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第35話 逃げますね……
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「しばらく身を隠そうと思う」
「いきなりどうしたの?」
あの後、サーラを屋敷に見送り、畑で遊んでいたガキ共を家へ帰してから自宅へ戻った。
で、昼食の前に俺は両親にそう切り出していた。
「色々あって、ちょっと面倒ごとになりそうでさ。フリンクと一緒に森で生活しようかと」
『えー!? 僕は嫌だよ?!』
「我儘を言うな。あいつが居ると結界も張れないし」
『記憶を消せばいいじゃないか』
フリンクが不満げにそう言うが、結界を破壊するほどの力がある相手だ。記憶を消す動きを見せたらなにかを気取られるかもしれない。
「そんなに危ない人なの?」
「まあ……平穏を考えると、諦めるまで待った方がいいんじゃないかなーと」
「というか、レンよ」
「ん? なんだい父さん?」
今日は町へ行かない日なので父さんも家に居たりする。そんな父さんがなんだか神妙な顔で俺に声をかけてきた。
「別に、いいんじゃないか? 正体を知られても」
「え?」
「そうねえ。貴族の方が来られた時に焦っていたけど、レン達が狙われるのは稀だと思うのよね。むしろ妄想……?」
「酷くないか!? ……俺達はあんまり目立たない方がいいだろ? 村だって騒がしくなる」
「でも、お前達は強いじゃないか。なんかあっても守れるんじゃないか? 村も人が来るようになれば発展するし、デメリットよりいいことの方が多いと思うぞ」
「そうかな……」
現状、俺達のことを完全に覚えているのは両親のみだ。村のみんなはフリンクも含めて知っている状態にしている。
確かに俺がなんとかすればいいと思うが――
「……いや、ひとまずそれはあの宮廷魔法使いのサーラさんを躱してから考えるよ」
「そう? 私達のことは気にしないで、有名になっていいからね?」
「フリンクに連れて行ってもらえれば町に行くのも楽になるんだけどなあ」
「欲望が駄々洩れじゃないか……!」
まったく……
まあ、小さい頃は母さんが『せっかくだし、色々やってみれば』と言ってくれたことがある。多分、村で腐らせるには惜しいと思ったのだろう。
そう思いつつ、俺は部屋に戻って支度をすることにした。
『……俺も二人の言うことには賛成だがな』
「フリンク?」
後からついてきたフリンクが扉を閉めてからそんなことを言いだした。カバンに荷物を詰めるのを止めてから向き直る。
「お前までそんなことを言うんだな? 危ないってのは――」
『それを判断するのは間違いじゃない。だが、そうならない可能性だってある。町に出れば目立つだろうし、それこそサーラのような者が関わってくるかもしれん』
「だろ?」
『だが、いつまでもそれが続けられるかと言われたら難しいところだ。お前は年老いるまで村に引きこもるつもりか? 世界へ出ろとまでは言わないが外を見ておくのはいいと思うぞ』
「……」
フリンクは渋い声で今後の青写真というものを口にした。
俺は無難にゆっくり過ごしたいし、心配事はなるべく避けたい。それは多分、前の世界で両親が死んだり、俺自身が不慮の事故で死んでしまったからだと思う。
『怖いか?』
「……そうだな」
『その気持ちがあれば大きな失敗はないと思う。考えてみるといい』
俺にそう言った後、フリンクは椅子に背中を預けて目を閉じた。まだ眠いようである。
「そうは言ってもなあ……」
俺は聞こえるように呟いたものの、フリンクはそれ以上なにも言わなかった。
外の世界か……このままスローライフを送ることができればいいと思うのだが、うーむ。
◆ ◇ ◆
「そんじゃ、数日居なくなるけど適当に誤魔化しておいてくれ」
「わかった。まあ、仕事に行っているとでも言えば納得するだろう」
「はい、お弁当。夜中に帰ってきてもいいと思うけど……」
「宮廷魔法使いだから、どこでどういう魔法を使っているか分からない。一応、イルカ・アイで状況は探るけど」
