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第65話 それはそれ、これはこれだ!

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「コールスロウ侯爵様の息子……」
「そうだ! お前のような村人が口を利ける相手ではないのだ」

 タレスと名乗った貴族の男は領主様の息子らしい。それはまあ別になんでもいいが、さっきの気になる発言を確定させたい。

「いや、確かにそうなんですが、ちょっと気になることがあって」
「なんだ?」
「この花、カイさんにプレゼントしました……?」
「む? ……ああ、彼女に求婚していた時期があった時にな。珍しい花だったからバートリィ家が注文していた誕生日の鉢植えをそれに変えたのだ。手紙もつけておいたのだが、返事が無かった。その後、病気になったらしいが罰がくだったのだろう」
「――!!」

 そこでジャンボニンニクが『こいつだー!』という感じでツルを使いタレスを差していた。

「それをどこで手に入れたんだ? ……ですか?」
「森へ出向いた時に摘んだのさ! 冒険者達と狩りをしていてね、ちょうどいいものを見つけたと思ったよあの時は! ……しかしカイは振り向いてくれなかった。ま、今はカミラがいるからいいけどね!」
「もう~タレスったら~」

 そう、のろけているがなるほどそういうことかと俺は言う。

「聞いたな、サーナ?」
「はい、ばっちりと」
「いつの間に……!?」

 フリンクを抱えたサーナが後ろに控えていてクレアがびくっと驚いていた。こいつなら居るんじゃないかと思ったが本当に居るとは。

「フリンク、起きろ。仕事だ」
『ん、んー……なあに?』
「クレア、こいつを起こしておいてくれ。ちょっとセバスさんに会ってくる」
「う、うん」

 俺は今、険しい顔をしていたであろうか? 珍しくクレアが俺を見て怯んだ。
 そのままセバスさんに話を聞きにいき、フリンクを駆って空へ。
 タレスはサーナに会話で引き止めてもらうことをお願いした。

 そして――

「ふう、見つけて来た」
「……! ……!」
「それは観葉植物?」

 ――俺は庭に埋めたという観葉植物を掘り起こして持って来た。土の中に居て弱っていたが、水を上げたら少し元気になった。

「ああ。多分こいつの分身かなにかだろう。カイさんが襲われた理由がやっとわかった」
「なんだ? お茶の一つも出さずに勝手に話をするんじゃあない」
「そうよ~」
「やかましい! 今から説明してやる!!」

 流れとしてはこうだ。
 多分、植物魔物のフランソアがまだ成長しきっていないのがこの観葉植物なのだろう。それをタレスが千切って持って帰り、カイさんへのプレゼントとして誕生日の本当の鉢植えとすり替えた。
 気づいたフランソアが怒り、文字通り根を張って探し、観葉植物にカビを出すようなにかしたんだと思う。
 で、俺が燃やし尽くしたと。

「まだ枯れていないからここに植えておくぞ」
「……♪ ……♪」
「うわ、やめろ!?」
「わ、すごい満開」

 観葉植物を植え直すと大喜びで俺にツルを撒きつけて来た。その瞬間、花びらは何十枚にもなっていたりする。

「ということでカイさんを苦しめていたのはお前だったってわけだ」
「だ、だったらどうだというんだ!? 僕はそんなことを知らなかったんだ!」
「少なくとも謝罪はすべきだな。確かに『お前がこの観葉植物をすり替えた』と聞いたし、パードリィ家のメイド、サーナが聞いた。逃げられないぞ」
「ふん、僕を糾弾しても父上がなんとかするさ」
「……そうはいきませんよ、タレス殿」
「え?」

 そこで屋敷の中からスッとアディア様とカイさんが現れた。
 
「な……!?」
「今、夫はあなたのお父上様のところへ行っているのでわたくしが来ました。なにも知らなかったというのは本当でしょうからそこは構いませんが、謝罪くらいは自分でおやりなさい!」
「う、うう……」
「な、なに? なんなのよ~?」
「ああ、あなたはこちらへ」

 カミラと呼ばれた恋人はオロオロするばかりなので、サーナがその場を離した。
 まあ、関係無さそうだし一緒に怒られるのも可哀想である。

「……侯爵家の息子だからこそやったことの責任のけじめをつけなさい!!」
「ひぃ!? す、すみませんでしたぁぁぁぁぁ!」
『ひゃぁ!?』

 アディア様の剣幕にタレスは飛び上がってから土下座の態勢に入った。エクストリームドゲザというやつか。
 
「まあ、知らなかったみたいですし私はもういいですけど……」
「す、すまないカイ! 本当に僕は良かれと思ったんだ!」
「まあ、いいでしょう。後はあなたのお父上にお任せすることにします」
「……! ま、待ってくれ、今は父上のところに戻るのはまずい……!!」

 ひとまず謝罪があったのでアディア様とカイさんは許したようだ。しかし、それはそれとして報告させてもらうと告げたらタレスが慌てて止めてくれと懇願しだす。

「まだ懲りていないようだな?」
「うるさいぞ村人! お前にとやかく言われる覚えは無い!」
「神の加護を受けたレンさんにそのようなものいい……罰が下りますよ?」
「神? は……?」
「そこはまあ、どっちでも。とりあえず彼をどうしますか?」

 俺がアディア様に尋ねると――

「とりあえずここに置いておきましょう。逃げられると困るので、わたくし達も屋敷に滞在させていただきます。セバス」
「はい奥様」
「お」

 騒ぎか主人の声を聞いたのか、セバスさんもこの場に来ていた。アディア様は彼に指示を出す。

「とりあえずコールスロウ侯爵のところへ行ってこのことを告げてください。恐らく来ていただけると思います」
「承知しました」
「あ、消えた!?」

 セバスさんが指示を受けると風のように消えた……何者なんだあの人……

「では、少し住まわせてもらいますわ」
「お屋敷は元々パードリィ家の建てたものですし。なにもありませんがゆっくりしていってください」

 母さんとアディア様がそんな会話をしている横ではクレアとサーナ、そしてカイさんが勢揃いしていた。

「えっと、あなたは?」
「わ、私はクレアと言います」
「ふふふ、貴族に逆らえば死。さしものあなたもカイ様には……いたあ!?」
「おやめなさい。クレアさんとはお話をしてみたかったの。一緒に行きましょう」
「あ、はい……」

 タレスがアディア様に引っ張られ、クレアもカイ様とサーナに連れていかれて屋敷へ。俺も行くかと思っていると――

「わたしはどうするの~?!」

 ――カミラが置き去りにされていた。

 さて、これで色々と解決したか?
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