上 下
62 / 81
因縁渦巻く町

やり返すためには

しおりを挟む

 「……」
 「……」

 領主様とトゥランスさんが移動した後、僕達はこの場に残されていた。一緒に行こうかと思っていたけど、プリメラ達をこのままにしておくのもどうかと考えたから。それともう一つ。

 「ねえ、プリメラ。僕の胸にある賢者の石を使ったらファルミさん、生き返ると思う?」
 「……え? それってあの時の話?」

 ジェイさんが自分の奥さんと子供を蘇らせるためにこれを欲していた。ならその方法さえわかればいけるんじゃないかと思う。
 
 「で、でも……それであんたが死んだらどうなるのよ……」
 「それは……仕方ないかも? プリメラには悪いけどお金は残していくか……ら!?」
 「そんなわけないでしょ! そりゃ死んでもいいと思っていたくらいだからそう思うかもしれないけど、今はもう私と旅をしているしカレンさんを探すって決めたんだから仕方ないことはないのよ!」
 
 プリメラに殴られてしゃがみ込んでいるとまくし立てるようにそんなことを言う。
 意味があるかどうかわからない僕の命よりもファルミさんが生きていた方がプリメラもジェイドさんも嬉しいだろうし、有意義というやつなんじゃないかと思ったんだけどそれはダメらしい。
 また泣き出したプリメラを見てまた間違ったのだと悟る。

 「……賢者の石ってなんだい? それがあれば母さんは生き返るのか?」
 「前の町で妻子を生き返らせようとした人がそんなことを……」
 「それがディン君の胸に? ってどういうこと……」
 「ああ、僕は人間じゃないんです。魔法人形というやつでして、その、胸にある核が賢者の石らしいんです」

 そういうとジェイドさんが目を丸くして僕を見た後に口を開く。

 「そう、なのか……? 全然わからない……でも、それで君が死んでしまうならそれは母さんが望むことじゃないよ。多分、怒る。やり方も知らないんだよね」
 「ええ」
 「なら、聞かなかったことにするよ。……俺が死ぬべきだったのに……」
 「ジェイドさん……」
 
 ファルミさんの寝ているベッドの横に座りこみ声を殺して鳴く。
 そのファルミさんもただ寝ているようにしか見えないのに、息はしていない。
 悲しい、という感情なのだろうか? 胸に穴が開いたような感覚がある。

 それと同時にまた賢者の石がざわついて、くる。

 「二人とも落ち着いたみたいだし、行ってくる」
 「どこに?」
 「ファルミさんをこんなにした黒幕のところへ。こうしている間も胸がざわつくんだ」
 「ディン……オリゴーのところなら私も――」

 僕はプリメラを制してから一歩下がる。

 「僕に任せて欲しい。ジェイドさんのケガ、治してあげててよ」
 「え? あ、うん……気を付けてね? ディンがどうにかなるとは思えないけど、ちゃんと帰ってきて」
 「もちろんだよ」

 僕はプリメラの手を握って安心させると小さく頷いて彼女は涙を拭いた。落ち着いてきたしそろそろ大丈夫だろう。
 そのまま踵を返して玄関を出ると空に浮かび上がって夜空を飛んでいく。
 思い出せ……一度あの場で出会ったあの男のことを――

 同じ目に合わせてやる。そうしないと僕の胸のざわめきは収まりそうにない――




 「ディンの目……色が違ったような……」



 ◆ ◇ ◆


 「くそ……どうして私が逃げるなどという真似を……」
 「仕方ありません。ごろつき共が全員捕縛されるとは思いませんでした。ヒドゥンと一緒に居た冒険者が異常な強さを――」
 「分かっている!! 役立たずどもが……。しかしまあいい、ライガロン国でまたやり直せばいいだけの話だ」

 秘書のギリスの言葉を怒声で遮り、金はあるのだからと荷台にある宝箱のような箱や樽に視線を合わせてほくそ笑むオリゴー。
 報告を受けた一行は屋敷の金と金品をかき集めてすでに脱出をしていた。
 このまま二つ先の国へ逃げて再起を図るつもりである。

 多くは無いが夜逃げをする貴族が居ないわけではない。
 ごろつきが捕まって自分のことが発覚すれば逃げることすら叶わないので先手を打った形になる。

 「さすがに殺人教唆はまずいですからね」
 「まあね。奴隷も領主の座も手に入らなかったのが誤算だ。あの先生とやらが出しゃばらなければ……」
 「病気だったようですし亡くなっているのではないでしょうか? 足にすがってきたところをごろつきが派手に蹴り飛ばしたみたいですし」
 「ふん、邪魔をしてくれたんだ。息子ともども死ねば良かったものを……組織の連中もさっさと消すべきだったな」
 「まったくですな。ヒドゥン達が気づいても追いつけはしないでしょうし」

 ギリスが悪びれた様子もなく言い放ち、オリゴーはそれを見て口元に笑みを浮かべていた。

 「盗賊避けに私兵も居るし、後は旅行とでも思いながらゆっくり行くとしよう」
 「フライラッド王国は抜けないといけませんがね」
 「そうだな――」

 そう返した瞬間、馬車が轟音と共に横転した。

 「うごあ!? い、一体なにが――」
 「だ、大丈夫ですかオリゴー様……!? と、とにかく外へ」
 
 ギリスと馬車から出て外に出ると月明りの下、草原が広がっていた。
 
 「見つけた」
 「お、お前は……あの時ヒドゥン達と居た……」
 「と、飛んでいる……」

 その月明かりを受けながら、表情のないディンがオリゴー達を見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...