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旅の始まり

ハッキリとした痕跡と見つからない人間達

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 ジェイさんと挨拶をした後、数十人の冒険者と共に山へと入っていく僕。

 もともと住んでいた場所なので一人でも山奥に入るのは問題ないんだけど依頼として行動を共にした方がお金になるのは大きいのと敵を逃がさないためには人間が多い方が楽でもある。

 「坊主、思い切ったな。噂のスタートからCランクスタートってのはお前だろ?」
 「そうですね。僕を知っているんですか?」
 
 他の冒険者さん達も僕を見てなんとも言えない表情をしながら口元に笑みを浮かべているのでどうやら噂というものが原因らしい。

 「おうよ、この山狩りの原因が野営試験が滅茶苦茶になったからだろ? 死んじまったやつは残念だが、生き残ったヤツの中で一人だけえらく強いのがいるって話が上がっていたんだ」
 「それで知られているんですね」
 「だな、Dランクならまだ見るけど、Cともなると最初からかなり実力があるから頼もしいってことよ」

 思ったよりCランクからというのは周りの人間からすると凄いことのようだ。
 じいちゃんはどれくらいだったんだろう? やっぱりSランクとかだったのかなあ。その辺は教えてくれなかったけど魔王を倒したんだからそれくらいはあってもおかしくないよね。
 そう思えばランクを上げるのも今後の目標にいれてもいいかもしれない。
 
 「よほど腕のいい師匠でもついてたのかい?」
 「そうですね、僕のじいちゃんは凄い魔法使いでした」
 「へえ、会ってみたいもんだ」
 「もう死んじゃいましたけど」
 「っと、悪いな」
 「? どうして謝るんです?」
 「どうしてって……うーん、難しいことを言うなお前は。ま、爺さんに自慢できるように頑張らないとな」

 そう言って冒険者の男は僕の頭に手を置いて笑い、前を歩いていく。
 不思議だと感じたのは冒険者試験で死んだ二人はそれほど気にした風もないのに、じいちゃんが死んだことを告げるとなぜか謝られたこと。
 同じ『死』でなにが違うのだろうか。リスを殺した時のプリメラの反応もそうだけど、魔物を殺すということもあるのに泣いたり謝ったりする理由が僕には分からなかった。
 

 ――それが人間と違うところなんだろうけど。


 「さて、お喋りもいいが新入りも居ることだし歩きながら打ち合わせておくぞ」

 前を歩いていた髭男が振り返って言う。
 聞くところによると血まみれのアジトを中心に四方を少しずつ調査しているとのことで、現在三方の調査が終わり、今日は僕とじいちゃんの家がある方角を探索するそうだ。
 帰るのは明日の朝。野営をして盗賊たちをおびき寄せるのも目的の一つみたい。

 「……もうこの付近にいないのであれば幸いだが、確証が無ければ安心できないからな」
 「野営に引き寄せられますかねえ」

 髭男の言葉に別の冒険者が口をつくと、さらに他の冒険者がそれに追従する。

 「野営試験からずっと山狩りをしているからな。そろそろ疲労と空腹が出始めるころだろ。……生きていたらな」
 「遺体がないってのが気持ち悪ぃよな……」

 それほどかと思いながら彼らの話を耳にしながらついていき、昼前にはそのアジトへと到着。洞窟のような穴にはアリの巣みたいに部屋を広げていて簡易だけど扉なども設置されていた。

 小屋の地下には僕を創るために別途研究施設のような場所を作っていたけどそういう感じに似ているなと思う。
 中を見ると乾いた血と臭いが目に入り、凄惨なことがあったと思うような現場だった。

 一応、戻って来ていないか洞窟を手分けするもやはり誰もおらず、ここを放棄したのだと誰もが口にしていた。

 「ま、さすがにな。今日は西側へ行くぞ、ギル達が居ないから慎重にな」
 「あれ、そういえばギルさん達も来るはずでしたよね」
 「ん? ああ、今朝メンバー変更で別のメンバーが来たんだ」
 「なるほど。朝、一緒にギルドへ行ったんですけど別の依頼に行ったものだと思ってました」
 「結果的にそうなったから間違ってはいねえけどな。さ、これからが大変だ。みんな注意しろよ」

