の居る場所にアテはあるのか?」
「まあ、私が撤退した町の位置から移動できる場所は限られています。ですが……」
「ん?」
含む言い方をしたディッターに違和感を感じたザラーグドが首を傾げる。
「姫を含む全員がヘルブスト国へ逃げ込んでいたら難しいでしょうな」
実際、あの後の足跡は掴めていない。仲間たちからもそういう連絡が来ていないため、逃げた可能性も考慮している。
リントにはディッターが見失った渓谷付近を地図で示唆してある。そこへ一緒に行こうという話で進めたのだ。
「そういうことか。確かにな。まあ、エトワール王国に居なければレジスタンスのような部隊も作れまい。その間にエトワール王国を手に入れる……時間か、私は陛下のところへ行く」
「承知しました。陛下によろしく言っておいてください」
「ああ」
そう言いながらお互いが別の歩き出した。ザラーグドはそのまま大きな扉の部屋へとやってきた。
「陛下……ザラーグドです」
「……どうぞ」
声の主は医者か。そう思いながら扉を開けると、ザラーグドは豪華な天幕のついたベッドへと近づいていく。
「どうかな?」
「良くも悪くも、というところでしょうか。日に日に具合が悪くなっている気がします」
「今だになんの病気かわからんのかね?」
「ええ……」
「いや、嫌味な言い方だったな。陛下、お労しい限りです……」
そう言いながら目を伏せてベッドの横にある椅子に座る。すると国王はうっすらと目を開けてザラーグドを見る。
「……」
「なにか?」
口を動かしているが、言葉にならないようでパクパクとするばかりだった。ザラーグドは酷く悲しい顔をして首を振ると手を握って言う。
「……まずはお体を治すことをお考え下さい」
「……!」
瞬間、国王の力が強まるのを感じる。そこで医師が力なく微笑みながら二人へ話しかけた。
「お二人はご友人だったと聞いています。私も尽力したいと思いますので、頑張りましょう」
「ええ」
手をそっとベッドに置き、椅子から立ち上がるとそのまま一礼をして廊下へ出る。
するとザラーグドはすっと真顔になり扉を一瞥した後、歩き出す。
「(まだ死んでもらっては困るからな……少し呪術の勢いを止めるか。フレッサーがラグナニウムを手に入れ、エトワール王国の王になったタイミングで陛下……いや、ドラッゲンを亡き者にすれば王子を戴冠させ、裏で私が操る……それで思う通りになるだろう)」
国王の欲しかったものはラグナニウム。
それは自身の身体を治すためだった。
そのためエトワール王国に依頼をしようとしたのだが、ザラーグドはそれを曲解させて『頼み込んだが出してくれなかった』と吹聴し戦争へ持ち込んだ。
国王ドラッゲンの病の正体。
それはザラーグドの雇った呪術士の呪いのせいだった。指針を決めたザラーグドは自分の屋敷へと戻る。
「サラン」
「ア、宰相サン。ドウ、国王サマは」
「まあ、変わらずだ。お前の呪いは凄いな」
「エヘヘ、拾っテクレタ、オレイだヨ? ワルイ王サマはコラシメチャオ」
「まだいいんだ。少し緩めてくれるか?」
「エー? ……ウン、宰相サンがソウ言うナラ……」
「ありがとうサラン。異国から売られてきたお前を助けたのは良かったよ」
「ウン!」
善人と言って差し支えないザラーグドに笑いかける褐色の少女の頭を撫でる。
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