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因縁渦巻く町
報復と理不尽
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僕の感知がいつもより冴えていたような気さえするほど的確にオリゴーを捉え、今馬車を魔法でひっくり返してやったところだ。
慌てて出てきたこいつらの顔を見るとさらに胸が熱くなる。
「き、貴様はあの時のガキ……!?」
「と、飛んでいるだと……あの魔法は相当な熟練者でなければ使えないはずだ、こんなガキに――」
「うるさいな、<炎弾>」
騒ぐ人間達へ魔法を投下し地面が爆発すると、馬が嘶き場に居た奴らが数人吹き飛んだ。
「なんでこんなことをしたんだ」
「な、なんだと……?」
「なんでジェイさんに領主様を殺させようとしたり、ファルミさんを殺したのかって聞いているんだ」
「ひ、ひぃ……!?」
僕は地上に降りてオリゴーを殴りながら尋ねるが怯えるばかりで口を開かない。仕方がないのでもう一人、よく一緒にいる男にも聞いてみる。
「そっちの人でもいいよ。どうしてこんなことをしたんだい? ファルミさんが病気で無かったとしても蹴るなんてどうかしている」
「な、なんだと……? あのババアは死んだのか……あがっ!?」
聞きたいことを答えないので僕は男の方へ一足すると左頬を殴りつけてやった。聞かれたことすら答えられないなんてどういう人間なんだろう。
「ファルミさんは死んだよ。あのごろつき達に指示を出していたのは知っているんだ。ジェイドさんからも聞いたからね」
「ふう……ふう……だからなんだというんだい? 邪魔をした報いを受けただけだ! それよりたかが冒険者ごときが貴族である私にこんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
「お、お前達なにをしている、囲め!!」
落ち着いたオリゴーが立ち上がり怒声をあげ、もう一人の男が他の馬車に乗っていたらしい武装した人間へ指示を出す。
「もう一度だけ聞くよ。どうしてあんなことをした」
「ガキが……! 領主の椅子が欲しかったからに決まっているだろう。金儲けの道具はどこにでも転がっている。それを有効活用できたのだ! 私なら!」
「お金のために……」
「おかげで教会の女も諦める羽目になった、なにもかもやり直しだ! 一人や二人死んだくらいでガタガタ言うな、貴族の為に役に立てないなら――」
そこまで聞いて僕は許せない人間はいるのだと理解し、一足飛びでオリゴーの下へ踏み出し顔面を殴る。
きっとじいちゃんはこういう人間に嫌気がさしたのだろう
「ぐあああああああああ!?」
「金のためでなにが悪い、ヒドゥンも意地汚く増税をし貯めこんでいただろうが! やれ!」
「うおおおおおおお!!」
武器を持って集団が襲い掛かってくる。
確かに聞いたところだと領主様は本当にダメな人間で、苦しめられた人もいたと挨拶周りをした際に石を投げられることもあった。
だけど……
「自分の間違いは認めてみんなに謝って回っていた。これからはまともになるって」
「また……どうせ、元に戻る……」
「だとしても、お前みたいに人間を殺せと命令したりはしないよ、きっと。向かってくるなら覚悟してもらうよ?」
それでも雇われただけの人間を殺すわけにはいかないか。後でプリメラが知ったらまた泣いてしまいそうだし。
「<氷棘>」
「ぐ、魔法を……! 後ろからだ!」
「甘いよ<土の盾>におまけもつけてあげるよ<突風」
「あああああああああ!?」
広い場所で囲まれているので人数の把握がしやすいな。正面からの相手は杖と格闘で叩きのめし、後方からは少し振り向いてから魔法で吹き飛ばすだけで倒せる。
「ば、馬鹿な……!? 三十人もいるのに掠りもしないのか!? ば、化け物!」
「オリゴー様、こちらへ!」
「ん? ……逃がさないよ? <疾風剣>」
オリゴーと一緒にいた男が馬車の荷台を元に戻し逃げようとしているのが見え、僕は魔法で馬と荷台を切り離してやった。
「もう少し待っていてよ。すぐ終わるから」
「お、おお……なんなのだこのガキは……殺せ! 殺すんだ!!!」
傾いた荷台から顔を出して激昂するオリゴーの前で武装した人間達を倒していく。殺しはしないけどあいつの加勢をするというなら痛い目に遭ってもらう。
「うおあああああ!?」
「ぐぎゃ!?」
「……」
程なくして魔法と格闘で全員の手足をどこか必ず折ってから無力化した。こういう場合、復讐してくる可能性があるけど『二度と関わりたくない』と思わせるほど、死んだ方がマシだったと考えるくらい叩きのめすことで避けられる。
「あ、ああ……」
「い、いでぇよ……なんだこいつ……」
「そ、んな……」
「さて、人数が多かったけど片付いた。それじゃ次はあなた達の番だ」
ローブをひるがえしてオリゴーの下へ向かう。
「わ、私はこれだけ殴られているんだぞ!? は、鼻血も出ている! き、貴族を敵に回すというのか!」
「んー、どうかな。ここであなた方が死ねばそれもできないでしょ? 彼らは殺さないけどここで魔物の餌になる可能性だってあるし」
「な……!?」
プリメラには悪いけどこの二人は僕の中で許すことができないらしい。頭と胸がどくどくと悲鳴を上げているみたいに激しく痛む。
「ファルミさんを殺したんだ、二人が主犯なら死ぬべきじゃないかな? 本当なら今ごろパーティをやっていて、その後に王都へ行く予定だったんだ。それを……台無しにした」
「あぎゃ!?」
「オ、オリゴーさ――ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
下手に逃げられないよう足首を折ってやると二人して絶叫を上げながら転げまわっていた。
「痛いだけですまなかったんだファルミさんは。なんで……なんでなんでなんで!!」
「あ!? ぐあ!? や、やめ……わ、私が悪かった……!! ぐほぉ!?」
「今さら謝っても遅いんだ! 死んでしまえ……!!」
「がはっ……オ、オリゴー……さま……」
腕の骨を折って身動きが取れなくなったので何度も踏みつけてやり、その度に体が跳ねる。謝って済むものか……そう思っていると――
「こ、これはどうしたことだ!?」
「む、ディン君か……!!」
「なに、坊主が居るのか!? なんで先に!」
――いつの間に追い付いてきたのか領主様とトゥランスさん、それと昼間ギルドで見た冒険者達が馬車から下りてくるのが見えた。
「領主様」
「そ、それはオリゴーか……?」
「そうですよ。今、とどめを刺すから待っていてください」
「あ、あひぃ……!?」
「ダメだ……!!」
僕はオリゴーに顔を向けて指をならすと、領主様が駆け出してきて僕にタックルを仕掛けてきた。
「敵はこっちですよ」
「今、殺す気だったろうが! それはダメだ!」
「だってファルミさんが……」
「だとしても……! こらえるのだ! 悔しいのはお前だけではない!」
「領主様……」
僕を地面に転がしながらそう叫ぶ領主様は……泣いているようだった。
殺したのに殺されない……そんなことがあっていいのだろうか?
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