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第八章:魔族との会談

223.何枚も上手だと言うことか

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「……っ!?」
「え……?」
『う、嘘……フウタ! フウターー!』

 一瞬。
 ほんの一瞬の間だった。腕が上がった、まばたきをした……そんな刹那の瞬間で風太が消えた。

「てめえ……風太をどうした……」
「ひっ……」
「リ、リクさん?」
『リク、殺しちゃダメよ。風太のことを聞いてからよ』

 俺の殺気を感じて夏那と水樹ちゃんが怯んでいた。だが、今はそこのケアをしている場合じゃない。【渡り歩く者】に一歩、近づきながら聞く。すると【渡り歩く者】は余裕の表情で口を開く。

【んー? ああ、大丈夫だ、死んではいないよ。ちょっと転移魔法の実験をね?】
「転移魔法だと……!? 風太をどこに飛ばした!」
【……これが勇者か……】
【とんでもない殺気なんですけど……】

 背後でブライクとレスバが掠れた声で呟くのが聞こえてきた。これでも全力じゃないがな。

【さあ? 適当に使ったからわからないかな? ドラゴンの巣だったりして? ああ、海の上だったりして! はは!】
「貴様……!!」
「リク!」

 イリスが止めに入るが風太を消したこいつを許すわけにはいかない! 腰の剣を抜いて一気に詰め寄るとフェリスの抱いている赤子のグラジールが手をこちらに向けた。

【この前の礼だ……!!】
「チッ……!?」

 瞬間、俺に向かって巨大な灼熱の槍が飛び出した。俺は魔妖精の盾シルフィーガードを展開してそのまま受ける。

「今のって、まさかブレイズランス……!?」
【これをガードするとは、やるな勇者。いや、流石だと言っておこうか】

 夏那の言う通り今のは恐らくその類の魔法だろう。だが、いくらなんでも赤子が撃てるような威力ではなく、さらに言えば成体のグラジールよりも強かったかもしれない。

「ガードするより避けた方が……」
【馬鹿を言うな小娘。今のを避けていたらこっちに飛んできたぞ。グラジール、貴様は同胞に牙を向けるのか】
「あ、そっか……あ、あれ?」

 水樹ちゃんの言葉にセイヴァーが鼻を鳴らして言う。その通り、今のは確実に俺ではなく後ろのメンツを狙っていた。俺は一旦下がりながら

「……転移魔法がこの世界にもあるのか。俺がやった時は全然できなかったのに」
【そうだろう。魔王と聖女の身体に入っている時には私もできなかったよ。だが、現地人の身体を得たらこの通り、というわけだリク】
「そういうことか……だからフェリスを」
【まあ、ここまで『想い』を持った人間は僥倖だったけどな。そしてグラジールもフェリスから産み落とされた】
「……! 全部計算の内、ってことか?」
「なに、どういうこと?」

 風太が居なくなり、声が震えている夏那が俺に聞いてきた。話している暇はなさそうだが……

「推測だがグラジールは最初からフェリスを狙っていたのかもしれない。各国へ将軍を差し向ける際にそういう指示を出したかもしれないってことだ。その時点ではこいつがセイヴァーではないことを知らないからな」
【その女をここに連れてくることが指示だった、ということか】
【で、でも、わたしがフェリスを飛ばしたんですよ!? 転移石はグラジール様に……あ】

 そこでレスバが自分で自分の言葉を解決した。そう、こいつは転移石とやらでフェリスを飛ばした。そのアイテムそのものはこの世界のものだったら出来る。

「国を滅ぼした時に拾ったとかいくらでも状況はあるからな」
【ま、俺は【渡り歩く者】なんて知らなかったがよ。聖女の卵を連れてこいってのは言われていたけど】
【わたしは聞いていませんよ!?】
【てめえはドジふむだろうと思ってたから俺になにかあったら転移石を使えって説明したんだよ! 見ろ、勇者共とつるんでいる今がその証拠だ】

 グラジールが副将軍を務めていたレスバを嘲笑する。無益な争いをしないという選択をしただけで立派だと思うがな。すると後ろにいたハイアラートが口を開く。

【そんな正体不明の存在に唆されているお前が言うことか?】
【くく、この力を手したらそんなことを言えなくなるぞハイアラート! この赤子の姿であの威力。まだ力が溢れてくる。……俺はフェリスとこの世界を支配する。もう、フェリスも人間に未練はあるまい】
『……そうね。話があまり見えてこないけれど、グラジール、あなたの言うことはとても魅力的だわ』
「フェリス!」
『うるさい! 私の誘いに乗らなかったお前が止めるな!』

 そこで意識を交代したフェリスが、激高しながら頭上に巨大なファイヤーボールを生み出した。それでもこのメンバーならこいつを止めるのは難しくない!

「おい、セイヴァー手伝え。俺は仲間を探しに行きたいがあいつはここで倒しておいた方がいい」
【不本意だがいいだろう。グラジール、後悔するといい】
「あ、あたしも……!」
「夏那と水樹ちゃんは下がっていてくれ。メルルーサ、レスバ、ブライク二人を頼む」
【も、もちろんですけど……】
【大丈夫、こっちはブライクと私が居れば】
「あ、あの、ファング……ファングが居ないんです――」

 将軍二人なら何とでもなる。そう思っていると水樹ちゃんが焦りながらファングが居なくなったと言う。
 するとその直後、俺達の足元に超巨大な魔法陣が浮かび上がる。

【グラジールも本調子でないし、フェリスにも色々と教えなければいけないんだ。ここで元勇者と魔王のコンビは面倒だ。かと言って殺すのは難しい。だから……くく、さようなら――】
「しまった……!? イリス、夏那、水樹ちゃん!」
「リク!」
「リクさん!」
「レスバあんたも――」

 俺は三人に手を伸ばす。魔族達もそれに気づき、ブライクとビカライアが空に飛ぶ。だが、足をついていなければいいわけでも無いようで二人が消える。

【これは……反射できんというのか】
【ブライク! 魔王様! ……ロウデン!】
【すまんハイアラート! ワシでもこの陣を解くのは無理じゃ! 他の魔族達とここを離れる!】

 どこかに隠れていたらしい俺の知らない魔族の声がどこからか響いてくる。すぐに気配は消え、場を離れたようだ。そういえばレスバの家族がいると言っていた。

 まさかここまでの規模の転移魔法が使えるとは……!? 風太を単独で消したのは意識を逸らすためか!
 
「く、そ……!」
【次に会えるといいね、我が弟子リク】

 楽しそうな師匠の声を最後に、俺は手を伸ばす夏那達が消えるのを見ているだけとなった。そして俺も目の前が真っ暗に――


◆ ◇ ◆


「う……」
【気づいたか、フウタ】
「うぉふ」
「うわ!? ファング顔を舐めないでよ!? そういえば僕は……ってお前は!?」
【暴れるな。まだ高度がある】

 見れば足元は無く、僕は空を飛んでいることに気付く。だけどそれよりも驚くことがあった。

「レムニティ、どうしてあなたが僕を……」
【話は後だ。ひとまず地上へ行くとしよう――】

 僕とファングを抱えて飛んでいたのはかつてヴァッフェ帝国でリクさんが倒した魔空将レムニティだった――
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