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第二章

第51話 ヘルブスト国王都

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「見えてきました。ヘルブスト王都に到着です」
「あれが……」
<王都ヘルブストですか>


 町を出て四日。
 俺達はようやくヘルブストの主要都市へとやってきた。

<時間がかかりましたね>

 サクヤが言う通り、本来は三日でいけるところ約四日かかっていた。
 人間は休めば交代しながら進めるが馬は二頭がずっと引いているだけなので休憩は適度に必要だったからだ。
 途中でもう一つの町に寄った時に馬を交代するべきだったと思う。
 しかしどうもヘルブストの人間はアウラ様とシャルをなるべく遅延させて到着させたかったらしい。
 王都が見えてくる直前の深夜にヘルブストの人間二人が、キャンプから離れてそんな話をしていたのを聞いた。俺の耳は誤魔化せない。
 だが、状況そのものは受け入れがたく、王都まで連れて行ってくれただけでも良しと思う。アウラ様に言う必要は無いかと俺とサクヤだけの内に留めていた。

「周辺のデータを集めておいてくれ」
<承知しました>

 円形状の都市は他の町と同様に外壁に守られていた。
 町と違い明らかに規模が違う大きさをしており、周辺は見通しがいい草のあまり生えていない平野だった。
 南から北へ向かってきたわけだけど、王都の西を見ると遠くに山が見える。東に向かって山脈が発生しているようだ。

「そういえばグライアードってどこにあるんだろうな?」
「グライアードはエトワール王国の東に位置します。ここから東にある山を越えたところにひとつ国があるのですが、そこからなら国境がありますね」
「なるほどな」
<仮で記録《ログ》を残しておきます>

 サクヤが簡易的な地図を作成しているようだな。エトワール王国で反抗作戦が始まるなら必要だろう。この世界の地図も一つ欲しいところだが……

 そんなことを考えながらリアカーを引いていき、程なくして王都の門へ辿り着く。
 慣れた光景だが俺を見てヘルブストの人間がわらわらと出てくるのが見えた。

「お待ちしておりました。エトワール王国のアウラ様とシャルル様、それと騎士の皆さんですね?」
「ええ、そうですが……」
「知っているの?」

 アウラ様とシャルが困惑気味に口を開くと、同乗していた人が頭を下げてから言う。

「勝手ながら先に伝令を走らせました。いきなりこのような巨人と隣国の姫様が起こしになるのは混乱の元になります。それは避けたかったので」
「そうでしたか。気が利かずに苦労をかけました」
「そういうことね」

 なるほど。
 もしかすると先に伝令を到着させたくてゆっくり移動していた可能性があるな。

「早速ですが陛下がお待ちです。こちらへ」
<ゲームみたいなことを言うんですね、やっぱり>
「言うなって」

 それこそゲームで大臣とか宰相といった格好の人物がそんなこと言うので俺は笑いそうになった。とりあえずサクヤを窘めているとシャルがその宰相っぽい人に声をかけた。

「話は通っているみたいですけど、リクは入れますか?」
「残念ながら城下町は足の踏み場もないかと。申し訳ありませんがここでお待ちいただくよう願います」
「うーん、そっか……今後はこのリクとヴァイスが要になるから話を一緒に話を聞いてもらいたいのよね」
「さすがにそれは……」

 まあ無理だろう。
 クレイブの町も門の前がと広場があったから魔兵機《ゾルダート》でもなんとか置くことができた。しかし十メートル程度の外壁の向こうをちょっと覗いた感じ、広場はそう多くない。
 城はここからでも見えるけど俺が立つスペースに行くまでが大変だ。

「まあ、前みたいにここで待っているからいいぞ」
「そう?」

 俺はシャルにそう伝えながらリヤカーを脇に置いてその場で体育座りという膝を抱えた形をとる。

「丁寧に座る巨人……」
「滑らかだな……」

 ヘルブストの人たちはそんな感じでひそひそと話していた。とりあえず話は俺抜きでも問題ないと思うしな。

<ふふ、ご安心くださいシャル様。こんなこともあろうかと手だてを打っておきました>
「サクヤ?」
「どうした急に」
<アレが完成したのでシャル様をコクピットへ>
「あれとはなんでしょう?」

 サクヤが外部スピーカーを使ってシャルにそんなことを言い出した。俺とシャル、そしてアウラ様が首を傾げていると、シャルをコクピットへ乗せるように催促してきた。
 なんだっけと思いつつシャルを乗せると、サクヤがコクピット内で語り掛けていた。

<シートの横に置いてある板を持ってください>
「あ、これってあたしが見つけた石板じゃない」
<板の側面にボタンがあるので押してもらえますか>>
「オッケー。これかしら」

 シャルが言われるままボタンを押したらしい。石板ってことはタブレットのことか。

<では次に画面に現れた文字『マスター転送』を指でタッチしてください>
「ええ? 読めるのか」
「えっと、うん、なんでかわからないけど……読めるわ。これをタッチっと」

 そういや言葉が通じているのはなんでだろうと思ったが、翻訳装置のおかげだそうだ。本来なら英語みたいな感じだとかなんとか。

「お……?」

 そして不意に視界が一瞬暗くなり――

「あ」
「お? おお!? シャルが目の前に」
「リクだ! 人間のリクが出て来たわ!」

 急にシャルのどアップが前に出てきて俺は驚いていた。周囲を見渡してみると、タブレットから3Dモデルの俺が立っているみたいな感じのようだ。

<これを持って行けばマスターも会話に参加できます。町へ入ることも問題ないでしょう>
「ヴァイスはどうなるの?」
<わたしが監視をしています。端末を通じて状況を知らせることができますから、いざとなればこちらへ戻ることも可能です>
「便利ね……! やった、これでリクと一緒に居れるわ」
「もう出来たのか……正味五日くらいだぞ」
<えへん>

 俺の呆れた様子に対し、謎の言葉を発するサクヤ。

<ちなみにわたしの姿も出せますよ>
「あ、見たい見たい」
<どうぞ>

 そこでタブレットに居る俺の隣に黒髪ロングをし、フェルゼの制服を纏った女性が現れた。

「おま……!? それフェルゼの!?」
<どうです、似合いますか? デジタルなので着る服は思いのままなのです。こういうこともできます>

 そう言ってサクヤが俺の腕に絡みついてくる。感触までしっかりあるのは凄いな……

「こら、やめろって。という久しぶりに制服を見たな……若菜ちゃん元気かな……ん?」
「むー」

 視線を感じて顔を上げると、頬を膨らませたシャルが目を細めてこっちを見ていた。

「どうした?」
「……なんでもない。行くわよ! サクヤはお留守番、いいわね!」
<クスクス。はい、承知しておりますよ>

 なんかよくわからんけど急に機嫌が悪くなったシャルが声を上げてからコクピットから降りた。その間にサクヤの姿が消え、タブレットには俺だけになった。
 移動は出来ないがこうして目線が変えられるのはありがたい。
 そんなことを考えながら俺達はアウラ様と合流するのだった。
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