101 / 115
真の理を持つ愛
しおりを挟む「よし! 一同整列!」
<おう!>
自宅の庭にて俺は猫達を並べて号令をかける。
いよいよ明日、俺達は向こう側の『扉』を開くために現場へ向かう。
なんだかんだとあれから二週間くらい経過していて、開く場所を探すのに意外と時間がかかったからだ。
決めた場所は町を見下ろすようにそびえ立つ1000メートルほどの高さがある山で、そこの山頂にある社が霊的、もとい魔力の揺らぎがあるらしくそこへ全員が向かう。
ちなみに猫達は我が妹によって名前が全員つけられたので呼ぶのにドラ猫と呼ばなくてよくなったのは大きい。……いや、出来事としては小さいが……
サンダードラゴン:ウルフ
フリーズドラゴン:スリート
アクアドラゴン:フレーメン
カイザードラゴン:スメラギ
ここはもう決まっていたが、新参者はこうなった。
アースドラゴン:ソル
ウィンドドラゴン:ブリーズ
ファイヤードラゴン:ヴァルカン
いずれも名付け親は結愛。
なぜかウィンドドラゴンのブリーズは母ちゃんに近づこうとしないが、母ちゃんは結愛に近づくブリーズを引きはがすという謎のムーブをかます。
「おお、兄ちゃんがいっぱしの猫使いに!」
「俺は勇者なんだけどな?」
結愛が適当に魔法を使いながら感嘆の声を上げるが、猫なのはたまたまだ。
猫達が揃っていることを確認していると、遊びに来ていた霧夜が不満げに口を開く。
「いよいよ明日だな、俺も行きたかったな……」
「戻って来れるかは微妙だから、連れて行くわけにはいかないんだ。若杉さん達も見送りだけだから我慢してくれ」
「あー、宇田川さんがめちゃ暗かったな」
ブランダは宇田川さんが説得したけど、俺達と一緒に向こうへ戻ると決めたらしい。
お互い好き合っているけど、世界が違うとブランダから頭を下げられたとかなんとか。
若杉さんが『使い物にならない』と冗談めかして苦笑していたけど、割とガチだ。
結局のところ、『向こう側』には俺達一家とフィオとエリク、ブランダと猫だけで八塚も記憶がないためこちらに残ることになった。
まあ、そこまではいいのだが――
「おはよー修ちゃん、明日出発だね」
「お、真理愛……ってお前大丈夫か?」
「え?」
――気になるのは真理愛のことだ。
ここ数日の間、なんだかやつれた気がする。
今も声色は元気だけど、顔は白く、眼の下にクマがあるのだ。
「ちゃんと寝ているのか?」
「んー……ちょっと眠れてないかも。最近、怜ちゃんと夜電話してて、つい寝るのが遅くなるんだよー」
「なんだよ!? 俺からも言っておくけど、眠くなったらちゃんと断れ――」
「わーい! 猫がいっぱい!」
「聞けよ!? ほら、ベッドを貸してやるから行くぞ」
「兄ちゃん……ついに真理愛ちゃんを襲うの……?」
結愛がよろけながら不穏なことを言うので、真理愛の首根っこを引きながら怒鳴ってやる。
「違う! ……猫と霧夜は任せたぞ」
「はーい! それじゃなにしようか」
<……なんで俺達、庭に集められたんだ……?>
<まあ、ノリと勢いね>
「本当はなんかやるつもりだったんだろうけど言ってやるな。真理愛ちゃんは修とずっと一緒に過ごしてきたんだ。あんなに体調が悪そうならあっちを優先するよあいつは」
霧夜が恥ずかしいことを言うのが聞こえる。
真理愛は記憶を取り戻す前からずっと一緒だったのはその通りで、恐らく、八塚が記憶を取り戻しても正直な話、俺は真理愛を選ぶと思う。
期待を持たせないようにあまり八塚と接していないのはそのせいだったりする。
「ほら」
「ひゃ! えへー、修ちゃんに抱っこされたー」
「いいから寝てろ」
「……寝るまで一緒に居てくれる?」
布団に入るなり口元を隠してそんなことを言う真理愛に、ため息を吐いてからデコピンをする。
「居るから寝ろって」
「はーい!」
元気よく返事をして目を瞑り、俺の手を握ってきた。
そのまま黙って座っているとすぐに寝息が聞こえてきたので安堵する。
ウチの幼馴染は重要なことを隠したがるから、察するか後をつけるかして真相を突き止めないといけないのだ。
「いじめられていた時もそうだったな……ふあ……俺も眠くなってきた、な……」
心配をかけまいと黙り込む強情さは、初めて会った時のカレンに似ているな、そう、いや……
◆ ◇ ◆
「……さて、と。準備は整ったわねスメラギ」
<うむ。我らドラゴンはどうするか分からんが、シュウ達はこちらに帰れるように尽力するつもりだ。聖剣さえなければ少なくとも我はドラゴンになれるからな>
「……聖剣、ね」
<お嬢?>
「なんでもないわ。そうね、頼りにしているわスメラギ」
そして一行は『向こう側』へ行くため集結する――
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜
金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉
異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。
六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。
世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。
これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。
しかし。
彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。
彼等は故郷を救うことが出来るのか。
血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。
4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~
TOYA
ファンタジー
~完結済み~
「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」
この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。
その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。
生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、
生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。
だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。
それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく
帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。
いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。
※あらすじは第一章の内容です。
―――
本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる