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第二章
第72話 移動と覚悟
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「平原が続くなあ」
「もう少ししたら丘陵に差し掛かる。機体は慎重に動かねばならんぞ」
「リクは大丈夫でしょ」
「どちらかと言えば町の人達の方が大変だろ」
昼飯時に、俺達はそんな話をしていた。旅は順調に進んでいて、ここまでの二日間は特に脅威となるような出来事もない。……この世界基準では、と頭につくが。
「魔物だっけ? 出現頻度が高くないか?」
「私もちょっと驚きました……」
アウラ様も俺の言葉に頷いていた。
そう、なんか犬みたいなヤツとかやたらとでかい鳥、ヴァイスの足くらいの太さがある蛇とか牙の鋭いイノシシなどなど……ちょっと地球じゃいない系の生き物が襲ってくるのである。
「まあこんなものよ? ねえ師匠」
「うむ。故に冒険者を雇って駆除にあたっておるのだからな」
「お姉さまは城の外に滞在することがあんまり無かったからねえ」
シャルとガエイン爺さんが『こんなもんだ』という顔でワイルドに骨つき肉にかぶりつく。爺さんはともかく妹姫もワイルドだな。
ちなみに今、食べているのは先のイノシシを倒して得た肉だったりする。その場で倒して血を抜いて食料にする。
これを見ているとやっていけそうな気がするな。
「あたしはもう少し熟した方が好きね」
「熟す……?」
「うん。腐るちょっと前くらいのことを言うんだけど――」
「やめてシャル……!?」
「ええー」
アウラ様が耳を塞いでシャルに続きを言わせないよう叫んでいた。うん、まあ育ちの違いだなと。
「そういえばシャルはどうして剣を覚えたんだ?」
「え? 言ってなかったっけ。あたしはお姉さまに比べて魔力が低いの。だからそれを補うために師匠から教わったわ」
「十三の時でしたね。あの時は心底お父様達と一緒に心配しました……」
アウラ様が困った顔で笑う。結構前から訓練を積んでいたようで、町での戦いで後れを取っていない理由が分かった気がした。
「もしお姉さまとあたしが逆の立場だったら、後継者が妹になっていた……ってくらいには低いわ」
「マジか」
「うん。ヘッジよりはマシだけど魔兵機《ゾルダート》をビッダーみたいに動かすのは無理かな」
世襲制かと思ったけど能力の可否の方が重視されるのだろうか? そんなことを考えているとシャルがイラスに手招きをしていた。
「イラスーおいでー」
「? なんでしょう……うひゃあ!?」
なんの疑いも無く寄って来たイラスの後ろに回り頬をにゅっと引っ張りながらシャルが口を尖らせる。
「この子、あたしより二つ下なんだけど魔力量はかなり高いのよね。元貴族だからかもしれないけど、この子のお姉さんがイラスより上なら、お姉さまに近いくらい」
「ひゃめひぇ……」
「こら、シャル。やめなさい」
「はーい」
アウラ様にぴしゃりと言われてシャルが手を放すと、イラスがその場にへたり込みながら言う。
「うう……酷いです……やっぱり殺してください……」
「うるさいわね! こうだ!」
「ひゃ!? あははははは! くすぐるの……なし……!」
「仲いいですねえ」
「妹同士だからかねえ」
その様子を遠巻きに見ていたヘッジとバスレーナが呟いていた。
まあ、イラスも冗談が言えるくらいには少し変わったってところか?
