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第二章

第55話 難しい注文

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 アウラ様とシャルが専用の部屋へ案内されるころ、ビッケとモーリアが旅立っていった。ドワーフの国はここからさらに北東にあり、通常に馬で十三日ほどかかるそうだ。

「協力してくれるかしらね……」
「写真でもあれば良かったんだがな」
「シャシン?」
「ああ。……っと、こんな感じだ」

 俺がタブレットのファイルを操作して、向こうの世界で撮った写真をシャルに見せる。不貞腐れたガルシア大佐を含めた部隊全員の集合写真だ。

「え、すご!? これ、向こうの世界の?」
「部隊の仲間だな。その時の状況をこうやって残せるんだ」
「凄い技術ですね……!?」

 覗き込んで来たアウラ様が驚きの声をあげていた。この部屋には俺達しかいないのでこれくらいはいいだろう。

「こっちが年上だけど悪友みたいな感じだった。この女の人は面倒見が良かったぞ」
「この子は? リクと同じ黒い髪だけど」
「前に言ったっけ? 妹の親友だ。同じ日本人だから黒い髪なんだ」

 俺がそういうと「この子が……」みたいなことを呟いていた。アウラ様は国ごとで通貨や言葉が違うことが不思議だとのこと。
 エルフやドワーフ、獣人といった種族は居るので、そこと人間の違いだと説明すると納得してくれた。
 うむ、外国人を異種族と評すのはちと違う気がするがまあいいだろう。

「この不貞腐れた人、師匠に似てるわねえ」
「そういや爺さんに似てるな。もっと歳を取ったらああなりそうだなあ」
<マスター、報告です>
「わ、びっくりした!?」

 俺達がと笑っていると、サクヤがタブレットいっぱいに顔を出してきて、通信が入る。

「どうした? ……下から覗かれているみたいでいやだなこの絵面……」
<いえ。謁見の協力を得ることは失敗したようですね>
「……!」
「聞いてたのか?」
<ノン。先程二人だけで出て行った騎士に確認を取りました>

 どうやらサクヤが二人を発見して声をかけたそうだ。そこで事情を聞いて俺に確認に来たらしい。

<そろそろ一人が寂しかったので……>

 違った。とてつもなく個人的な理由だった。その言葉にシャルが声を荒げた。

「知らないわよ!? まあ、とりあえずあたしだけでなんとかしないといけないみたい」
<そのようですね。ドワーフという種族に協力を仰ぐことを聞いています。それでお二人にとあるアイテムを渡しておきました>
「アイテム?」

 首を傾げるアウラ様にタブレットのサクヤは小さく頷いて続ける。

<はい。ヴァイスや魔兵機《ゾルダート》のことを信じてもらわないと来てもらえないでしょう。なのでこの世界でのオーパーツを渡しています>
「……なにを渡したんだ?」
<マスターのスマートフォンを>
「なにやってんだてめぇぇぇぇ!?」
「ひゃん!?」

 俺の怒声にアウラ様が飛び上がってソファに尻をつけた。いや、確かに必要な措置かもしれないが……

<うふふ、大丈夫です。それっぽいのなので中身は別のものです>
「どういうことだ?」
<画面とムービー再生だけできるようにしています。端末はヴァイスにあった予備なのでマスターのではありませんよ>
「そういやあったな……」

 生命維持装置と同じく、基本的にヴァイスは数日暮らせる設備がコクピット内に設置されている。スマホも万が一故障した際の予備が一台あるのだ。
 
「はあ……勝手なことをするんじゃない」
<申し訳ございません。しかし、アウラ様が避難しているムービーが入っているので信憑性は格段に上がるかと>
「そこじゃない。スマホってこの世界には無い道具だろ? 落としたりして誰かが拾って悪用したらどうするって話だ」
<そうですね。失礼しました。中身は重要ではないので良いかと>
「もう行ってしまったから仕方ないけど、そういうのは相談しろよ?」
<はい>

 ……多分こいつは分かっててやったな? こういうところはAIだなと思う。
 確かに俺もスマホは最適解の一つだが、いざ提案された場合、却下する可能性が高い。そこを見越して勝手にやった気がする。

「はあ……これで落としてたり、ドワーフがびびったりしないかねえ」
「ドワーフは好奇心が強いからそこは平気かも? エルフだったら警戒してくるかもしれないけど」
「私達のためにありがとうございます、サクヤ様」
<……この状況がある程度落ち着かなければ元の世界に帰る方法の模索もできませんので>
「そう、ですね」

 そしてサクヤの行動は俺のことに集約されているようだ。結果的に元の世界に戻るための最善を尽くしていると考えれば先の独断も納得はいく。容認はできかねることではあるけどな。

「とりあえず鍛冶師から技師になってくれる人が居ればいいけど……」
「まあ、難しいところだな」
「やはりそうでしょうか……」
「国がすでに協力を止めているからな。個人がそんな戦争をやっている国に行きたがるとは思えない。エトワール王国の人間を探した方が早いと俺は思っている」
「かもしれませんね」

 思っていることを隠す必要もないのでハッキリと言ってみた。不確定要素はあるが概ね協力は得られないであろうことを。

「ではなにも得られなかった時にどうするかを考えましょう。立ち止まっている余裕はありませんし」
「その意気だ俺達もできることは手伝うしな」
<ええ、まずは一個小隊を壊滅させるところから始めましょうか>
「それは……いや、アリかもな?」
「いいわね、腕が鳴るわ。騎士は任せてもらっていいし」
「ふふ、頑張りましょう!」

 悲観しても仕方が無い。俺達は先のことを話し合いながら待つのだった。
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