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プリメラの秘密
フライラッド王国の都
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「ふう、ようやく到着したな……」
「つっかれたぁ! お風呂に入りたい! ベッドで寝たい!」
「プリメラは殆ど荷台で僕の布団で寝てたじゃないか」
「それとこれとは話が別なのよ。女の子はデリケートだからちゃんとした寝床じゃないとね」
そういうものなのだろうか? 人間の女の子というよりプリメラが面倒なだけのような――
「痛い。なんで叩くのさ」
「変なこと考えていたでしょ」
「くっく、仲がいいね相変わらず。あ、大丈夫ですか?」
「ああ。問題はないが、遺体を乗せているとは驚いたよ」
「ちょっとロゴス山まで行くので」
「……ああ。無理をするんじゃないぞ? あそこはまだ魔族が居るって噂だからな」
王都に入ったところで検閲という荷物や装備の確認をするという作業が入る中プリメラと話していたんだけど、いま終わったらしい。
荷台のファルミさんも勿論確認をしたので門番の人間はそのことをジェイドさんへ話していた。
それに対するジェイドさんの答えは困ったような感じだ。ただ町に居る時とは違い、おどおどした様子は見られない。
「さて、とりあえずプリメラの要望を叶えに行こうか」
「むう」
さらに言うと年上だしということでジェイドさんは僕のことをディン、プリメラはプリメラと呼び捨てにするようになった。ファルミさんが死んで気落ちしていると思っただけに意外だ。
僕はじいちゃんが死んだ時どうしていいか分からなかったから特に。
そしてプリメラに何故、僕の考えがバレたのか不思議だ。
人間にはそういう能力があるのかな……二人を見ているとやっぱり人間は謎だけど面白い。
とりあえず宿を取ろうとジェイドさんが馬をゆっくり進ませて町の中へ。
「王都と町ではなにか違いがあるんですか?」
「ん? そうだなあ、キノンの町の何倍も大きいしあの城にはこの国の王様も居るんだ。この王都が国の最先端と思っていいよ」
「だから情報も多く入る可能性が高いってわけ」
「なるほど」
周囲を見ると確かに人間の数が多いような気がする。
背の高い建物も多く、大通りの広さも馬車三台が並んでも問題ないくらいある。この道を進むと城に到着するようだ。
「おい、急げよ! 先を越されたらてめえのせいだからな」
「あ、は、はい……!」
「ったくどんくせえな」
「ご、ごめんなさい……!」
武装した冒険者の往来もよく見かけるので賑やかなのは間違いない。すれ違いに眼鏡という視力を上げるものをかけた女の子が他の冒険者に叱られていた。
「焼きたてパンだよ、ひとつどうだいー」
「串焼きはいかがー」
「一本ちょうだいな」
露店の数も多いね。
道行く人に購入を呼びかけている人も、買う人も活気というやつに満ちている。
「確かにジェイドさんの言う通り色々あるから面白そうだ。カレンさんの話も聞けるかな」
「ウチの両親もね」
「ま、それは明日にしよう。ここでいいかな」
しばらく進むと宿の看板を下げた大きな建物に到着した。そこで入口に立っていた人間が手を上げてこちらに近づいてくる。
「やあ、泊まりかな」
「ええ、馬車を止めたいんですが」
「こっちだ。厩舎の代金は別にかかるけど大丈夫かい?」
「問題ありませんよ、それじゃハリソンは休憩だ」
「ぶるふ」
宿の隣にあった厩舎へ馬と荷台を置いてから宿の中へ。受付でとりあえず三日だけ泊まることを告げる。
「三名様でお一人は別部屋で?」
「全員一緒でいいわ。旅をしてきているんだから今さらだし」
「いいの? 別料金くらい出すけど」
「勿体ないじゃない。それでなにかいい装備を買ってもらった方が嬉しいかも?」
ちゃっかりしているなとジェイドさんが苦笑し、受付の女性もなんとも言えない顔をして口もとを……なんだっけ微笑ませていた?
