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第八章:魔族との会談
212.魔族
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「う、うう……!?」
【……そろそろか】
大幹部ハイアラートが大きくなったフェリスのお腹を見てそう呟く。消える前に転移させられた彼女は確実になにかを『産む』準備が整いつつあった。
そんな彼女を見下ろしていると、フェリスが口を開く。
「け、汚らわしい魔族にこんな……ことを……! 死ね……みんな死んでしまえばいい……!」
【……】
その言葉に耳を傾けず、食事だけ置いてハイアラートは部屋から出ていく。
洞窟のような場所なので窓はなく、鍵はついていないがフェリスは逃げることができなかった。海に囲まれた孤島から脱出するには船が必要だがそれを用意することができないからだ。
それに身体が思うように動かないせいもある。
「どうして……こんな……メイディ様、私は……どうすれば良かったの……」
最後にそんな言葉が耳に入って来たがハイアラートは振り返ることなく歩いて行く。
そのまま魔王の部屋まで歩いて行くと、もう一人の大幹部が声をかけてきた。
【ハイアラート、また魔王様のところかね】
【ロウデン殿】
振り返ってその男の名を呼ぶ。そこには銀髪を逆立てた褐色の年老いた男が、顎に手を当てて佇んでいた。
自分と同じ立場の彼にハイアラートが話を振った。
【どうしました? あなたも魔王様に謁見を?】
【まあ、そんなところじゃよ。様子を見なければなるまい】
【そうですね。傷が癒える速度が落ちてきたので、なにか策をと考えているのですが……】
ハイアラートが目を細めて魔王の居る部屋の扉を見る。その件についてロウデンが息を吐いてから答えた。
【……難しい問題じゃな。聖女と融合したことで力は増したが、逆にそのせいで治癒力が落ちていると考えてよい】
【むう……】
聖女を取り込むという作戦を考えたのはハイアラート自身で、あの時は勇者の精神を潰すことも合わせて絶対に勝てると判断した。だが、結果は相打ち……しかし、勇者はどうなったか分からず、主人である魔王は死ぬ直前となった。
【私は間違っていたのだろうか?】
【どうかのう。あの戦いで勇者は確実に魔王様を倒すことができるまで成長していた。それを上手くすれば倒せるところまでもっていたのだからトントンと言ったところじゃな。ただひとつ、ワシらには誤算があった】
【誤算、ですか】
【うむ。人間の力……それを見誤ったのだよ】
【……】
確かに、と、ハイアラートは片目を瞑って当時のことを思い返していた。自分の大切な人間が消える。そういうのに弱いことを知っていたからこその奇襲。そしてそれは成功した。
だが、実際には思い描いていた結果にはならず、勇者は融合した聖女と共に魔王を斬り伏せたのだ。
【人間の力か……】
【それが何なのかはワシらには分からん。なんせ想い人を斬ったのじゃからな】
魔族もやるがやはり躊躇いは出る。しかし勇者はその躊躇が一切なかった。薄情であると思う一方、それが出来るのかと恐れた二人。
【私も勇者と討ち果てるつもりだったのだがな……】
【この地へ呼ばれたからそれも叶わなくなってしまったのう。さて、魔王様の様子を見るとしようかのう】
【そうですね】
二人の大幹部が中へ入り、相も変わらず特殊な薬液の中に漂う魔王セイヴァーの姿を見る。
【国を一つ滅ぼした際に力を使ってからこの状態……助かるだろうか……】
【わからん。そもそも召喚されたのが別世界じゃ。概ねワシらの世界と似とるが――】
【(来ます……彼らが……)】
【!?】
【……!?】
二人が会話する中、突如として頭に声が響き渡った。
お互い顔を見合わせた後、セイヴァーの方へ視線を向ける。するとさらに声が聞こえてきた。
