上 下
87 / 129
第八章:魔族との会談

198.魔族の特性ってやつが特殊過ぎる気がするぞ?

しおりを挟む
「毎度! お嬢さん達、可愛いから割り引いておくよ」
「ありがとー!」
【ふふん、人間も見る目がある者がいるようですね】
「お城の料理もいいけど、町のお食事処も美味しいです」

 聖木を持ち帰ってから二日が経過した。
 船が完成するまで特にやることも無いので基本的な訓練は続けている。城に居るだけは飽きるということで、昼は町へ出て飯を食うようにした。
 
『ひと段落したらあちこちの町で食べ歩きもいいかもね』
「それは太りそうじゃない……?」
【その分運動すればいいんですよ】
「まあ、いつも訓練しているし大丈夫かしら」
【夜もできますけどねえ。ベッドとかで】
「はあ……? ……! あんたねえ!!」

 相変わらず仲がいいなと思いながら夏那とレスバの追いかけっこを見ながら肩を竦める俺。ともあれ、一時の休息くらいはいいかね。そんなことを考えていると風太が声をかけてきた。

「エルフの森との往復は緊張しっぱなしでしたからゆっくりご飯が食べられるのはいいですね」
「だな。とりあえず明日になればここともおさらばだ、ゆっくりさせてもらおうぜ。あ、船の進捗を見に行ってケツを叩いておこうか」
「あ、いいですね!」

 そう水樹ちゃんが返事をし、続けて小声で俺達に言う。

「そういえば魔族の二人はどこかに居るんですよね?」
「多分レスバあたりが呼べば出てくると思うぞ。船に乗ったら会うことになるが……。そうだな、一度顔合わせをしておいた方がいいか」
【そうですね。そろそろなにか食べさせてあげたいかもしれません】

 レスバがそういえばと手を打ってあっさりと言い放つ。そこで夏那がレスバの首に巻きついてから眉を顰めて尋ねた。

「そういやあんた達って負の感情とかを食料にしているんじゃなかったっけ? レスバがバクバクご飯を食べるから忘れそうになっていたけどそのあたりってどうなの?」
【それはもちろんあります。正確に言うと『負の感情を吸収している』ってことなんですけど、そうすることで栄養になるんです】
「栄養に……? ビタミンとかが摂れるとか?」
【びたみん? よくわかりませんが、負の感情を吸収するとしばらくなにも食べなくても大丈夫、そういうことです。ただ、魔族同士の感情は意味が無くてあくまでも他種族のものに限られますね】
「……」

 初耳な情報が聞こえてくる。持ちろん小声で話しているのと、周囲に人が居ないことは確認済みである。
 それにしても他種族のみというのが解せないな。そんなのまるで『他種族を恐怖に陥れること』を強制されているようにも感じる。

【向こうの世界でもわたし達は普通に食事を摂っていましたから、そこまで重要でも……。あ、いや、一つ特殊な効果がありましたね】
「それは?」
【……身体能力が上がります。要するに強くなるってことですね。アキラス様が国丸ごと抑えたのは恐らくそういうことかもしれません。落としてしまうより飼い殺しの方が摂取しやすいいいいいい!? カナ、わたしはしていませんから首を絞めるのをやめるんです!?】
「やはり魔族は悪……!」
「やめてやれ夏那。しかし飯を食って生きられるなら他種族を襲う必要を感じられないな」
『そうよ! あんた達のせいでどれだけ苦労したか!』

 俺の言葉を受けてリーチェがレスバの頬を引っ張る。まあ、こいつに聞くよりアイツの方が早いかと俺はリーチェを摘まみ、夏那とレスバを引き剥がして言う。

「ブライクとビカライアを呼んでその辺の話を聞いてみるか。幹部クラスの将軍様ならなんとなく理由もわかるだろ? 飯を食わせてやるついでに」
「大丈夫ですか? どこで話をします?」
「外に出て森の中で、だな。そうと決まれば移動するか」
「私達は初めて見るからちょっと怖いですね……」

 水樹ちゃんが困った顔で笑うが、少し興味があるという風にも見える。善は急げとばかりに適当な食い物を調達して森へと向かう。

「おや、リク殿? どちらへ行かれるのですか?」
「お、ヘラルドか。いや、ちょっと森まで行ってくるんだ」

 途中、警邏をしているのかヘラルドとすれ違う。俺の答えに目を丸くする。

「ええ? 今はそういう依頼が無かったと思いますが。ああ、訓練ですか! いやあ、少し前のことですが懐かしいですな」
「おお、そうそう。あの時は世話になったな」
「いえ、私が助けられましたよ。副幹部を倒したフウタさん達には脱帽します」
「いやあ……」

 褒められて照れる風太。まああの時は本当に三人とも頑張ったからな。

「私もお供したいところですね」
「いや、悪いが今日はこのメンツだけだ。暇だからまた今度やろうぜ」
「そうですか……。まあ、私も周辺の警邏をしなければいけませんからまた今度ですね」
「おう、また頼むぜ! とは言ってももう少ししたら出港だけどな!」
「ええー……」

 心底残念そうなヘラルドが力なく手を振ってこの場を去る。いい奴である。実際、あいつが居なかったら船は殆ど失われていただろうから三人と共に功労者であるのは間違いない。
 それはともかくと、俺達は門を抜けて森へと入っていく。すでにレムニティは居ないので、次の敵が来るまで騎士達はもう森で警戒はしていない。密会をするには丁度いいな。

「で、どうやって呼ぶのよ?」
【魔族にしか聞こえない笛を吹く感じですね。ビカライアから預かっているのでこれを使いましょう】
「いつの間に……」
「犬笛みたいですね……」

 水樹ちゃんが言いえて妙なことを口にする。俺もそう思った。

【一回吹けばレッサーが。二回吹けばビカライアが。そして三回吹けばブライク様が来ます……!】
『絶対嘘よね』
【なんでわかるんですか!?】
「いいから早く呼べ」

 そして胸元から取り出した笛をレスバが吹く――

◆ ◇ ◆


「奴等はどこへ……。む、ヘラルド! リク殿達を見なかったか?」
「え? おや、ノヴェルか? どうした」
「どうしたもこうしたも無い。リク殿が魔族に通じているのではないかという情報がある。彼等を監視するため探しているのだが外に出たと聞いて探している」
「監視しなければならないのに見失うのか……?」
「うるさい。昨日までは城に居たのが、今日急に外に出たのだ」
「それにしてもリク殿が魔族と、か……? 幹部を倒したのは彼だぞ」

 騎士数人を連れたノヴェルが警邏をしているヘラルドへ声をかけてきた。その内容があまりにも突飛だったため眉を顰めていた。

「お前は夜勤であの場には居なかったが、エドワードが見たらしい。エルフの森で魔族に襲われたが、リク殿が出た後、ことなきをえたと」
「倒したんじゃないのか?」
「いや、どうも空を飛んで逃げたらしい。……怪しいと思わないか? 幹部を倒したかもしれないが、その現場を見た人間はいないんだ。何かを隠している」
「うーむ……」

 そう言う人間には見えないが謎が多いのは確かではある。ヘラルドはそう思いノヴェルを見ながら腕を組む。
 居場所はわかるが答えるべきか。しかし同じ副団長として嘘をつくわけにもいかないと口を開く。

「一応、リク殿は森へ向かった。訓練をするらしいぞ」
「……! そうか。情報感謝する。行くぞ……!」
「……」

 魔族と邂逅していたとしても、彼を止めることは無理なのではないか? ヘラルドはリクの強さを目の当たりにしているのでそんなことを考えるのだった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。