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第二章

第77話 神秘

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「閣下。ディッター様から通信が入っております」
「ディッターか。姫を捕まえたか? 繋げ」

 ――エトワール王国執務にてフレッサー将軍に魔力通信具《マナリンク》で連絡が入る。相手は蒼の牙ブルーファングのディッターだった。
 大きな通信機が机に置かれると、フレッサーは耳にヘッドホンの片側のようなスピーカーを当て装置に声をかけた。

「ディッターか?」
「フレッサー将軍、お久しぶりです。良い報せと悪い報せをお持ちしました」
「……悪い報せなど聞きたくないが、貴様がそう言うくらいだ。面倒ごとなのだろうな?」

 ディッターが性格の悪い男だという話は知っている。が、同時にはっきりとモノを言う男だとも。
 そんな彼が『悪い』と言えば本当に良くないことが多い。するとディッターの口からやはり面倒な言葉が飛び出した。

「我々ディッター隊は地図上に載っているクレイブという町でアウラ姫の奪取を敢行。しかし、姫二人はすでに町を出奔。町に残っていた勇騎士《ブレイブナイツ》ガエインと交戦。魔兵機《ゾルダート》を一台奪われ、一台が大破しました」
「……」

 報告を聞いて目を細めるフレッサー。
 思ったより被害の度合いが大きく、アウラを手に入れられていないのに魔兵機《ゾルダート》二機は懲罰ものだなと考えていた。

「貴様が二度も辛酸をなめさせられるとはな」
「ええ。裏切り者が三人になりましてね。イラスも向こう側につきました」
「あの娘はそのうち俺のものにする予定だったのだがな。懲罰は覚悟しておけよディッター」
「それは本人にしていただけると。どちらにせよ白い魔兵機《ゾルダート》は脅威ですし、奪われた三台もどう使ってくるかわかりません。……減給くらいでなんとかなりませんかね」

 くっくと笑うディッターに、フレッサーは不快感を示していた。無茶を言うな、と。
 しかし問題はただ失敗したということに収まらない。『実力は間違いなく高い彼が失敗をした』ということを重要視しなければならないのだ。

「まあいい。この国に居る間は俺の一存でなんとかなる。で、良い報告はなんだ?」

 ひとまず次の指針を決める前に良い報告を聞きたいとフレッサーは話を促した。
 するとまた、くっくと笑いながら口を開くディッター。

「一旦、エトワール王国の王都へ戻っているんですが、その途中で見つけた町を落としておきました。ご命令通り男は全員処分し、女子供だけにしています」
「ほう、それは朗報だな。引き連れて戻ってきているのか?」
「ええ」
「分かった。ではこちらに戻ってから詳しい話を聞こう。ああ、そうだ。アウラ姫とシャルル姫の消息は?」
「不明ですな。ヘルブスト国へ救援に向かったと考えるのが自然かと」

 ヘルブスト国へ向かう道は塞がれてしまったこと、もし追いついたとしても白い魔兵機《ゾルダート》が居ることなどを話す。
 ディッターの話を一通り聞いてから少し間を置いてフレッサーは言う。

「結構だ。とりあえず戻ってこい。白い魔兵機《ゾルダート》に関しては策が必要だろう。残っている隊を集めて会議を行う」
「承知しました」

 そう言って通信が切断され、執務室にはフレッサーと通信機を持って来た男だけになり静寂が部屋を包んだ。

「ふう……おい、下がっていいぞ」
「あ、は、はい! ……我がグライアードに匹敵する魔兵機《ゾルダート》……一体何者なのでしょうか……?」
「さあな。ただ、ウチの技術開発の人間みたいなのが他にいるのかもしれん。それか技術を盗まれたか……いずれにせよ先のことを考えるなら潰しておくべきだろうな」
「ハッ! その際はご用命ください!」
「賢いな貴様。出世するかもしれんな?」

 男は頭を下げながら一歩下がると、魔力通信具《マナリンク》を持って執務室を出て行った。
 彼等の中にはフレッサーはに心酔している者もいて知っているのだ。エトワール王国を掌握し、人間を集めた後はフレッサー自らがこの国の王になることを。

「フッ。まあ、白い魔兵機《ゾルダート》など、グライアード本国から台数を集めればいいだろう。むしろこちらの戦力が増えるのだからな」
「……しかし、あの技術者はこちらに欲しい。なんとかならないものか? ま、おいおい考えるとしよう。まずはラグナニウム……それと姫か。後で本国へ連絡をしておくか――」

 フレッサーは肘をついてペンを回す。その表情は獰猛な獣さながらであった――

◆ ◇ ◆

 ――グライアード本国

「ふむ、フレッサーめ、ラグナニウムはまだ見つからぬか」
「そのようですザラーグド様。それと騎士ガエインの抵抗が激しく、ディッター隊長が魔兵機《ゾルダート》を三台失ったとのこと」
「あやつがか」
「ハッ。それとジョンビエル隊長は戦死なされたそうです」
「ほう……」

 どこかへ向かいながら報告を聞くザラーグドと呼ばれた男。
 白髪交じりのオールバックをしている彼が、顎にある髭を触りながら片眉を下げながら思案していた。
 人格はアレだったが戦いの能力は高かったジョンビエルが死んだのか、と。

「……まあ、それ以外取り柄のない冒険者だったからな。適正も運も無かったということだろう。それよりもディッターだ。魔兵機《ゾルダート》を持っていて負けるものか?」
「相手がかのガエインであれば可能性はあるかと。ゲイズタートルを単独撃破したことがある者なので大きさは関係ないと思います」
「それは人間なのか? まあいい、それでフレッサーは補充を寄越せと言っているのだな」

 工場のような場所を歩きながら、ザラーグドは視線だけ少し後ろにいる部下に向けて尋ねた。

「はい。都合十台は欲しい、と」
「王都を抑えておいてその体たらくか……フレッサーめ、老いぼれ一人になにをもたついているのだ。ちょうどいい。回せるか聞いてみようではないか」
「そうですね」

 フレッサーはこの時点で白い魔兵機《ゾルダート》であるヴァイスの存在を報せていなかった。思惑があってのことだが、今のザラーグド達に知るすべはない。
 そして工場らしき場所の中でもひときわ広く、組み立て途中の魔兵機《ゾルダート》がある場所まで来た時、ザラーグドは一人の男に声をかけられた。

「ああ、ザラーグド様ではありませんか! どうしましたかこのような場所に?」

 安全のためフードを目深に被ったその男は笑顔でザラーグドのところへ駆けて行く。ノートパソコンのようなものを持って――

「ははは。このような、とは謙遜されるな。なに、あなたが作ったこの魔兵機《ゾルダート》により、エトワール王国を掌握したことを報告したくて参った次第」
「ほう、それはなによりです。私の知識が国の平和のために使えたのなら恩に報いることができそうです」
「そうですな。国王陛下もお喜びになっていますよ、シンジ殿――」
「ありがたいことです」

 ――フードを取って頭を下げた男の名はシンジ。

 そう、メビウス襲撃の際、シャトルを撃破され亡くなったはずの『高柳 真司』その人だった――
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