上 下
127 / 129
九章:風太

238.和解とまではいかないまでも

しおりを挟む
 さて、まさかレムニティが話をしようと言い出すとは思わなかった。
 たった今、グラッシが攻城をするところだったというのに。魔族というのは割り切りが早すぎるよ……
 これが裏目に出ないといいけどなあ。

「……すまない、遅くなった」
「ドライゼンさん! いえ、すみませんお呼び立てしてしまって」
「それはいい。けど、まさか魔族の将軍を無傷で説得するとは思わなかった」
「ねー! やっぱこの二人は凄かったのよ! 私のおかげよ!」

 駆けつけてきたのはドライゼンさんとアーデンさん。それと騎士達にリースン。
 流石にフラッド様は居ない。
 だけど、そこでスッと見たこと無い騎士さんが前で出てきた。

「魔族の将軍……お前がそうか」
【ああ。魔壁将グラッシという。お前がトップか?】

 目つきの鋭い騎士さんがグラッシを見てそう口にする。それに返答をすると、ため息を吐いてから口を開いた。

「そうだ。俺はこのロクニクス王国騎士団長、オランド。陛下に代わりこの場を預かることとなった。……その醜悪な魔族共に会わせるわけにはいかないからな」
【同感だ】
「グラッシさんが言ったら可哀想だと思うけど……元々敵だったしなあ」

 まあ顔が怖いのは間違いないし、僕もロカリス国で襲われているので気持ちはわかる。レッサーデビル達は『それはないでしょ』みたいな反応をしていた。その場に崩れ落ちる個体も居る……作られたわりに戦闘以外でも結構動くなあ……

 それはともかく、オランドさんの表情から察するに戦争中の相手と会話をすること自体に嫌悪しているといった感じが伝わってきた。

「それで話とはなんだ? 休戦でもするつもりか?」
「ええっと、その前に僕のことを話させてもらっていいですか?」
「君は……」
「フウタよオランドさん!」
「そうか、君が陛下の言っていた……わかった」

 オランドさんがそう言って頷いてくれた。怖そうな人だけど、冷静そうで安心する。
 そして僕はここまできた経緯をある程度話すことにした。ロカリスで召喚された勇者であることやヴァッフェ帝国で魔族と戦い、聖女のメイディ様とも知り合いになり、エルフとも仲良くなった話を。

「嘘だろ……」
「勇者……だから少し違うのね」
「凄い凄い! やっぱり私とけっこ――」
「それが本当である証拠は?」

 ドライゼンさんとアーデンさんは目を丸くして驚いていた。だましていたみたいで申し訳ない。
 リースンが興奮気味になにかを言いかけたところでオランドさんが僕に尋ねてきた。

「証拠は……うーん、なにかあるかな」
【その剣はどうだ? エルフのジエールが鍛えた勇者用の剣、という話だっただろう】
「え? どうかなあ。あ、そうかこれなら話が早いかも? ウィンディア様、お願いできますか?」
「「「え?」」」

 僕は剣を少しだけ抜いて緑色の刃を見せつつ、ウィンディア様を呼び出す。
 するとすぐに僕の横に音もなく現れてくれた。

『賢明な判断ですねフウタ様。初めましての方ばかりだと思います。わたくしは風の大精霊ウィンディア一時は魔王との戦いに協力をしていました』
「……!? なんだと……大精霊様……!? 本物なのか……魔族が化けているということは――」

 あ、一応、僕が魔族の仲間、もしくは操られているという懸念は持っていたらしい。疑いを持ってかかれる人はある種、信用できるね。疑い過ぎは良くないけど、状況はどう考えても僕達は嘘くさいし。

「まあ、信用してもらうしかないんで、これ以上はもう無いですかね……後はグランシア神聖国に連絡を取ってもらい、メイディ様に聞いてもらうしか……」
「い、いや、すまない……いくらなんでも大精霊は、と思ったのだ。本当であればその将軍が戦闘を止めたのも頷ける。魔王も倒せるのでは……?」
「それなんですけど――」

 オランドさんもみんなと似たようなことを口にする。
 ここまでの旅でそれくらい魔族とのいざこざは根が深いというのはわかっているため仕方が無いことだ。
 グラッシさんが眉を動かしたけど特になにも言わなかった。
 そのまま、僕は仲間と共に魔王の下へ行ったことを話し、さらにその魔王すらも黒幕に操られていたということを口にする。

「……!?」
【……!?】

 その場に居たロクニクス王国の人達がざわめき出す。グラッシさんと一緒に居なかったレッサーデビル達も驚いていた。お前達は本当になんなんだい……?

