上 下
56 / 105

第56話 繋がるもの

しおりを挟む
「レンさん!」
「久しぶり……っていうほど前じゃないか」
「そうですねえ。というかセキト様と一緒とはどうしたんです?」

 普段なら1日少しかかる道のりだが、フリンクと俺で馬車と人を運ぶことでそれを短縮した。
 
「ソコチカ町のギルドに二人のことを報せに行った時に出会ったのだサーナ。そこで賊に襲われてな、助けてもらったところだ」
「そうだったの……もう少し護衛をつけるべきでしたね。ごめんなさいセキト」
「いえ、あれは運が悪かったかと。こうして無事に帰りつけたので良しとしましょう」

 セキト様はカイさんの言葉に頭を下げていた。
 油断をしたというよりは強盗の類が出ることが無いため、今回のは本当にイレギュラーらしい。

「もう捕縛されたので大丈夫とは思いますが、チカクの町へ報告に行きますよ」
「お願いします。セバスと一緒がいいかもしれませんね」
「左様でございますな。物騒な話です」
「おう!?」

 いつの間にかギャリソン……もとい、セバスさんが立っていて頷いていた。
 気配の消し方がおかしい……イルカイヤーに引っかからないとは……

「では、折角ですし屋敷でお茶でもいかがでしょうか? 助けていただいたお礼をしないと」
「あー、申し訳ない。人を待たせているからすぐ戻るんですよ。掴まえた奴等も気になりますし」
「そうなんですね……」

 カイさんはがっかりした表情になる。さすがにクレアとルーたちを待たせてお茶と言う訳にもいかない。

『それじゃ行こうか。クレアが待っているし』
「ほう」
「馬鹿!?」

 フリンクが背中に乗れと尾っぽをフリフリしながらそんなことを口にする。そこでサーナの眼鏡が光った。

「前にもその名を耳にしたことがありますねえ。わたしというものがありながら」
「いや、そんなこと言われてもクレアは昔からの幼馴染だからな? 先に会ったのは向こうが先だ」
「ではお付き合いされている、と……?」
「目が怖いよカイさん!? 付き合ってはいないけど」
「詳しく――」
「フリンク、出発だ!」
「あ!? お礼を受け取ってください!」
「別にいりませんよ! それじゃ!」

 俺はフリンクの背を軽く叩いて出発を促した。なにかまだ言いたげだったが、逃げることにした。報酬をもらうほどでもない。屋敷の補足分だとでも思ってくれれば。

『ふう……』
「お、どうした?」
『なあに、折角楽しくやっていたところで邪魔が入ったからな。もう少し暴れたい気分だ』
「ガキどもはまだ元気だったし、遊んでやろうぜ」
『そうだな。そういえばそろそろ昼ではないか? 父上のところへ行かないと』

 フリンクが派手にお腹を鳴らしながら俺に告げる。確かにコル時間計を見るとお昼の時間だった。

「よし、とりあえず強盗達が回収されているか確認して町へ戻るか」
『そうだな。フフ、都の魚はどんなものがあるか楽しみだ』
「いや、海に獲りに行った方がいいの食えるぞ?」

 涎を出汁ながら目を細めるフリンクだが、この前のキャンプほどいいものは無いと思う。
 ちなみに魚を獲って売るという商売を考えたこともあるがフリンクが食いつくしてしまうため断念せざるを得なかったことをお伝えしておこう――

◆ ◇ ◆

「行ってしまいました……」
「気になりますね。幼馴染とはまた強い属性を……!」

 残念そうに空を見上げるカイと、悔しがるサーナが謎の言葉を続ける。
 そこへセキトが口を開いた。

「クレアという娘なら会いましたぞ」
「「詳しく……!!」」
「うお!? ……ごく普通の村娘でしたぞ。背はカイ様の方が少々高いかと。強いて言えば元気な娘くらいですかな」
「身長はもはや捨てているのでいいです! 可愛いですか!? そこですよ問題は!」
「そうですよ!」
「ちょ、近いですぞ!?」

 詰め寄るカイとサーナから離れてセキトは咳ばらいをしてから言う。

「……気になるのであれば見に行くとよろしいのでは? お礼の報酬は私から出すつもりで、村へ足を運ぶ予定です」
「ごほっごほっ……! 元気な子なら、こちらはまだ病弱というのを前面に押し出せば……!」
「それだとレンさんが申し訳ないと身を引くかもしれませんよ。しかし、お嬢様は村人と結婚するわけにもいきませんし、ここはわたしがレンさんを射止めますよ!」
「抜け駆けより酷いことを言っているわね……!?」

