上 下
40 / 115

凶悪な存在、魔王

しおりを挟む

 「おはよー修ちゃん♪」
 「おう、昨日は悪かったな」

 俺と結愛は真理愛と共に学校へと向かう。
 誘拐行方不明事件騒動は幕を引いたかに見えたが、実際には『犯人が分からない』ということで警戒は解かれていない。まだ通学路に保護者やパトカーを見ることもあり、事情を知る俺は複雑な気持ちでそれを見ていた。

 「いやあ、スメラギさんの時は肩透かしを食らったからお猫様を招き入れられて嬉しいよ兄ちゃん」
 「まあ、捨て猫だけどスメラギと違ってまだ成猫までいっていないらしいから飼うには丁度いいらしいな」
 「ふふ、めちゃくちゃ騒いでいたけどね」

 ……念のため動物病院に連れていったのだが、スリートは暴れた。

 ◆ ◇ ◆

 「はーい、お注射しましょうね」
 「お願いします」
 「あ、こら暴れるな!?」
 <ああああああ!? き、聞いてないぞ勇者! 俺はドラゴンだ、病気なんてもっているわけ――あふん……>
 「はい、おしまいです♪ 後は虫下しの薬を処方しますから、あら、猫ちゃん大人しくなりましたね」
 「はは……」

 ◆ ◇ ◆

 あの後しばらくふてくされてベッドの下から出てこなかったけど、空腹には勝てなかったらしく、母ちゃんに捕獲されていた。

 まあ、そんな感じで新しい家族を迎え入れ、八塚も戻って来た。後はフィオとエリクをなんとかすれば平穏に暮らせるかとあくびをしながら登校する。
 
 「じゃあね兄ちゃん、真理愛ちゃん!」
 「おう」
 「帰ったらまたスリートと遊ぶんだー」

 結愛と別れて高校へ進路を変えると、後ろから八塚の車がスッと近づいてきて俺達の隣で止まると、窓が開いた。

 「おはよう二人とも! 乗っていく?」
 「おはよう怜ちゃん!」
 「もうすぐそこだし、いいよ!? ……よう」
 「……よう」

 村田はクビにはならず、被害者ということで片付いたらしい。まあ、役に立ってくれたし俺がとやかく言うことではない。だが、あの病院の一件で村田は俺に挨拶をするようになった。
 
 「……無茶すんじゃねえぞ。お嬢が気にするからな」
 「まあ、もうないと思うよ」
 「なに? 何の話?」
 「行きますよお嬢様」
 「あ、ちょっと!? ま、また後でね!」

 さっさと車が進みだし慌てて手を振る八塚に片手を上げて微笑む。
 ……あいつがカレンの転生体、か。記憶はないみたいだから今更だけど、気になるなやっぱ。

 「どうしたの、行こう修ちゃん?」
 「そうだな」

 魔王の動向も気になるけど、門が開けなくなったはずだからこれで終わりだといいけどな。
 さて、あいつになんて言ってフィオ達を保護してもらおうか。
 
 俺は二人きりになるタイミングを図るための策を考え始める。そこで――

 「そういえば誘拐事件、ぴたっと止まったわね」
 「ね。廃工場で爆発とかあったらしいけど、犯人が証拠隠滅をしようとしたらしいわ」
 「こわーい……あ、怖いと言えば、最近公園に幽霊が出るらしいわよ」
 「え、そうなの? 私あそこ通るんだけど……」
 「ま、まあまあ。でも、避けた方がいいわよ、特に夕方は出やすいらしいし遠回りして帰った方がいいかも」

 ――話題を話す同級生たちの会話が聞こえてきた。

 「……そういえば、テレビのニュースで公園に幽霊が出るって言ってたな」
 「あ、そうそう。町にあるあちこちの公園で出るって話だよ、びっくりして池に落ちてけがをした人もいるんだって」
 「マジか」

