81 / 81
プリメラの秘密
彼女の事情に興味がある
しおりを挟む
「……」
「おや、プリメラだ。情報が手に入ったのかな?」
「はあ……はあ……。いや、めちゃくちゃ不機嫌な顔をしているし、どうだろう」
プリメラと受付で別れてから気づけば二時間経過していた。いい時間話していたようだし、そろそろ情報を手に入れて訓練場にやってきたかな?
そう思っていたんだけど、ジェイドの言う通り変な顔をしている。
そんなことを考えているとプリメラがどんどん近づいてきて――
「痛い。なんで無言で叩くのさ」
「なんか変なことを考えていたような気がしたもん」
「まあまあ。それでギルドでの情報収集はどうだったんだい?」
僕に追撃を仕掛けてくるプリメラにジェイドが話しかける。すると手を止めてからため息を吐いた。
「全然ダメね。足取りは掴めないわ」
「冒険者ではないのか」
「半々、ってとこかな。私もどうして旅に出たのか分からないもの」
「この国に来たのは確かなの?」
僕が質問をすると、プリメラはすぐに頷いて肯定する。
「……お世話になっていた人のところに手紙があって『フライラッド王国方面へ向かう』みたいなのを見たのよ」
「ふうん。どうしてプリメラを置いて行ったんだろう? 僕とじいちゃんみたいに一緒に暮らしていたんじゃないの?」
「……」
「ん?」
もう一度、質問を投げかけるとプリメラが目を見開いて僕の顔を凝視する。なにごとかと目を見ていると、
「……ジェイドならともかく、あんたが興味を持つとは思わなかったわね」
「ん? ああ、そういうことか」
「俺の言ったことが気になっているのかな。ま、それが『人間』だよな」
「なんのこと?」
「まあまあ。それで、どうだったの?」
「えっとね――」
ジェイドに言われて気づいたけど、自分でも意外だった。多分、少し前の僕はプリメラがフライラッドへ行ったと聞いても『ふうん』としか思わなかっただろう。
だけど、今は『どうして?』の部分をあまり考えずに口にしていた。
手紙を残している、ということは連絡が取れるようにしたいと考えていた可能性もある。冒険者でないというなら、プリメラを連れて行けばいい。
「危ないことをしているから、とか?」
「……もしそうならクソ親父が連れて行かないというのは無いと思うわ」
「え!? 仲が悪かったのか? だとしたら嫌なことを聞いた。ごめん」
「ううん。事実だし」
「僕でいうじいちゃんがプリメラのお父さんだよね? 捨てて行ったのかな」
「……」
「馬鹿! 本人を目の前にしてそんなことを言うんじゃない!」
瞬間、僕はジェイドに頭を殴られた。プリメラの顔を見て『良くなかった』発言というのはなんとなく分かった。
「ごめんよプリメラ」
「いいって。あんたがそういうヤツだってのは知っているしね! というか捨てられたのは間違いないと思うし」
「そうなんだ」
「今度は悩まないのかーい!? はあ……ディンは相変わらずよくわからないなあ」
ジェイドがそんなことを言うけど、僕にもよく分からないので仕方がない。
それにしても捨てられたのか。
「プリメラは狂暴だけど可愛いし、言うことは聞く。なんで捨てたんだろ」
「……それを聞きたいのよ、私も」
なるほど。考えても仕方がないというやつらしい。
どうしてそういう気持ちになったのかは僕も聞いてみたいな。じいちゃんは僕がどんなに失敗したとしても最後まで一緒だった。
ジェイドだってそうだ。人間はそういうものじゃないのかな?
「ま、そういうわけで、次の町か国でまた情報収集になるかもね。一応、ここを出発するまでになにかあれば連絡をくれるらしいわ」
「なら、それに期待したいね」
「うん! そういえばリオルさんは?」
「「そこ」」
「うわあ!? し、死んでる!?」
「し、死んでないです……」
地面に横たわるリオルさんを僕とジェイドが指さすとプリメラが慌てて飛びのいた。辛うじて声を出した彼女を抱きかかえて僕に言う。
「いったい何をしたのよ……? またエッチなこと?」
「一回もしていないから『また』というのがよく分からないけど。リオルさんにはファイヤーボールを何度も使ってもらっていたんだ。五十回くらいかな?」
「そんなに……!?」
「うん。とりあえず一旦魔力を減らしてどれくらいで倒れるか確認したんだ。ここからファイヤーボールの大きさを調節して、同じ威力のものを出せるように訓練かな」
「きつすぎるわね……。でも、ディンならやるか」
「げ、限界を知るのは……いいことみたいですし……。あ、でもお婆ちゃんが手を振っているのが見えるからちょっと休ませて……」
「仕方ない、いいよ。ならジェイドの剣を見ようかな」
「俺も休ませてくれよ!?」
抗議の声を受けて僕は目を丸くする。これで試験に受かるかな? 魔法の訓練もしないといけないんだけど。
「ほどほどにしておきなさいよ。あんたみたいに最初から武芸と魔法を教えられたわけじゃないんだから」
「うーん、わかったよ」
「ふふ……、仲がいいですね……うぷ……」
「ああ、無理しないで!?」
青い顔で口からなにか出したリオルさんを慌てて介抱するプリメラ。お昼ご飯を食べられるかなと心配になる僕だった。
それにしてもプリメラは預けられていたところから飛び出してきたってことになるけど、そこまでして捨てた両親を探したいのか。不思議だ。
◆ ◇ ◆
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。作者の八神です。
五月になりましたので告知通り当作品は更新終了となります。
続きはノベルピア様のみで閲覧いただけますので、もしよかったらそちらを読んでいただけると幸いです!
一応、削除ではなく今まで投稿した分は残しておいてOKとのことですのでこのままにしておきます。
またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。
2023年 5月1日 八神 凪
しおりを挟む
あなたにおすすめの小説
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。
みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。
よくある話だけど、
私の話を聞いてほしい。
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
夕姫
ファンタジー
王都ロンダルム。その貴族街の一角に一際大きいお屋敷がある。その屋敷の持ち主は伯爵家リンスレット。そんな伯爵家に使用人の1人として雇われている主人公のカイル=オーランド。
彼は彼女いない歴=年齢18歳で同僚の金髪美少女メイドのマリアのことが好きでいつか絶対に付き合いたいと思っている。
そんなマリアはカイルに対していつでもニコニコ優しく接してくる。そして普通に『好き』とか言っちゃう始末。
どうやら他の奴らにはそこまで接してないみたいだし、好きってそういうことだろ!もうマリアさんはオレの嫁だ!毎日癒されるぜ!
この物語はスーパーポジティブKY使用人のカイルと天然系アザと可愛い金髪美少女メイドのマリアの色々お互いが勘違いしている『勘違い系新感覚異世界ショートラブコメ』です。
※基本10話で1つの話が完結します。
奇数話⇒使用人の主人公カイルの視点
偶数話⇒メイドのマリアの視点
普通に順番に読むと交互の視点で。奇数の次に偶数と読むとカイル、マリアの視点で同じ物語が展開します。2通りの読み方ができる新感覚の物語です。
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。