「それが本当なら……」
【我々が戦う理由はない、ということだ。故に、俺は攻撃を止めた。そちらの被害はこちらが攻めたことによるものだ、申し訳ない】
「あ、ああ……いや、しかし……」
「死んだ奴もいるし……」
「だけど黒幕ってやつがさ……」

 グラッシさんが頭を下げるけど、突然『実は敵じゃありませんでした』と言われても死んだ人は戻ってこない。
 それはロカリスで大勢の人がデビルに変えられて亡くなったのを目の当たりにしているため、納得がいかないというのは物凄くわかる。
 ざわつく騎士達にサッと手を翳してオランドさんが制する。

「気持ちはわかる。しかし、今の話が本当であれば恨みつらみでいがみ合うのはまずい。それこそ……黒幕の思うつぼだろう」
『そうですね。願いを叶えるという目的のためなら手段は問わず……そして今は世界を破滅にする願いを叶えるため魔王の島に居座っています』
「ど、どうするんですか……? あ、でもフウタが勇者だし倒せるのかしら?」

 リースンが焦りながらそう口にすると、ウィンディア様は難しい顔で答えた。

『わたくしも対峙しましたが、渡り歩く者は人間とも魔族とも違う、異質な存在。それこそ神と言っても過言ではないかもしれません』
「神……」
「そ、そんな奴とどうやって戦うのよー!? アーデンなんか案は無いの!?」
「いや、話を聞く限り願いをしている者を倒せばあるいは……」

 僕もそれは考えていた。
 渡り歩く者は願いを叶えるためにプロセスが必要だけど、それをするだけの力がある。
 だけど、アーデンさんの言う通り叶える願いが無くなれば渡り歩く者を倒せずとも世界に興味を失くすのではないかと

「そこはどうなるかわかりませんけど、僕は仲間を探してもう一度行くと思います。そのため、魔族の力も必要なのです。攻めていたことで恨みはあると思いますが、行かせてもらえませんか?」
【このグラッシで各国を攻めていた魔族は全員死んだか停戦をしている。残る脅威は奴等だけだ】
【魔王様がこちら側になったなら敵はもう渡り歩く者のみ。そして魔族が味方をしないなら戦力はない】
「なるほど……いや、それなら我々も後方支援くらいは――」
「そうね。世界の破滅が願いなら、私達にとっても他人事じゃないもの」

 レムニティとグラッシが現状を語ると、オランドさんが腕組みをしてそう言ってくれる。リースンも真面目な顔で世界の危機ならやれることをと口にしていた。

「だけど、実際戦力は無いに等しいのでは?」
「そうであれば全員でかかればいいのではないでしょうか?」

 そこで騎士さん達が意見を言う。
 そういえば転移魔法のことを言っていなかったなと僕は頭を掻いた。

「えっと……」
(戦力が無い、と思っているなら間違いだよ)
「お」
「今、どこかで声が――」
『……!? フウタ様! みなさん! あれを!』
「ウィンディア様? ……な、なんだあれ!?」

 レッサーデビル達が飛んできていた方角にブラックホールのようなものが現れ、そこから真っ黒な魔物が現れた。
 城と同じくらいの大きさをした四足歩行で一本角を携えた見たことのない奴だ。

【オオオオォォ……!!】
「で、でかい……!」
【あれは……馬鹿な……どうしてこの世界に居るのだ……】
「グラッシさん! あれは!」
【巨獣ベヒーモス……災厄の獣の一体だ!】
「なんだって……!?」

 グラッシさんが冷や汗をかきながら正体を呟く。その名はかつてリクさんが戦ったという最悪の魔物だった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。