三人の三日分、金貨一枚と銀貨二枚を支払いようやく休憩となった。
四人部屋でシンプルな作りで洗面台がある程度。
「うあー……ベッドぉ……」
「伸びているね」
「伸びているな」
それでもプリメラには十分だったようでローブを脱いで即ベッドへ飛び込んで枕に顔をうずめていた。
「お風呂は二十二時までみたいだから早めに入らないと」
「まだ昼間だから……平気……だって」
「あ」
寝てしまった。
王都まで七日間ずっとキャンプだったから疲れが溜まっていたのかもしれない。
「ふう、いい子だけど冒険者って感じはしないよなプリメラって。冒険者になる前はなにをやっていたんだ?」
「さあ」
「さあ……って。パーティを組んでいるのに知らないのかい?」
「話したく無さそうだからいいかなって。知ってもそれでどうにかなるものでもないじゃないですか」
「それは……そうかもしれない。けど、ディン相手のことを知るというのはとても大事なことだよ」
「そうですか?」
ジェイドさんが少し考えた後、僕に言う。
「敬語はもういらないよ。俺は雇い主だけどパーティでもあるからね。で、さっきの話の続きだ。ディンも今まで見てきた通り、人間には良い人も居れば悪い人も居る。さらに言えば悪そうに見えていいヤツも居るだろ」
「ああ、ヒドゥン様みたいな」
僕の言葉に満足だといった感じで頷く。しかしジェイドさんの言いたいことが分からず首を傾げていると続きを話しだす。
「まあヒドゥン様はともかく……魔法人形のディンみたいに真っすぐで包み隠さない人間はそれほど多くない。だから相手のことはある程度聞いておくべきだよ」
「ふむ」
ジェイドさん曰く例えば僕が魔法人形だと知られればそれを利用するため近づいてくる人間がいるかもしれない。プリメラを誘拐するため笑顔で話しかけてくるかもしれない、ということらしい。
そこで最初の話である『プリメラがどういう人間で、なぜ両親を探す羽目になっているのか』というのは本当なら聞いておくべきだということだ。
両親が実は悪人だったりすれば僕やジェイドさんが良からぬことに巻き込まれたりするかもと口にする。
「……まあ、今さら聞けないだろうけど今後は聞いておいた方がいい」
「わかった」
僕だけならまだしも二人になにかあったら困るしね。
「つっかれたぁ! お風呂に入りたい! ベッドで寝たい!」
「プリメラは殆ど荷台で僕の布団で寝てたじゃないか」
「それとこれとは話が別なのよ。女の子はデリケートだからちゃんとした寝床じゃないとね」
そういうものなのだろうか? 人間の女の子というよりプリメラが面倒なだけのような――
「痛い。なんで叩くのさ」
「変なこと考えていたでしょ」
「くっく、仲がいいね相変わらず。あ、大丈夫ですか?」
「ああ。問題はないが、遺体を乗せているとは驚いたよ」
「ちょっとロゴス山まで行くので」
「……ああ。無理をするんじゃないぞ? あそこはまだ魔族が居るって噂だからな」
王都に入ったところで検閲という荷物や装備の確認をするという作業が入る中プリメラと話していたんだけど、いま終わったらしい。
荷台のファルミさんも勿論確認をしたので門番の人間はそのことをジェイドさんへ話していた。
それに対するジェイドさんの答えは困ったような感じだ。ただ町に居る時とは違い、おどおどした様子は見られない。
「さて、とりあえずプリメラの要望を叶えに行こうか」
「むう」
さらに言うと年上だしということでジェイドさんは僕のことをディン、プリメラはプリメラと呼び捨てにするようになった。ファルミさんが死んで気落ちしていると思っただけに意外だ。
僕はじいちゃんが死んだ時どうしていいか分からなかったから特に。
そしてプリメラに何故、僕の考えがバレたのか不思議だ。
人間にはそういう能力があるのかな……二人を見ているとやっぱり人間は謎だけど面白い。
とりあえず宿を取ろうとジェイドさんが馬をゆっくり進ませて町の中へ。
「王都と町ではなにか違いがあるんですか?」
「ん? そうだなあ、キノンの町の何倍も大きいしあの城にはこの国の王様も居るんだ。この王都が国の最先端と思っていいよ」
「だから情報も多く入る可能性が高いってわけ」
