上 下
62 / 105

第62話 点と線

しおりを挟む
「困った……あのバカ息子はなにをしておるんだ……!!」
「キャベ様、あの熊型の魔物は賢いです。他の町や領から人を呼んで討伐隊を組み、人海戦術が良いかと……」
「そんなことをすればコールスロウ領は笑いものだ! 我等だけでなんとかせねば……! タレスはどうしている!」

 コールスロウ領はキャベ侯爵が官僚の男に怒声を浴びせていた。
 熊の魔物の対応について追われており、プライドが邪魔をして目の前のことしかでていない。
 もちろん、通常であれば協力体制を敷くが、原因を作ったのは自分の息子ということもありそれを許さなかった。
 
「タレス様は恋人であるカミラ様とどこかへ行っているようですが……」
「探して連れ戻すのだ! あやつが魔物を刺激したりしなければこんなことには……うぐ!?」
「キャ、キャベ様!? お、お薬を!?」

 精神安定剤を口に含み、官僚の男が水を渡すとキャベ侯爵は一息をついたあと、口を開く。

「うう……す、すまん……自由奔放が過ぎる……戻ってきたら覚悟しておれ……!!」
「ギルドには――」
「金は出す。魔物とタレス捜索を並行しろと伝えてくれ」
「承知しました。……しかし、どうしたものですか……」

 官僚もタレスが悪いというのは分かっている。だが親の責任はやはりあるため、成人していたとしてもクレームはつけないといけないのだ。

「すまんな、マーガレットが亡くなって私一人で育てたのが間違いだったのかもしれん……甘やかした責任は取らねば」
「キャベ様……」
「……他にやらねばならんことは?」
「20テムほど前に村がひとつ壊滅しました件でなにか保証をと騒いでおります。如何いたしましょうか」
「あ? その件は自分で解決するようタレスに言っておいたが……まさか……」
「え!? タレス様が『父上が今は魔物優先。後回しで、後日策を出す』と……」
「あああああああ!? む、村の者達は――」
「キャ、キャンプ生活を余儀なくされております……!」
「う、うう……!?」
「ああ!? だ、誰か! 医者を――」

◆ ◇ ◆

 初めて訪れた町の散策は事件に巻き込まれたため、ゆっくり見物というわけにはいかなかったが楽しめたと思う。
 ちなみに母さんのお土産はクレアが見繕った新品のエプロンと、俺が買ったお皿などの雑貨である。
 とても喜んでいて、今日はそれをつけて朝食を用意していた。食堂に行くとできたてパンやスープ、生魚などが並んでいた。

「広いお家になってからお掃除が大変だけど、キッチンが広くていいわねえ」
「使っていない部屋が多いから大変だよな。カイさんの時はメイドさんがたくさんいて分担してたけど」
「まあ私は暇だし、日によって分けて掃除とかでもいいし。はい、できたわよ」
『ふあ……やったぁ……』
「おい、それは皿だ」
『サラダ……』
「違うって……!?」

 昨日ははしゃぎすぎたのかフリンクはまだ眠いらしい。ヒレで皿を掴んで口に入れようとしたので慌てて止めた。

「今日は畑仕事もないし、俺も町へは行かないからゆっくりしよう」
「そうするよ。たまにはのんびりしたい……けど、庭は見ておきたいな」
「あ、お母さんお花を植えたのよ! 後で見に行きましょうね」
『お鼻……』
「触るな!?」

 とりあえず黙っていても飲み込むので、俺はフリンクの大きな口を開けて魚を放り込んでやる。
 飼育員の時もこいつは甘えてきて水に浮かべたのを食べず、直接口に入れろと催促してきたなと思い出す。

『うまーい……』
「十匹も食えばいいだろ。後は寝てていいぞ」
「子供たちを乗せたりして遊びすぎたかな? 強盗退治と貴族様の送り迎えもしてたし」
「まあな。……って、なんでクレアがここにいる?」

 そして特に約束をしていたわけでもないのにクレアが優雅にお茶を飲んでいた。

「ジャムを持ってきてくれたから一緒にどうって言ったのよ」
「犯人は母さんだったか」
「なによー、幼馴染が家に来て嬉しくないの?」
「昨日会って遊んだろうが!?」
「ならレンにはジャム無し」
「まあ、おばさんのジャムは美味いから居ることを許可する」

 クレアの母親が作るキイチゴのジャムは俺のお気に入りなので仕方がない。
 早速パンにジャムを塗りながらクレアに尋ねる。

「美味いな」
「ふふん、いいでしょ♪ 仕事でずっと町に行ってたから届けられなかったもんね」
「だな。助かるよ。そういや、昨日は仕事場に行かなくて良かったのか?」
「あー、またなにか頼まれると嫌だからやめておいたわ」

 クレアはそう言って苦笑しながらお茶を口にする。喉を鳴らした後、周囲を見て嬉しそうに話し出す。

「いやあ、それにしてもまさか戻ってきたら一家揃ってこんなお屋敷に引っ越しているとはねえ」
「不可抗力だけどな。でも広くなったのは正直、結構悪くない。フリンクが自由に動き回れるし」
「確かにね。キッチンは私も見たけど羨ましいわ。ここに住んでもいい?」
「いいわよ」
「母さんが答えるなよ……!?」

 クレアがやったぁと、母さんと共にハイタッチを決める。部屋はたくさんあるがおばさんに怒られるだろ。
 そう思いながらパンをかじっていると、玄関のチャイム魔道器の音がした。

「お客さんかしら? ちょっと出てくるわね」
「誰だろ。お母さんは来れないって言ってたし」
「村長さんとかじゃないのか? ルーとかかもしれない」
「今日は学校でしょー」
「ま、平和な村だし知った顔だろ」

 父さんも目玉焼きを食べながらそう口にする。狭くも広くもない村だしそんなもんだよなと思っていたところで母さんが戻って来た。

「レン、お客様よ」
「え? 俺?」
「やあやあ、レンさんの愛するサーナちゃんがやってきましたよ!」
「な……!?」
「は?」
 
 瞬間、部屋の温度が下がった気がした。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu
ファンタジー
 迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。

処理中です...