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第87話 村へ戻る前に

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「というわけで母さんは去っていったよ」
「残念……」
「いやいやクレアさん、これは朗報ですよ!」

 レストランに到着するのとほぼ同時にクレアと合流した。
 プラーボが居るため、マスターに言ってオープンテラスを用意してもらい、料理を待つ。
 そこでかくかくしかじかをしたところ、クレアが母さんと一緒に食事が出来なかったことを残念がっていた。
 しかし、サーナは何故か元気にクレアに話しかける。

「どういうこと?」
「お母さまが貴族ということは、妻をいっぱい取れるということ……! だから『選ばれなくてもいい』んですよ」
「あ……!」
『そういえばそうなるねー』

 もぐもぐとエビとキノコと白身魚のクリームシチューを食べながらうんうんと頷くフリンク。ご飯を食べて落ち着いたらしい。

「しかし、そう言われても現状は平民の農家だし難しいんじゃないか?」
「じゃあ今ここでどっちか選んでくださいよぅ」
「むう」
「私は折角だし、二人とも受け入れてくれるならそれでもいいわ。ちょっとミドリさんに聞いてみよう」

 サーナとクレアはかなり乗り気になっていた。確かに選べと言われても即答できないため俺は小さくなるしかない。
 後三年……向こうの成人である20歳くらいまではのんびりしたかったが、この世界は初婚が早かったりするし覚悟を決めるべきか。
 二人とも違う魅力があるからなあ。サーナはちょっとアホっぽいが結構考えているんだよな。体質のせいもあるんだろうけど。
 クレアはまあ、ずっと一緒だったし安心できる。それはなによりもいいことだ。

「……考えておこう」
「約束ですよ? あ、クリンこぼしてますよ」
『くおん』

 流石にスプーンは使えないのでいわゆるお皿に直接口をつける食べ方だが、プラーボのようにキレイに舐めとれず、鼻の頭についたりこぼしたりしていた。

「見て見て、あの子熊可愛いー」
「でもあの大きさになるなら怖いかも……」
「小さいころが一番いいもんねー」

 まあ、その仕草は愛らしい。それは通る人の言葉でよく分かる。クリンはぬいぐるみのようだからだ。
 いや、それはどうでもいい……

 帰ってからおじさんに聞いてみるか? というかクレアもついてきそうな勢いだ。

『くおん!』
「ほら、大人しくしてください」

 そんなことを考えていると、クリンが急に暴れ出した。サーナが抱っこするもなにかに興味を示していた。

「なんだ?」
「あ。あれじゃない?」

 クレアが指さした先に視線を合わせるとそこには結構な量が入った卵のカゴを抱えた女性が見えた。
 それだけならまあ普通なのだけど、足元にニワトリが一緒だった。恐らくあれに興味を引かれているのかもしれない。

『くおーん♪』
「こけ? ……こけー!?」

 嬉しそうな声をあげるクリンだが、ニワトリはびっくりして委縮していた。そりゃ捕食者に狙われたと感じるだろうしな。

『クリン、怖がっているからダメだよー』
『くおん……』
「よしよし、わたし達が遊んであげますから」
「それじゃそろそろ屋敷に戻る? 私はお仕事がもう少しあるから後で行くわ」
「プリンを食ったらだな。あの卵、多分プリン用だろ?」
「あー」

 そういうことかとクレアが手をポンと打つ。そして俺の読み通り、レストランに入っていく。納品なのだろう。

「待っててね」
「こけ」
「賢い」
『お散歩かなー?』
「こ、こけー!?」
「こら!?」

 そこでフリンクがバレルロールをしながらニワトリに近づいていた。フリンクもでかいというだけでニワトリにとっては恐怖の対象でしかないだろう。
 俺は慌ててフリンクの尻尾を掴んで引き寄せた。

『うわあ!?』
「クリンよりもでかいお前がびびらせてどうする!?」
「こけー……」

 ニワトリは店の壁にへばりついて弱々しい鳴いていた。そこへクレアが少しだけ近づき、しゃがんで言う。

「ごめんねー。こっちは怖くないからね? これ以上近づかないから安心して」
「こ、こけ……」

 頷く。
 どうやらクレアの言葉を理解したらしい。そこへ卵を持っていた女性とマスターが店から出てきた。

「お、どうした? ニワトリと遊んでいるのか?」
「あ、マスター! プリンを持ってきてくれたの?」
「おう! 最近特にプリンの消費が激しくてな。あちこちの養鶏場に頼んでいるのさ。いつもありがとよ」
「こけっこ!」

 マスターの言葉に元気よくニワトリが応えた。俺達はテーブルに戻り、女性とニワトリは立ち去っていく。

『くおーん』
「まあ友達は諦めるんですね。どう考えても食われると思いますし。さて、これがプリンですか」
「まあ食ってくれ。レンが考案したウチの名物だ! さっき貴族の方も食べてくれたんだぜ!」
「おじさんも食べたのか……」
「ん?」
「いや、なんでも」

 周りに知られると面倒なので、クレアとサーナに小声で言うなと伝えておく。
 ここでそこを話したら問題になるというのが分かったようで、深く頷いてくれた。

「あ、美味しい! わたし好きです!」
「ちょっと味が濃くなった?」
「卵黄の量を変えたりして味を研究しているんだぜ! 濃いのは俺好みだな。子供は普通のが好きみたいだ」
「へえ、流石ね」

 マスターは研究熱心だった。だけど、俺が伝えたという部分はしっかり宣伝しているそうな。
 どうもここで食べた冒険者達が広めているようだと言う。……おじさんが来たのももしかして?

 だとしたら俺が引き寄せたのかと少々母さん達に悪いことをした気がする。
 ひとまず食事を終えた俺達はクレアを残して村へ戻ることにした――
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