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第八章:魔族との会談

221.持ち手札はどちらが強いか?

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 魔法の詠唱。

 全てが唱え終わった後、俺の目の前に光り輝く魔法陣が現れた。それと同時に目の前に居る【渡り歩く者】の身体が鈍く光る。

【ぐ、うう……なるほど……フフ、流石は私の弟子だね……】
「な、なに、どういうこと……?」

 呻く【渡り歩く者】に夏那が困惑した顔で俺と見比べる。これを耐えるとは……世界を渡るというのはハッタリじゃなさそうだ。

「リクさん、これってもしかして……!」

 眩しい光を腕で遮りながら水樹ちゃんも口を開く。彼女は今、俺がやったことがなんなのかを理解したらしい。
 
「そう……召喚魔法だ。こいつやメイディ婆さん、アキラスがやった『異世界の者を喚ぶ』魔法を俺が使った」
「リクさんいつの間に使えるようになったんですか!?」
「理論自体はかなり前からだ。さらに言うなら――」
「わふ」

 俺はファングを抱っこして水樹ちゃんに渡す。

「こいつの召喚に成功したあたりから、だな」
『やっぱり……ファングはファングだったんだ……』
「まあな。だが、こいつは俺達の知るファングじゃない。並行世界のヤツだろうな」
『そうなの?』

 この世界でファングを見たリーチェが『少し小さい』と言っていたが、まさにその通りだった。そして俺達の記憶が変わっていないことが俺の望んだファングではないことを物語っていた。

「じゃあ別世界のファングと会うはずだったリクさんは会えなくなったのかな……」
「どうかな。そもそもかは確認のしようがないからな」
【ていうか、苦しんでますけどなにやったんです?】
【……だいたい分かるけど、上手くいくかしら】
「……」

 メルルーサはわかったか?
 実際、召喚は成功したが、この後どうなるかまでは分からない。そう思っていると――

「う……ま、魔法陣がさらに――」

 風太がそう言った瞬間、魔法陣が一層強く輝き、その場に居た全員が目を瞑るほどの光量を放った。

 そして――

「う、うう……」
【わ、我は……一体……勇者と聖女……どこだ……?】
【……!? ま、魔王様!?】
「え、あれ!? イリスさん!?」
「……」

 ――成功した。

 俺の目の前に吸収される前のイリスと最終決戦前のセイヴァーが現れた。

「ま、魔王セイヴァー!」
【貴様……聖女イリス……!!】
「あー、悪い。ちょっと立て込んでいるんだ、少し待ってくれ」
「え? ……あ、あなた、まさか――」
【ゆ、勇者……?】

 さて、こっちはいいとしてあっちはどうかね?

【ぐ、うう……】
「消滅していないのか……」

 先ほどまでイリスの身体を使っていた【渡り歩く者】が師匠の姿に戻り、幽霊のように漂っていた。俺の見立てでは憑りつく先が無くなれば消滅すると思っていたんだが、この推測は外れたらしい。
 すると漂っている師匠……【渡り歩く者】が冷や汗をかきながら口を開く。

【ふ、ふふ……まさか、私のやったことをそっくり返されるとは思わなかったねえ……】
「これだけ時間を貰っていればこれくらいはできるさ。伊達に一度、異世界を体験していない。もっと早くここに来ていたらいいようにやられていただろうがな」
「さっすがリク! ってことはもうこいつはイリスさんの願いもセイヴァーの願いも無効になったのよね」
「だと思う。解釈を捻じ曲げることをするだろうが、宿主が居なければそれもできまい」
「なにがなんだか……」
「イリスさんはこちらへ」

 イリスが困惑する中、水樹ちゃんがイリスを連れてセイヴァーから距離を取る。俺は目が離せないので助かるなと胸中で思う。
 
「というわけでハイアラート、お前の主はこっち側に来たぜ? どうするんだ?」
【む……確かに……礼は言わんぞ】
「気にすんな。この世界じゃ同じ被害者みたいなもんだ」
【勇者と魔族が揃っているとはな……説明、という雰囲気ではないか】
「悪いけどまだ続行中だから。ってか魔王って女だったのね」
【なんだ小娘? 死にたいのか?】
「言うわねーさすがは魔王って感じ」
【ほう……我に臆さんとは】

 自己紹介でもと行きたいところだが、目の前のこいつの動向がはっきりするまで動くのは危険だ。正直な話、こいつが戻せないと言うなら留まる必要は無い。魔王次第だが、魔族と争う意味も見いだせない。

【……確かにイリスとセイヴァーの願いはこの召喚で無効になったよ。今の私はまたも、ただ彷徨う旅人になった】
「それじゃ、お前はまたどこか別の世界へ行くのか」
【そうだね。リクの師匠はもう終わりだよ】
「そうか」
「これで、終わり……?」
「多分……」
『なんで、師匠だったのにこんなことをしたのよ』

 周囲に安堵の空気が流れ始めたところでリーチェがそんな質問を投げかける。ふわふわと浮いている【渡り歩く者】は少し微笑んだ後で言う。

【私にはなにもないんだよリーチェ。楽しいとか苦しいとかを知っていてもそれを自分で体験することはできない。だから人の願いに引き寄せられる。疑似体験というやつに似ているかもしれないな。それが良いことでも悪いことでも関係ない】
「強い願いほど本質……本性が見れるからってところか」
【……フフ、弟子にはお見通しだね】

 恐らくだが、そういう感情が大きく振れた奴がどうなるのかを楽しんでいるのかもしれない。どちらかと言えば悪い方を。

【さて、このまま消えるのがリク達の願いになるのかな?】
「……そうなりますね。大人しく立ち去ってくれると、助かります」
【フフ、素直だな江湖原 水樹。だけど、世の中はそれほど広くないんだ、すまないな】
【どういうことですか……? というか別に願いが無ければあなたはただ漂うだけなのでは?】

 レスバが訝しむようにそう言うと【渡り歩く者】はゆっくりと視線をどこかに向けて口を開く。

【そうかな? 人間というのは特に願いが強くなる傾向にある。魔物や動物だとこうはいかない……感情があるのはやはり人間がいい。魔族もどちらかと言えばそこまでじゃないんだ――】
「どういう――」

 俺が尋ねようとした瞬間、いつの間にか【渡り歩く者】の目の前に何かが現れた。

「あ!? あれは――」
「そういう、ことか……!」

 いつからこれを想定していたのかわからない。だけど、恐らくここまでがこいつの筋書き。召喚でイリスとセイヴァーを助けるところまでもそうだったのかもしれない――

【さて、私の仕事が無くなってしまったんだ。だから今度は君の願いを叶えるために頑張らせてもらおうかな? よろしく頼むよ、フェリス】
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