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第16話 やるべきこと、できること
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「うーむ……」
「どうした、レン? 珍しく悩み事か?」
「俺がいつも能天気みたいな言い方をしないでくれ、母さんに比べて影の薄い父さん」
「う、薄くないぞ……!?」
『髪の話はしていないよー?』
一応、言っておくと父さんの頭髪が危ないということはない。なので俺も大丈夫である。
食後のそんな和やかな雰囲気で俺が唸っているため気になったのだろう。
悩みごとはふたつあり、その内の一つは両親に説明はしておくべきかと思っていた。
「……父さん、母さん。少し話がある」
「小遣いか? お前は欲がないから出してやるぞ? 好きな人にプレゼントなら色をつける」
「違うわ!? えっと、フリンク……というか俺達の話なんだけど――」
昔から俺とフリンクの特殊性は説明してあるし、そもそも両親はイヴァルリヴァイにも会っている。
だけど、村が色々な陰謀に巻き込まれるのは困るということで結界を張らせてもらっている。
結界……これはウチの家族しか知らないことでもある。
「なるほど、バートリィ家のお嬢様にそんなことがあったのか」
「魔力を外に出す病気ねえ。聞いたことが無いわ。まあ、私達は村から出たことないからそうりゃそうなんだけどさ」
『うんうん、たまには町に行きたいよね』
「ねー」
フリンクと母さんが首を傾げながら笑い合う。
それでも『気にしすぎよ』みたいに楽観的に言わないのは、フリンクの重要性を認識しているからである。
「事情は分かった。結界を張るのはどうする?」
「ひとまず屋敷へ向かう道の入り口あたりまでかな。カイ様が出てくることはあまりないと思うし、そこはなんとかなりそうだ」
『元気そうだったけど、多分無理はできないんじゃないかな。顔色はそんなに良くなかったし』
「よく見てんな……」
フリンクが得意げに鼻を鳴らして噴気孔から水を出す。
まああれだけ近くて撫でられたりしていたら、気づくかもしれない。
「だけど根本的な原因は取り除けないから、不安は残るんだよ。村から離れてもらうか治療する。この二つしか村の平穏を取り戻す方法がないからな」
「前者は無理……後者は現状、宮廷魔法使い様でもできないと来たか」
「もう一つ方法はあるけど……」
「なにかしら?」
三つ目の選択があるにはある。
「俺とフリンクがこの村から出ていくことだな」
「むう……」
「それは……」
そこで両親が渋い顔をする。
町へ出ていったり、他の土地へ行く家族もいるので珍しいことじゃない。
「ああ、俺達だけ出て行けばいいからそこは気にしないで」
「いや、その時は家族で行くぞ? お前が嫁さんを連れて孫の顔を見るために……!」
「欲望全開だ!? ま、まあ、これは最終手段とするよ」
「フリンクと離れるのは嫌よね」
『うんうん』
「でもフリンク、海の洞穴とかに家を建てて小規模結界を張ったら海に行き放題だぞ?」
『引っ越そうよ!』
目を輝かせて涎をたらすフリンク。こいつも欲望に忠実だった。精霊に近い存在なのに……
「しかし実際どうしたものかなあ。治療法がないから手の施しようがないじゃないか?」
父さんが後ろ頭を掻きながらそう口にする。
そう、この時点できることは、ほぼ無い。かといって時間が解決するものでもない。
「それを今から考えるんだ。もしいい案があったら相談して欲しい」
「うーむ……」
「大変ねえ。私も近所の奥さんたちに話してみるわ」
「やめろぉ!? 騒ぎを大きくする気か!?」
母さんは天然である。
カイ様の症状など、伝わって欲しくない話などあるので母さんにはきつく言っておいた。知識は欲しいが、失敗だったか?