「なるほど」
周囲を見ると確かに人間の数が多いような気がする。
背の高い建物も多く、大通りの広さも馬車三台が並んでも問題ないくらいある。この道を進むと城に到着するようだ。
「おい、急げよ! 先を越されたらてめえのせいだからな」
「あ、は、はい……!」
「ったくどんくせえな」
「ご、ごめんなさい……!」
武装した冒険者の往来もよく見かけるので賑やかなのは間違いない。すれ違いに眼鏡という視力を上げるものをかけた女の子が他の冒険者に叱られていた。
「焼きたてパンだよ、ひとつどうだいー」
「串焼きはいかがー」
「一本ちょうだいな」
露店の数も多いね。
道行く人に購入を呼びかけている人も、買う人も活気というやつに満ちている。
「確かにジェイドさんの言う通り色々あるから面白そうだ。カレンさんの話も聞けるかな」
「ウチの両親もね」
「ま、それは明日にしよう。ここでいいかな」
しばらく進むと宿の看板を下げた大きな建物に到着した。そこで入口に立っていた人間が手を上げてこちらに近づいてくる。
「やあ、泊まりかな」
「ええ、馬車を止めたいんですが」
「こっちだ。厩舎の代金は別にかかるけど大丈夫かい?」
「問題ありませんよ、それじゃハリソンは休憩だ」
「ぶるふ」
宿の隣にあった厩舎へ馬と荷台を置いてから宿の中へ。受付でとりあえず三日だけ泊まることを告げる。
「三名様でお一人は別部屋で?」
「全員一緒でいいわ。旅をしてきているんだから今さらだし」
「いいの? 別料金くらい出すけど」
「勿体ないじゃない。それでなにかいい装備を買ってもらった方が嬉しいかも?」
ちゃっかりしているなとジェイドさんが苦笑し、受付の女性もなんとも言えない顔をして口もとを……なんだっけ微笑ませていた?
三人の三日分、金貨一枚と銀貨二枚を支払いようやく休憩となった。
四人部屋でシンプルな作りで洗面台がある程度。
「うあー……ベッドぉ……」
「伸びているね」
「伸びているな」
それでもプリメラには十分だったようでローブを脱いで即ベッドへ飛び込んで枕に顔をうずめていた。
「お風呂は二十二時までみたいだから早めに入らないと」
「まだ昼間だから……平気……だって」
「あ」
寝てしまった。
王都まで七日間ずっとキャンプだったから疲れが溜まっていたのかもしれない。
「ふう、いい子だけど冒険者って感じはしないよなプリメラって。冒険者になる前はなにをやっていたんだ?」
「さあ」
「さあ……って。パーティを組んでいるのに知らないのかい?」
「話したく無さそうだからいいかなって。知ってもそれでどうにかなるものでもないじゃないですか」
「それは……そうかもしれない。けど、ディン相手のことを知るというのはとても大事なことだよ」
「そうですか?」
ジェイドさんが少し考えた後、僕に言う。
「敬語はもういらないよ。俺は雇い主だけどパーティでもあるからね。で、さっきの話の続きだ。ディンも今まで見てきた通り、人間には良い人も居れば悪い人も居る。さらに言えば悪そうに見えていいヤツも居るだろ」
「ああ、ヒドゥン様みたいな」
僕の言葉に満足だといった感じで頷く。しかしジェイドさんの言いたいことが分からず首を傾げていると続きを話しだす。
「まあヒドゥン様はともかく……魔法人形のディンみたいに真っすぐで包み隠さない人間はそれほど多くない。だから相手のことはある程度聞いておくべきだよ」
「ふむ」
ジェイドさん曰く例えば僕が魔法人形だと知られればそれを利用するため近づいてくる人間がいるかもしれない。プリメラを誘拐するため笑顔で話しかけてくるかもしれない、ということらしい。
そこで最初の話である『プリメラがどういう人間で、なぜ両親を探す羽目になっているのか』というのは本当なら聞いておくべきだということだ。
両親が実は悪人だったりすれば僕やジェイドさんが良からぬことに巻き込まれたりするかもと口にする。
「……まあ、今さら聞けないだろうけど今後は聞いておいた方がいい」
「わかった」
僕だけならまだしも二人になにかあったら困るしね。
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