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第41話 方針を変える

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「失礼します」
「お、来たわね」

 前にも一度来た応接室に入ると、案の定サーラが居た。
 ソファーにはローク様とカイさん、アリシャ様と並んで座っているのが目に入る。
 
「……」

 それとサーラの横で気まずそうに立つサーナの姿があった。俺を目が合うと視線を泳がせている。いつもの元気はなさそうだ。

「よく帰ってきてくれた。まあ座ってくれ。といってももうここは君達一家の屋敷だけどな!」
「フリンク、久しぶりね」
『ぐがー』
「ふふ、おやすみ中みたいですよお母様」
「もう!」
「申し訳ございませんアリシャ様」

 家族三人で並んで座り、フリンクは俺達の膝の上に乗せた。全員の膝を占拠するフリンクはまだ起きる気配がない。
 揃ったところでとローク様が咳ばらいをして話を始めてくれた。

「さて、気づいたと思うが我々バートリィ家は記憶を取り戻した。そこに居るサーラの力でな」
「ぴーすぴーす」
「……」

 やはりあいつか。ドヤ顔でダブルピースをするサーラを睨みつけておいた。
 それはともかく先に謝罪をしておこう。

「申し訳ありません。俺……私は保身のために皆さんの記憶を消させていただきました。思い出したのであればご存知だと思いますが、出自が複雑なのでおおやけにしたくないと考えたからです」
「私が産んだから複雑じゃないわよレン」
「そうだけどそうじゃないよ!?」

 フリンクの背中を撫でながら真顔で言ってくる母さんに大声で叫ぶ。

「まあ、その辺は分かっているさ。だからこの件は我々のみ事態を共有することにした。もちろん、君とフリンクのことは口外しない」
「ありがとうございます」
「それともう一つ」

 俺が頭を下げるとアリシャ様が人差し指を立ててから口を開く。

「そこに居るサーラが記憶封印の解除ができるのと、あの方には封印を無効化する力がありますから、今後は難しいと思います」
「なるほど」

 サーラに視線を向けると『むふー』と鼻息を荒くしていた。自信あり、か。
 ならば少し試してみよう。

「承知しました。……ちなみにローク様、私はギルドマスターと会ったかどうか覚えていますか?」
「なに? そういえばどうだったかな。例の魔物の残骸を引き渡す時、ギルドに出向いたんじゃなかったか?」
「確かそうだったかと」
「それがどうしたんですか?」
「いえ、彼等にも記憶消去をしていますし――」

 カイさんに尋ねられたのでそう返しておいたが、嘘だ。
 植物魔物を倒してフリンクを置いてロークさんと俺は冒険者を連れて現場に行ったがギルドマスターとやらには会っていないのだ。
 なるほど、完全に思い出すわけではなさそうだな。サーラが首を傾げているところを見ると意図は読めなかったらしい。

「――口止めをと思いまして」
「うむ、任せておいてくれ。まあ。彼等は思いださなくてもいいとは思うが」
「そうですね」

 そこからは特に変な空気になることもなく、この屋敷の受領サインをした。あくまでも俺に対する謝礼だからだ。
 お金は少しだけもらい、この話は終わり……とはならずに、一段落したとみたサーラが近づいてきて話を始めた。
 フリンクは寝たままなので、アリシャ様に貸した。

「それで、これからどうするの?」
「別に今までとは変わらない。畑を耕して暮らすよ」

 サーラの言葉にあっさりと返す。これは当然のことで、むしろ屋敷から畑が遠くなったまである。

「結界は?」
「どうするかな、とは思っている」
「「「!」」」

 そこで両親とサーラがびっくりした顔で俺を見た。そこも今までと変わらないと答えると思ったからだろう。

「この先、あんたみたいなのが来ないとは限らないし、陰でこっそりフリンクを見られて噂が広がる可能性も考えた。今までが幸運だっただけなのかもしれないってな」
「ふむ」
「だから、今後は普通に村で暮らすことに変わりはないけど、フリンクを見られても気にしないことにした」
「そういえばレンさんは能力があってもはた目から見ると私達と変わらないですもんね」

 カイさんが手を合わせて頷いたので、俺も頷き返しておいた。色々キャンプ中に考えたが、なるようにしかならないなと。
 積極的に出ることが無ければそれほど問題にもならないだろうし、フリンクを見ても『夢かなにか』で済まされそうな気がする。なんせ見たこともない生き物だからな。

『ぐおー』
「ふふふ、着ぐるみがないと不細工に見えますわね」
「それはそれでいいんだお母様……」

 という感じの結論は目が覚めた時に大変なことになるであろうフリンクには伝えていない。しかし、あいつは俺の意思を尊重すると言っていたので、俺が決めたのだ。

「いいんじゃない? あたしやカイちゃんはたまたまだったけど、一つのきっかけよ。正直、それでも意地を張るなら言いたいことがあったんだけど」
「なんだ?」
「いやあ、村を巻き込んでいる自覚はあるのかなーって。もし、どうしても嫌ならそれこそ山奥に引っ込んでその精霊と暮らせばいいのよ。村に利益を、なんて言うつもりは無いけど、旅人の記憶を消したりしちゃあバレた時にイメージが悪いって」

 さらに『人と関わるならなにかしら不都合はあるわよ』と肩を竦めていた。
 お前が言うなと思ったが、今回考えるきっかけにはなったからそれ以上は言及しないでおいた。

「それにしても、どうやってあたりをつけたんだ?」
「ん? ああ、サーナちゃんは記憶が消えていなかったからよ」
「なに……!?」
「姉ちゃん!?」
「あ、でもこの子はあんたのことなにも喋らなかったからね? 嫌わないであげてよ。上も下も口がかたいのよ。それにレンは炙り出しに引っかかったアホじゃない」
「「……」」

 ぺらぺらと喋るサーラに俺とサーナは眉間に皺を寄せる。そして目を合わせて同時に頷く。

「意外とおにあ――」
「「くたばれ……!!」」

 現場からは以上だ。
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