その時は記憶を消すか……
いや、ここのところずっと記憶を消すことをしているけど、恐ろしい能力だよな……
「そんじゃ部屋に戻るよ、おやすみ」
「ああ、なにか無いか考えておくよ」
「おやすみ」
両親に挨拶をして部屋に戻り、俺が合図するとフリンクもついてきた。
今日は疲れたからすぐ眠れそうだと思ったが、もう少し話すことがあった。
『どうした? 添い寝が必要か、小さいころの時みたいに』
「そうじゃないよ。少し気になることがあってさ」
『気になること?』
「ああ」
フリンクがカイ様の体調に気づいたように、俺も聞き逃さなかったことがある。
「俺がカイ様に『なにか変わったことは無かったか?』と聞いた時に、一瞬、思い当たるような仕草を見せたんだ」
『ふむ、レンが尋ねたことでなにか気づいたことがあった、ということか』
フリンクが椅子に座り小さく頷く。ヒレを顎に付近に持っていこうと奮闘する。もちろん届かない。
「もう少し話を聞くべきかなって思ったんだ」
『そうだな……しかし、あの場で話さなかったことを口にしてくれるだろうか?』
「そこはお前の愛嬌と俺の話術次第だな。それでもダメな時は……ごにょごにょ」
『……! フッ、流石は相棒。大胆な作戦を立てる』
「結界の話をしてるから、カイ様は村には近づいて来ないと思う。一応、空から屋敷に行けるけど、カイ様のところへ行くタイミングも考えないといけないしな」
『手紙をよこしてくるかどうかだな』
なにかあれば、と言ったもののあの人は周りに迷惑をかけたくないと考えるタイプのような気がする。そういう意味では大胆なサーナが一緒にいるからバランスが取れているなとも感じた。
「だな。あんまりなければ、さっきの作戦と――」
『単独潜入任務だな』
「そこまで大げさじゃない……!?」
くっくと笑うフリンクの頭を引っぱたいて、濃厚だった一日が終わる。
結果があるなら原因は必ずあるはず。
これは飼育員をしていたころから心にあることで、魚がある日突然に死ぬことが多かったからだ。
もちろん、言葉の意味は当然なんだけど、魚という性質上すぐに『そんなものか』で片付ける人間もいる。
だが、そのせいで後からとんでもない事態に発展することは多々あった。
今は結界だけ破壊されているけど、今後どうなるかわからない……そのため、俺はなんとかしたいと思った。自己満足は承知しているけどな。
「どうした、レン? 珍しく悩み事か?」
「俺がいつも能天気みたいな言い方をしないでくれ、母さんに比べて影の薄い父さん」
「う、薄くないぞ……!?」
『髪の話はしていないよー?』
一応、言っておくと父さんの頭髪が危ないということはない。なので俺も大丈夫である。
食後のそんな和やかな雰囲気で俺が唸っているため気になったのだろう。
悩みごとはふたつあり、その内の一つは両親に説明はしておくべきかと思っていた。
「……父さん、母さん。少し話がある」
「小遣いか? お前は欲がないから出してやるぞ? 好きな人にプレゼントなら色をつける」
「違うわ!? えっと、フリンク……というか俺達の話なんだけど――」
昔から俺とフリンクの特殊性は説明してあるし、そもそも両親はイヴァルリヴァイにも会っている。
だけど、村が色々な陰謀に巻き込まれるのは困るということで結界を張らせてもらっている。
結界……これはウチの家族しか知らないことでもある。
「なるほど、バートリィ家のお嬢様にそんなことがあったのか」
「魔力を外に出す病気ねえ。聞いたことが無いわ。まあ、私達は村から出たことないからそうりゃそうなんだけどさ」
『うんうん、たまには町に行きたいよね』
「ねー」
フリンクと母さんが首を傾げながら笑い合う。
それでも『気にしすぎよ』みたいに楽観的に言わないのは、フリンクの重要性を認識しているからである。
「事情は分かった。結界を張るのはどうする?」
「ひとまず屋敷へ向かう道の入り口あたりまでかな。カイ様が出てくることはあまりないと思うし、そこはなんとかなりそうだ」
『元気そうだったけど、多分無理はできないんじゃないかな。顔色はそんなに良くなかったし』
「よく見てんな……」