 魔王の仕業だと勘ぐる俺。時期的には誘拐が本格化してきたあたりと合致するからだ。
 それは後から考えるかと、クラスに入っていった。


 ◆ ◇ ◆


 「……勇者が向こうの世界で目覚めているとは思わなかったな」
 「ですな。門は閉じられましたが次の計画は如何いたしましょう魔王様?」
 
 玉座で肘をつき、ワインを傾けるステレオタイプの魔王を前にした牛頭をした魔族が口を開く。魔王と呼ばれた人物は目を細めて口を開く。

 「聖剣は勇者の手の内にある今、手を出すのは危険だろう。我らの目的を邪魔されないように、計画は進める必要がある。とはいえフェリゴも居なくなった今、門を開くのも大変だな」
 「ええ、聖女を贄に出来ていれば開けっ放しで大フィーバーだったのですが。勇者に報復するのも難しくありません」
 「……もう少し魔族を送っておくべきだったが、向こうの世界に耐えうる魔族はそう多くない。私の体が完全なら行くのだが」
 「え? この前完全復活したって――」
 「していない」
 「でも……」
 「まだキツイ。お前、封印を甘く見てないか? それに勇者に報復なんてするわけないだろう……一度負けている相手に、子孫なら勝てるか? と言われたら私はNOという。アレは違うんだ、聖剣がとかそういうんじゃなくて……そうだな、呪いに近いかもしれん」
 
 急に饒舌になった魔王に牛頭の魔族は怪訝な声で返す。

 「呪い……?」
 「勇者の一族は女神に力を与えられて私達魔族を倒そうとしたわけだ。確かに昔、それだけのことをしたからな」
 「生きていくには必要ですからね」
 「だろう? だが、それを良しとしない女神が人間に力を与えて私を倒すよう仕向けた」
 「派手にやりましたからね。まあ、仲のいい人間もいましたけど」
 「そこだ」

 魔王は牛頭を指さして話を続ける。

 「女神は確かにこの世界を作った者かもしれない。だが、いくら悪さをしているとはいえ、世界に干渉……まして絶滅においやるようなことをしてくることが腑に落ちないのだ」
 「ふむ……」
 「例えばライオンが鹿を食うだろう? これは鹿にとってライオンは悪い存在だ。だがおとがめは無い。しかし、魔族が人間を食い物にした場合はそれを許さない、という意思が伝わってくる。それも代々ずっと監視するかのように受け継がれるのがまた嫌らしい」
 「なるほど、この世界の事象に対して女神が特定の種族に肩入れをしているのが気に入らない、と」

 魔王は頷き、ワインを一気に飲み干す。

 「もし人間だけの力で私達を倒そうというなら、後は強者が残るだけ。恐らくわだかまりは残るがそういうものだと歴史が証明してくれる。だが、一方的に私達が悪者にされて倒されるのは違うと思わんか?」
 「確かに……」
 「だからこその別世界だ。あの国王には悪いが、向こうへ行くのは魔族だけで行く。まあ、私達が居なくなれば満足するだろう」
 「ですなあ……では、門が開けられるよう促してきましょう」
 「頼むぞ。私達魔族の未来は向こうの世界にかかっている――」

 魔王は牛頭魔族にそう言い、牛頭魔族は一礼をして去って行った。

 「……向こうの世界、か。下級魔族はあの空気に耐えられんし、どうしたものか」
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい
ファンタジー
 メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ  超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。  同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

現代転生 _その日世界は変わった_

胚芽米
ファンタジー
異世界。そこは魔法が発展し、数々の王国、ファンタジーな魔物達が存在していた。 ギルドに務め、魔王軍の配下や魔物達と戦ったり、薬草や資源の回収をする仕事【冒険者】であるガイムは、この世界、 そしてこのただ魔物達と戦う仕事に飽き飽き していた。 いつも通り冒険者の仕事で薬草を取っていたとき、突然自身の体に彗星が衝突してしまい 化学や文明が発展している地球へと転生する。 何もかもが違う世界で困惑する中、やがてこの世界に転生したのは自分だけじゃないこと。 魔王もこの世界に転生していることを知る。 そして地球に転生した彼らは何をするのだろうか…

魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪
ファンタジー
惑星歴95年。 人が宇宙に進出して100年が到達しようとしていた。 宇宙居住区の完成により地球と宇宙に住む人間はやがてさらなる外宇宙にも旅立つことが可能となっていた。 だが、地球以外にも当然ながら知的生命体は存在する。 地球人の行動範囲が広がる中、外宇宙プロメテラ銀河に住む『メビウス』という異星人が突如として姿を現し、地球へ侵攻を開始。 『メビウス』は人型兵器を使い、地球からもっとも遠い木星に近い宇宙居住区を攻撃。実に数千万の命が失われることになった。 すぐに対抗戦力を向ける地球側。 しかし、地球人同士の戦争やいざこざが多少あったものの、比較的平和な時を過ごしてきた地球人類にこの攻撃を防ぐことはできなかった。 さらに高機動と人間を模した兵器は両手による武装の取り回しが容易な敵に対し、宙用軍艦や宙間戦闘機では防戦一方を強いられることになる。 ――そして開戦から五年。 日本のロボットアニメを参考にして各国の協力の下、地球側にもついに人型兵器が完成した。 急ピッチに製造されたものの、『メビウス』側に劣らず性能を発揮した地球性人型兵器『ヴァッフェリーゼ』の活躍により反抗戦力として木星宙域の敵の撤退を成功させた。 そこから2年。 膠着状態になった『メビウス』のさらなる侵攻に備え、地球ではパイロットの育成に精を出す。 パイロット候補である神代 凌空(かみしろ りく)もまたその一人で、今日も打倒『メビウス』を胸に訓練を続けていた。 いつもの編隊機動。訓練が開始されるまでは、そう思っていた。 だが、そこへ『メビウス』の強襲。 壊滅する部隊。 死の縁の中、凌空は不思議な声を聞く。 【誰か……この国を……!】 そして彼は誘われる。 剣と魔法がある世界『ファーベル』へ。 人型兵器と融合してしまった彼の運命はどう転がっていくのか――

【完結】天使くん、バイバイ!

卯崎瑛珠
青春
余命わずかな君が僕にくれた大切な時間が、キラキラと輝く宝石みたいな、かけがえのない思い出になった。 『天使くん』の起こした奇跡が、今でも僕の胸にあるから、笑顔でさよならが言えるよ―― 海も山もある、とある地方の小規模な都市『しらうみ市』。市立しらうみ北高校二年三組に通うユキナリは、突然やってきた転校生・天乃 透羽(あまの とわ)に振り回されることとなる。転校初日に登校した後は不登校を続けていたのに、ある日を境に「僕は、天使になる」と公言して登校し、みんなと積極的に関わろうとするのだ。 お人好しのユキナリは、天乃家の近所だったこともあり、世話を焼く羽目に。猪突猛進でひねくれていて、自己中でわがままなトワに辟易したものの、彼の余命がわずかなことを知ってしまう。 友達、作ったことない!ゲーセン、行ったことない!海、入ったことない!と初めてづくしのトワに翻弄されるユキナリは、自分がいかに無気力で流されて生きてきたかを悟り、勝手に恥ずかしくなる。クラスメイトのアンジも、ユキナリとともにトワをフォローするうちに、どこか様子がおかしくなってくる。 喧嘩や恋、いじめやマウント。将来への不安と家庭環境。高校生なりのたくさんのことをめいいっぱいやり切って、悔いなく駆け抜けた三人の男子高校生の眩しい日々は、いよいよ終わりを迎えようとしていた――そこでユキナリは、ある大きな決断をする。 一生忘れない、みんなと天使くんとの、アオハル。 表紙イラスト:相田えい様(Xアカウント@ei20055) ※無断転載・学習等を禁じます。 ※DO NOT Reuploaded

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...