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最悪の朝

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 「あふ……おはよう母ちゃん」
 「あら早いわね、昨日歩きまわっているから昼まで寝てると思ったけど」
 「まあ、いつまでも寝てられないし……時間がもったいない」

 俺がそういうと、親父があくびをしながら口を開く。

 「俺も昨日は帰りが遅かったから眠いけど同感だ。せっかくの休みを寝て過ごすだけってのはな勿体ないよな。そうだ、結愛が起きたら久しぶりに外食にでも行かないか?」
 「いいわね、たまには家事から解放されたいし」

 日曜日の今日はそんなのんびりした会話から始まり、冷蔵庫からパックのカフェオレを取り出してからソファへと座る。

 「昨日と違う店ならいいぜ。……ふう、週休二日という制度を考えた人は正直なところ偉いと褒めたたえたい気分になるなあ」
 「だらけてないで勉強しなさいよ? 今日は予定がないんでしょ?」
 「ああ、今日はゆっくりするつもりだよ」

 昨日は女の子、真由を送り届けてから繁華街を回り、帰宅したのは十九時を過ぎたころだった。土曜日の繁華街は営業が早く、十七時過ぎには飲み屋やむふふな店が開き始めていたので怪しい奴が居ないか慎重に歩き回ったものの、結果として惨敗に終わり、スメラギも髭レーダーはブレもしなかったりする。

 気落ちするスメラギを八塚邸へ返しに行くと真理愛や結愛たちもすでに帰宅しており、表情から察するに楽しかったことは明白だった。が、家に居た結愛が疲れ果てていたのでなにをしていたのかは怖くて聞けなかった。

 「そんじゃ、結愛を起こして外食にしようぜ。十時なら昼まで待った方がいいだろ」
 「にゃーむ」
 
 そんな中、スリートが母ちゃんの足にすり寄って甘い声を出す。だが、母ちゃんは無情の言葉を投げかけるのだった。

 「スリートはお留守番ね」
 「にゃおん……」
 「昨日は頑張ったし、美味そうな餌を買ってくるから待ってろ」
 <(頼みやすぜ!)>

 実際、町中の野良猫達と折衝して情報を集めていたらしいので労力の見返りとして一つ千円くらいする猫用の食べ物を用意してやるのもやぶさかではない。
 
 しかしそこで宇田川さんから電話がかかる。

 「あれ? 今日は休みだって言ってたのに……もしもし」
 「修、大変なことになった! 今、テレビを見れるか!?」
 「え、ええ? そりゃ見れるけど……な!?」

 俺はテレビ画面を見て驚愕し、全身から冷や汗を流すと持っていたカフェオレを取り落とし固まってしまう。
 
 「どうしたの?」
 「誰なんだ修? ん? また殺人事件、か……」
 「可哀想に……」

 親父と母ちゃんも画面を見て表情を曇らせる。
 それだけならいつものニュース番組だが、生中継で流れているテレビのテロップには――

 『本日、弥生町のアパートで親子が亡くなっているのが発見されました。自宅にあった身分証明書から、この部屋に住む『長田 未希』さんと娘の『真由』ちゃんと断定され――』

 ――昨日、挨拶を交わした親子の姿があった……!!

 「どういうことだ!? 昨日喋った二人じゃないか!」
 「俺に聞くな、こっちも混乱しているところなんだよ……くそ!」
 「現場には?」
 「……修、お前だけなら許可してやれると思う」
 「わかった、すぐ向かう」

 俺は通話を終えるとすぐに母ちゃんに声をかけられた。

 「なんの電話だったの? 大丈夫? 顔が真っ青よ、このニュースがなにか関係あるのかしら」
 「……ごめん、外食は無しだ。そのニュースに出ている親子、昨日俺達が繁華街で出会った二人なんだ。今から現場へ行ってくる」
 「そんな……なら私が送っていくわ、すぐ行くんでしょ? お父さん、結愛をお願いね」
 「ああ。……気を付けてな」

 俺は頷いてから部屋に戻って60秒で支度を終えてまた一階へ。その間に母ちゃんが車の鍵を持って待っていた。

 「じゃ、行ってくる。結愛と……もし真理愛が来たら適当に言っておいてくれ。スリート!」
 「にゃーん!!」

 スリートを摑まえてガレージに向かい、助手席へ座りスリートを後部座席へ投げると車は移動を始める。

 「安全運転で行くからね」
 「それでいいよ、もう、手遅れだしな……」
 「……のかしらね」
 
 母ちゃんの言葉に返せず、俺は窓の外を景色を眺めながらやるせない気持ちを落ち着かせようと深呼吸をして目をつぶる。キャバ嬢を狙った殺人じゃなかったのか?
 少し冷静になった頭で今回のことを考えるが、そもそも犯人が本当にキャバ嬢だけを狙っていたとは限らな――

 「犯人はキャバ嬢殺人犯とは別かしら? 山本さんとの見解だと、キャバ嬢に恨みを持っていそうらしいらそれ以外の人間を狙うとは考えにくいわ。もし同じ犯人なら心変わりした理由を知りたいわね」
 
 確かにキャバ嬢に恨みがあるなら母ちゃんの言う通り別人の可能性が高い。ただの殺人犯なら向こう側の人間が関与しているとは考えにくいけど、万が一ということもあるか?

 「それにしてもなんであの親子が……くそ、死んだのか、本当に……」
 「せい!」
 「うわあ!? なにするんだよ母ちゃん!」
 
 信号待ちで不意に母ちゃんから肩を叩かれて俺はびっくりして飛び上がると、母ちゃんは前を見たまま話を続けた。

 「落ち着きなさい。人間、いつ死ぬか分からないの。それが今回知り合いだっただけ。交通事故で明日にでも真理愛ちゃんが死ぬかもしれない、それがこの世界よ」
 「あ、ああ……」
 
 真理愛が死ぬところなんて考えたくはないが――

 「落ち着いた? なら、ゆっくり急いで行くわよ」
 「頼むよ母ちゃん」

 いつの間にか気分が落ち着いていることに気づき、俺は頷いて再び前を見る。どちらにせよ行ってみるしかないかと、俺と母ちゃんは現場へと急行するのだった。
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