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第20話 意外と時間がない?

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『……』
「おい、歯をカチカチさせるなって。今はいいけど、人目につくところでは止めてくれよ?」
『わかってるよー』

 イルカが歯をカチカチさせるのは怒っていたり、機嫌が悪い時である。
 久しぶりにこの状況を見るな……着ぐるみが嫌なんだろう。
 並んで座るカイ様とサーナの膝の上で長く伸びているフリンクは放っておこう。
 
 さて、話し合いの翌日、今回初めて村の外に出ることになった俺とフリンク。
 両親は驚いていたけど『まあ、村の外を経験するのもいいだろう』と父さんが言ってくれて、俺の仕事を引き受けてくれた。

 で、馬車を二つに分け、一台目には俺とフリンクにカイ様とサーナが荷台に乗っている。で、もう一つにローク様や護衛の人が乗って移動中だ。
 
「すみませんカイ様、移住したばかりなのに。それと例の症状のことも」

 とりあえず、謝罪が先かと頭を下げた。パーティの時もそうだったけど、フリンクと共にあまり機嫌が良くない。

「いえ……それはいいのですが……どうして屋敷に来てくれなかったのですか?」
「え?」
「そうですよー! レンさんがまた来るって楽しみにしてたのに」
『あれ、もしかしてそれで不機嫌だったの?』
「ハッ!? い、いえ、そういう訳では……」

 フリンクの言葉に自分がなにを言ったのか理解し、顔を赤くして俯いた。
 追い打ちでサーナが口を開く。

「そうですよ。ちなみにわたしも待っていました!」
「お前はいい」
「なんで!?」
「それより、俺……私が協力するのは嫌がると思っていたんです。だからあの日、こっちをずっと見ていたから怒っているのかなと」

 俺が頬を掻きながらそういうと、頬を膨らませたカイ様が言う。

「いえ、むしろ……神様の加護をもつ方に協力してもらうのは恐れ多いくらいです。あ、私には普通に接してもらって大丈夫です。『様』もなくて良いです」
「そう言ってもらえると助かるよ。あ、接する話じゃなくて、協力の方だよ」
「お嬢様も治らないとヤバイですし、こちらとしては願ったりって感じですよ」
「サーナ……!」
「これは聞いておいてもらった方がいいでしょう?」

 サーナは『協力体制を取るなら』と続けた。
 内容は驚くべきもので、指輪の力で抑制されているもののカイ様の魔力は徐々に減っているそうだ。
 食事などでとりこめるがそれを上回る勢いなんだそうだ。なので万が一指輪が外れたら危ないだろうとのこと。

 ……倒れた時は指輪が無かったのにまだなんとかなっていた。今は外すと危ない、ということは症状が2年前より進んでいるってことか。
 もしかしたら近い将来、指輪の力でも抑えきれなくなる可能性が高いな。

「……この数日、持って来た書物を読んだりもしたのですが私の症状に関連することは記載されていませんでした。もっと読めばあるのかもしれませんが」
「そうか……」
「切羽詰まるのも良くないんで、お二人が遊びに来てくれるとお嬢様も喜ぶ……特にレンさ――」
「お二人もお忙しいのだから仕方ないです」
「いたたたた!?」

 にっこりと微笑みながらサーナの耳を引っ張るカイ様……カイさんはなかなか怖かった。

『ふあ……どれくらいかかるのー?』

 そこで緊張感のないフリンクの声があがる。カイさんはそれを聞き、一度窓の外を見てから返事をした。

「えっと……今この辺なら一度、町で休憩してから1コル時間というところですね」

 1コルってことは1時間くらいか。
 町に立ち寄ってお昼を食べる形になりそうだ。

『町のお料理楽しみだね!』
「うふふ、フリンク様はどんなのが好きなのですか?」
『アジフライ! あとお魚ならだいたい食べるよ』
「アジフライ、ですか?」

 フリンクがヒレをパタパタさせながらそう告げた。しかしカイさんとサーナは顔を見合わせて首を傾げていた。

『知らないの?』
「ウチ独自の料理だぞアレは」

 フリンクが俺を見て口を開ける。アジフライを思い出したのか少し涎が出ていた。

「どういったお料理なのですか?」
「そんなに難しいものじゃないんだけど――」

 アジフライの作り方を適当に説明すると、サーナが眼鏡をくいっと上げながら笑みを浮かべていた。
 ちなみに素揚げは各家庭で結構するんだけど、フライや天ぷらは我が家秘伝の料理となっていたりする。

「開いたアジにパンの粉をつけて油で揚げるとはなかなか面白い発想ですね!」
『こんがりきつね色に上がったアジはサクサクで、ソースとかつけて食べるんだ!』
「おお、美味しそう……」

 サーナも思いを馳せて、フリンクと一緒にうっとりとした表情で天を仰ぐ。屋根しかないけどな。

「一度、食べてみたいですね!」
「村に戻ったら母さんに作ってもらうよ。新鮮な魚は俺が獲ってくるし」
「絶対ですよ!」
「うおお!? 狭いんだから暴れるな!?」

 サーナが身を乗り出して俺に詰め寄って来たので手で制する。危うく顔や胸がくっつくところだった。

「サーナやめなさい!」
「いえ、こういうラッキースケベが男はみんな好きなんですよ……! ほらお嬢様も!」
「未必の故意か!?」
『へへ……アジフライ……』

 サーナのせいで床に転がってしまったがフリンクはアジフライに思いを寄せてトリップしていた。
 この調子で大丈夫か……? 俺がそんな不安を抱えている中、馬車は町に到着した。
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