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九章:風太

233.良かったのか悪かったのか分からないなあ……

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「それじゃ二階の五号室を使ってくれ」
「ありがとうございます」
「わん!」
「はは、あんまり汚さないでくれよ?」

 ギルドを出た僕達は宿へ赴いた。
 ファングが居るから断られるのを承知で話をしたところ、大人しくさせているなら問題ないと店主さんに許可を貰えた。

「お前は大丈夫だよな」
「わふわふ」

 大人しく抱っこされてくれたファングに言うと、肯定したように一声鳴いた。早速レムニティと部屋に行き、多くない荷物を置いてからベッドに腰かける。
 

「さて、それじゃ今後の予定だね」
【そうだな】

 レムニティに声をかけると、彼は荷物を置いて壁を背にして腕組みをする。何日か旅をしてきたけど、二人だけになるのは久しぶりだ。この後も集団行動になる可能性があるため今の内にできるだけ打ち合わせをしておこう。

「一応、僕達の目的は魔壁将グラッシを確保する。討伐はしないでこちらに引き込みたい」
【ああ。今さら人間と争う理由はないからな。本当に探しに行かなくていいのか?】
「うん。でも、ずっとここにグラッシ本人が攻めてこないなら、探しに行こうと思う」
【なるほど。あの時と同じようにか】

 レムニティの言うあの時とは、自分がリクさんと対峙したヴァッフェ帝国の出来事だ。作戦上、リクさんは拠点があると思われる場所へ向かっていた。

「レムニティは拠点を持っていたのかい?」
【私は持っていたな。海の断崖絶壁にあった。メルルーサが海を監視していたから並みの人間では辿り着けい場所だ】
「なるほど」
【アキラスやグラジールのように人間に紛れて居る者もいるがな】
「じゃあグラッシは?」
【どこかに拠点を構えているはずだ。あいつは空を飛ぶのが上手くないから、それほど遠くないと思う】

 そういえば以前レスバが空を飛べない魔族も居ると言っていたっけ。グラッシはそれに近い感じのようだ。

「性格は?」
【豪快、とでも言えばいいだろうか? ただ、魔王軍では守り役を担うため冷静で状況判断が上手い】
「オッケー。話は通じそうだしレムニティが居れば大丈夫っぽいかな」
【まあ、だいたい大丈夫だと思う】
「だいたい……?」

 レムニティが目を瞑って不穏なことを口にする。問いただそうと思ったところで、足元にいたファングがぐずりだした。

「くぅーん」
「なんだいファング?」
【腹が減ったのではないか? 最後に食事をしたのはもうずいぶん前だ】
「確かに」

 道中はリースンが食料を持っていたのでそれをいただいていたから良かったけど、町についた今、彼女は城へ行ってしまった。

「それじゃ、ちょっと町を散策してみようか。食堂を探しつつ、町がどういう構造か知りたいしね」
「わふん♪」
【リクなら言いそうなセリフだ。では、早速行こう】
「え、もうちょっとゆっくりしようよ」
【いや、ファングはもう限界だと思う。そうだろう?】
「わふ?」

 レムニティに抱っこされたファングは舌を出して首を傾げていた。きっとお腹が空いているのはレムニティなのだろうと僕は苦笑するのだった。
 ……戻ったらスマホを使ってみよう。リクさんと夏那の無事を確認したい。後は水樹にもう一度繋がれば、ここを解決した後で合流も考えないと。
 気がかりなことはたくさんある。レスバやブライクさん、ビカライアにメルルーサさんといった魔族達もどこかへ飛ばされているからね。まあ、強いからなんとでもなりそうだけど。