 だが、二人はすでにレンに対するアプローチを話し合っていた。特にサーナは乗り気である。

「聞いて欲しいですな……!」
「どうした、騒がしいな? おお、セキト戻っていたか」
「旦那様」

 そこへ騒ぎを聞きつけたロークが現れ、セキトは言い争いをする二人から離れて彼へと向き直る。

「どうだ、レン君のことは伝えてくれたか?」
「ええ。しかし、帰る途中で強盗に遭遇しまして……」
「なんだと? それは本当か?」
「はい。ちょうどレンが助けてくれたので事なきを得ましたが、あのあたりの冒険者も知らないようでした」

 セキトが事情を説明するとロークは顎に手を当てて眉を顰めた。

「賊か……侯爵様が最近『魔物が多い気がする』と言っていたことと関係あるだろうか?」
「あの方の言葉は……失礼、なんでもありません」
「カイの件は断ったし、執着していたのは息子の方だ。悪い方に考えるのはよくない」
「そうですな。では?」
「うむ。侯爵様へ報告をしておこう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛ってずいぶんお軽いものね【番外編追加】

紫楼
恋愛
 ダメ王子との婚約を押し付けられましたが、心変わりは仕方ないのでこちらも自由に生きていきたいと思います。 なんてね!予想通りなので痛くも痒くもないんです。  でもその後の予定が思いがけない事ばかりで驚きの連続でした。  ポメラのざまぁ回追加しました。  かなり痛いので残酷注意です。  王子のざまぁはいらないかも。  サファイア達の新婚編は少し書きたいかなと思っています。

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

せいぎの勇者~百合ゲー勇者のお残しで幸せになれるのか不安な兄である~

鏑木 うりこ
BL
 妹共に死んだ兄・晴翔と妹・青葉は青葉の物凄く強い希望によりいわゆる「百合ゲー」に酷似した世界に転生した。晴翔の希望は何も聞かれなかった……。  世界の半分(女性)はすべて青葉にメロメロどっきゅん★な世界で晴翔は常に危険と隣り合わせ!  すいません、後で書き足します……。 (多分)主人公総受けのR18作品となります。 いわゆる「ついてない」カントボーイ(で、合ってますよね? まだ理解度が低い……) 最後は一人に絞る予定(ハッピーエンド)ですが、予想外の動きをしたら流動的に変わるかもしれないので地雷の方は回避していただけると助かります。 まだ主人公が鬼ツッコミしているだけです……。

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

婚約者がおバカだったので。自由を満喫しようと思います?

紫楼
恋愛
 いろいろ危なっかしい王子の補佐として望まれた公爵令嬢はお役目を果たすため地道に足場を固めていた。  唯一の失敗は王子の行動を放置していたこと。  いきなり婚約破棄を言い渡されたけど、別に全く困らないし、悲しくもない。  枷が外れたのだから自由になりましょう!  数話で終わる予定。  現在ストップしているお話のキャラたちがストライキ中なので出たがってるキャラたちを解放して脳内をリセットしたいので、もし他作品をお持ちの方は今しばしお許し下さい。    ありきたり設定のなんちゃってご都合ファンタジーです。  あまり深く考えず読んでください。  誤字脱字は仕様です。極力気をつけますが^^;   別サイトにも掲載しています。

転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸
ファンタジー
魔王じゃなくて悪役令嬢に転生してたら、美味しいものが食べられたのになー。

イージーモードにしてもらったはずがちっともイージーっぽくないのでどないしたろ?

紫楼
ファンタジー
「あ、死んだ・・・」  死は解放だ。  ラッキーって思ったら、次の瞬間神様という奴らが揃って謝ってきた。  私の人生が最低だったのは女神の足元で不貞腐れているヤツのせいだったとか。  もう何でも良いから昇天させてくれ。出来れば二度と生まれ変わらないように。  そう言ったら「償いを」とか大騒ぎ。  めんどくさいから適当に出来ないんだろ?って事を要求したら全部受け入れた上に元凶に対する罰もしっかり受け入れられた。  前世がしんどくて不幸だった分、楽して幸せに生きれるようにしてもらったんだけど、なんか違う。  あれだ。日本人と外国人の常識や法律が違うってやつと一緒だ。  思っていたのと全然違うけど、前世とは全く違う環境だから楽しむしかないよね?  設定ゆるゆる、独自世界設定なので細かいことは気にしてはいけません。  主人公はめちゃくちゃ口が悪いです。  エセ関西弁、近畿圏で色々混ざってる感じです。  先行き不明。主人公の気の向くまま、キャラクターが勝手に動くのを止めないのでなんでも許せる人だけお楽しみください。  R指定は保険です。魔物も出るし暴力はあると思います。  主人公の過去はトラウマに引っ掛かるとかあるかもしれないのでご注意を。  不定期更新。  カクヨムさまにも掲載してます。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

処理中です...