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第三章
第102話 前進か防衛か
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「緊急事案だ」
俺は町に戻ってからそう切り出すと、シャルが訝しみながら口を開く。
「敵を一人捕えて、魔兵機《ゾルダート》を一機手に入れたけど、そうなの?」
「くっ……」
「それがな――」
逃がした理由として、隊長機が町へ戻らないと常駐した騎士が町の人間を殺すということを明言したことを告げる。
「はったりかもしれないわね? で、逃がす代わりにこいつを連れてきたわけね」
「まあな。だけどそこまで抑止力があるとは思えない」
「どうして?」
「役職つきかわからないが、側近だとしても一人を切り捨てるだけで向こうは自由になったわけだからな」
俺がそういうと、その場に居たガエイン爺さんを含む全員が納得する。事態はあまり良くない方向だ。
そこで捕縛した敵が鼻を鳴らしながらもぞもぞと身体を動かす。
「……ふん、あの交渉ですぐに私を拘束したあたり頭が回ると思っていたが、やりますね。そう、私の代わりなどいくらでも居ます。あなたは選択を間違えました」
目を細めて、くくく……と笑う。確かにそうだと思っていると、怒気を含めた声が聞こえてきた。
「いえ、そんなことはありませんよ! あなたが居るということは隊長はトルコーイさんですか。この人の名前はゼルシオ。わたしと同じでクラスは副隊長です」
「……お前は!?」
それは同じグライアード王国の騎士であるイラスだった。ゼルシオと呼ばれた男は目を見開いて驚いていた。
「な、なぜお前がここに……!? あ、いや、そうか……ディッター様の副隊長だったのだからこの白い魔兵機《ゾルダート》に負けた、というところか」
「……そうですね。それはともかくこの人をトルコーイさんが見捨てるとは思えません」
「やっぱり知ってるのね」
「ええ、部隊での会合などもありますから……」
「……」
イラスが子ぎつねを抱きしめながらゼルシオを見て困惑しながら言う。
「結構な重要な人物だったってところか。危うく騙されるところだったぜ」
「それでもこの状況、助けに来ることはないでしょう。白い魔兵機《ゾルダート》という特別な戦力が見れたということだけで十分、土産になります」
「残念だったな。ディッターの野郎は生きているからもう本国に通達がいっているはず」
「生きているのか……いや、待て、そういえばお前は何故、拘束されていない……?」
そこで愛らしい子ぎつねを抱っこして話しかけてきたイラスの状況に気づいて疑問を投げかけてきた。そこで、シャルがしゃがみ込んで言う。
「んー、イラスはあたしの従者にしたのよ。前の戦闘で殺せってうるさかったから、どうせ死ぬなら実家になんかしてからにすればって」
「……ああ、確かにすぐそんなことを言う……それに実家……なるほど」
「納得するんだな……」
「ケネリー家は少々特殊……いや、イラスはこれでいいのかもしれない。さて、これから私をどうするつもりだ? 見せしめに殺すか?」
なにかイラスに対して聞けそうな雰囲気だったがハッとなったゼルシオが俺達に目を向けて尋ねてきた。だが、そこでシャルが再び言う。
「殺しはしないわ。ただ、町の人間になにかあった場合はその限りじゃないけど、ね? トルコーイって奴が無茶をしないことを祈っていなさい。連れて行って」
「うむ」
「人質交換など無意味だぞ! 殺しておいた方が良かったと後悔することになるぞ……!」
「なんかイラスとは違うポジティブな死にたがりだなあ」
そんなセリフを聞きながら町の中へ連れていかれるゼルシオを見送る俺達。
実際、殺すようなことをしたらトルコーイとかいうやつは激昂して本気で町を潰しそうだ。
こっちの戦力を見誤っていないので、俺に遭遇せず町を潰して回るくらいはやりそうな冷静さがあるからな。
「面倒なことになったな、すまない」
「いや、どうせ本隊にはリク殿のことは知られている。後は、場の状況に応じて動くしかないから少なくともこの町に被害が無かったことを喜ぶべきだろう」
