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因縁渦巻く町

窮地と黒い性根

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 「……今日はあっちか」

 ディンと別れたジェイドはいくつかあるアジトの内の一つを目指して早足で進んでいた。
 組織の足がつかないように転々としており、今日のアジトの位置を頭に思い浮べ、やがて到着。合言葉を交わし半身を部屋の中へ入れたところで乱暴に引っ張り込まれて地面に転がる。

 「うわ!? な、なにをするんだ!」
 「なにを、だと? それはこっちのセリフだ。お前オリゴー様の援護をしないでヒドゥンの応援をしていただろうが。どういうつもりだ!」
 「それは……」
 
 仲間が激高しながらジェイドを取り囲み攻め立ててくる。冷や汗をかきながら立ち上がり弁明を始めた。

 「俺だってそんなつもりは無かったさ! だけど母さんが手伝うと言いだしたんだ、変に拒絶したら逆に怪しいだろ! 病気の母さんが手伝うのを止めたかったさ!」
 「だからってお前が手を貸す必要は無いはずだ!」
 「母親に頼まれて断れるのかよ!」

 ジェイドは胸倉を掴んで突っかかって来た男を突き飛ばしながら負けじと言い返すと、奥から以前路地裏で会話をした男が歩いてくる。

 「先日、お前は遊びでやっているんじゃないと言っていたよな。だがこの数日はどうだ? 結局流されて手伝い、今はヒドゥンのやつがオリゴー伯を上回っている」
 「それは……」
 「私達の努力を無にするつもりか? ようやくできたチャンスだというのに」
 「俺になにができたっていうんだ……。妨害も考えたし、実際仕事が忙しいと手伝わないことも多かった。だけど、母さんは思ったより人脈もあって……」

 男に苦い顔で返すと、今度はオリゴーが声をかけてきた。まさか居るとは思わず目を見開いて驚くジェイド。

 「先ほどはどうも。みんな、彼を責めてはいけないよ。先生が教え子を助けているだけなのだからね。それに妨害とまではいかなくとも積極的に手伝わないようしていたなら十分じゃないか」
 「しかし……」
 「彼も言っていたけど説得はした。だけど母親が決めたのだから仕方ない。君たち組織に入っているとも言えないだろうしね?」
 「オリゴー様……」

 オリゴーが意を汲んでくれたことにホッとした様子を見せたジェイドだったが、次に放たれた言葉に驚愕する。

 「罰は必要ない。が、君の目的である母親の治療費は払えないかな」
 「え……!?」
 「それはそうだろう? 『君』は確かに頑張って留まってくれたが、母親は積極的にヒドゥンに協力している。いわゆる邪魔をされているわけだから治療費は払えないな」
 「そんな……。協力すれば報酬をいただけると……」
 「残念だよ、母親がヒドゥンに協力していなければ良かったのにね」

 そう言われて確かにと肩を落とすジェイド。
 競争相手を手伝う人間の治療費を支払うというようなことはしないかと言い分は納得できる理由だ。

 しかし――

 「……ただ、まだチャンスはある。領主選はまだ終わっていない」
 「は、はい! 俺、頑張ります! 母さんを説得して――」
 「そうかい? まあ母親についてはいいんだ、彼女は教え子の為にという名目でやっているし、君たちが私を手伝ってもらっていることと変わらない」
 「ええ」
 「だけどその対象が居なくなればそれも意味がなくなる」
 「え……?」

 ジェイドが呆けたような声を出した瞬間、オリゴーの笑みがさらに歪められ、リーダー格の男が口を開く。

 「ここまでやることになるとは思わなかったが仕方あるまい。……ヒドゥンには死んでもらうことにしたのだ。お前が来る前に決定した」
 「本気、なんですか……!? 殺し……特に貴族を手にかけたらとんでもないことになりますよ」
 「そうだ。だから確実に実行できなければならない」

 そこでリーダー格の男がジェイドに一振りのダガーを握らせて、続ける。

 「お前は母親の手伝いを続けろ。見ている限りヒドゥンと一番近くなるのはジェイドだ。母親が協力しているだけあって気を許しているのも大きい」
 「だからそれでサッと後ろから刺してくれると助かるんだ」
 「お、俺が……やるん、ですか?」

 手渡されたダガーを目にし、震えた声で絞り出すように言う。
 膝もガクガクと震え今にも倒れそうなジェイドに追い打ちをかけるように口をつくオリゴー。

 「そう、君だ。身内とはいえ私の邪魔をしてくれた母親の償いは息子である君が取るべきだろう? 大丈夫、成功の暁には母親は王都で治療するし、君の罪を軽減するようにする」
 「い、や……でも俺は……」
 「ジェイド、お前は俺達にとって裏切り者だということを忘れるなよ? オリゴー様は優しいお方だ『これで』帳消しにしてもらえるだけありがたいと思え。本来なら母親ともどもこの国に居られないくらいはできるのだぞ」
 「……」
 「では、よろしく頼むよジェイド君。なあに、彼は賢いが隙は多い。すぐにやれるさ」

 他のメンバーも『頼んだぞ』と無責任な言葉を言ってアジトから出ていき、ダガーを両手に乗せて立ち尽くしたジェイドだけがその場に残された。


 ◆ ◇ ◆


 「……彼はやってくれるでしょうか?」
 「恐らく期待通りにやってくれると思うけど、半々といったところだろうね」
 「告発をするということは無いでしょうか」
 「そのために監視をつけている。ダメそうならジェイドが殺したように見せかけるくらいの手は考えてあるよ」
 「さすがはオリゴー様」

 馬車の窓に肘をかけて外を見ながら笑みを浮かべるオリゴー。

 「孤児院の子供の出荷先を決める時期かな。くく……ヒドゥンよ、金は貯めこむだけじゃないんだ。効率よくその地位を使って集めてこそ貴族なんだよ。お前には勿体ない、私がもらい受けるよ」
 「しかし子供たちをなぜ奴らは欲しているのでしょうか?」
 「知らんよ。だが金になる。それでいいじゃないか」

 ジェイドに期待だとオリゴーは締めて目を瞑る。
 子供の売り飛ばし、領地の武力を高める施策、裏で奴隷商を行うといったあらゆる『闇』の金儲けに思いを馳せながら――
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