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因縁渦巻く町

絡み合う人間関係

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 キノンの町にあるギルドへ足を運ぶ。
 夕方まで時間があるので買った装備の試しをするため丁度いいという算段だ。
 町と同じく大きな建物に入って受付へ向かう。

 「オリゴー党をよろしく!」
 「あ、ここにも居るんだ」
 「大変ねえ。あ、私たちはちょっとそういうに興味ないの。この国の人間じゃないしね」
 「はは、興味無しか。オリゴー様はこういう感じのことをやるからよろしく頼むよ」

 ギルド内にも票集めの人間が居るようでいきなり声をかけられた。さすがに三回目ともなるとプリメラは口を尖らせながらも簡単に追い返していた。
 もらった紙に目を通してみるとオリゴーという人間がやっていることが書かれているようだった。

 「んー、労働力の確保に税金の軽減? 領地内の活性化になるように税金の使い道を領民と考えるって書いているな。よくわかんないけど」
 「……ふーん。なかなかいい性格をしているみたいねオリゴー様って人は」
 「そうなの?」

 プリメラが僕から紙を受け取って目を通しなが小声でつぶやいていたけど理由はやっぱりよくわからない。良い人のようなので票を入れるならこっちということだろうか。

 「オリゴー様をよろしくお願いしますー! 冒険者さん達の医療費も安くなりますよー」

 受付に向かうまでにそういう声をいくつか聞いた。そこで僕はひとつ気づいたことを口にする。

 「そういえばここにはグラニュー党のメンバーが居ない?」
 「あ、確かに。まあ、強引な手を使ってたからギルドから追い出されたんじゃない?」
 
 プリメラの言うことももっともかと思いながら僕は受付の人に話しかける。

 「すみません」
 「はいはい、依頼ですか?」
 「いえ訓練場を使わせてもらいたいんですけど」
 「ええ構わないわよ。ギルドカードは持っているかしら?」

 二人で首のカードを台に置き、眼鏡の女性がそれをじっと見た後に返してくれた。

 「大丈夫ですね。それでは使用料が銀貨一枚になりますけど」
 「お金がかかるんですね」
 「ふふ、こういうのは初めてなのかしら? ギルドもお金は必要だからこういうので稼がないとね」
 「なるほど」

 お金が無ければ立ち行かないと笑う女性の受付。
 そう考えれば領主様が税金として集めたお金を自分のためだけに使うというのはみんなが怒っても仕方ないんだろうな。

 とりあえずお金を払ってから訓練場に行くと何人かが修行をしていた。早速その辺にある人形の前に行く。

 「これ、いいわね。ロッドも持ちやすいし打撃としても使えそうよ」
 「そうだね。いい石を使っているんだと思う。それとこれもあげるよ」
 「え、なに? わあ、きれいな髪飾りね。もしかしてプレゼント?」
 「ぷれぜんと?」
 「知らないの!? ……ま、まあ、人に喜んでもらったりするためにあげることを言うのよ」
 「そうなんだ。あのおじさんが買っておけって。魔法防御が高まるからいいと思うよ」
 「言われて買ったのね、でも今のディンなら十分かも? ありがと。ふふ、この白いローブと合うかも?」
 「……」

 プリメラがそういうとなんとなく僕の胸にある魔石……賢者の石というらしいけどそれが暖かくなったような気がした。喜んでくれている、ってことかな?

 「さ、それじゃ練習練習♪」
 「そうだね」

 ◆ ◇ ◆

 「お疲れさまっした!」
 「おう、また明日頼むな」
 「っと、結構遅くなったな……二人に悪いことをしちゃったな」

 ――店を出たジェイドが空を見上げると日がかなり落ちてきていたことに気づき早足になる。
 手には賄いの料理を持ち、急いで朝の広場へ向かう途中、通りかかった路地から声がかかった。

 「……ジェイド」
 「え? ……あ、あんたか……こんなところでどうしたんだ?」

 口元を隠している男が手招きをし路地に入るよう誘導する。急いでいるのにと渋い顔をしながら少し奥へ行くと男が口を開く。

 「お前の母親がヒドゥンと一緒に居るのを見たぞ。どういうことか説明してもらおう」
 「あ、ああ……あれはちょっと理由があって――」

 ジェイドは厨房や料理を運んだ時に耳を傾けており、聞いた話を男に包み隠さず口にする。
 元々、ヒドゥンをどうにか蹴落とすために結成していた組織で報告会のようなものを行っていたのだが平民にできることは少ないのでそれほど活動は小規模だった。
 しかしオリゴー伯爵がパトロンになってからはお互いの動きを監視するような動きも見られるようになっていたのだ。

 「……なるほど、元。教え子とはな」
 「だから仲良くなった子達と一緒に今から説得に入るんだ。決して裏切りなんかじゃない」
 「そうか。現状は優勢だがヒドゥンの親……先代を慕っていたやつらが居るせいで余談は許さない」
 「分かっているよ。俺だって遊びでやってるわけじゃない」
 「ああ。オリゴー伯爵が領主になれば母親の治療費も工面してくれる、頼むぞ」

 男はそれだけ言ってジェイドの下を離れていくと、後ろ姿を見ながら決意を新たにして広場へと向かう。

 そして――

 「お待たせ!」
 「あ、来た。僕達もさっき来たところなので大丈夫ですよ。……ハンバーグの匂いがする……」
 「怖いわね!? それじゃ行きましょうか、早く説得して旅に出ないとね」
 「そういえば領主様とファルミさんが孤児院に行って寄付をしてきたそうですよ、町でそういう話がありました」
 「げっ……行動力がありすぎるよ母さん……それじゃ家に行こうか。無理されちゃたまらないからねえ……」

 ジェイドがため息を吐きながら肩を竦めるとディンとプリメラが笑い後をついていく。
 身体も心配だがやはり治療費の問題を解決するにはオリゴー伯爵を領主に……そう思いながら家路へ着くのだった――
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