「アウラ様、皆の食事が終わったようです」
「報告ありがとうございます。では10分後に出発します」
「「「ハッ!」」」
俺もタブレットからヴァイスに乗り換え、アウラ様とシャルをコクピットへ誘う。
振り返るとずらりと並んだ人の波がずっと続いていて改めて大変な行軍であることを物語る。
「では後衛へ戻ります」
「頼むぜビッダー」
「ええ。ヴァイスのレーダーがあればまったく問題にならないと思いますが」
「でもデカブツ相手は頼りにさせてもらうぜ」
自機へ戻るビッダーに声をかけてから俺は前を向く。少し待っていると、足元に居た騎士が大声で叫ぶ。
「リク殿ー、出発をお願いします!」
「あいよー」
再び目的地へ向かって進行を開始。
俺や魔兵機《ゾルダート》と違って人間と馬は生き物だ。さらに数も多いので全体の状況は把握しておきたい。
まあ、そのあたりは騎士達がやってくれているので助かるけど。
<バイタルチェックはヴァイスでもできますので体調不良者はケアを行いましょう>
「わかりました。そこはサクヤ様にお任せします。シャル、お金は後どれくらいありますか?」
「紙幣だけで15万ペラってところかしら。ここまでで使っちゃったからね」
「金策も考えないといけませんか……」
そして、移動中はこういった会話も欠かさない。今までは縋れるものを掴むために移動していたけど、これからは自分達でどうにかする方向にシフトしたため落ち込んでもいられないし立ち止まることもできない。
もし止まってしまえばすべてが終わる。この集まりは最初の一歩。
地球がメビウスと戦うためにヴァッフェリーゼを造ったのと同じく。
ちなみにペラは貨幣の単位で、ものを買ったことがないため金額の価値はよくわからない。
「そういえば俺と出会う前に町に寄ったりはしなかったのか?」
「慌てて身を隠しながらの移動でしたからそこを考えていなかったのです。いま思えば何も言わずに見殺しにしたようなものですね……」
<仕方ありません。どちらも大事ですが、王族であるアウラ様がもたもたしていて捕まっては本末転倒ですからね>
「ええ……」
それは分かっているのですがとアウラ様は言う。そこでシャルも口を開いて考えを述べた。
「サクヤの言う通りね。リクと出会えたから良かったけど、あのままだとどこかで追いつかれていたと思う。師匠と騎士、それとあたしだけじゃ全滅してたかも」
「そうだな。俺のおかげとは言わないけど、ヘルブスト国へ行くという目標を進めたから町には申し訳ないが不可抗力だ」
俺も話に乗るとアウラ様は小さく頷いて前を向いた。視線の先にはひとまず越える必要のある丘陵が広がっていた。
「もう少ししたら丘陵に差し掛かる。機体は慎重に動かねばならんぞ」
「リクは大丈夫でしょ」
「どちらかと言えば町の人達の方が大変だろ」
昼飯時に、俺達はそんな話をしていた。旅は順調に進んでいて、ここまでの二日間は特に脅威となるような出来事もない。……この世界基準では、と頭につくが。
「魔物だっけ? 出現頻度が高くないか?」
「私もちょっと驚きました……」
アウラ様も俺の言葉に頷いていた。
そう、なんか犬みたいなヤツとかやたらとでかい鳥、ヴァイスの足くらいの太さがある蛇とか牙の鋭いイノシシなどなど……ちょっと地球じゃいない系の生き物が襲ってくるのである。
「まあこんなものよ? ねえ師匠」
「うむ。故に冒険者を雇って駆除にあたっておるのだからな」
「お姉さまは城の外に滞在することがあんまり無かったからねえ」
シャルとガエイン爺さんが『こんなもんだ』という顔でワイルドに骨つき肉にかぶりつく。爺さんはともかく妹姫もワイルドだな。
ちなみに今、食べているのは先のイノシシを倒して得た肉だったりする。その場で倒して血を抜いて食料にする。
これを見ているとやっていけそうな気がするな。
「あたしはもう少し熟した方が好きね」
「熟す……?」
「うん。腐るちょっと前くらいのことを言うんだけど――」
「やめてシャル……!?」
「ええー」
アウラ様が耳を塞いでシャルに続きを言わせないよう叫んでいた。うん、まあ育ちの違いだなと。
「そういえばシャルはどうして剣を覚えたんだ?」
「え? 言ってなかったっけ。あたしはお姉さまに比べて魔力が低いの。だからそれを補うために師匠から教わったわ」