「ま、こっちは戦力が少ないから奇襲か、こちらを知らない内に倒すってのがセオリーだからねえ。今回は部隊を分けてきたのが良くも悪くもって感じだし」
俺のせいじゃないと騎士とシャルが言い、他の騎士や冒険者達も頷いていた。全軍で来てくれれば文字通り一網打尽で終わっていた。
そういう意味ではトルコーイという男の頭は切れるので、帰したくはなかったのだが。
「というわけで、あたしたちが『それ』しかできないと思っているあいつらに対して一泡吹かせに行こうと思うんだけど、どう?」
「シャル?」
「それは……アウラ様が許さないのでは……」
俺もそう思う。
シャルは行くつもりでニヤリと親フォックスのクレールの背中を撫でていた。
行くこと自体は構わないんだけど、どれほどの規模の戦闘になるかわからないので守りが手薄になるのも困る。
「とりあえずリクとあたし、それとクレールだけでいいかな? その隊長の首を獲れば降伏のテーブルにはつけさせられるでしょ」
「まあ、町の状況次第だが殺すのは最後だな」
「どちらにしてもガエイン様とアウラ様が許さないと思います。作戦も立てないと難しいでしょう?」
「えー、さっと闇討ちでよくない?」
「それだと俺が必要無いだろ」
魔兵機《ゾルダート》はそこそこ痛めつけているから反撃はすぐに来ないだろう。
となると全軍で来る可能性が高いが、魔兵機《ゾルダート》はヴァイスに勝てないことは分かっているのである意味膠着状態だ。
そこで単騎突撃の闇討ちはアリだと俺も思う。だから提案するのであれば――
「クレールをガエイン爺さんに貸して、俺と二人で奇襲だな……それならいけそうだと思う」
「えー!? あたしは!? 強いよあたし!」
「しれは分かってるが万が一は考えないとダメだろ? 魔兵機《ゾルダート》を一機鹵獲したし、それを守ってくれ」
「リクのコクピットでいいじゃない。イラスと乗って、なにか出来ることがあったらで。師匠とリクを同時に出撃するのもバランスが悪くない?」
ああいえばこういう……ひとまずガエイン爺さんと話して決めるかとタブレットへ移動し、町の中へ入ることにした。
俺は町に戻ってからそう切り出すと、シャルが訝しみながら口を開く。
「敵を一人捕えて、魔兵機《ゾルダート》を一機手に入れたけど、そうなの?」
「くっ……」
「それがな――」
逃がした理由として、隊長機が町へ戻らないと常駐した騎士が町の人間を殺すということを明言したことを告げる。
「はったりかもしれないわね? で、逃がす代わりにこいつを連れてきたわけね」
「まあな。だけどそこまで抑止力があるとは思えない」
「どうして?」
「役職つきかわからないが、側近だとしても一人を切り捨てるだけで向こうは自由になったわけだからな」
俺がそういうと、その場に居たガエイン爺さんを含む全員が納得する。事態はあまり良くない方向だ。
そこで捕縛した敵が鼻を鳴らしながらもぞもぞと身体を動かす。
「……ふん、あの交渉ですぐに私を拘束したあたり頭が回ると思っていたが、やりますね。そう、私の代わりなどいくらでも居ます。あなたは選択を間違えました」
目を細めて、くくく……と笑う。確かにそうだと思っていると、怒気を含めた声が聞こえてきた。
「いえ、そんなことはありませんよ! あなたが居るということは隊長はトルコーイさんですか。この人の名前はゼルシオ。わたしと同じでクラスは副隊長です」
「……お前は!?」
それは同じグライアード王国の騎士であるイラスだった。ゼルシオと呼ばれた男は目を見開いて驚いていた。
「な、なぜお前がここに……!? あ、いや、そうか……ディッター様の副隊長だったのだからこの白い魔兵機《ゾルダート》に負けた、というところか」
「……そうですね。それはともかくこの人をトルコーイさんが見捨てるとは思えません」
「やっぱり知ってるのね」
「ええ、部隊での会合などもありますから……」
「……」
イラスが子ぎつねを抱きしめながらゼルシオを見て困惑しながら言う。
「結構な重要な人物だったってところか。危うく騙されるところだったぜ」