【(あと一息……もうすぐ勇者がこの地へやってきます……来たら……ここへ連れてくるのです……)】
【なんですと……!? アキラスめ、失敗したのか!?】
【(そうでは……ありません……いいですね、戦ってはいけません……)】
【戦うな、か。この世界の勇者はどのような者なのか……】
ロウデンが渋い顔で呟く。
ハイアラートはそれを受けて口を開いた。
【こちらに攻撃をしてくるようであれば反撃をしますが、それは問題ありませんか?】
【(大丈夫……来れば……わかります……)】
【それはどういう……?】
しかし最後の質問にはセイヴァーの答えは無かった。頭を振りながらハイアラートはロウデンへ向き直り質問を投げかけた。
【どう思いますか?】
【間違いなく魔王様の声じゃった。となれば言う通りにすべきだろう。それにしても勇者か】
【こっちの勇者はそれほど強くないといいのですがね。招集をかけたいが、魔王様の口ぶりだと間に合いそうにないな】
【近くにはグラッシがいたはずだ。奴だけでも呼ぶとするか――】
ロウデンがそう言って顎に手を当てて言う。歓迎をするつもりはない。むしろ迎撃の用意をするべきだと行動を開始した――
◆ ◇ ◆
【見えてきたわよ】
「あれが……」
「魔王のいる島……」
「……」
メルルーサの指した先に少し霧がかかった島が目の前に出てきた。俺達の旅の最終目標……魔王セイヴァーのいる場所。
「リクさん、大丈夫ですよね?」
「俺が居るんだ、安心しろ。元の世界に戻れるといいな」
「……」
『ミズキはどうなるかわからないけど……』
「くぅん」
風太が俺に話しかけてきた。
元の世界、というキーワードを口にすると無言で前を見つめている水樹ちゃんに視線を合わせた。
リーチェは二人が帰ることになったことを考えて寂しそうにファングの頭に体をうずめた。
水樹ちゃんもできれば戻るべきだとは思うが……
それぞれの思いを抱えながら、船は魔王の住む島『ブラインドスモーク』へ到着した――
【……そろそろか】
大幹部ハイアラートが大きくなったフェリスのお腹を見てそう呟く。消える前に転移させられた彼女は確実になにかを『産む』準備が整いつつあった。
そんな彼女を見下ろしていると、フェリスが口を開く。
「け、汚らわしい魔族にこんな……ことを……! 死ね……みんな死んでしまえばいい……!」
【……】
その言葉に耳を傾けず、食事だけ置いてハイアラートは部屋から出ていく。
洞窟のような場所なので窓はなく、鍵はついていないがフェリスは逃げることができなかった。海に囲まれた孤島から脱出するには船が必要だがそれを用意することができないからだ。
それに身体が思うように動かないせいもある。
「どうして……こんな……メイディ様、私は……どうすれば良かったの……」
最後にそんな言葉が耳に入って来たがハイアラートは振り返ることなく歩いて行く。
そのまま魔王の部屋まで歩いて行くと、もう一人の大幹部が声をかけてきた。
【ハイアラート、また魔王様のところかね】
【ロウデン殿】
振り返ってその男の名を呼ぶ。そこには銀髪を逆立てた褐色の年老いた男が、顎に手を当てて佇んでいた。
自分と同じ立場の彼にハイアラートが話を振った。
【どうしました? あなたも魔王様に謁見を?】
【まあ、そんなところじゃよ。様子を見なければなるまい】
【そうですね。傷が癒える速度が落ちてきたので、なにか策をと考えているのですが……】
ハイアラートが目を細めて魔王の居る部屋の扉を見る。その件についてロウデンが息を吐いてから答えた。
【……難しい問題じゃな。聖女と融合したことで力は増したが、逆にそのせいで治癒力が落ちていると考えてよい】
【むう……】
聖女を取り込むという作戦を考えたのはハイアラート自身で、あの時は勇者の精神を潰すことも合わせて絶対に勝てると判断した。だが、結果は相打ち……しかし、勇者はどうなったか分からず、主人である魔王は死ぬ直前となった。