「十三の時でしたね。あの時は心底お父様達と一緒に心配しました……」
アウラ様が困った顔で笑う。結構前から訓練を積んでいたようで、町での戦いで後れを取っていない理由が分かった気がした。
「もしお姉さまとあたしが逆の立場だったら、後継者が妹になっていた……ってくらいには低いわ」
「マジか」
「うん。ヘッジよりはマシだけど魔兵機《ゾルダート》をビッダーみたいに動かすのは無理かな」
世襲制かと思ったけど能力の可否の方が重視されるのだろうか? そんなことを考えているとシャルがイラスに手招きをしていた。
「イラスーおいでー」
「? なんでしょう……うひゃあ!?」
なんの疑いも無く寄って来たイラスの後ろに回り頬をにゅっと引っ張りながらシャルが口を尖らせる。
「この子、あたしより二つ下なんだけど魔力量はかなり高いのよね。元貴族だからかもしれないけど、この子のお姉さんがイラスより上なら、お姉さまに近いくらい」
「ひゃめひぇ……」
「こら、シャル。やめなさい」
「はーい」
アウラ様にぴしゃりと言われてシャルが手を放すと、イラスがその場にへたり込みながら言う。
「うう……酷いです……やっぱり殺してください……」
「うるさいわね! こうだ!」
「ひゃ!? あははははは! くすぐるの……なし……!」
「仲いいですねえ」
「妹同士だからかねえ」
その様子を遠巻きに見ていたヘッジとバスレーナが呟いていた。
まあ、イラスも冗談が言えるくらいには少し変わったってところか?
「アウラ様、皆の食事が終わったようです」
「報告ありがとうございます。では10分後に出発します」
「「「ハッ!」」」
俺もタブレットからヴァイスに乗り換え、アウラ様とシャルをコクピットへ誘う。
振り返るとずらりと並んだ人の波がずっと続いていて改めて大変な行軍であることを物語る。
「では後衛へ戻ります」
「頼むぜビッダー」
「ええ。ヴァイスのレーダーがあればまったく問題にならないと思いますが」
「でもデカブツ相手は頼りにさせてもらうぜ」
自機へ戻るビッダーに声をかけてから俺は前を向く。少し待っていると、足元に居た騎士が大声で叫ぶ。
「リク殿ー、出発をお願いします!」
「あいよー」
再び目的地へ向かって進行を開始。
俺や魔兵機《ゾルダート》と違って人間と馬は生き物だ。さらに数も多いので全体の状況は把握しておきたい。
まあ、そのあたりは騎士達がやってくれているので助かるけど。
<バイタルチェックはヴァイスでもできますので体調不良者はケアを行いましょう>
「わかりました。そこはサクヤ様にお任せします。シャル、お金は後どれくらいありますか?」
「紙幣だけで15万ペラってところかしら。ここまでで使っちゃったからね」
「金策も考えないといけませんか……」
そして、移動中はこういった会話も欠かさない。今までは縋れるものを掴むために移動していたけど、これからは自分達でどうにかする方向にシフトしたため落ち込んでもいられないし立ち止まることもできない。
もし止まってしまえばすべてが終わる。この集まりは最初の一歩。
地球がメビウスと戦うためにヴァッフェリーゼを造ったのと同じく。
ちなみにペラは貨幣の単位で、ものを買ったことがないため金額の価値はよくわからない。
「そういえば俺と出会う前に町に寄ったりはしなかったのか?」
「慌てて身を隠しながらの移動でしたからそこを考えていなかったのです。いま思えば何も言わずに見殺しにしたようなものですね……」
<仕方ありません。どちらも大事ですが、王族であるアウラ様がもたもたしていて捕まっては本末転倒ですからね>
「ええ……」
それは分かっているのですがとアウラ様は言う。そこでシャルも口を開いて考えを述べた。
「サクヤの言う通りね。リクと出会えたから良かったけど、あのままだとどこかで追いつかれていたと思う。師匠と騎士、それとあたしだけじゃ全滅してたかも」
「そうだな。俺のおかげとは言わないけど、ヘルブスト国へ行くという目標を進めたから町には申し訳ないが不可抗力だ」
俺も話に乗るとアウラ様は小さく頷いて前を向いた。視線の先にはひとまず越える必要のある丘陵が広がっていた。
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