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第一章

第25話 行先

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 次の町まで五十キロ。
 とはいったものの、人数が多いため歩みが遅い。車でもあれば数時間だが、徒歩の人間もいるとやはり厳しい。

「遠いねー」
「喉が渇いたよー……」
「はい、あまり一気に飲んだらダメよ」

 さらに子供も多いので、最初は旅行気分の子達も飽きてきてぐずったりしていた。
 それでも俺の世界より我儘を言わない子ばかりなのでマシではある。

「ふむ」
「どうしたの?」
「このまま町へ行っていいものか悩むなと。休憩の時、アウラ様と爺さん、それと騎士を集めてもらえるか?」
「いいけど……?」

 と、シャルへ提案を口にする。コクピット内なので表情はうかがえないが。困惑した声色である。指揮官は俺じゃないが、決定権のあるアウラ様と、相談役の爺さんがいれば話をしやすいだろうとの人選である。
 
 そんな会話をしつつ先を急いでいたが、空が白み始めたころに出発したのに陽はかなり高くなってきた。
 木々が少なくなってきたので魔兵機《ゾルダート》と共に広がって移動できているのはありがたい。
 しかし敵に見つかりやすいのが難点だな。

<十一時五十分をお知らせします>
「うお!?」
「きゃあ!?」
「いきなり喋るんじゃない……。そろそろ昼か、休憩するかな?」
「あ、そうみたい。あそこの水辺ね」

 水辺と聞いて周辺を見ると少し先に小さな水辺のような場所が見えた。切り立った岩肌なんかもあるな。身を隠すのに無いよりはマシかな。
 とりあえず足を止めると、町人達は安堵した様子で

「水だー!」
「待て待て、飲めるかわからんのに突っ込むんじゃない。水質チェックしてやる」
「すいしつちぇっく?」
「お腹を壊さないかどうか調べるんだ。指を入れればいいか」

 屈みこんで指を突っ込む。そこでサクヤが解析を始めてくれた。
 
<通常の淡水で飲み水としての利用は95%問題ありません。地下からの湧き水かと思われます>
「オッケーだ。飲んでいいみたいだ」
「わー!」

 真っ先に子供たちが顔をつけて水を飲み始める。砂はあるけど湖になっているのが岩盤なのでそれほどまだマシって感じだ。旧時代の神社とかにある柄杓を使って飲む水場みたいなものだ。川は見当たらないのでサクヤの言う通り湧き水なのだろう。

「冷たーい!」
「水筒に入れておきましょうね」
「水袋くれー」

 子供や親たちがそれぞれ休憩をとっていた。食料もかき集めてきているが、この人数だとパンを少しずつ食べるくらいしかない。今日中に町へつければいいんだけどな。
 その光景を見た後、無意識に俺は自分の手をみつめていた。

「……」
<どうしましたかマスター?>
「あ、いや。シャル、爺さん達を呼んで来てもらえるか?」
「わかったわ。……大丈夫? なんか沈んでない?」
「大丈夫だって。頼むぜ」
「うん」

 ハッチを開けると、一瞬とまどいを見せるが、シャルはアウラ様達のところへ駆けて行った。

<それで?>
「ああ。あの子が冷たいって言った時にそういえばなにも感じなかったなって思っちまったのさ」
<……>

 俺の言葉にヤクヤはなにも返して来なかった。理解はしているだろうけど、AIには分からない感覚ってやつだと思う。だからだろう。
 俺の身体はあるらしいけど、治療が上手くいかなければこのままか。ガルシア隊長とかマジで泣きそうだよな。
 若菜ちゃんと志乃あたりは驚きながら笑い話にしてくれるといいけど……。

「リクー! お話こっちでしようって」
「ん、おお、了解だ。いま行く」

 落ち込んでいる場合じゃないな。
 俺が元の世界に戻れるかどうかわからない。だけど理不尽な侵略をされた彼等を助けることはできる。
 出来る限りのことはしていこう。なにより俺自身のために。
 そう思いながらアウラ様のところまでいくと提案通りのメンバーが揃っていた。

「話とはなんでしょうリク様」
「疲れたか? そいつがどうやって動いているか知らんがのう」
「エネルギーはまだあるぜ。それより、このまま町へ行っていいのか?」

 はっはっはと笑う爺さんにエネルギー問題はひとまず大丈夫だと答える。
 そしてそのままルートについて話をする。

「そうですね。皆さまをひとまず町へ連れて行き、そこからその町の方たちを連れてヘルブスト国へ――」
「そこだ。その町を越えたらヘルブスト国の国境と言うのはシャルから聞いた。そこからどれくらいある?」
「えっと……確か渓谷にあるクレイブの町から国境までは馬車で三日ほどですね」

 遠いな……。
 そのクレイブの町に何人いるかわからないが、持つだろうか? そもそもジョンビエルとかいう奴の部隊が追って来ていたら。

「一応、提案しておく。正直な話、次の町の人間を連れて移動はかなり厳しいと思う」
「で、ですが、そうしなければまた犠牲が……」

 アウラ様が慌てた様子で声を上げるが、手を前にかざして俺は話を続ける。

「ああ、移動自体は考慮しておいてもらっていいんだ。だけどこの時点で移動が遅れているところに町の人間をさらに受け入れるなら確実に追いつかれる」
「諦めてないかしら?」
「それはないんだシャル。町で迎撃して、あそこで数度撃退していればしばらく攻めて来なくなる可能性は高い。だけど俺達は町を出た。だから追ってくる」
「うん?」

 シャルが腕組みをして悩んでいるところで、ガエイン爺さんが口を開く。

「こちらの戦力がないと悟られていると思っているんじゃな」
「さすが爺さん。そういうことだ。俺という隠し玉のような存在が奇襲したことで三機倒したが、次は対応してくるはず。隠れる場所がないので守りながらは少々厳しい」
「では……?」
「次の町で迎え撃つ。俺だけでも構わない。渓谷があるならやりようはありそうだ。アウラ様達は先を急げばいい」

 俺がそう口にすると、アウラ様が叫ぶ。

「リク様だけで戦おうというのですか!? それはいけません! 私達も騎士と協力して臨まねば!」
「いや、狙われているのはお姫様達だしそれはまずい。どちらかと言えばこっちで足止めをしている間に向かって欲しいんだよな。騎士達とだけなら早くなるだろ」
「しかし……」

 それでもアウラ様は難しい顔で俺の提案を受け入れがたいと言っている。
 どうするかなあ。
 戦った感じ増援が来た場合、三機程度なら魔兵機《ゾルダート》を制圧するのは難しくない。だけど人間の騎士は別だ。
 どうしても倒せずに抜けていく連中は居るから、そっちの対処が難しい。

「ふむ。仕方あるまい、こういうのはどうじゃ?」
「ん?」

 俺が考えているとガエイン爺さんが口を開く。
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