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第二章
第58話 指針
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「うほー! 速い!」
「乗り心地が悪くてすまないけどな」
「うははは! 速いな! なあに、これくらいなら許容範囲だ! うぷ……」
「うわ、吐くんじゃないぞ!?」
「なんで強がったのよ……」
ヘルブスト国の王都を出発して俺はリヤカーをひたすら引いて走っていく。
例の親子はヴァイスが動くことに感動し、その速さを楽しんでいた。ギャレットさんの方はもう限界が近いようで騎士達が騒いでいる。シャルは呆れていた。
「一旦休憩を挟むか」
「そうですね。私達はかなり快適ですが、リヤカー? は大きく揺れているようですし」
「食料はもらったのよね?」
「ええ。リヤカーに積み込んでいます。ロイッツァ様に感謝ですね」
アウラ様が休憩に賛成し、シャルが食料について尋ねていた。親子と一緒に積み込んでいたのがそれらしい。
馬を借りたり食料をもらったりできたので、物資で援助するくらいはいいと思ったのだろう。実際、物資がエトワールかヘルブストのかなんてパッと見でわからないしな。
「親父、久しぶりに美味い飯が食べられるのか……!?」
「かもしれん娘よ!」
「ま、まあ、同行してくれているし当然食事は一緒にするが……」
食料の話をしていると親子が色めき立つ。騎士がその圧に怯んでいるな。
ちなみに親子の家はヘルブスト王都だったようだが、着の身着のままリヤカーに乗り込んだ。荷物とかいいのかと思ったがでかいリュックに全部入っているそうだ。
そんな話をしつつ、昼近くになってきたのでひとまず開けた場所まで戻って来たので俺達は休憩をすることになった。
「ま、表立っての救援は無理だったけど、食料はありがたいわね。戦力も欲しかったけど」
「お姫様が食事を作るんだ……」
シャルが鍋をかき混ぜながら呟くと、バスレーナが驚いていた。今は姫とかあんまり関係ないとシャルは言う。ちなみにガエイン爺さんとの修行で料理などもしていたため美味いそうだ。
<仕方ありません。他国と自国を天秤にかけた場合、グライアードの目的がわからないため、ヘルブスト側は動きにくいかと>
「侵略行為じゃないの?」
<それはあくまでもグライアードからエトワールに対してですからね。アウラ様のご両親はないと思いますが、実は裏で色々とまずいことをしていた、なんてこともありますから>
「あー、確かにあるな。昔、悪行をしていた王がクーデターとかで倒されるみたいなやつ」
シャルの言葉にサクヤが予測を答え、バスレーナの質問にも回答を出す。するとギャレットさんがパンと骨付き肉をかじりながら頷いていた。
「お父様達にかぎってそれはないと思いたいですね……」
「あたし達だけじゃなく、国民にも配慮した政治をやっていたしね」
「ま、現状虐殺行為をしているグライアードが悪寄りなのは間違いない。裏を読むのは大事だけど、目の前のことも無視できないからな」
「まったくだわ」
シャルが頬を膨らませてそう言うと、聞きながら肉を齧っていたバスレーナが俺を見上げて言う。
「そういえばリクさんはご飯を食べないんですか?」
「ん? ああ、俺はいいんだ。こうやって休憩していればエネルギーが回復する」
「エネルギー? 小人だから小食とか?」
「そうじゃねえよ!?」
「リクの身体はいま治療中でね、治ったら出てくるわよ。あ、身体をみちゃダメだからね。いま食べたやつ全部吐いちゃうから」
「え? え? ならそこで話しているのは……?」
シャルが肩に手を置いて言うと、バスレーナが三本目の肉を取りながら困惑する。そして『こいつ三本も食うのか』と騎士も困惑する。
「まあ、その辺はおいおいだな」
「ふうん? それにしても鉄の巨人は凄いねえ、親父」
「だな。設計図でもあれば修理は楽だろうけど、とりあえず取れた腕から見せてもらおうぜ
とりあえず俺のことは保留にしたバスレーナが改めてヴァイスが凄いと口にする。
ギャレットさんは三本目の肉を平らげてからそんなことを言う。あんたも三本食ったのか。まあ、二日なにも食ってないとか言ってたからなあ。
でも仕事をする気は満々のようで壊れた腕から見たいと笑うギャレットさん。
そこでサクヤが言う。