 そして僕達は山奥を広い範囲で散開して山狩りを始める。


 ◆ ◇ ◆


 「どうやら機会が巡って来たわねえ」
 「……そのようだ。俺はアレらを取りに行くからこっちは任せるぞ」
 「ええ。あいつらの足止めはやっておくわね」
 「今日の捜索メンバーが行く方角は俺にとっても気が気でない場所だからな……早めに移動する。また後でな――」
 「気を付けて。ふふ……これでナナを、あの女を――」


 ◆ ◇ ◆


 ――この方角は手つかずらしいけど何度も調査しないとこの広い山で盗賊を見つけるのは難しいと思う。

 その予想は的中し、昼を越え陽が暮れ始めても魔物と戦った以外に収穫は無しとなり、そのまま野営の準備を始めることになった。夜には帰れると言っていたけど、夜中に強襲がないか自分達が囮というやつになるとのこと。

 「やっぱりもう逃げたんじゃねえかなあ」
 「だよな。あいつら魔物に殺されたのかねえ」
 「だとしてもなにも遺体の痕跡がないのが怪しいだろ」

 テントを組みながら冒険者達がまたもそんなことを口にしていた。
 あの時、僕も数人殺したわけだけど逃げた人間は確実に数人存在しているため見つからないとなるとこの付近から居ない可能性の方が高い。だけど気になるのはやはりアジトの惨状だろう。

 「一応、もうひと月調査をしてなにも見つからなければ探索を止めるようになっているらしいから。とりあえう頑張ろうぜ」
 「魔物は倒せているけど、他にも依頼はあるからなあ……って風が強いなクソ!」

 なにも見つからないのに人間をこの探索に使えないのか。危険と隣り合わせだけど徒労に終わるより、畑仕事のように『キリがいいところ』で打ち切るものみたいだ。
 
 「そっち持ってくれ」
 「おう。これ、飛んで行かねえか?」

 冷え込んで来た山が僕達に追い打ちをかけるように強風を吹きつけてくるのでテントを作るのが大変そうだ。
 とりあえず僕も収納魔法からテントを取り出して設置を進めていると、ふと、血の臭いがしたような気がした。

 「これは……どこから臭ってきているんだろ? 風に乗ってきたとなるとこっちかな」
 「おい、ディン一人で動くな危ないぞ!」
 「ちょっと気になることが……ん、これは」
 「どうした? ……こりゃ血の跡、か?」

 追いかけてきた冒険者の男が屈みこんでよく調べてくれると、少量だが草や枯れ葉に血が付着しているのを発見して小さく呟いていた。
 僕はそのまま血の臭いがする方角へ足を進める。

 この体は人間よりも少し能力が高いんだけど、魔石の核のせいだろうとじいちゃんは言っていたっけ。だから鼻もよく利くし遠いところの音も聞くことが出来たりする。

 そして一番臭いがキツイ場所が近づいたその時――

 「なんだ、今の? 結界?」

 ガラスの割れるような音が小さく耳に入り、僕の身体に違和感を感じて疑問が頭に浮かぶ。
 どうやら魔法の結界と僕の身体が干渉してそれを打ち破ったらしく、先ほどまでなにも見えなかった崖に洞窟があるのを見ることができた。

 さらに、

 「ディン、勝手に動くなと……う!? 酷い臭いだな……」
 「この中、怪しいですね」

 血の臭いが一気に膨れ上がり、洞窟から異臭を放ち始めた。

 「そうだな……魔物が巣くっているかもしれないし、盗賊の痕跡が分かるかも……よし、乗り込んでみよう」

 他にこちらまで来ていた冒険者と僕は、無言で頷き武器を手にして洞窟へと入っていく――
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