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第三章
第86話 出発
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「それでは行ってきます」
「ご武運を」
「気をつけてな」
――早朝
まずは騎士達が北の町へと向かうため出立し、俺とアウラ様が見送った。
昨日の連中がきちんと話しているかどうかの確認という側面もあるため情報を集めて欲しいものである。
「そっちはどうだ? お、似合ってるな」
「そう? ありがと♪ こっちもそろそろ行けそうよ。あっちと違って馬車が使えるから楽できそう」
「……」
平民スタイルでも美人な顔立ちなのだが、かなり王族らしさは抜けた気がする。
アウラ様のタブレットでそんな感想を口にしていると、当のアウラ様は複雑な顔のままシャルを見ていた。
「お姉さま、そんな顔しないでよ。あたしと師匠は3年ほどだけどそれなりに旅もしているわ。危ない目にもあったことがあるし」
「初耳です……! ああ、やっぱり他の者に……」
ケラケラと笑うシャルにアウラ様が肩を掴んで揺さぶっていた。ま、剣士として修行をしていたのならそこまで悲観することも無さそうだ。
「修行の旅をしていたなら大丈夫だろ? 慣れていると思うし」
「リク様! ……この子達はあの時、私に黙って旅に出たんです。お父様達は知っていたようですが、絶対止めるからと口止めをされていました……!」
「ひゅー」
「ぴゅー」
アウラ様が拳を握って叫ぶとシャルとガエイン爺さんがそっぽを向いて音の鳴らない口笛を吹いていた。ああ、アウラ様が心配するのはそのせいか。
「黙って出て行ったのか」
「えっと、五年くらい前に……そこから三年ほど修行の旅を……」
<となるとシャル様は十五歳ですか。なかなかやりますねえ>
「言い出しっぺはシャルみたいです。ガエインもシャルを孫のように可愛がっているので断れなかったようです」
「う、うむう……」
図星のようだな。
まあ、逆にそのころの経験があると考えれば適任かもしれない。
「その時、王族と名乗っていたのか?」
「え? ううん。師匠の弟子ってことだけかしらね。だからめちゃ強い英雄の弟子ってことで立ち寄ったところの人には知られているかなあ?」
「……それは強みだな」
「そうじゃな。表立って社交界へ出るアウラ様はともかく、妹姫であるシャルの顔を知る者はそれほど多くない。貴族なら別じゃが、冒険者に溶け込むのはそれほど難しくないはずじゃ」
ただの冒険者と王族ならかなり違いが出る。
ん……? 待てよ?
「グライアードがどの程度こっちを把握しているか分からないが、騎士達も服装を変えたらどうだ? 鎧は難しいかもしれないが、見た目が一般人に見える工夫は必要かもしれん」
「あ、それもそうね。ちょっと服を買ってみるわ」
「町の人も都合してくれるだろうから少しな」
ということで今後は騎士達も一般人に溶け込めるような措置を取る方向にした。
お金は少ないため試しだな。
そこでアウラ様が口を開く。
「気を付けてねシャル。グライアードがどこまで来ているのか分からないから、正体は悟られないように」
「うん。そういうのは得意だから! それじゃ行くわよイラスー」
シャルは魔兵機《ゾルダート》に乗っているイラスに声をかけた。彼女は硬い地面をかかとで掘り返す作業などをしているのだ。
「ねえちゃんすげえな!」
「フフフ……どきなさい子供たち。この土のようになりたくなければ」
「イラスー、行くわよー」
「あ、はーい……」
相変わらず乗っていると気が強くなるんだなと苦笑する。するすると降りてきたイラスが子供たちに追いかけられながらこちらへやってくる。
「どっかいくのかー?」
「おねえちゃん編み物教えてくれるっていったのにー」
「あ、ああ……ついてきてはダメよ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
「それじゃ馬車の中で着替えてね。これ髪留めと伊達眼鏡。変装しないとグライアードの連中に見つかるからさ」
「は、はぁい……」
「それじゃ行ってくるわ!」
「おう! イラスって子供に人気だな?」
ふと思ったことを口にするとシャルが荷台に乗る彼女を見ながら言う。
「元々貴族だったこともあるし、魔兵機《ゾルダート》に乗っていなかったらあの調子でしょ? それにいろいろと知識が多いからねあの子」
認められるためにやれることをやっていたらしく、さらにきちんと習得しているからもしかすると天才の部類かもしれないな。
「お、終わり……ました……」
「お、こっちも似合うな」
「リク様……! あ、ありがとございます! いつ死んでもいいです……」
「すぐそんなこと言う」
「まあ、お主といれば治るじゃろ」
なぜか蕩ける顔をしているイラスを引っ張り、シャル達も拠点を出て行った。タブレットからヴァイスへ移動したが、しばらくしたら一度向こうに顔を出すつもりだ。
町が協力してくれれば少しは楽になる。等価交換は用心棒ってところでなんとかならないものか。
「ふう……」
「大丈夫かアウラ様?」
「ええ。あの子は小さいころよく泣いていて、私の後をずっとついてきていたんです。とっても可愛かったんですよ? 私の中ではあのころと変わっていない可愛い妹なので、心配はしています」
「ま、なにかあれば連絡があるだろ。通信がどこまでできるかだな」
「ええ」
「戦いになれば町の周辺は平地で戦いやすい。陸戦はまあまあだが、ブースターが使えれば渓谷とかより圧倒できると思う」
「ありがとうございます。頼りにしていますよ」
