上 下
25 / 115

思い当たることひとつ

しおりを挟む

 「それじゃ、なるべく家から出ないように過ごすんだぞ? 今ならゲーム三昧を許してやる。今はいいよなあ……先生の時代は対人戦と言えばゲーセン――」
 「きりーつ、礼!」
 「あ、木塚! 今いいところなのに! くそ、連休は教員が見回りをしているから補導されるんじゃないぞ!」

 ――結局、次の日の放課後も収穫はなく大型連休に入ってしまう。
 八塚が行方不明になってから三日が経過し、八塚の親父さんも度々学校に来て情報が無いか確認しているらしい。俺としても焦るところだ。警察も捜索をしているみたいだけど、廃墟や廃屋、ビルは思ったより多いので難航しているようだ。……向こうの世界の人間も気づいて移動を繰り返している可能性が高いしな。
 
 そして唯一手がかりを掴めそうなぶさ猫スメラギは八塚の家には帰らず、ウチに入り浸っていたりする。
 そうそう髭の振動で居場所がわかるという話だが、どうも微量の魔力を感知しているということが分かった。先日の病院や廃墟で髭が震えていたけど、それはイコール向こうの人間が関わっていたという証拠にもなるというわけだ。

 <うむ、美味い、美味いぞ……!! 母君は料理の天才だな!>
 
 そのぶさ猫は成果が上がらないことに不満を漏らしながらも、尻尾を大きく振って母さんが用意した焼いたブリをガツガツと頬張っていた。

 「あら、いい食べっぷりね。こっちのかつ丼も食べる?」
 「母さん、猫に玉ねぎはダメだからさ……」

 八塚家ではキャットフードばかりだったらしく、野良猫時代もまともな食事はとれていなかったので、ウチの食事は天国のようだとご機嫌だ。

 「ごちそうさま!」
 「早かったわね、あら、ロクサブローを連れて行くの?」
 「お母さん、スメラギちゃんだよ」
 「そうだったわね」

 まだ諦めていないのか……そんなことを思いながら俺は夕食を終えると、スメラギを抱えて

 <ふう……今日もごちそうになってしまった……母君には何か土産をもってこねばならんな……>
 「ネズミとかやめろよ? ああ見えて虫とか嫌いだからな。というか八塚をこの家にまた連れてくることが一番の土産になると思うぞ」
 <うむ、そうだな……お嬢、一体どこへ……>
 「さっきまでの元気が嘘みたいだな……とりあえず明日から探索できる範囲が広げられる。髭の振動は目安程度だけど、あてにしているからな」
 <うむ、後はあの運転手とやらが何か知っているはず。やつに話が聞ければいいのだが>
 「あいつか……」

 俺はあの嫌な雰囲気を持っていた村田という男の顔を思い出す。
 最後の日、あいつが送っていったのだから何かを知っているのは然るべきだが、いまだに意識が戻らないらしいのでそれは叶わ――

 「……!」
 <どうした、急に立ち上がって?>
 「そうか! だから髭が反応していたのか……なら、もしかすると……」
 <シュウよ、なんだ? なにを言っている>

 スメラギがぶつぶつと呟く俺に訝し気な目を向ける。だが、俺はひとつ今の話でピンとくるものがあり、スメラギを抱えて言う。

 「病院だ! あそこに村田は入院しているんじゃないか? で、あいつはもしかしたら向こうの世界の人間に何かされた。だから髭が反応したんだよ!」
 <おお、確かに……あれだけ人が多いところで誘拐とはおかしいとは思ったが……そういう考え方もあるか>

 スメラギは前足を顎に当てて考えるしぐさをする。見た目は可愛い。
 それはともかく明日の指針は出来たと少し気力が戻ってくる。恐らくだが魔法か何かで眠らされている可能性が高い。それなら俺の魔法<解除ディスペル>で何か起こるはず……

 「よし、明日は病院だ。ひとつずつ打ち消していこうぜ」
 <うむ>

 と、俺達が意気込んでいると――

 「修ちゃーん、スメラギさんー! 来たよー!」
 「なにぃぃぃ!?」

 ノックも無しに入って来たのは傍若魔人の真理愛だった。パジャマを着ているのでお泊りスタイルというやつだ。案の定、後ろから結愛も顔を覗かせる。

 「兄ちゃん、真理愛ちゃんが来たよ。スメラギさん、もふもふさせてー」
 <いいぞ>
 「え?」
 「あ、ああ、いいぞ!」
 「ふぎゃ!?」

 俺は慌ててスメラギを小突きながら結愛に差し出すと、ふたりに告げる。

 「それじゃそいつを連れて行ってくれ。俺は疲れたからもう寝るんだ」
 「え? 明日から休みなのに! じゃーん、これなーんだ!」
 「おやすみ」
 「ちょっとは見てよー! ほら、トランプ、三人でやろう? 楽しいよ」

 家から出られないと聞いて、こいつは夜更かしをする方向に決めたらしい。だが、明日から探索をしなければならない俺は布団をかぶる。

 「……」
 「あ! ダメ―!」
 「うわ、ちょ!? 真理愛!?」

 急に布団に潜り込んできて俺の体を揺さぶる。柔らかいものが背中に当たり、俺は布団を剥いで起き上がる。

 「やめろ!? ……ったく、仕方ないな、一回だけだぞ?」
 「うん!」

 放っておくと何をされるかわからん……俺は仕方なく付き合うことに。
 だが、それがいけなかった――
しおりを挟む
感想 225

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜

金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉  異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。  六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。  世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。  これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。  しかし。  彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。  彼等は故郷を救うことが出来るのか。  血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい
ファンタジー
 メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ  超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。  同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...