上 下
101 / 137
第八章:魔族との会談

212.魔族

しおりを挟む
「う、うう……!?」
【……そろそろか】

 大幹部ハイアラートが大きくなったフェリスのお腹を見てそう呟く。消える前に転移させられた彼女は確実になにかを『産む』準備が整いつつあった。
 そんな彼女を見下ろしていると、フェリスが口を開く。

「け、汚らわしい魔族にこんな……ことを……! 死ね……みんな死んでしまえばいい……!」
【……】

 その言葉に耳を傾けず、食事だけ置いてハイアラートは部屋から出ていく。
 洞窟のような場所なので窓はなく、鍵はついていないがフェリスは逃げることができなかった。海に囲まれた孤島から脱出するには船が必要だがそれを用意することができないからだ。
 それに身体が思うように動かないせいもある。

「どうして……こんな……メイディ様、私は……どうすれば良かったの……」

 最後にそんな言葉が耳に入って来たがハイアラートは振り返ることなく歩いて行く。
 そのまま魔王の部屋まで歩いて行くと、もう一人の大幹部が声をかけてきた。

【ハイアラート、また魔王様のところかね】
【ロウデン殿】

 振り返ってその男の名を呼ぶ。そこには銀髪を逆立てた褐色の年老いた男が、顎に手を当てて佇んでいた。
 自分と同じ立場の彼にハイアラートが話を振った。

【どうしました? あなたも魔王様に謁見を?】
【まあ、そんなところじゃよ。様子を見なければなるまい】
【そうですね。傷が癒える速度が落ちてきたので、なにか策をと考えているのですが……】

 ハイアラートが目を細めて魔王の居る部屋の扉を見る。その件についてロウデンが息を吐いてから答えた。

【……難しい問題じゃな。聖女と融合したことで力は増したが、逆にそのせいで治癒力が落ちていると考えてよい】
【むう……】

 聖女を取り込むという作戦を考えたのはハイアラート自身で、あの時は勇者の精神を潰すことも合わせて絶対に勝てると判断した。だが、結果は相打ち……しかし、勇者はどうなったか分からず、主人である魔王は死ぬ直前となった。

【私は間違っていたのだろうか?】
【どうかのう。あの戦いで勇者は確実に魔王様を倒すことができるまで成長していた。それを上手くすれば倒せるところまでもっていたのだからトントンと言ったところじゃな。ただひとつ、ワシらには誤算があった】
【誤算、ですか】
【うむ。人間の力……それを見誤ったのだよ】
【……】

 確かに、と、ハイアラートは片目を瞑って当時のことを思い返していた。自分の大切な人間が消える。そういうのに弱いことを知っていたからこその奇襲。そしてそれは成功した。
 だが、実際には思い描いていた結果にはならず、勇者は融合した聖女と共に魔王を斬り伏せたのだ。

【人間の力か……】
【それが何なのかはワシらには分からん。なんせ想い人を斬ったのじゃからな】

 魔族もやるがやはり躊躇いは出る。しかし勇者はその躊躇が一切なかった。薄情であると思う一方、それが出来るのかと恐れた二人。

【私も勇者と討ち果てるつもりだったのだがな……】
【この地へ呼ばれたからそれも叶わなくなってしまったのう。さて、魔王様の様子を見るとしようかのう】
【そうですね】

 二人の大幹部が中へ入り、相も変わらず特殊な薬液の中に漂う魔王セイヴァーの姿を見る。

【国を一つ滅ぼした際に力を使ってからこの状態……助かるだろうか……】
【わからん。そもそも召喚されたのが別世界じゃ。概ねワシらの世界と似とるが――】
【(来ます……彼らが……)】
【!?】
【……!?】


 二人が会話する中、突如として頭に声が響き渡った。
 お互い顔を見合わせた後、セイヴァーの方へ視線を向ける。するとさらに声が聞こえてきた。

【(あと一息……もうすぐ勇者がこの地へやってきます……来たら……ここへ連れてくるのです……)】
【なんですと……!? アキラスめ、失敗したのか!?】
【(そうでは……ありません……いいですね、戦ってはいけません……)】
【戦うな、か。この世界の勇者はどのような者なのか……】

 ロウデンが渋い顔で呟く。
 ハイアラートはそれを受けて口を開いた。

【こちらに攻撃をしてくるようであれば反撃をしますが、それは問題ありませんか?】
【(大丈夫……来れば……わかります……)】
【それはどういう……?】

 しかし最後の質問にはセイヴァーの答えは無かった。頭を振りながらハイアラートはロウデンへ向き直り質問を投げかけた。

【どう思いますか?】
【間違いなく魔王様の声じゃった。となれば言う通りにすべきだろう。それにしても勇者か】
【こっちの勇者はそれほど強くないといいのですがね。招集をかけたいが、魔王様の口ぶりだと間に合いそうにないな】
【近くにはグラッシがいたはずだ。奴だけでも呼ぶとするか――】

 ロウデンがそう言って顎に手を当てて言う。歓迎をするつもりはない。むしろ迎撃の用意をするべきだと行動を開始した――


◆ ◇ ◆


【見えてきたわよ】
「あれが……」
「魔王のいる島……」
「……」

 メルルーサの指した先に少し霧がかかった島が目の前に出てきた。俺達の旅の最終目標……魔王セイヴァーのいる場所。

「リクさん、大丈夫ですよね?」
「俺が居るんだ、安心しろ。元の世界に戻れるといいな」
「……」
『ミズキはどうなるかわからないけど……』
「くぅん」

 風太が俺に話しかけてきた。
 元の世界、というキーワードを口にすると無言で前を見つめている水樹ちゃんに視線を合わせた。
 リーチェは二人が帰ることになったことを考えて寂しそうにファングの頭に体をうずめた。
 水樹ちゃんもできれば戻るべきだとは思うが……

 それぞれの思いを抱えながら、船は魔王の住む島『ブラインドスモーク』へ到着した――
しおりを挟む
感想 631

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪
ファンタジー
世界には多種多様な種族が存在する。 人間、獣人、エルフにドワーフなどだ。 その中でも最強とされるドラゴンも輪の中に居る。 最強でも最弱でも、共通して言えることは歳を取れば老いるという点である。 この物語は老いたドラゴンが集落から追い出されるところから始まる。 そして辿り着いた先で、爺さんドラゴンは人間の赤子を拾うのだった。 それはとんでもないことの幕開けでも、あった――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。