フリンクが得意げに鼻を鳴らして噴気孔から水を出す。
まああれだけ近くて撫でられたりしていたら、気づくかもしれない。
「だけど根本的な原因は取り除けないから、不安は残るんだよ。村から離れてもらうか治療する。この二つしか村の平穏を取り戻す方法がないからな」
「前者は無理……後者は現状、宮廷魔法使い様でもできないと来たか」
「もう一つ方法はあるけど……」
「なにかしら?」
三つ目の選択があるにはある。
「俺とフリンクがこの村から出ていくことだな」
「むう……」
「それは……」
そこで両親が渋い顔をする。
町へ出ていったり、他の土地へ行く家族もいるので珍しいことじゃない。
「ああ、俺達だけ出て行けばいいからそこは気にしないで」
「いや、その時は家族で行くぞ? お前が嫁さんを連れて孫の顔を見るために……!」
「欲望全開だ!? ま、まあ、これは最終手段とするよ」
「フリンクと離れるのは嫌よね」
『うんうん』
「でもフリンク、海の洞穴とかに家を建てて小規模結界を張ったら海に行き放題だぞ?」
『引っ越そうよ!』
目を輝かせて涎をたらすフリンク。こいつも欲望に忠実だった。精霊に近い存在なのに……
「しかし実際どうしたものかなあ。治療法がないから手の施しようがないじゃないか?」
父さんが後ろ頭を掻きながらそう口にする。
そう、この時点できることは、ほぼ無い。かといって時間が解決するものでもない。
「それを今から考えるんだ。もしいい案があったら相談して欲しい」
「うーむ……」
「大変ねえ。私も近所の奥さんたちに話してみるわ」
「やめろぉ!? 騒ぎを大きくする気か!?」
母さんは天然である。
カイ様の症状など、伝わって欲しくない話などあるので母さんにはきつく言っておいた。知識は欲しいが、失敗だったか?
その時は記憶を消すか……
いや、ここのところずっと記憶を消すことをしているけど、恐ろしい能力だよな……
「そんじゃ部屋に戻るよ、おやすみ」
「ああ、なにか無いか考えておくよ」
「おやすみ」
両親に挨拶をして部屋に戻り、俺が合図するとフリンクもついてきた。
今日は疲れたからすぐ眠れそうだと思ったが、もう少し話すことがあった。
『どうした? 添い寝が必要か、小さいころの時みたいに』
「そうじゃないよ。少し気になることがあってさ」
『気になること?』
「ああ」
フリンクがカイ様の体調に気づいたように、俺も聞き逃さなかったことがある。
「俺がカイ様に『なにか変わったことは無かったか?』と聞いた時に、一瞬、思い当たるような仕草を見せたんだ」
『ふむ、レンが尋ねたことでなにか気づいたことがあった、ということか』
フリンクが椅子に座り小さく頷く。ヒレを顎に付近に持っていこうと奮闘する。もちろん届かない。
「もう少し話を聞くべきかなって思ったんだ」
『そうだな……しかし、あの場で話さなかったことを口にしてくれるだろうか?』
「そこはお前の愛嬌と俺の話術次第だな。それでもダメな時は……ごにょごにょ」
『……! フッ、流石は相棒。大胆な作戦を立てる』
「結界の話をしてるから、カイ様は村には近づいて来ないと思う。一応、空から屋敷に行けるけど、カイ様のところへ行くタイミングも考えないといけないしな」
『手紙をよこしてくるかどうかだな』
なにかあれば、と言ったもののあの人は周りに迷惑をかけたくないと考えるタイプのような気がする。そういう意味では大胆なサーナが一緒にいるからバランスが取れているなとも感じた。
「だな。あんまりなければ、さっきの作戦と――」
『単独潜入任務だな』
「そこまで大げさじゃない……!?」
くっくと笑うフリンクの頭を引っぱたいて、濃厚だった一日が終わる。
結果があるなら原因は必ずあるはず。
これは飼育員をしていたころから心にあることで、魚がある日突然に死ぬことが多かったからだ。
もちろん、言葉の意味は当然なんだけど、魚という性質上すぐに『そんなものか』で片付ける人間もいる。
だが、そのせいで後からとんでもない事態に発展することは多々あった。
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