『わーい、お弁当! お魚は?』
「すぐ腐っちゃうからフライにしておいたわ」
『おおー』
――翌日の早朝。まだ陽も上がらない時間に俺達は出発の挨拶をしていた。
巨大な弁当と俺を背中に乗せながら目を輝かせるフリンクが少しずつ上昇していく。
「気を付けて、というのもおかしな話だが油断するなよ」
「ああ!」
『いってきまーす』
そのまま急上昇して雲の上まで昇っていく。村にはもう一度結界を張っておいたが、彼女はどうするかな? それも含めて動向を探る予定だ。
『しかし、姿を消したらそれこそお前がやったと思われないか?』
「どうせ向こうはほぼそう思っているだろうし、構わないさ。俺が居なけりゃなにかを成すこともできないだろ」
『確かに。それじゃ、いつもの山に行くとするか』
「頼むよ」
フリンクは月《フメール》の明かりを浴びながら、村から少し離れたところにある山へと移動を始めた。
そこには俺が作った山小屋があり、たまにガキどもを連れてキャンプをする場所でもある。
「長く離れることになるのは久しぶりだな」
『大丈夫かねえ』
意味深なことを口にするフリンクに違和感を覚えたが、もう決めたことだ。
たまにはゆっくりするのも悪くない。
◆ ◇ ◆
「姉ちゃんはフォンダ村へ行ったんですか!?」
「ああ、そうだよ。屋敷の場所を聞いてきたので教えたかな。すぐに戻ってくるとは言っていたけど」
「やられた……! 奴め、諦めたフリをして出し抜きやがった……!」
「サーナ、言葉遣いが悪くなっているわよ」
カイの診察をしたのを見たサーナは安堵していたが、気づけば居なくなっていた。
いつもなら挨拶くらいはしていくのにと不思議には思っていた。
「すみません、少しお暇をいただきます!」
「ど、どうしたのサーナ?」
「フォンダ村へ行ってきます、恐らく姉ちゃんはそこにいます」
「ふむ、屋敷に行く予定だったから送っていこう」
「……お願いします。ややこしいことにならないといいけど……」
最後の言葉はその場に居た者には聞こえなかった。
「(レンさんを見つけてどうするつもりですかね、姉ちゃんは。まったく、研究馬鹿は始末に負えませんね――)」
「いきなりどうしたの?」
あの後、サーラを屋敷に見送り、畑で遊んでいたガキ共を家へ帰してから自宅へ戻った。
で、昼食の前に俺は両親にそう切り出していた。
「色々あって、ちょっと面倒ごとになりそうでさ。フリンクと一緒に森で生活しようかと」
『えー!? 僕は嫌だよ?!』
「我儘を言うな。あいつが居ると結界も張れないし」
『記憶を消せばいいじゃないか』
フリンクが不満げにそう言うが、結界を破壊するほどの力がある相手だ。記憶を消す動きを見せたらなにかを気取られるかもしれない。
「そんなに危ない人なの?」
「まあ……平穏を考えると、諦めるまで待った方がいいんじゃないかなーと」
「というか、レンよ」
「ん? なんだい父さん?」
今日は町へ行かない日なので父さんも家に居たりする。そんな父さんがなんだか神妙な顔で俺に声をかけてきた。
「別に、いいんじゃないか? 正体を知られても」
「え?」
「そうねえ。貴族の方が来られた時に焦っていたけど、レン達が狙われるのは稀だと思うのよね。むしろ妄想……?」
「酷くないか!? ……俺達はあんまり目立たない方がいいだろ? 村だって騒がしくなる」
「でも、お前達は強いじゃないか。なんかあっても守れるんじゃないか? 村も人が来るようになれば発展するし、デメリットよりいいことの方が多いと思うぞ」
「そうかな……」
現状、俺達のことを完全に覚えているのは両親のみだ。村のみんなはフリンクも含めて知っている状態にしている。
確かに俺がなんとかすればいいと思うが――
「……いや、ひとまずそれはあの宮廷魔法使いのサーラさんを躱してから考えるよ」
「そう? 私達のことは気にしないで、有名になっていいからね?」
「フリンクに連れて行ってもらえれば町に行くのも楽になるんだけどなあ」
「欲望が駄々洩れじゃないか……!」
まったく……
まあ、小さい頃は母さんが『せっかくだし、色々やってみれば』と言ってくれたことがある。多分、村で腐らせるには惜しいと思ったのだろう。
