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第八章:魔族との会談

196.不安要素はまだまだあるがひとまず凱旋だ

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「お? ……おおお! も、戻ってきたぞ! 陛下に伝令!」

 色々と編成を変えつつ、最終的に先頭へ立った俺の馬車を見た門番の一人が大声で部下らしき別の人間を城へ走らせた。そう、いよいよヴァッフェ帝国に戻ってきたというわけだ。

【いやあ、長旅でしたねえ……】
「戦争なら遠征もあるだろうが、今みたいな防衛が主になる戦いだとこの距離はきつい。いい訓練になったとは思うけど」
【いやいや、リクさんの回復魔法があっての旅ですよこれ……。途中死んでもおかしくない場面あったし】

 と、横で肩を竦めるレスバ。
 帰りは備品を受け取った安堵と、単純な疲労。それと帰るだけという緊張の糸がほどけてしまったせいか、魔物に襲われた際にケガをした騎士が多くいた。
 その中で重傷と言える大怪我をした奴もいてレスバはそのことを言っているのだ。

「ま、今回限りだがいい聞かせているから油断はしなくなるんじゃないか?」

 俺がそう言うとレスバは『人間はすぐ忘れますからねえ』と肩を竦めてため息を吐いた。死にそうな目に遭って注意を怠るようならそりゃまあ死ぬしかないんだが。

【ですね。だからリクさんは人間でも好きですよ】
「はいはい、ありがとよっと。ここまでくりゃ編隊を組む理由も無いか。ここで風太達と合流しよう」
【変態? ぐは……!?】
「おーい、そこのあんた。悪いけど先にクラオーレ陛下に報告をしておいてもらえるか? 後から風太達と謁見の間へ行く」
「……え、ええ」
「ん? なんかあるか?」
「いえ! ではお先に失礼します!」

 呼び止めた騎士がなんだか挙動のおかしい感じがした。すぐに敬礼をして馬を進ませたが、なんか気になることでもあったか?
 
【なんですかね? なんだかリクさんを見る目が恐怖に包まれていたような……】
「嘘だろ?」
【名前はなんでしたっけ? エドワードとかそんなんだった気が】

 よく覚えているなと思いつつ、『そういう』雰囲気を出す場面は無かったので恐れられていることはないと思いたい。エドワードを見送り聖木を運ぶ騎士達が目の前を過ぎていく。

「リクさんありがとうございました! もうすぐミズキさん達の馬車が来ますよ!」
「おう、みんなもお疲れさんだったな! ゆっくり休んでくれ」
「楽しかったです。みんなに自慢できますよ」
【頑張りましたからねー】

 過ぎていく騎士達に挨拶をされてそれに応える俺とレスバ。しばらくそんなことをやっていると先ほどの騎士が言った通り夏那と水樹ちゃんの馬車が通りかかり道から逸れた。

「あ、リクー! 待っててくれたの?」
「お疲れ様です!」
「お疲れさん! 二人とも具合が悪いとかないか?」
「大丈夫よ。騎士達が戦ってくれたから平気。むしろもっと暴れても良かったんじゃない?」
「もう、夏那ちゃんったら……」

 頼もしいことを言うなと苦笑しながらハリソンとソアラを労ってやる。

「頑張ったなお前達も。しばらくゆっくりできるぞ」
「他の馬と比べても足取りがしっかりしていましたね。激励していたみたいな鳴き方をしていましたよ」

 水樹ちゃんが『ね?』と二頭の間に割って入り首筋を撫でる。ハリソンが『おじいさんはもっと活躍していた』というような感じで鳴いていた。まあハリヤーが身内なら頑張るだろうなあ。
 そんなことを考えているとタスクとミーヤ、そして風太も合流を果たす。

「ふう……お疲れ様です」
「リクさん、お疲れ様です!」
「おつかれー。おう、どうしたタスク」
「い、いや、やっと終わったと思って……。騎士達、イライラしてんだもんよ……」
「まあ、行軍が遅くなったから仕方ないよ。魔物が多かったし」
「フウタはすげえよな……落ち着きすぎだ」
「はは……。副幹部と戦った時と比べたら背筋が寒くならなかったしね」

 御者台でぐったりしているタスクを見て風太が頬をかきながらそんなことを言う。この行軍で風太の落ち着き具合に磨きがかかった気がするな。大精霊のおかげか、剣があることの強さ故か。
 この分なら万が一があってもなんとか夏那と水樹ちゃんを連れて暮らすことができそうだな。

「とりあえず揃ったことだし移動しない? リーチェがそろそろ暴れ出しそう」
「後少しだと言ってやれ。んじゃ行くか。タスク達はヒュウスを呼んでくるか?」
「先に報告がいいでしょうね。これはあくまでも私達の依頼だから終わってから戻るわ」
「なら一緒ね」

 夏那がそう言って自分の馬車の御者台に乗り込み、俺達もそれぞれの馬車へ戻り歩かせる。風太と俺達の馬は少しへばっているから歩みは遅い。

【ハリソン達はタフですねえ】
「軍馬の中でもエリートの馬の孫だからな。能力が高いんだろうぜ」
【おや、知っているんですか?】
「まあな」

 元気にしてるかねえと賢い馬を空に思い浮かべてレスバに返す。ごたごたも終わったし、ゆっくり畑でも耕しているに違いないと苦笑する。

 騎士達の馬車が門を抜ける間を縫って一緒に入っていき、戻ってきた時に集合する約束をしていた訓練場へと向かった。
 近づいていくと整列された馬車と騎士、そして――

「戻ったかリク殿!! これは壮観だな! エルフとの交渉は不安だったが協力してくれたか」
「お久しぶりです陛下。この通り成果は上がりましたよ。騎士達も欠けることなく戻りました」
「うむ。流石だ。約束通り、聖木でリク殿の船は先に用意させる」
「よろしくお願いします」

 俺達が頭を下げると、夏那が背伸びをしながら口を開く。

「うー……! やっと先に進むわねえ」
「うん。これでなにかわかるといいんだけど」
「負担をかけて申し訳ねえけど、また頼むぜ。今日はゆっくり休んで明日はパーティ予定だ!」
「お、いいな」
「わずかですが労いをさせてください」

 陛下の横に控えていたヴァルカとキルシートも笑いながら嬉しいことを言ってくれる。すぐに休みたいだろうと言葉少なめに解散。

 とりあえずの目的は終わったが――

「……メイディ様の予知も気になるわね」
「ま、それを気にしても今は仕方がねえよ。とりあえずお前達に合わせたい奴らがいる。後で移動するぞ」

 ――帰りに立ち寄った婆さんのところでちょっとだけ不安なことを言われたんだよな。
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