「そういえばハリソンとソアラも大丈夫かな……」
【馬達か。あいつらにも世話になったし、無事だと嬉しいがな】

 レムニティはそう言って抱っこしたファングの背中を撫でていた。ひとまず、目の前のことを片付けるかと僕は気を引き締め直す。


◆ ◇ ◆

 ――ロクニクス城

 リースンは風太と別れた後、ドライゼンとアーデンを連れて真っすぐ城へと帰還した。
 馬車を使用人に任せ、報告をするため城内を歩いていると自分の父親の姿を発見する。

「あ、お父様! リースン、ただいま戻りました!」
「……! おお、リースン! ……このお転婆娘が!」
「あいた!? 可愛い娘になにするのよ!」

 リースンが笑顔で声をかけたところ、父親に拳骨をもらった。激昂する彼女に、父親が眉間に皺を寄せて口を開いた。

「私に黙って旅に出てなにをするかとはよく言ったものだ。強者を探すよう陛下が依頼をかけていたのは知っていたがまさかお前が行くとは思うまい……」
「いやあ、みんな忙しいし陛下のお役に立てるならいかなーって」
「……まったく、我が娘ながら呆れるわい。無事で何よりだ。ドライゼン、アーデン、すまないな」
「ははは、イワノフ殿の心配はよく分かりますよ。まあ俺達も陛下が慌てて派遣してくれたおかげで早い段階で合流できたんですよ」

 リースンの父、イワノフへドライゼンが告げる。それを聞いてイワノフが目を丸くして返答する。

「陛下が……!? なんと、ご迷惑をおかけしてしまったな……」
「大丈夫よ、陛下は優しいし」
「リースンが言ってはダメよ」

 あっさりと言うリースンにアーデンがジト目で返す。舌を出してウインクをする彼女をイワノフが軽く小突いていた。

「あたた……」
「それくらいで済んで良かったと思え。お前の剣はまあまあそこそこだが、外の世界では通用せん。それで、戻って来たということはもう旅は飽きたのか?」
「ひど!? 遊びで出て行ったわけじゃないって!」
「しかし、今まで数人こちらへ寄越したがお前は戻ってこなかったろう」

 イワノフが訝し気に尋ねると、リースンは胸を張ってから話し出す。

「そのことなんだけど、スカウトしてきた二人がとても強くてさ。他の人も派遣してくれているしそろそろいいかもと」
「……そして、その中の一人、フウタさんを婿にしようと企んでいます」
「ぶっ!? リースン、お前!?」
「あ! アーデン先に言わないでよ! ま、まあ、そういうことだから結婚はもう大丈夫よ」
「馬鹿者……! 由緒正しきコルア家に冒険者を迎え入れられるか……!」
「大丈夫、フウタはイケメンだもの」
「だからなんだ……!」

 勝ち誇ったように笑みを浮かべるリースンに怒声を浴びせるイワノフ。そこへドライゼンがまあまあと仲裁に入った。

「二人とも落ち着いて。とりあえず連れて来た二人は間違いなく強いので、そこは俺が保証します。それと確かにイケメンではありますよ」
「お前が言うほどか。なら相当強いな……いや、しかし冒険者はな……」
「いいじゃない。家はアストンが継げば」
「簡単に言うな。まあ、戦力補充はありがたいか。最近は魔族の数も増えておるからな」
「ならそこでフウタが活躍したら――」
「イワノフ、どうしたのだ?」

 そこで二十代前半ほどの男性が声をかけてきた。見事な金髪に青い瞳をした優しそうな表情をした青年だ。そんな彼にイワノフは頭を下げる。

「これは陛下……! 騒がしくして申し訳ございません」
「フラッド陛下、お久しぶりです」
「……!? リースンではないか! 戻って来たのか!」
「はい! ドライゼンとアーデンには助けられました。ありがとうございます!」
「うんうん、それは良かった! あまりわた……両親を困らせるんじゃないぞ?」

 小さい頃から知っているため心配をしたというフラッドに、リースンが告げる。

「えへへ……申し訳ございません。あ、でもいいこともあったんですよ。私、いい人を見つけたんですよ」
「へえ、それは良かっ……なんだって……!?」
「その人は――」

 リースンが照れながら話そうとしたところで、フラッドは冷や汗をかきながらドライゼンとアーデンに言う。

「と、とりあえず無事で何よりだ。ドライゼン、アーデンもご苦労だった。……長旅の後で申し訳ないが少し話を聞かせてくれるかな?」
「……はあ、承知しました」
「……こうなると思った」
「え?」

 疲れた顔で二人が返事をする中、リースンが良く分からないといった感じで首を傾げていた。
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