そう思いつつ、俺は部屋に戻って支度をすることにした。
『……俺も二人の言うことには賛成だがな』
「フリンク?」
後からついてきたフリンクが扉を閉めてからそんなことを言いだした。カバンに荷物を詰めるのを止めてから向き直る。
「お前までそんなことを言うんだな? 危ないってのは――」
『それを判断するのは間違いじゃない。だが、そうならない可能性だってある。町に出れば目立つだろうし、それこそサーラのような者が関わってくるかもしれん』
「だろ?」
『だが、いつまでもそれが続けられるかと言われたら難しいところだ。お前は年老いるまで村に引きこもるつもりか? 世界へ出ろとまでは言わないが外を見ておくのはいいと思うぞ』
「……」
フリンクは渋い声で今後の青写真というものを口にした。
俺は無難にゆっくり過ごしたいし、心配事はなるべく避けたい。それは多分、前の世界で両親が死んだり、俺自身が不慮の事故で死んでしまったからだと思う。
『怖いか?』
「……そうだな」
『その気持ちがあれば大きな失敗はないと思う。考えてみるといい』
俺にそう言った後、フリンクは椅子に背中を預けて目を閉じた。まだ眠いようである。
「そうは言ってもなあ……」
俺は聞こえるように呟いたものの、フリンクはそれ以上なにも言わなかった。
外の世界か……このままスローライフを送ることができればいいと思うのだが、うーむ。
◆ ◇ ◆
「そんじゃ、数日居なくなるけど適当に誤魔化しておいてくれ」
「わかった。まあ、仕事に行っているとでも言えば納得するだろう」
「はい、お弁当。夜中に帰ってきてもいいと思うけど……」
「宮廷魔法使いだから、どこでどういう魔法を使っているか分からない。一応、イルカ・アイで状況は探るけど」
『わーい、お弁当! お魚は?』
「すぐ腐っちゃうからフライにしておいたわ」
『おおー』
――翌日の早朝。まだ陽も上がらない時間に俺達は出発の挨拶をしていた。
巨大な弁当と俺を背中に乗せながら目を輝かせるフリンクが少しずつ上昇していく。
「気を付けて、というのもおかしな話だが油断するなよ」
「ああ!」
『いってきまーす』
そのまま急上昇して雲の上まで昇っていく。村にはもう一度結界を張っておいたが、彼女はどうするかな? それも含めて動向を探る予定だ。
『しかし、姿を消したらそれこそお前がやったと思われないか?』
「どうせ向こうはほぼそう思っているだろうし、構わないさ。俺が居なけりゃなにかを成すこともできないだろ」
『確かに。それじゃ、いつもの山に行くとするか』
「頼むよ」
フリンクは月《フメール》の明かりを浴びながら、村から少し離れたところにある山へと移動を始めた。
そこには俺が作った山小屋があり、たまにガキどもを連れてキャンプをする場所でもある。
「長く離れることになるのは久しぶりだな」
『大丈夫かねえ』
意味深なことを口にするフリンクに違和感を覚えたが、もう決めたことだ。
たまにはゆっくりするのも悪くない。
◆ ◇ ◆
「姉ちゃんはフォンダ村へ行ったんですか!?」
「ああ、そうだよ。屋敷の場所を聞いてきたので教えたかな。すぐに戻ってくるとは言っていたけど」
「やられた……! 奴め、諦めたフリをして出し抜きやがった……!」
「サーナ、言葉遣いが悪くなっているわよ」
カイの診察をしたのを見たサーナは安堵していたが、気づけば居なくなっていた。
いつもなら挨拶くらいはしていくのにと不思議には思っていた。
「すみません、少しお暇をいただきます!」
「ど、どうしたのサーナ?」
「フォンダ村へ行ってきます、恐らく姉ちゃんはそこにいます」
「ふむ、屋敷に行く予定だったから送っていこう」
「……お願いします。ややこしいことにならないといいけど……」
最後の言葉はその場に居た者には聞こえなかった。
「(レンさんを見つけてどうするつもりですかね、姉ちゃんは。まったく、研究馬鹿は始末に負えませんね――)」
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