<技術者ということなのでみなさんと合流したら魔兵機《ゾルダート》の仕組みをお二人にお見せしましょう。スキャンしたデータがタブレットを通じて確認できます>
「おお、いつの間に……」
俺が感心していると、サクヤは続ける。話は変わり、今後のことについて語りだした。
<……この戦い、マスターのヴァイスが王都に襲撃をかけるだけで終わらせることは可能だと考えます。勝率は75%と試算が出ています>
「え、ホントに? なら、一気に行っちゃうってのはどう?」
<判断が難しいので言い切れないのですが、おススメはできかねます>
「なんでよ?」
いきなり矛盾したことを言い出すサクヤに不満をあらわにするシャル。サクヤは彼女を含めてこの場にいる全員に告げた。
<マスターと私はこの世界の者ではありません。なので王都を襲撃し、魔兵機《ゾルダート》を破壊して奪還することは可能です。しかし、その場合はご両親や各地に散ったグライアードの兵が報復に出るでしょう。我々ではなく、エトワール王国の国民や町に>
「あ……」
「なるほど……彼等ならそれは有り得そうです」
「じゃあどうして『勝てる』なんて話をしたのさ」
シャルとアウラ様が冷や汗をかいているなか、バスレーナが口をとがらせていた。
<鍵です>
「鍵?」
<はい。犠牲を払ってでも一気に殲滅するか、ヴァイスを活かして各地の協力を集めるかという話です>
「……そういうことかあ」
<時間がかかれば敵も新しい機体を開発するかもしれません。魔兵機《ゾルダート》の開発は間に合わないかもしれません>
「し、しかし、リク殿が居れば姫様達は守れるだろう?」
<ヴァイスで勝てる間はいいのですが>
「むう……」
バスレーナや騎士は。理解したが納得はしていなそうだな。
……そう、魔兵機《ゾルダート》開発をしている間に強力な機体を開発される可能性もあるのだ。
もしヴァイス一機で無双できない状況にされた場合、かなり不利になる。
そうなる前に王都を奪還してしまえとサクヤは考慮したわけだ。
犠牲は増えるが、長期化するよりは……と考えるのは向こうに毒されているかねえ。
<一例ですが、今後の作戦に役立てればと思い進言しました>
「ありがとうございますサクヤ様。……ふむ」
そして話を聞いたアウラ様が考え、しばらく待った後に指針を決める――
「乗り心地が悪くてすまないけどな」
「うははは! 速いな! なあに、これくらいなら許容範囲だ! うぷ……」
「うわ、吐くんじゃないぞ!?」
「なんで強がったのよ……」
ヘルブスト国の王都を出発して俺はリヤカーをひたすら引いて走っていく。
例の親子はヴァイスが動くことに感動し、その速さを楽しんでいた。ギャレットさんの方はもう限界が近いようで騎士達が騒いでいる。シャルは呆れていた。
「一旦休憩を挟むか」
「そうですね。私達はかなり快適ですが、リヤカー? は大きく揺れているようですし」
「食料はもらったのよね?」
「ええ。リヤカーに積み込んでいます。ロイッツァ様に感謝ですね」
アウラ様が休憩に賛成し、シャルが食料について尋ねていた。親子と一緒に積み込んでいたのがそれらしい。
馬を借りたり食料をもらったりできたので、物資で援助するくらいはいいと思ったのだろう。実際、物資がエトワールかヘルブストのかなんてパッと見でわからないしな。
「親父、久しぶりに美味い飯が食べられるのか……!?」
「かもしれん娘よ!」
「ま、まあ、同行してくれているし当然食事は一緒にするが……」
食料の話をしていると親子が色めき立つ。騎士がその圧に怯んでいるな。
ちなみに親子の家はヘルブスト王都だったようだが、着の身着のままリヤカーに乗り込んだ。荷物とかいいのかと思ったがでかいリュックに全部入っているそうだ。
そんな話をしつつ、昼近くになってきたのでひとまず開けた場所まで戻って来たので俺達は休憩をすることになった。
「ま、表立っての救援は無理だったけど、食料はありがたいわね。戦力も欲しかったけど」
「お姫様が食事を作るんだ……」
シャルが鍋をかき混ぜながら呟くと、バスレーナが驚いていた。今は姫とかあんまり関係ないとシャルは言う。ちなみにガエイン爺さんとの修行で料理などもしていたため美味いそうだ。
<仕方ありません。他国と自国を天秤にかけた場合、グライアードの目的がわからないため、ヘルブスト側は動きにくいかと>
「侵略行為じゃないの?」
<それはあくまでもグライアードからエトワールに対してですからね。アウラ様のご両親はないと思いますが、実は裏で色々とまずいことをしていた、なんてこともありますから>
