上 下
100 / 115

八塚 怜

しおりを挟む

 <とりあえずこれで目途はたったか。お嬢はどうするのだ? 力は戻っていないのだろう>
 「……そうね。ただ、修君達が行くのに聖女の私が行かないというのもおかしな話じゃない?」
 <それはそうかもしれないが、真理愛のように待つと言うのも……>
 「真理愛は行くわよ、大人しくしているわけないじゃない」
 <むう>

 下校中の車の中で怜とスメラギが小声でそんなことを話していた。
 しかし口調はいつも通りだが真理愛が向こう側へ行くことについて断言する様子に違和感を覚えるスメラギ。

 <(どうしたのだ? 昨日シュウから電話を貰ってから様子がおかしい気がするな。いや、興奮しているだけだろうか?>

 怜だけは記憶が戻っていない。
 そのことを知っているスメラギ以下全員は『向こう』へ行けば記憶が戻ることを期待しているのではと考えていた。

 「……聖剣は向こうで抜けばそのままにしても問題ないからスメラギはずっとドラゴンのまま。良かったわね」
 <うむ。他の連中も戻ればいいのだが>
 「まあ、国王に報復するのはあなたが居れば問題ないでしょ? 目にもの見せてやるんだから!」
 <(報復、か。シュウの話だと、まずは直訴ということだったような気がするが……? どちらにしても向こうへ行ってから、か>

 スメラギは怜の張り切りっぷりに呆れながら車に揺られるのだった――

 ◆ ◇ ◆

 「……」
 「どうしたの修ちゃん?」
 「あ、いや、八塚のことを考えていてな」
 「え……」

 帰り道、不意に聞かれた真理愛の質問に答えると口を押さえて立ち止まる。ちなみにフィオ達は学校で別れ、今は真理愛と二人だけ。
 とりあえず宇田川さんが浮かれているだけかと思ったらブランダも本気で満更でもない感じだったので霧夜と一緒に冷やかしてやった。
 それはともかく、真理愛の様子がおかしいので振り返って声をかける。

 「どうした?」
 「修ちゃん……もう決めたの? 怜ちゃんを選ぶんだね……」
 「はあ!? いやいや、そういうんじゃないって。とりあえず目のハイライトを入れよう?」
 「あ、そうなんだ? でも怜ちゃんがどうしたの?」

 すぐに目のハイライトを復活させた真理愛が俺の横に並んでもう一度聞いてくる。俺は話そうか悩んだが、少しだけ気になることを聞いてみた。

 「なあ、今日の八塚なんだか変じゃなかったか?」
 「んー、そうかな? わたしはいつも通りだと思ったけどなあ。あ、でもお昼に国王様にスメラギさんを見せて謝らせるんだ! って張り切ってたかな」
 「……まあ、言いそうな感じだが……記憶が戻ったのかなって思ったんだ」
 「聖女の?」
 「そうだ。その話をするってことは記憶があってもおかしくないだろ」

 俺がそう言うと真理愛は違うようで、

 「戻ってないと思うよ? 魔法の話とか聞いても『知らない』って言ってたもん」
 「あ、そうなの?」

 ならあの態度は一体……?
 まあ、カレンはもうちょっとおしとやかだった気がするから違うといえばそうなんだけど、違和感がある。

 「……修ちゃん、やっぱりわたしも行ったらダメかなあ? 年下の結愛ちゃんも行くんだし」
 「あいつは魔法が使えるからな。待っていてくれよ」
 「なんかもう会えなくなりそうで怖いんだ……最近、変な夢を――」
 「変な夢……?」
 「あ、ううん、なんでもない! それじゃあね!」
 「あ、おい! ……ったく、いつもべったりな癖に肝心な時は口にしないんだよな」

 真理愛はさっさと家に入っていく真理愛に口を尖らせながら頭を掻く。
 あいつは小さいころから隠し事は本当に隠す癖があるから、強引に聞き出さないと言わないんだよな……小学校のころしれっといじめられていたのを聞きだしたのは大変だった……

 「……後で聞いてみるか。あれ?」

 電話かメッセージでも使ってやろうと俺も家へ入る。
 すると庭から声が聞こえてきたのでそちらへ回ってみると――

 「<火の息吹>!」
 「おお、流石は私の娘ね。杖無しでも出せるとは」
 「へへー、コツを覚えたら意外といけるね」
 <やるな、結愛>
 「ウルフもバリバリ―って雷出せるじゃない。他の子はできないから凄いわよ」
 <ぐぬ……>
 <私もできるわよ‟水漣の剣”>

 庭に行くと我が妹と母、そして猫が群がって魔法の訓練をしていた。
 驚いたことに結愛は普通に魔法を使っていたことだろう。

 「すげぇな結愛」
 「あ、兄ちゃんおかえりー。見てた?」
 「俺も記憶が返ってくるまでは全然だったからすごいと思うぞ」
 「だよねー? これなら向こうへ行っても足手まといにはならないかも? あいた!?」
 「調子に乗るな、危ないことに変わりはないからな?」
 「修の言う通りね。とりあえず今日はこれくらいにしておきましょうか」

 調子に乗る結愛の額を突いてやり、母ちゃんを先頭に庭から家へと入る。俺と結愛で猫たちの足を拭いてやり、ぞろぞろとリビングへと向かうのだった。

 「そういえばお父さんから連絡があって、仁さん? が土曜日に来るそうよ。そこで打ち合わせて……日曜に決行ってことになりそう」
 「……そっか」

 いよいよ、か。
 気を引き締めないといけないなと思いながら、猫まみれになる俺だった。



 ◆ ◇ ◆

 
 「はあ……修ちゃんに言った方がいいかな……」

 お風呂から上がり、髪をとかしながら真理愛がひとり呟く。そこでベッドに放り出していたスマホが震え出した。

 「修ちゃんかな? ……あ、怜ちゃんだ! もしもし、どうしたのー?」
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉  異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。  六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。  世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。  これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。  しかし。  彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。  彼等は故郷を救うことが出来るのか。  血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...