上 下
88 / 134
第八章:魔族との会談

199.魔族と倫理観を擦り合わせだ

しおりを挟む
 外に出た俺達はブライク達を呼ぶために森の中を歩いていく。
 念のため冒険者や騎士と鉢合わせをしないように魔封サイレンスはかけておく必要はあるか。
 そんなことを考えているとレスバが笛を取り出して口を開く。

【さて、そろそろいいでしょうか?】
「お、そうだな。頼むぜ」
「冗談じゃなかったんだ……」

 風太が呆れたように言う。夏那と水樹ちゃんも苦笑しているのでやはり冗談だと思っていたようだ。ちなみに俺もそう思っていた。

【な、なんですかその目は……! とりあえず呼びますからね!】
「オッケー」

 念のためか夏那は槍を肩に担いだまま木を背にして応えた。見れば残り二人もしっかり武器をすぐ使えるようにしているな。特に言うことはないなと考えつつレスバの笛吹きを見る。
 特に音が聞こえるわけではないのでここからどうなるか分からないが――

【ようやく呼んでくれたか】
「うわあ!?」
【遅い……! あれから一体どれだけ経過したと思っている!!】
「うるさっ!? 大丈夫なの?」
魔封サイレンスをかけているから大丈夫だ。よう、悪いな。遅くなった」
【出たな勇者……!】
【うるさいぞビカライア】

 ブライクに後頭部を殴られて一気に静かになる。レスバの知り合いというのは間違いないだろうな。

「えっと、あなた達が……?」
【む。お前達も勇者か?】
「まあ、そうだな。みんな、こっちがブライクで地面に突っ伏しているのが副幹部のビカライアだ」
「副幹部!? これが……」
【うんうん。そうですよねえ。カナの気持ちはよくわかります】
「レスバは味方しないんだ。あたしは夏那よ。ひとまず休戦ってことを聞いているわ」

 まずは夏那が名乗り、続けて風太と水樹ちゃんも自己紹介を行う。

【魔光将ブライクだ。よろしく……とは言わん。今後どうなるかわからんからな】
「それくらいでいいわよ。あたし達だってアキラスのことがあるから魔族を信用しろって言われても難しいしね」
【わたしは……!?】
「ということで武器は持たせてもらいますよ」
【構わん。お前達全員を相手にするには少々骨が折れそうだしな。ビカライア、いつまで寝ているのだ】
【くっ……申し訳ありません。私はビカライアという。魔王様と会うのは些か不安だが……。腑に落ちないことは多々あるからな。仕方なくだ、それを忘れるな!」

 ようやく復活したビカライアも名乗りひとまず名前と姿は認識できたか。相変わらず謎の自信を持っているな。
 すると夏那が目を細めてニヤリと笑う。

「威勢がいいじゃない。分かってるって。条件は同じよ」
【ねえ、わたし……】
「ちょっと向こうに行っていてもらえますか?」
【ミズキちゃん酷い!?】
『はいはい、信用してる信用している。で、なにを話すの?』
【うううう……】

 やんわりと笑顔で排除されそうになり、リーチェに雑に扱われたレスバ。まあ、こいつはさておき俺は収納魔法から適当に料理を取り出して、テーブルと椅子を作って用意した。

「腹減ったろ? それともなんか食ってたか」
【その辺を飛んでいる鳥や草を食っていたから大丈夫だぞ】
「それは大丈夫なのかなあ。レスバが普通に料理を食べるからあなた達もと、リクさんが用意したんですよ。如何ですか?」
【ブライク様……どうしますか?】
【心意気に応えないわけにはゆくまい。美味そうだ、いただこう】
『男らしいわねえ』

 収納魔法に入れておけばその時のままで保存されるので串焼きやコーンスープは暖かいままである。ホットドッグに似たパンなどもあるので腹にはたまるだろう。

【ほう……これはとうもろこしか。濃厚だ】
【こっちはビッグボアの塩焼き……。ソーセージの挟まれたパンもいいですぞブライク様】
【一つ渡せ】

 特になんの警戒もせずにがつがつと食事を始めた二人。俺はまあ気にするところでもないが、この光景を見て風太が口を開く。

「あの……罠だとかは思わなかったんですか?」
【む? そのつもりがあればもっと早い段階で勇者が俺達を始末していただろう? レスバが現時点も生かされている時点で信用はできる】
「レスバって一応人質なんだけど、そこんところはどうなのよ?」
【無理に拘束しているわけでもないではないか。人間は気に入らんが、アホとはいえレスバを連れて行くメリットは無いはずなのだ。もし私がそちらの立場なら敵対する者を連れ歩く不利な状況は作らん。戦争している相手に人質など意味がないのは勇者なら知っているはずだ……がはぁ!?】
【誰がアホだとバカライア……!!】
【例えだ例えええええええええええええええええええ!?】

 口の悪いビカライアに襲い掛かるレスバ。まあ自業自得なので放っておこう。で、ブライクがその後を続けてくれたが、総合的に見て『俺達』はまだ信用できると判断したらしい。
 レスバがレスバらしく自由にしているのが判断材料というのもおかしな話だが、嫌いな相手には話すらしない気質らしい。

「レスバってそうなんですね」
『まあアホなのは間違いないけど』
【リーチェ様!?】
「いいからビカライアを放してあげなさいよ。ご飯食べてから話をするんでしょ?」
「食いながらでもいいだろ。とりあえず明日には船で沖へ出られそうだ。その時、改めて船で合流してもらえるか?」
【分かった。メルルーサには先に話をしておいても良かったが、いいのか?】
「いい。俺の『知っている』奴か分からないからな。俺達が行くってなって言って攻撃されても困る」
【なるほど。承知した。しかし人間の食い物は美味いな】
【でしょう? わたしも驚きました。だから前の時になんで人間を攻撃したのかわからなくて。変な人間もいますけど、概ねわたし達と同じですね】

 白目を剥いたビカライアを椅子に座らせながらレスバなりの意見を述べていた。変な人間が居るのは確かだしな。
 
【魔物も懐くくらいですからね。ねえファングちゃん。……ファングちゃん?】
「……ふん、お客さんみたいだな? ちょっと行ってくる」

 ファングがなにかに気付き、俺達が来た方向に目を向けていた。集中すると確かに気配がいくつかある。

 何者だ? とりあえずこっちから出向いてみるか。
しおりを挟む
感想 624

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。