「あー、確かにあるな。昔、悪行をしていた王がクーデターとかで倒されるみたいなやつ」
シャルの言葉にサクヤが予測を答え、バスレーナの質問にも回答を出す。するとギャレットさんがパンと骨付き肉をかじりながら頷いていた。
「お父様達にかぎってそれはないと思いたいですね……」
「あたし達だけじゃなく、国民にも配慮した政治をやっていたしね」
「ま、現状虐殺行為をしているグライアードが悪寄りなのは間違いない。裏を読むのは大事だけど、目の前のことも無視できないからな」
「まったくだわ」
シャルが頬を膨らませてそう言うと、聞きながら肉を齧っていたバスレーナが俺を見上げて言う。
「そういえばリクさんはご飯を食べないんですか?」
「ん? ああ、俺はいいんだ。こうやって休憩していればエネルギーが回復する」
「エネルギー? 小人だから小食とか?」
「そうじゃねえよ!?」
「リクの身体はいま治療中でね、治ったら出てくるわよ。あ、身体をみちゃダメだからね。いま食べたやつ全部吐いちゃうから」
「え? え? ならそこで話しているのは……?」
シャルが肩に手を置いて言うと、バスレーナが三本目の肉を取りながら困惑する。そして『こいつ三本も食うのか』と騎士も困惑する。
「まあ、その辺はおいおいだな」
「ふうん? それにしても鉄の巨人は凄いねえ、親父」
「だな。設計図でもあれば修理は楽だろうけど、とりあえず取れた腕から見せてもらおうぜ
とりあえず俺のことは保留にしたバスレーナが改めてヴァイスが凄いと口にする。
ギャレットさんは三本目の肉を平らげてからそんなことを言う。あんたも三本食ったのか。まあ、二日なにも食ってないとか言ってたからなあ。
でも仕事をする気は満々のようで壊れた腕から見たいと笑うギャレットさん。
そこでサクヤが言う。
<技術者ということなのでみなさんと合流したら魔兵機《ゾルダート》の仕組みをお二人にお見せしましょう。スキャンしたデータがタブレットを通じて確認できます>
「おお、いつの間に……」
俺が感心していると、サクヤは続ける。話は変わり、今後のことについて語りだした。
<……この戦い、マスターのヴァイスが王都に襲撃をかけるだけで終わらせることは可能だと考えます。勝率は75%と試算が出ています>
「え、ホントに? なら、一気に行っちゃうってのはどう?」
<判断が難しいので言い切れないのですが、おススメはできかねます>
「なんでよ?」
いきなり矛盾したことを言い出すサクヤに不満をあらわにするシャル。サクヤは彼女を含めてこの場にいる全員に告げた。
<マスターと私はこの世界の者ではありません。なので王都を襲撃し、魔兵機《ゾルダート》を破壊して奪還することは可能です。しかし、その場合はご両親や各地に散ったグライアードの兵が報復に出るでしょう。我々ではなく、エトワール王国の国民や町に>
「あ……」
「なるほど……彼等ならそれは有り得そうです」
「じゃあどうして『勝てる』なんて話をしたのさ」
シャルとアウラ様が冷や汗をかいているなか、バスレーナが口をとがらせていた。
<鍵です>
「鍵?」
<はい。犠牲を払ってでも一気に殲滅するか、ヴァイスを活かして各地の協力を集めるかという話です>
「……そういうことかあ」
<時間がかかれば敵も新しい機体を開発するかもしれません。魔兵機《ゾルダート》の開発は間に合わないかもしれません>
「し、しかし、リク殿が居れば姫様達は守れるだろう?」
<ヴァイスで勝てる間はいいのですが>
「むう……」
バスレーナや騎士は。理解したが納得はしていなそうだな。
……そう、魔兵機《ゾルダート》開発をしている間に強力な機体を開発される可能性もあるのだ。
もしヴァイス一機で無双できない状況にされた場合、かなり不利になる。
そうなる前に王都を奪還してしまえとサクヤは考慮したわけだ。
犠牲は増えるが、長期化するよりは……と考えるのは向こうに毒されているかねえ。
<一例ですが、今後の作戦に役立てればと思い進言しました>
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そして話を聞いたアウラ様が考え、しばらく待った後に指針を決める――
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