「それでもこの状況、助けに来ることはないでしょう。白い魔兵機《ゾルダート》という特別な戦力が見れたということだけで十分、土産になります」
「残念だったな。ディッターの野郎は生きているからもう本国に通達がいっているはず」
「生きているのか……いや、待て、そういえばお前は何故、拘束されていない……?」
そこで愛らしい子ぎつねを抱っこして話しかけてきたイラスの状況に気づいて疑問を投げかけてきた。そこで、シャルがしゃがみ込んで言う。
「んー、イラスはあたしの従者にしたのよ。前の戦闘で殺せってうるさかったから、どうせ死ぬなら実家になんかしてからにすればって」
「……ああ、確かにすぐそんなことを言う……それに実家……なるほど」
「納得するんだな……」
「ケネリー家は少々特殊……いや、イラスはこれでいいのかもしれない。さて、これから私をどうするつもりだ? 見せしめに殺すか?」
なにかイラスに対して聞けそうな雰囲気だったがハッとなったゼルシオが俺達に目を向けて尋ねてきた。だが、そこでシャルが再び言う。
「殺しはしないわ。ただ、町の人間になにかあった場合はその限りじゃないけど、ね? トルコーイって奴が無茶をしないことを祈っていなさい。連れて行って」
「うむ」
「人質交換など無意味だぞ! 殺しておいた方が良かったと後悔することになるぞ……!」
「なんかイラスとは違うポジティブな死にたがりだなあ」
そんなセリフを聞きながら町の中へ連れていかれるゼルシオを見送る俺達。
実際、殺すようなことをしたらトルコーイとかいうやつは激昂して本気で町を潰しそうだ。
こっちの戦力を見誤っていないので、俺に遭遇せず町を潰して回るくらいはやりそうな冷静さがあるからな。
「面倒なことになったな、すまない」
「いや、どうせ本隊にはリク殿のことは知られている。後は、場の状況に応じて動くしかないから少なくともこの町に被害が無かったことを喜ぶべきだろう」
「ま、こっちは戦力が少ないから奇襲か、こちらを知らない内に倒すってのがセオリーだからねえ。今回は部隊を分けてきたのが良くも悪くもって感じだし」
俺のせいじゃないと騎士とシャルが言い、他の騎士や冒険者達も頷いていた。全軍で来てくれれば文字通り一網打尽で終わっていた。
そういう意味ではトルコーイという男の頭は切れるので、帰したくはなかったのだが。
「というわけで、あたしたちが『それ』しかできないと思っているあいつらに対して一泡吹かせに行こうと思うんだけど、どう?」
「シャル?」
「それは……アウラ様が許さないのでは……」
俺もそう思う。
シャルは行くつもりでニヤリと親フォックスのクレールの背中を撫でていた。
行くこと自体は構わないんだけど、どれほどの規模の戦闘になるかわからないので守りが手薄になるのも困る。
「とりあえずリクとあたし、それとクレールだけでいいかな? その隊長の首を獲れば降伏のテーブルにはつけさせられるでしょ」
「まあ、町の状況次第だが殺すのは最後だな」
「どちらにしてもガエイン様とアウラ様が許さないと思います。作戦も立てないと難しいでしょう?」
「えー、さっと闇討ちでよくない?」
「それだと俺が必要無いだろ」
魔兵機《ゾルダート》はそこそこ痛めつけているから反撃はすぐに来ないだろう。
となると全軍で来る可能性が高いが、魔兵機《ゾルダート》はヴァイスに勝てないことは分かっているのである意味膠着状態だ。
そこで単騎突撃の闇討ちはアリだと俺も思う。だから提案するのであれば――
「クレールをガエイン爺さんに貸して、俺と二人で奇襲だな……それならいけそうだと思う」
「えー!? あたしは!? 強いよあたし!」
「しれは分かってるが万が一は考えないとダメだろ? 魔兵機《ゾルダート》を一機鹵獲したし、それを守ってくれ」
「リクのコクピットでいいじゃない。イラスと乗って、なにか出来ることがあったらで。師匠とリクを同時に出撃するのもバランスが悪くない?」
ああいえばこういう……ひとまずガエイン爺さんと話して決めるかとタブレットへ移動し、町の中へ入ることにした。
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