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因縁渦巻く町
人助けと巻き込まれ
しおりを挟む「大丈夫ですか?」
「ごほっ……え、ええ」
「お、嬢ちゃんもいいとこに。グラニュー党をよろしく頼むぜ、なあ」
「うるっさいわね! さ、おばさん、お家まで送りますよ」
「無視するんじゃ……うお!?」
「なんだか具合が悪そうだしそこまでにしておいたらいいんじゃないかな? 僕達は今日ここに初めて来たからそのグラニュー党というのも良くわからないし別の人を頼ってよ」
男がプリメラに掴みかかろうとしたのでその手を掴んで捻り上げると、男は汗を流しながらコクコクと頷いたので緩める。
「ちくしょう、なんてやつだ! 覚えてろよ!」
「嫌ですけど」
「後で警護団に言っておくわ」
「くそぉぉぉ!」
僕とプリメラにそう返された男達は喚きながら体をバタバタさせて逃げて行った。ああいうのは『迷惑』というやつだと思うからしっかり黙らせたい気もする。
じいちゃん曰く、殺さない程度に痛めつけると人間は言うことを聞くそうだし。それはともかくプリメラの手助けをしないとね。
「立てますか?」
「ありがとうねお嬢さん。大丈夫よ、ちょっと大きな声を出されて驚いただけだから」
「良かった……」
「家まで一緒に行きますよ、またどこかで出てくるかもしれないし」
「君もありがとう。それじゃあお願いしてもいいかしら。ごほっ……」
「ああ! 肩を貸します」
プリメラが女性に肩を貸して歩き出し、僕は少し後ろで警戒をしながらついていくことにした。
しばらく通りを歩き家が立ち並ぶ通りへと入っていく。様相が変わり周囲を見渡しながら進むと女性の家へと到着したらしい。
「ここですか?」
「ええ、ありがとう。良かったら上がって行かない? 助けてもらったお礼をしたいわ」
「いえ、そんな! たまたま通りかかっただけですから」
プリメラが慌てて離れたけど女性はゆっくり手を取ってから口を開く。
「お礼だからいいのよ。ね?」
「うう……」
「僕はどっちでもいいけど」
「一応、遠慮しなさいよ……じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
なるほど、断ることを『遠慮』というのか覚えておこう。『お言葉に甘えて』は後で聞いてみるかな。
「なんで私をじっと見てるのよ」
「え?」
「ふふふ、仲がいいのね。さ、どうぞ」
女性に誘われ家の中に入り、小屋でいうところのリビングへと案内されてテーブルへ。
「なんだか申し訳ないわ……」
「助けたのは事実だからいいんじゃない?」
「それはそうだけど……それにしてもグラニュー党って連中、あんな強引な手段を使うなんてどうなってるのかしら」
プリメラと二人並んでしばらく座っていると暖かい飲み物を持って女性が戻って来て、話していた内容について口を開く。
「この町に辺り一帯を取り仕切る領主様が住んでいるんだけど、その人があまり評判が良くないみたいでね。それで別の貴族様が名乗りを上げたのよ」
「それがオリゴー党ってわけか」
「そうそう、そうなのよ。そういえばまだ名前を聞いていなかったわ。私はファルミよ」
「あ、プリメラです! ごめんなさい名乗らずに」
「僕はディンです」
僕達が名乗ると小さく頷きながら微笑み、僕達にお茶を差し出してくれた。それを飲むと凄く頭がすっきりした気がする。
「美味しい……ハーブのお茶ですね」
「僕の家でも栽培していたけどこれは初めて飲む味だ」
「嬉しいわ。ウチの息子が私のために買ってくるんだけど美味しくてね。ジンジャーティーだったかしら」
良かったと零すファミルさんも一口お茶を飲むと、プリメラが困った顔で彼女へ問いかける。
「あの、初めて会った方にこんなことを聞くのも失礼だと思うんですけどお体、悪いんですか?」
「そういえば咳き込んでいたっけ。大丈夫なんですか?」
「ええ、今は大丈夫よ。もう長いこと胸の病気でね、ちょっと激しい動きになると咳き込んでしまうの。あ、移るようなものじゃないから安心してね」
「治らないんですか……?」
やけにこの話を続けようとするプリメラを横目にお茶を飲んでいると、ファルミさんもそう感じたのか、やはり困った顔で返して来た。
「プリメラさんは優しいのね。腕のいいお医者様に手術をしてもらえばいいみたい。それこそ王都に行けばね。……だけど、治療費が高いのよ」
「やっぱりそうですよね……治したくない人なんていませんもん」
「どれくらいかかるんだろう? 僕が――」
「ディン」
僕が出そうかと言おうとしたところで首を振って『言わなくていい』と示唆してきたので黙り込む。
「ごめんなさいね、変な話をして」
「い、いえ! 込み入ったことを聞いたのは私ですから……すみません……」
「ううん、いいのよ。ありがとう。さ、お菓子もあるからどうぞ♪ 息子より若いわよね――」
と、ファルミさんが笑顔でクッキーというお菓子を出してきて僕達はしばらく話をしながらお茶をいただいた。
二人とも女性同士だからか楽しそうに話をしている中でファルミさんが僕達を見て言う。
「そういえば旅をしているのよね? ご両親は?」
「僕は両親が居ません。少し前までじいちゃんと暮らしていたんですけど、死んでしまいました」
「私は……今、両親を探すために旅をしているんです」
「まあ……。大変、なのは多分二人にしか分からないわよね。おばさんは町の外に出たこともほとんどないし。だから無理しないように……それくらいしか言えないけど」
「ううん、それだけで十分です! ありがとうございます!」
プリメラが元気よく頭を下げてから僕も礼をする。
そしてそろそろ帰ろうかと玄関へ出ると、ファルミさんも一緒に出てきてくれた。
「それじゃお気をつけて!」
「二人もね」
「あ」
ファルミさんが微笑みながら僕とプリメラを抱きしめて背中を叩いてくれる。なぜか分からないけど胸のあたりが暖かいような気がした。
そういえば息子さんが居ると言っていたけど、僕に母親がいたら彼女くらいの年齢だと思う。
「あら」
「ディン、なにやってるのよ」
「え? どうしたんだろ」
「こっちが聞いているんだけど……」
気づけば僕はファルミさんの背中に手を回して抱きしめる形になっていた。プリメラは腰に手を当てて口をへの字にするがファルミさんは僕だけを抱きしめ返して来た。
「おばさんじゃ嫌かもしれないけど、お母さんの代わりに無事を祈っているわ。頑張ってね」
「あ、はい」
「それじゃいきましょ」
「まだ町にいるなら遊びに来てね。息子も喜ぶわきっと」
プリメラに手を引かれてその場を後にする僕達。
お母さん、か。
プリメラもそう思って話してたのだろうか? なんにせよお茶も美味しかったし、なんとなく身体が軽くなったような感じで宿へと戻る。
うーん、病気って僕のハイポーションかプリメラの回復魔法で治らないものだろうか?
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