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第八章:魔族との会談

185.僕達の関係と彼等の事情

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「それで、フウタはどっちと付き合っているの?」
「ぶっ!?」
「うわ、汚ねっ!?」

 ――先頭の隊に組み込まれた僕の馬車。ここにはヴァッフェ帝国で知り合ったタスクとミーアさんの二人が乗っている。
 そのミーヤさんが御者をしている僕に、いきなりとんでもないことを口にして噴き出した。

「だって年齢的に近いのは三人……と、なんか一人増えてた子の四人でしょ? もしかして二人とも……!?」
「ち、違うよ!? 僕は誰とも付き合ってないって」
「え、マジ」

 タスクが『信じられない』といった顔で僕に言う。確かにこの世界だとそれはあり得るみたいなことをリクさんが言っていた。

「あの二人は僕のことを好きだったみたいだけど、今は違うかな? それにリクさんも居るし」
「でも結構おっさんだろリクさん?」
「いやいや、タスク。あの渋さがいいんじゃない! ならあの新参者?」
「新参者って……。いや、あの子は特にないかな」
「辛辣ぅ」

 レスバは僕達がここに来ることになった元凶の仲間である魔族。彼女自身は今、大人しくしているけど、いつ牙を剥いてもおかしくないと僕は考えている。
 例えばなにかの拍子にリクさんの目が無くなったら……とか。その辺はリクさんも考えているようで彼女から離れることは無いんだよね。

「なら逆に聞くけど、フウタはどっちかを好きじゃないの?」
「んー……それはよく聞かれるんだけど、長い付き合いだからなあ」
「そうなんだ? オレとミーアみたいな感じか? 小さいころからだからなあ」
「何歳くらい?」
「確か五歳くらいには会って喧嘩していたよねー」
「はは、そんな感じするよ。確か僕達は六歳だったかな。家が近かったんだ」

 向こうのことは濁してそう伝える。小学一年生で同じクラスになったのがきっかけだったんだ。あの頃から僕はそれほど前に出る子供じゃなかった。どちらかといえば今なら陰キャと呼ばれそうなくらい内気だった。

「夏那は初めて会った時から騒がしくてさ、水樹は僕と一緒で大人しかったからどちらかと言えば気が合ったのは彼女の方かも」
「ミズキ、美人だしな! いでぇぇぇぇぇ!?」
「ふん」
「はは」

 どちらかが好き、という話なら恐らく僕は水樹だと思う。夏那は性格的に僕とは合わない気がするんだよな……。 
 でも、夏那が僕を好きだったらしいのを知った時は正直驚いたよ。

 で、水樹だけど家のことは驚いた。だけど、今思えば中学の終わりくらいからあまり僕達と一緒に帰りたがらなかったりしていたような気がする。部活はあったけど、だんだん距離を取っていくみたいな感じだね。

 それでも水樹と付き合うかと言われたら難しい。あの二人とは親友に近い感情の方が強いからだ。
 例えば高校を卒業して水樹が政略結婚した後、彼女が出来なかったり好きな人が出来なかったら夏那に押し切られていたかも、とは考えることがあるけど。

「勿体ないなあ。フウタはイケメンだし、他に好きな人は居ないのー?」
「うーん」

 そこで一人の女の子の顔を思い出す。もう会うことは無いと思うんだけど、もしかしたら明確に好きと言える相手だったかもしれない。
 リクさんにはあの時憧れだと思うと言って誤魔化したけど、今なら事情も変わったし全部が終わってこの世界に残るのであれば会いに行ってみようか。

「それより、二人はどうなの? 付き合っているんじゃない?」
「「いやいやいや」」

 僕の言葉に『うへえ』という顔でナイナイと顔の前で手を振る二人。仲がいいと思っていると、ミーアさんが口を開いた。

「それこそ子供のころから一緒だし、兄妹みたいなもんかも。ああ、今フウタの気持ちが分かった気がする」
「だな……。だからミズキをナンパしたんだし……」
「ええー……? お似合いだと思うけど」

 僕もとりあえず反撃しとこうかと苦笑しながら二人に言う。それが結構堪えたのかタスクは荷台の奥へ行き寝転がって無言になった。逆にミーアさんは隣に座って来て小声で話し始める。

「恋愛って難しいからねえ。……最終的にタスクと結婚、ってのはあるかもなーとは思っているけど」
「やっぱりそうなんだ?」
「冒険者をやっている以上パーティメンバーが一番あり得るもん。でも、ヒュウスは故郷に恋人が居るしグルガンはちょっと違うと思わない?」
「それはグルガンさんが可哀想な気が……。リクさんはいいの?」
「うんうん! おっさんだけど渋いしなによりあの強さでしょ? 将来性はあるし、あなた達を見る限り優しいっぽいじゃん。もし子供ができたらめちゃいいお父さんしてくれると思うの♪」

 その言葉に僕は驚く。
 恋愛の話をしていたはずだったけど、ミーアさんはその先のことを口にする。
 ……そうか、感覚が違うんだ。この世界は生きるか死ぬかが常に隣にある。冒険者ならなおのことだ。
 
 だから恋愛は飛び越えての結婚まで語るのかもしれない。そういう意味ならリクさんは間違いなくトップクラスで候補に入るだろう。勇者である僕達も。『囲おうとする』というのはこういう意味もあるのか……。

「そう、だね。だけど、ミーアさんはダメかな? リクさんには夏那か水樹をもらって欲しいからね」

 できれば二人とも。

「えー? 私、魅力なあい?」
「そうじゃないけど、リクさんに惚れていると思うし」
「え、マジ!? 割と冗談だと思ったんだけど!?」
「ミーアさんだってリクさん、いいんでしょ?」
「ま、まあ……。あ、ならフウタ付き合ってよー。君もいい感じで強そうだしー?」
「遠慮しておきますよ」
「酷い!?」
「ふん」

 僕達の様子を見てタスクが不満そうに鼻をならしていた。僕と話しているのが面白くないって感じがするなあ。
 もしかしてタスクは口だけミーアさんを突き放しているだけで、実は好きなのかもしれない。
 
「……」

 よく見ればミーアさんもチラチラとタスクを見ている。ははあ、そういうことか。

「ははは」
「な、どうしたのよー?」
「なんでもないよ。さて、魔物に対して警戒しておかないとね」
「気になるー!」

 まあ、なんというかお互い好きなのに言いだせないってことだろうと推測する僕。多分、水樹へのナンパもミーアさんの嫉妬を煽りたかったんじゃないかな。
 なんにせよ口にしないと相手には伝わらないのだ。

「……よし」

 僕も今後のことをきちんと考えよう。父さんと母さんには悪いけど、こっちに残る可能性が高いからどう生きていくのかを。そう思いながらハリソン達とは違う馬の手綱を揺らす僕だった。
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