アウラ様はそう言って笑い、またシャルの出て行った道を見つめていた。任せたぜ? 爺さん。
「ご武運を」
「気をつけてな」
――早朝
まずは騎士達が北の町へと向かうため出立し、俺とアウラ様が見送った。
昨日の連中がきちんと話しているかどうかの確認という側面もあるため情報を集めて欲しいものである。
「そっちはどうだ? お、似合ってるな」
「そう? ありがと♪ こっちもそろそろ行けそうよ。あっちと違って馬車が使えるから楽できそう」
「……」
平民スタイルでも美人な顔立ちなのだが、かなり王族らしさは抜けた気がする。
アウラ様のタブレットでそんな感想を口にしていると、当のアウラ様は複雑な顔のままシャルを見ていた。
「お姉さま、そんな顔しないでよ。あたしと師匠は3年ほどだけどそれなりに旅もしているわ。危ない目にもあったことがあるし」
「初耳です……! ああ、やっぱり他の者に……」
ケラケラと笑うシャルにアウラ様が肩を掴んで揺さぶっていた。ま、剣士として修行をしていたのならそこまで悲観することも無さそうだ。
「修行の旅をしていたなら大丈夫だろ? 慣れていると思うし」
「リク様! ……この子達はあの時、私に黙って旅に出たんです。お父様達は知っていたようですが、絶対止めるからと口止めをされていました……!」
「ひゅー」
「ぴゅー」
アウラ様が拳を握って叫ぶとシャルとガエイン爺さんがそっぽを向いて音の鳴らない口笛を吹いていた。ああ、アウラ様が心配するのはそのせいか。
「黙って出て行ったのか」
「えっと、五年くらい前に……そこから三年ほど修行の旅を……」
<となるとシャル様は十五歳ですか。なかなかやりますねえ>
「言い出しっぺはシャルみたいです。ガエインもシャルを孫のように可愛がっているので断れなかったようです」
「う、うむう……」
図星のようだな。
まあ、逆にそのころの経験があると考えれば適任かもしれない。
「その時、王族と名乗っていたのか?」
「え? ううん。師匠の弟子ってことだけかしらね。だからめちゃ強い英雄の弟子ってことで立ち寄ったところの人には知られているかなあ?」
「……それは強みだな」
「そうじゃな。表立って社交界へ出るアウラ様はともかく、妹姫であるシャルの顔を知る者はそれほど多くない。貴族なら別じゃが、冒険者に溶け込むのはそれほど難しくないはずじゃ」
ただの冒険者と王族ならかなり違いが出る。
ん……? 待てよ?
「グライアードがどの程度こっちを把握しているか分からないが、騎士達も服装を変えたらどうだ? 鎧は難しいかもしれないが、見た目が一般人に見える工夫は必要かもしれん」
「あ、それもそうね。ちょっと服を買ってみるわ」
「町の人も都合してくれるだろうから少しな」
ということで今後は騎士達も一般人に溶け込めるような措置を取る方向にした。
お金は少ないため試しだな。
そこでアウラ様が口を開く。
「気を付けてねシャル。グライアードがどこまで来ているのか分からないから、正体は悟られないように」
「うん。そういうのは得意だから! それじゃ行くわよイラスー」
シャルは魔兵機《ゾルダート》に乗っているイラスに声をかけた。彼女は硬い地面をかかとで掘り返す作業などをしているのだ。
「ねえちゃんすげえな!」
「フフフ……どきなさい子供たち。この土のようになりたくなければ」
「イラスー、行くわよー」
「あ、はーい……」
相変わらず乗っていると気が強くなるんだなと苦笑する。するすると降りてきたイラスが子供たちに追いかけられながらこちらへやってくる。
「どっかいくのかー?」
「おねえちゃん編み物教えてくれるっていったのにー」
「あ、ああ……ついてきてはダメよ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
「それじゃ馬車の中で着替えてね。これ髪留めと伊達眼鏡。変装しないとグライアードの連中に見つかるからさ」
「は、はぁい……」
「それじゃ行ってくるわ!」
「おう! イラスって子供に人気だな?」
ふと思ったことを口にするとシャルが荷台に乗る彼女を見ながら言う。
「元々貴族だったこともあるし、魔兵機《ゾルダート》に乗っていなかったらあの調子でしょ? それにいろいろと知識が多いからねあの子」
認められるためにやれることをやっていたらしく、さらにきちんと習得しているからもしかすると天才の部類かもしれないな。
「お、終わり……ました……」
「お、こっちも似合うな」
「リク様……! あ、ありがとございます! いつ死んでもいいです……」
「すぐそんなこと言う」
「まあ、お主といれば治るじゃろ」
なぜか蕩ける顔をしているイラスを引っ張り、シャル達も拠点を出て行った。タブレットからヴァイスへ移動したが、しばらくしたら一度向こうに顔を出すつもりだ。
町が協力してくれれば少しは楽になる。等価交換は用心棒ってところでなんとかならないものか。
「ふう……」
「大丈夫かアウラ様?」
「ええ。あの子は小さいころよく泣いていて、私の後をずっとついてきていたんです。とっても可愛かったんですよ? 私の中ではあのころと変わっていない可愛い妹なので、心配はしています」
「ま、なにかあれば連絡があるだろ。通信がどこまでできるかだな」
「ええ」
「戦いになれば町の周辺は平地で戦いやすい。陸戦はまあまあだが、ブースターが使えれば渓谷とかより圧倒できると思う」
「ありがとうございます。頼りにしていますよ」
アウラ様はそう言って笑い、またシャルの出て行った道を見つめていた。任せたぜ? 爺さん。
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