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第74話 こういうこともある

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 さて、色々な出来事が収束してしばらく経った。
 屋敷にはサーナが住み着き、タレスさんは畑仕事とウチを行き来し、たまに父さんと一緒に馬車で町へ向かっている。
 ウチに依存しまくっているが、まあお金はサーナがロークさん経由で取り立てるらしいので良しとしておこう。

 熊親子も馴染んでおり、お父さんのプラーボとクリンはルーが尋ねては連れて行くので村の人気者となった。
 俺と一緒の時しか出せないのでだいたい朝一から昼くらいである。

「でかいのは賢いようで、屋根修理をしておったイカソが落ちた時、下で助けてくれたんじゃよ」

 村長いわく、村を襲っていた時は切羽詰まっていたんだろうと。それくらいお父さん熊はのんびりしているそうである。たまに大木を運ぶのを手伝っているらしい。

「まあ、大人しくしていれば飯もあるしこいつも育つよ」
『がう』
『くおん!』

 お礼なのか、たまに裏の出入り口から山へ出て行き、魔物を狩って持ってくるのが律儀だ。

『~♪』
「フランシスも立派に花を咲かせたわねえ」

 植物魔物達も元気に生きている。
 花の蜜は売りに出せるんじゃないかと言えるくらい香りと味が良好だ。
 母さんが水やりに精を出しているからだろうか。
 
 そんな感じで今日も今日とて平和な一日が始まる。

「さて、タレスさんは父さんと町へ行っているし今日は海にでも行くかな」
『いいねえ! お魚、お魚♪』
「あ、私も行く!」
「わたしも!」
「クレアは仕事、いいのか? サーナも」

 リビングでフリンクと海にでも行くかとあくびをすると、朝から屋敷に遊びに来ていたクレアがサーナと一緒に手を上げて俺に詰め寄って来た。
 クレアは住み込みではなくなったようだが、ちょくちょく町に出て仕事をしているみたいである。

「休みだから平気よ! サーナはお屋敷のお掃除があるんじゃないの?」
「抜け駆けはダメですよクレア。お母様には『いつでも休んでいい』と言われていますし」
「メイドでもなんでもない……」

 クレアが呆れながら笑い、『お母さんがいいならいいか』と特に不満を表すこともなく承諾した。これも不思議なことだが、俺を取り合っている節があるのに仲がいい。

『早く行こうよー!』
「水着居るかな?」
「まだ灼華の季節には早いですし、肌寒いのでは?」
「まあいいか」

 俺は適当に砂浜で生物観察をしようと思っていただけなので、フリンクと遊んでもらえればそれはそれだ。

「きゃぁぁぁ!?」
「今のは……」
『お母さんだ!』

 準備をするかなと思っていると、外から悲鳴が聞こえて来た。俺達は慌てて屋敷から外に出る。声の方角から裏か?

「どうした母さん! ……うお!?」
「わ!? でっか!?」
「ああ、レン! フリンクも!」
「お母さんこっち!」

 尻もちをついた母さんが指さす先にはバカでかい蜂の魔物が居た。

『……!』
『がうううう……!』

 数は5。
 フランソアのツルとプラーボが声で威嚇をしていた。

「キラーワスプか。蜜の匂いに惹かれて来たみたいだな」
「さすがに空からは防ぎようが無いものね」
『倒すしかないね』

 こいつらはあんまりみない個体である熊と違って、割とあちこちに居る。蜜を与えてしまうと巣を作ろうとするだろうしとても危険なのだ。

『がおおおおん!』
『……! ……!』
『くおん!』

 まずはプラーボが近場のキラーワスプへ躍りかかった! 見た目より速く、鋭い爪が振り下ろされる。

『がう……!』
「惜しい……!」
「やはり空を飛んでいるのは強みだな。っと、危ないプラーボ!」

 回避したワスプとは違う二匹がプラーボを襲う。

『……!!』
「おお! ツルを巻きつけた!!」

 フランソアがツルを伸ばしに伸ばして蜂を絡めていく。そのまま地面に叩きつけたり握りしめたりとダイナミックな攻撃だ。
 そして蜂の攻撃はフランソアには通用しない。

『僕も手伝うよ!』
『がうおぉぉん!』

 フリンクも舞い上がり、ワスプの頭上へいった。次の瞬間、尻尾による一撃で頭がもげた。

「一撃……!?」
「そりゃフリンクならね! 私も小さいころレンとフリンクに助けてもらったんだから」
「その話、詳しく……!」
「そんな場合か。<フレイム>!」

 クレアとサーナがじゃれている中、俺は残ったワスプに魔法を放つ。
 フレイムという炎の魔法じゃそこそこの威力を持っていて、フリンクに向き直った一匹を灰に変えた。
 
「やるわね、レン! 私も! <アイスダガー>!」

 サーナを振りほどいたクレアがツタに巻き付かれているワスプの頭目掛けて氷のナイフを発射させた。
 見事にツタを傷つけず頭部だけを貫いて絶命させる。いい腕だ、相変わらず。

「あ、活躍してる! ならわたしも――」
「おい、無理するなよサーナ!?」
「ふんぬ!」
『がう!?』

 なぜか庭に落ちていた角材を拾ったサーナは、もう一匹のワスプの頭にフルスイングし、バラバラにした。飛び散った体液がプラーボにかかり、びっくりしていた。
 というか凶悪すぎるだろ。あと、その角材いつからあった……?

『ラスト!』
『がう!』

 そして最後の一匹もフリンクに追い立てられ、プラーボがトドメを刺した。
 
「やった!」
『くおーん!』

 クレアがクリンを抱っこして高らかに喜ぶ。しかし、俺は空を見たまま黙っていた。

「どうしたんですか?」
「……いや、蜂は危険があるとフェロモンで仲間を呼ぶ。もしかしたらと思ってな」
「あー」
『……!』
「ん? どうした?」

 俺が警戒していると、フランソアがツタで俺の肩を叩いて来た。首を傾げると、もう一方のツタをフランシスへ伸ばし、なにかを抽出する。

「……スースーする匂いですね……?」
「まさかハッカ油か?」
『~♪』

 どうやらそうらしい。蜂の嫌いな匂いを壁につけて追い返す感じか。

「便利ねえフランソアちゃん」
「まあ、熊も天敵だししばらくは来ないかな? 母さんは念のため屋敷に戻ってくれ」
「わかったわ」
『よし、それじゃあ海だね!』

 そこでフリンクがバレルロールをする。だが、俺は首を振って返事をした。

「ダメだ。キラーワスプが来ないことを確認してからだな。今日は庭でごろごろするぞ」
『えー!?』
「まあ、クレアとサーナと一緒に行ってもいいけど。俺は留守番で」
『それはダメだよ。仕方ない、今日は諦めるか……』

 残念そうに頭を垂れるフリンクには気の毒だけど、村に危険が迫っても困るしな。
 また今度にしようと俺達はフリンクを慰めるのだった。
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