【私は間違っていたのだろうか?】
【どうかのう。あの戦いで勇者は確実に魔王様を倒すことができるまで成長していた。それを上手くすれば倒せるところまでもっていたのだからトントンと言ったところじゃな。ただひとつ、ワシらには誤算があった】
【誤算、ですか】
【うむ。人間の力……それを見誤ったのだよ】
【……】
確かに、と、ハイアラートは片目を瞑って当時のことを思い返していた。自分の大切な人間が消える。そういうのに弱いことを知っていたからこその奇襲。そしてそれは成功した。
だが、実際には思い描いていた結果にはならず、勇者は融合した聖女と共に魔王を斬り伏せたのだ。
【人間の力か……】
【それが何なのかはワシらには分からん。なんせ想い人を斬ったのじゃからな】
魔族もやるがやはり躊躇いは出る。しかし勇者はその躊躇が一切なかった。薄情であると思う一方、それが出来るのかと恐れた二人。
【私も勇者と討ち果てるつもりだったのだがな……】
【この地へ呼ばれたからそれも叶わなくなってしまったのう。さて、魔王様の様子を見るとしようかのう】
【そうですね】
二人の大幹部が中へ入り、相も変わらず特殊な薬液の中に漂う魔王セイヴァーの姿を見る。
【国を一つ滅ぼした際に力を使ってからこの状態……助かるだろうか……】
【わからん。そもそも召喚されたのが別世界じゃ。概ねワシらの世界と似とるが――】
【(来ます……彼らが……)】
【!?】
【……!?】
二人が会話する中、突如として頭に声が響き渡った。
お互い顔を見合わせた後、セイヴァーの方へ視線を向ける。するとさらに声が聞こえてきた。
【(あと一息……もうすぐ勇者がこの地へやってきます……来たら……ここへ連れてくるのです……)】
【なんですと……!? アキラスめ、失敗したのか!?】
【(そうでは……ありません……いいですね、戦ってはいけません……)】
【戦うな、か。この世界の勇者はどのような者なのか……】
ロウデンが渋い顔で呟く。
ハイアラートはそれを受けて口を開いた。
【こちらに攻撃をしてくるようであれば反撃をしますが、それは問題ありませんか?】
【(大丈夫……来れば……わかります……)】
【それはどういう……?】
しかし最後の質問にはセイヴァーの答えは無かった。頭を振りながらハイアラートはロウデンへ向き直り質問を投げかけた。
【どう思いますか?】
【間違いなく魔王様の声じゃった。となれば言う通りにすべきだろう。それにしても勇者か】
【こっちの勇者はそれほど強くないといいのですがね。招集をかけたいが、魔王様の口ぶりだと間に合いそうにないな】
【近くにはグラッシがいたはずだ。奴だけでも呼ぶとするか――】
ロウデンがそう言って顎に手を当てて言う。歓迎をするつもりはない。むしろ迎撃の用意をするべきだと行動を開始した――
◆ ◇ ◆
【見えてきたわよ】
「あれが……」
「魔王のいる島……」
「……」
メルルーサの指した先に少し霧がかかった島が目の前に出てきた。俺達の旅の最終目標……魔王セイヴァーのいる場所。
「リクさん、大丈夫ですよね?」
「俺が居るんだ、安心しろ。元の世界に戻れるといいな」
「……」
『ミズキはどうなるかわからないけど……』
「くぅん」
風太が俺に話しかけてきた。
元の世界、というキーワードを口にすると無言で前を見つめている水樹ちゃんに視線を合わせた。
リーチェは二人が帰ることになったことを考えて寂しそうにファングの頭に体をうずめた。
水樹ちゃんもできれば戻るべきだとは思うが……
それぞれの思いを抱えながら、船は魔王の住む島『ブラインドスモーク』へ到着した――
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